やる気を支える3つの気持ち
動機づけの研究でよく知られている考え方に、Deci と Ryan による自己決定理論があります。この理論では、人が意欲的に取り組むためには、次の3つの気持ちが満たされることが大切だとされています。
- 自律性:自分で選んでいる、自分で決めているという感覚
- 有能感:自分はできる、成長しているという感覚
- 関係性:周りの人とつながっている、受け入れられているという感覚
英語の授業に当てはめると、次のような工夫につながります。
- 自律性:話すテーマや読む本を、生徒が選べるようにする
- 有能感:少しがんばればできる課題を用意し、「できた」を実感させる
- 関係性:間違えても笑われない、安心して話せるクラスの雰囲気を作る
ポイント:「やる気を出せ」と言うよりも、やる気が自然に生まれる環境を整えることが、先生にできる一番のサポートです。
プロセスをほめる声かけ
ほめ方にも工夫ができます。「頭がいいね」のように能力をほめるより、努力や工夫、取り組みの過程(プロセス)をほめるほうが、生徒が次の挑戦に向かいやすいと言われています。
能力をほめる声かけ
- You're so smart!
プロセスをほめる声かけ
- You practiced a lot. I can tell!
- You used a new word today. Great challenge!
- You kept talking even when it was difficult. Nice!
- Your pronunciation is much better than last month.
日本語で伝える場合も同じです。「さすがだね」ではなく、「昨日より声が大きくなったね」「新しい表現を使ってみたのがいいね」のように、具体的に何が良かったかを伝えます。
間違えた生徒への声かけも大切です。
- Good try! Mistakes help us learn.
- That's a good idea. Let's say it this way...
- Almost! You're getting closer.
間違いを責めるのではなく、挑戦したことを認めてから、正しい形を示しましょう。
小さな成功体験を作る授業の工夫
英語が苦手な生徒にとって、「できた」という経験は、何よりのやる気のもとになります。授業の中に、小さな成功体験を意図的に作りましょう。
1. スモールステップにする
いきなり「1分間スピーチ」ではなく、1文→3文→30秒→1分と段階を踏みます。各段階で「できた」を確認します。
2. 同じ活動を繰り返す
ペアを変えて同じ活動を3回行うと、1回目より2回目、2回目より3回目と、上達を実感できます。Was it easier the third time? と問いかけて、成長に気づかせましょう。
3. モデルと型を示す
何を言えばいいか分からない状態では、挑戦できません。モデル文や、穴埋め式の型を用意します。
- I like ___ because ___.
4. 選択肢を与える
課題を2〜3種類用意し、自分で選べるようにします。例:スピーチのテーマを「好きな食べ物」「好きな場所」「好きな人」から選ぶ。自分で選んだことは、最後までやり遂げようという気持ちが生まれやすくなります。
ワンポイント:「まだ」という言葉を使う
できない生徒には、「できない」ではなく「まだできない」と伝えてみましょう。英語なら You can't do it yet. But you're getting there. のように、yet を付けるだけで「これからできるようになる」というメッセージになります。生徒自身にも、I can't do it. ではなく I can't do it yet. と言い換える習慣をつけさせると、苦手意識が少しやわらぎます。
振り返りと自己評価で成長を見える化する
生徒が自分の成長に気づけるように、振り返りの時間を取りましょう。
振り返りシートの例
- 今日のゴール:Can-do(例:週末にしたことを3文で言える)
- 今日の自己評価:◎・○・△
- できるようになったこと:
- 次にがんばりたいこと:
成長を記録する工夫
- 録音のビフォー・アフター:学期の最初と最後に同じテーマで話したものを録音し、聞き比べる
- 作文ポートフォリオ:書いた作文をファイルにためていき、学期末に最初の作文と比べる
- Can-doリスト:単元ごとの「できること」リストに、自分でチェックを入れる
ビフォー・アフターを聞き比べた生徒は、自分でも驚くほどの成長に気づくことがよくあります。Listen to your first recording. What changed? と問いかけ、変化を言葉にさせましょう。
40人クラスでの工夫
40人のクラスで、全員に丁寧な声かけをするのは簡単ではありません。次の工夫で、少しずつでも全員に届くようにしましょう。
- 名簿で声かけの記録:机間指導で声をかけた生徒に印をつけ、1週間で全員に1回は個別に声をかけるようにします
- 振り返りシートにひとことコメント:全員の振り返りシートに、短いコメント(Nice! / Great progress!)やスタンプを返します。長く書かなくても、見てもらえているという実感が生まれます
- 全体の前でほめるときは具体的に:I heard a great sentence from this group. のように、グループ単位でほめると、個人が目立つのが苦手な生徒も安心です
- 生徒同士でほめ合う:発表の後、聞き手が One good point を伝えるルールにします
- 苦手な生徒には事前にヒントを:活動の前に、そっとモデル文を渡しておくと、安心して参加できます
避けたい声かけと評価のNG
やる気を下げてしまいやすい声かけや評価も知っておきましょう。
- 他の生徒と比べる:「○○さんはできているのに」は、比べられた生徒のやる気を大きく下げます。比べるなら、その生徒の過去と今です
- 間違いを笑う・笑わせる:先生が笑わなくても、クラスで笑いが起きたらすぐにフォローしましょう。Everyone makes mistakes. That's how we learn.
- 点数だけを返す:テストや作文を返すときは、点数だけでなく、良かった点と次の目標を1つずつ伝えます
- 「簡単でしょ」と言う:苦手な生徒にとっては、できない自分を責める言葉になります。「難しいけど、一緒にやってみよう」と伝えましょう
- ほめ言葉を乱発する:何にでも Great! と言うと、ほめ言葉の価値が下がります。具体的にほめることを意識しましょう
今日から始める1週間
- 月:授業で使うプロセスをほめる英語を5つ決め、カードにして教卓に置く
- 火:同じ活動をペアを変えて3回行い、Was it easier? と聞いてみる
- 水:課題に2つの選択肢を用意し、生徒に選ばせる
- 木:振り返りシートを配り、全員にひとことコメントを返す
- 金:名簿を見て、今週まだ個別に声をかけていない生徒に声をかける
やる気は、一度の声かけで劇的に変わるものではありません。でも、「先生は自分の成長を見てくれている」という実感の積み重ねが、生徒の英語への気持ちを少しずつ変えていきます。



