なぜ学生は論文で挫折するのか
学生が英語論文で挫折する理由は、英語力だけではありません。よく見られる原因を挙げます。
- 最初から最後まで順番に読もうとする:序論の背景説明で力尽きてしまう
- すべての語を訳そうとする:専門用語や統計の説明で止まってしまう
- 何を探して読むのかが分からない:目的がないまま読むので、要点がつかめない
- 論文の構成を知らない:どこに何が書いてあるかの見当がつかない
これらは、読み方の知識で解決できる部分が大きいのが特徴です。英語力を上げることも大切ですが、それと並行して「論文という文章の読み方」を教えることで、学生の負担は大きく減ります。
ポイント:論文は「最初から順に読む物語」ではなく、「必要な情報を探しに行く文書」です。この発想の転換を最初に伝えましょう。
論文の構成を教える:IMRaDと各部分の役割
多くの実証研究の論文は、IMRaDと呼ばれる構成をとっています。
- Introduction(序論):研究の背景、先行研究、この研究の目的
- Methods(方法):誰を対象に、何を、どのように調べたか
- Results(結果):何が分かったか(データ、表、図)
- and Discussion(考察):結果が何を意味するか、限界、今後の課題
これに加えて、冒頭のAbstract(要旨)と、最後のConclusion(結論)がつくことも多いです。
序論の構成も教える
序論の構成については、John Swalesが示したモデルがよく知られています。大まかに言うと、序論は次のような流れで書かれることが多いとされます。
- 研究分野の重要性を示す
- 先行研究ではまだ分かっていないこと(すき間)を示す
- この研究がそのすき間をどう埋めるかを示す
このうち2番目の「すき間」は、However, little is known about ... や Few studies have examined ... のような表現で示されることがよくあります。こうした目印になる表現を教えておくと、学生は序論の要点を見つけやすくなります。
目印になる表現を集める
論文には、書き手が「ここが大切です」と示すための決まった表現がよく使われます。これらを知っていると、速く要点をつかめるようになります。
部分ごとの目印の例
- 目的:The purpose of this study is to ... / This study aims to ...
- 研究のすき間:However, little is known about ... / Few studies have ...
- 結果:The results showed that ... / We found that ...
- 解釈:This suggests that ... / One possible explanation is that ...
- 限界:One limitation of this study is ... / These findings should be interpreted with caution.
活動の例:表現ハンティング(20分)
- 学生に論文を1本配り、上の表現を探して色ペンで印を付けさせる
- 見つけた表現と、その後に続く内容をペアで確認する
- 自分の要約シートの該当欄に、その内容を日本語か英語で書き込む
この活動は、読む力だけでなく、自分が論文を書くときの表現の引き出しを増やすことにもつながります。
読む順番の手順:全部読まずに要点をつかむ
論文を効率よく読むために、学生には次の順番を勧めます。
1回目:全体像をつかむ(15分)
- タイトルを読み、何についての研究か予想する
- Abstractを読み、目的・方法・結果・結論を1文ずつ書き出す
- 図と表を見て、結果の大まかな傾向をつかむ
- Conclusion(またはDiscussionの最終段落)を読む
2回目:必要な部分を読む(30〜60分)
- Introductionの最後の段落で、研究の目的や問い(Research Questions)を確認する
- Methodsで、対象者と方法の要点を押さえる
- Discussionで、著者が結果をどう解釈しているかを読む
3回目:必要なら細部を読む
- 自分の研究に関係する部分だけ、丁寧に読む
この手順を示すだけで、学生は「全部読まなくても要点はつかめる」ことに気づきます。
要約シートで読んだことを整理する
読んだ内容を整理するために、要約シートを使うと効果的です。1本の論文につき1枚にまとめます。
要約シートの項目例
- 書誌情報:著者、年、タイトル、掲載誌
- 研究の目的(1文)
- 方法:対象者、データ、分析方法(箇条書き)
- 主な結果(2〜3点)
- 著者の結論(1文)
- 限界:著者自身が挙げている限界
- 自分の感想・疑問(1〜2文)
- 自分の研究との関係(1文)
記入例(架空の論文の場合)
- 目的:大学生のオンライン英会話の利用と、スピーキングへの自信の関係を調べる
- 方法:大学1年生を対象に、学期の初めと終わりに質問紙調査を行った
- 主な結果:利用頻度が高いグループで、自信の伸びが大きい傾向が見られた
- 限界:もともと意欲が高い学生が多く利用した可能性がある
要約シートをためていくと、そのまま卒業論文の先行研究の章の材料になります。
ゼミでの論文講読の進め方
ゼミで論文を読む場合の進め方の例です。
担当者制の講読(1回90分)
- 担当者の発表(30分):要約シートをもとに、論文の目的・方法・結果・結論を説明する
- 質疑(20分):他のゼミ生は、事前に準備した質問を1人1つ出す
- 批判的検討(25分):次の問いについて全員で話し合う
- 方法は目的に合っていたか
- 結果から結論は十分に言えるか
- 他の説明の可能性はないか
- 自分の研究とのつながり(15分):各自、この論文から自分の研究に生かせることを1つ書く
質問の型を示す
学生は、論文に疑問を持つことに慣れていないことが多いです。次のような型を示すと、質問が出やすくなります。
- 「なぜこの対象者を選んだのか」
- 「この結果は、別の要因でも説明できないか」
- 「日本の大学生でも同じ結果になると思うか」
4週間の段階的な指導メニュー
論文の読み方を身につけるには、段階を踏むことが大切です。以下は4週間の例です。
- 第1週:論文の構成(IMRaD)を学ぶ。教師が選んだ短い論文のAbstractだけを読み、目的・方法・結果・結論に色分けする
- 第2週:同じ論文の図と表、Conclusionを読み、Abstractの内容と対応しているか確かめる
- 第3週:新しい論文を、読む順番の手順に沿って自分で読み、要約シートを作る
- 第4週:自分の関心に近い論文を自分で探して読み、要約シートを作ってペアで紹介し合う
最初の論文の選び方
- 短いもの:10ページ程度まで
- 構成が典型的なもの:IMRaDがはっきりしているもの
- 学生の関心に近いもの:専攻に関係のあるテーマ
- 利用条件を確認したもの:オープンアクセスの論文や、大学で契約しているデータベースの論文を使う
最初の1本を成功体験にすることが、その後の読む意欲を大きく左右します。
よくある失敗と、その立て直し方
1. 全文和訳を課してしまう
全文の和訳は時間がかかり、要点をつかむ練習になりにくいことがあります。目的に応じて、要約や問いへの回答を課題にしましょう。
2. いきなり難しい論文を読ませる
最初から長く専門的な論文を読ませると、挫折の原因になります。短く典型的な論文から始めましょう。
3. 機械翻訳の使い方を指導しない
機械翻訳を完全に禁止するのは現実的ではありません。専門用語の確認や、分からない文の理解の補助として使ってよい範囲を示し、最終的な理解は自分で確かめることを求めましょう。
まずは次のゼミで、短い論文のAbstractを全員で読み、目的・方法・結果・結論に色分けする活動を試してみてください。



