「苦手」と「嫌い」は分けて見立てる
まず意識したいのは、「英語が苦手」と「英語が嫌い」は似ているようで別のものだということです。
- 苦手:アルファベットの書き分け、音と文字の対応、基本語彙、語順など、どこかにつまずきがあって「できない」状態。
- 嫌い:過去の失敗体験、人前で恥をかいた記憶、テストの点数で比べられた経験などから、英語そのものに否定的な気持ちがある状態。
多くの生徒はこの両方が絡み合っています。できないから嫌いになり、嫌いだから手をつけず、さらにできなくなる。このループをどこで断ち切るかを考えるのが、関わり方の出発点です。
見立ての3つの質問
授業の後や提出物の返却時に、個別に次のような質問をしてみてください。責める調子ではなく、雑談の延長で聞くのがコツです。
- 「英語で一番イヤなのって、どの瞬間?」(当てられる時/単語テスト/長文を見た時 など)
- 「小学校の英語の時間はどうだった?」(いつから苦手になったかのヒント)
- 「教科書のこのページ、読める単語に丸をつけてみて」(実際の到達点の確認)
3つ目は特に大切です。「全部わからない」と言う生徒でも、丸をつけてもらうと this、is、my などは読めることが多く、どこからやり直せばよいかが見えてきます。
ポイント:まず「どこでつまずいているか」「何がイヤなのか」を分けて聞く。原因がわかれば、打つ手も変わります。
最初の関係づくり:評価しない時間をつくる
英語が嫌いな生徒にとって、英語の先生は「評価する人」に見えがちです。だからこそ最初は、英語の出来とは関係のない場面で関わる時間を意識的につくります。
- 部活動や好きなゲーム、音楽の話を1分だけする
- 名前を呼んで挨拶する。Good morning, Kenta. と英語で言ってもよいし、日本語でも構わない
- ノートに一言コメントを書く。「字が丁寧で読みやすい」など、英語以外の良さでもOK
授業中の声かけフレーズ
生徒が止まっている時、つい「どうしたの?」「早くやって」と言ってしまいますが、次のような言い方に変えるだけで空気が変わります。
- 「どこまでわかったか教えて」(できていない部分ではなく、できた部分から聞く)
- 「最初の1語だけ一緒に読もう」(ハードルを極端に下げる)
- 「今日はこの2文だけできたら合格」(ゴールを具体的に小さくする)
- 「間違えてくれてありがとう。みんなここで迷うんだよ」(誤りを学びの材料として扱う)
英語で声をかけるなら、Nice try. / You're getting there. / That's a good start. のような短い表現を、生徒がわかる場面で繰り返し使うと、意味も自然に伝わります。
授業の中に「小さな成功」を仕込む
苦手な生徒の意欲を支えるのは、励ましの言葉よりも「できた」という実感です。授業の中に、確実に成功できる場面を意図的に組み込みましょう。
仕込み方の例
- 答えが1語で済む質問から始める
新出本文の前に、Do you like cats? のような Yes/No で答えられる問いを全員に投げる。手を挙げる、指で○×を示すなど、声を出さなくても参加できる方法にする。
- 選択肢を用意する
「空欄に入るのは play と plays のどっち?」のように2択にすると、推測でも参加できる。
- 音読は全体→ペア→個人の順
いきなり一人で読ませない。全体で何度か読んでから、ペアで交互に読み、最後に希望者だけ個人で読む。
- ワークシートの最初の問題は必ず全員ができるものにする
教科書の本文から単語を写すだけ、など。1問目で止まると、そこから先に進めません。
「できた」を見える形にする
小テストで10点満点中3点だった生徒が、翌週5点になったら、それは大きな前進です。クラス平均と比べるのではなく、本人の前回と比べて伝えます。「先週より2問多く取れてるね。どの単語を練習した?」と聞けば、努力と結果のつながりを本人が言葉にできます。
ポイント:成功体験は「偶然できた」ではなく「こうしたからできた」と本人が説明できる形にすると、次の行動につながります。
つまずき別・やり直しの入口
見立てで原因がわかったら、やり直しの入口を具体的に決めます。中学1年の内容まで戻ることに抵抗がある生徒もいるので、「復習」ではなく「土台の点検」などと呼ぶと受け入れやすくなります。
文字と音でつまずいている場合
- 小文字の b と d、p と q の書き分けを確認する
- フォニックスの基本(c-a-t で cat のように、文字と音の対応)を、短い単語で5分だけ毎回練習する
- 教科書本文に、読めない単語だけ小さくカタカナで書くことを許可する(永久にではなく、読めるようになったら消す約束で)
語順でつまずいている場合
- 「だれが/する/なにを」の3つの箱を板書し、I / play / soccer. を箱に入れる練習をする
- 日本語の語順との違いを、My sister / likes / music. のような身近な例で何度も確認する
語彙が極端に少ない場合
- 教科書のその課で本当に必要な単語を5〜8語に絞り、それだけを確実にする
- 単語カードを一緒に作り、表に英語、裏に絵を描かせる(日本語でなくてもよい)
全部を一度に直そうとしないことが大切です。1学期に1つ、土台を固めるくらいのペースで十分です。
よくある失敗と、その回避法
善意からの関わりが、かえって生徒を遠ざけてしまうこともあります。よくあるパターンを挙げます。
- みんなの前で個別フォローをする
「〇〇さん、ここわかる?」とクラス全体に聞こえる声で言うと、「自分だけできない」と周りに知られたと感じます。机間指導の時に小声で、またはワークシートへの書き込みで伝えましょう。
- 簡単すぎる別課題を渡す
明らかに周りと違う簡単なプリントは、プライドを傷つけることがあります。同じ課題の中で「ヒント付きバージョン」を用意し、誰でも選べるようにすると目立ちません。
- 「やればできる」とだけ言う
気持ちは伝わりますが、何をやればよいかがわからなければ動けません。「この5語を3回ずつ書いて、明日の朝テストしよう」と、行動のレベルまで具体化します。
- 一度の反応で判断する
声かけに無反応でも、それで関係が終わったわけではありません。関係づくりには時間がかかります。1学期単位で見る気持ちでいましょう。
- 一人で抱え込む
英語だけでなく他教科でも苦戦している、家庭で困りごとがある、といった背景があることもあります。担任や学年の先生、必要に応じて特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーとも情報を共有しましょう。
明日からの1週間メニュー
最後に、英語が苦手な生徒への関わりを1週間で始めるプランの例です。
- 月曜:気になる生徒を2〜3人選び、授業後に「英語で一番イヤな瞬間」を雑談で聞く
- 火曜:授業の最初の3分に、全員が Yes/No で答えられる問いを3つ入れる
- 水曜:ワークシートの1問目を「全員ができる問題」に作り直す
- 木曜:音読を全体→ペア→個人の順に組み替え、個人は希望者だけにする
- 金曜:小テストを返却する時、選んだ生徒に「前回と比べて」の一言コメントを書く
1週間で劇的に変わることはありません。でも、生徒は先生の「見てくれている」という姿勢を意外なほどよく感じ取っています。英語を好きにさせることを急がず、「英語の時間がイヤではない」状態をまずゴールにしてみてください。
ポイント:関わり方のゴールは「英語を好きにさせる」より先に、「英語の時間に安心していられる」こと。そこから少しずつ、できることを増やしていきましょう。



