宇宙エレベーターは本当に作れるのか? 足りないのは“たった1本の最強ケーブル”

読む前に予想してみよう!
宇宙エレベーターは、地球の自転と同じ時間で1周する高さ(静止軌道)を利用する
高度約3万6000kmの静止軌道より外側に重りを置き、地球の自転の遠心力でケーブルをピンと張るアイデア。
- 対象
- 宇宙エレベーター構想
- 規模
- 物理計算・設計研究
- 研究の種類
- 理論・工学検討
- 確かさ
- ★★☆☆☆
宇宙エレベーターは物理的には成り立つ構想。ただし約10万kmの長さに耐える超高強度ケーブルがまだ作れず、実現は未定。
ひとことで言うと宇宙までのびるエレベーターは、すごく強いひもができれば作れるかも。
ボタンを押すと、エレベーターが静かに動き出す。窓の外の景色はどんどん小さくなり、やがて青い地球の丸みが見えてくる──。
宇宙エレベーター。SF小説やアニメでおなじみの乗り物ですが、実は物理学的にはちゃんと成り立つと考えられている、まじめな構想です。
では、なぜまだ作られていないのでしょう? 答えは、たった1本のケーブルにあります。
01しくみは「地球をハンマー投げ」
宇宙エレベーターのカギになるのが、静止軌道です。
地上から約3万6000kmの高さでは、人工衛星が地球を1周するのにかかる時間が、地球の自転と同じ24時間になります。だから地上から見ると、衛星が空の一点に止まっているように見えるのです。天気予報の気象衛星「ひまわり」も、この高さにいます。
宇宙エレベーターは、この静止軌道を利用します。
- 静止軌道から、地上に向けてケーブルを垂らす
- 同時に、宇宙側にもケーブルを伸ばし、先端に重り(カウンターウェイト)をつける
- 地球の自転による遠心力で、ケーブル全体がピンと張られる
イメージは、ハンマー投げ。選手がハンマーを振り回すと、ワイヤーがピンと張りますよね。地球がくるくる回ることで、宇宙までのびたケーブルを引っぱり続けるのです。

02アイデアは100年以上前から
宇宙へ届く塔のアイデアは、19世紀末のロシアの科学者ツィオルコフスキーまでさかのぼります。その後、ケーブルを使う形のアイデアがロシアやアメリカで考えられてきました。
その後2000年には、アメリカの物理学者ブラッドリー・エドワーズが同じく『Acta Astronautica』で、カーボンナノチューブを使った細いリボン状のケーブルを少しずつ太くしていく、より具体的な建設方法を提案しました。
03最大の壁は「ケーブルの強さ」
ここで最大の問題が出てきます。ケーブルの長さは、重りの位置まで含めると約10万kmにもなると考えられています。地球を2周半するほどの長さです。
これだけ長いと、ケーブルは自分の重さで切れてしまうおそれがあります。鉄はもちろん、現在の丈夫な人工繊維でも、まったく強さが足りません。
物理学者アラヴィンドが2007年に学術誌『American Journal of Physics』で示した計算でも、重さのわりにどれだけ強いか(比強度)が鋼鉄よりはるかに高い材料でなければ、ケーブルは持ちこたえられないことが分かります。
そこで期待されているのが、カーボンナノチューブです。炭素の原子が網目のようにつながって、ストロー状になった物質。髪の毛の何万分の1という細さなのに、理論上は鋼鉄よりはるかに強く、しかも軽いとされています。
ただし、それはごく短い1本の話。何万kmもの長さで、その強さを保ったままケーブルを作る技術は、まだありません。
04ほかにも課題は山積み
ケーブル以外にも、乗り越えるべき壁はたくさんあります。
- 宇宙ゴミや隕石がケーブルにぶつかったら?
- 雷や強風、地上の天気への対策は?
- のぼるのに何日もかかる長い旅の間、放射線から乗客をどう守る?
