「得意」の中身は一人ひとり違う
英語が得意な生徒と一口に言っても、その力の中身はさまざまです。
- 帰国生:聞く・話すは流暢だが、文法用語や綴り、書き言葉に苦手がある場合もある。滞在した国や年齢、通っていた学校によって大きく異なる
- 英会話教室や塾で先取りしてきた生徒:文法や語彙の知識は豊富だが、自分の意見を話すことには慣れていない場合もある
- 読書好きで多読をしてきた生徒:読解力は高いが、発信にはまだ自信がない場合もある
まずは、その生徒が何が得意で、何に伸びしろがあるかを見立てることから始めます。年度初めに、簡単なアンケートや短いライティング課題(例:Write about yourself in 5–10 sentences.)を出すと、多くのことがわかります。
ポイント:「英語ができる子」とひとくくりにせず、4技能のどこが強く、どこが伸びしろかを見立てる。帰国生にも苦手はあります。
関わり方:力を認め、居場所をつくる
帰国生や得意な生徒は、クラスの中で複雑な立場に置かれていることがあります。発音がよすぎて目立つのが嫌で、わざとカタカナ発音で読む生徒もいます。英語ができることで周りから距離を置かれることを気にしている場合もあります。
関わる時のポイント
- 授業の外で個別に話す:「今の授業、簡単すぎて退屈じゃない?」と率直に聞いてみる。本人がどうしたいかを尊重する
- 目立たせすぎない:毎回モデル役として前に出すと、本人の負担になることがあります。本人の気持ちを確認してから
- 英語以外の面も見る:英語ができることだけが、その生徒の価値ではありません
声かけの例
- 「その発音、とても自然だね。周りの人の参考になるから、ペアの時に聞かせてあげてくれる?」
- 「この課題、もっと難しくしてみる?君ならこういう書き方もできると思う」
- 英語で:Your ideas are really interesting. Can you add one more reason?
教科書を使った発展課題
得意な生徒のために別の教材を用意するのは大変です。教科書本文を土台に、課題の深さを変えるのが現実的です。
発展課題のアイデア
- 視点を変えて書き直す
本文が主人公の視点なら、別の登場人物の視点で日記を書く。例:Today, my friend Mika came to my house. She looked sad, so I asked her...
- 続きを書く
What happened next? をテーマに、物語の続きを100語程度で書く。
- 要約する
本文を50語以内で英語で要約する。語数制限があると、情報の取捨選択という別の力が鍛えられます。
- 問いを作る
本文についての問題を3つ作り、クラスメートに解いてもらう。良い問いを作るには、本文を深く理解している必要があります。
- 意見を書く
本文のテーマについて、賛成・反対とその理由を書く。例:本文がリサイクルの話なら Should our school stop selling plastic bottles?
文法・語彙面での発展
- 本文の文を、より高度な構文に書き換える(例:関係代名詞や分詞を使って2文を1文に)
- 本文中の単語の類義語・反意語を調べ、ニュアンスの違いを説明する
帰国生の「書き言葉」を支える
帰国生の中には、会話は流暢でも、日本の学校の英語で求められる正確な書き言葉や文法の説明に戸惑う生徒がいます。テストで思ったより点が取れず、自信をなくしてしまうこともあります。
よく見られるつまずきの例
- 話し言葉の表現をそのまま書く(gonna, wanna など)
- 綴りを音で覚えていて、つづりミスが多い
- 文法用語(「現在完了」「関係代名詞」など)がわからず、問題文の指示を理解できない
- 日本語での和訳や説明の問題に苦戦する
支え方の例
- 文法用語と、本人がすでに使っている英語を結びつける。「I've been to London. と言えるよね。それが『現在完了の経験』という名前なんだよ」
- 話し言葉と書き言葉の違いを表にして渡す(gonna → going to, kids → children など)
- 和訳問題では、意味は取れているかをまず認め、日本語として自然な表現に整える練習をする
「できる子」と思われているぶん、苦手を言い出しにくい生徒もいます。「帰国生がよくつまずくポイントなんだよ」と前置きして伝えると、安心して相談できるようになります。
授業の外で伸ばす:多読・発信・コンテスト
授業時間だけでは、得意な生徒の伸びしろを満たすのは難しいこともあります。授業の外の学びを紹介するのも、先生の大切な役割です。
多読
学校の図書室に英語の本(段階別読み物など)があれば、レベルに合ったものを紹介します。「今のレベルなら、このシリーズの上の段階が楽しめると思う」と具体的に勧めると、手に取りやすくなります。
発信の場
- 英語スピーチや暗唱のコンテスト、エッセイコンテストへの挑戦
- 学校行事での英語のアナウンスや、海外からの訪問者への案内役
- 学校新聞やウェブサイトの英語版記事の作成
外部試験
英検などの外部試験に挑戦したい生徒には、上の級の過去問題の取り組み方や、ライティングの添削などでサポートできます。ただし、受験は本人と家庭の判断が前提です。
ポイント:得意な生徒には、授業の中の「深さ」と、授業の外の「広さ」の両方を用意する。先生が紹介するだけで、世界が広がることがあります。
よくある失敗
- 「ミニ先生」ばかりさせる
教えることで学ぶ面もありますが、毎回それだけでは本人の学びが止まります。教える役と、自分が挑戦する課題のバランスをとりましょう。
- 量だけを増やす
「早く終わったならこれもやって」と同じレベルのプリントを追加するのは、罰のように感じられることもあります。増やすなら量ではなく、深さや難しさを。
- 文法や綴りの弱点を見逃す
話すのが流暢だと、書き言葉の弱点が見えにくくなります。定期テストや提出物で、つまずきがないか丁寧に見ましょう。
- 本人の意思を聞かずに決める
コンテストへの推薦や発表役など、本人の気持ちを確認せずに進めると、負担になることがあります。
- 周りとの関係を考慮しない
得意な生徒ばかりを指名すると、周りの生徒が「どうせあの子が答える」と参加しなくなります。指名や役割のバランスを意識します。
今週からできること
- 1日目:クラスの得意な生徒を2〜3人思い浮かべ、4技能の強みと伸びしろをメモする
- 2日目:その生徒と授業外で少し話し、授業の難易度についての本音を聞く
- 3日目:次の単元の本文で、発展課題(視点を変える・続きを書く・要約など)を1つ用意する
- 4日目:早く終わった生徒が自由に取れる「発展課題ボックス」を教室に置く
- 5日目:図書室の英語の本を確認し、紹介できそうなものを数冊選んでおく
得意な生徒が授業の中で「ちょうどよい挑戦」を見つけると、その熱意はクラス全体にもよい影響を与えます。
ポイント:得意な生徒を伸ばすことは、クラス全体の天井を上げること。まずは一人の生徒と話すところから始めてみてください。