一方で、実現に向けた小さな一歩も始まっています。日本では、大学の研究チームが小型衛星を使って、宇宙でケーブルを伸ばし、そこを小さな装置が移動する実験に挑戦しました。日本の建設会社が、2050年ごろの完成をめざす構想を発表したこともあります。
05まとめ
- 宇宙エレベーターは、静止軌道と遠心力を利用する、物理的に成り立つ構想
- 最大の壁は、約10万kmに耐える超高強度ケーブルがまだ作れないこと
- 実現できれば、ロケットよりもずっと安く宇宙へ行けると期待されている
「作れる?」の答えは、いまのところ「理論上は作れる。でも材料がまだない」。判定はビミョーです。あなたが大人になるころ、その「最強のケーブル」はできているでしょうか。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA space elevator sounds like science fiction, but it is physically possible.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
A space elevator would carry people from the ground into space. The idea does not break the rules of physics. A long cable goes up from the ground into space, with a heavy weight at the end.
The Earth turns, and this keeps the cable tight, like the wire in the hammer throw. But the cable must be about 100,000 kilometers long, and nobody can make such a strong cable yet.
71 words ・ CEFR A2
和訳を見る
宇宙エレベーターは、人を地上から宇宙まで運ぶ乗り物です。この考えは物理の法則には反していません。長いケーブルが地上から宇宙へとのびていて、その先には重いおもりがついています。
地球が回ることで、ハンマー投げのワイヤーのように、ケーブルはピンと張られます。しかし、ケーブルの長さは約10万kmにもなる必要があり、そんなに強いケーブルはまだ誰も作れません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宇宙エレベーターのしくみと、強いケーブルがまだ作れないという最大の問題を述べているので B。
Q2. How long must the cable be?
the cable must be about 100,000 kilometers long とあるので D。
Q3. In this passage, "tight" means the cable is ...
tight は「ピンと張った」。ハンマー投げのワイヤーのようにたるまずに張られている状態なので A。
A space elevator sounds like science fiction, but it is physically possible. The key is geostationary orbit, about 36,000 kilometers above the Earth, where a satellite circles the planet once every 24 hours and seems to stay still in the sky. A cable would hang down from this height to the ground, while another part would extend farther into space with a counterweight at the end.
The Earth's rotation would keep the whole cable tight. The biggest problem is the cable itself. Including the counterweight, it would be about 100,000 kilometers long, so it could break under its own weight. Carbon nanotubes are much stronger and lighter than steel, but so far only very short ones can be made.
119 words ・ CEFR B1
和訳を見る
宇宙エレベーターはSFのように聞こえますが、物理的には可能です。カギとなるのは、地上から約3万6000kmの高さにある静止軌道です。そこでは人工衛星が24時間に1回地球を回り、空の一点に止まっているように見えます。
ケーブルはこの高さから地上へ垂らされ、別の部分は宇宙のさらに遠くへのび、その先端に重りがつけられます。地球の自転によって、ケーブル全体がピンと張られるのです。最大の問題はケーブルそのものです。重りまで含めると長さは約10万kmにもなるため、自分の重さで切れてしまうおそれがあります。カーボンナノチューブは鋼鉄よりはるかに強くて軽いのですが、今のところ作れるのはごく短いものだけです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is special about geostationary orbit?
where a satellite circles the planet once every 24 hours とあるので C。止まって「見える」だけで、実際は回っているので A は誤り。
Q2. What keeps the cable tight?
The Earth's rotation would keep the whole cable tight. とあるので A。
Q3. Why can't a space elevator be built today?
The biggest problem is the cable itself. とあり、カーボンナノチューブも短いものしか作れないと述べているので D。A は physically possible と矛盾。
Although it belongs to the world of science fiction, a space elevator does not violate the laws of physics. The concept relies on geostationary orbit, roughly 36,000 kilometers up, where an object circles the Earth once a day. A cable would be lowered from there to the equator while another section would extend outward to a counterweight, and the planet's rotation would keep the structure under tension, much like a hammer thrower's wire.
The engineer Jerome Pearson outlined such an "orbital tower" in 1975, and in 2000 Bradley Edwards proposed starting with a thin ribbon of carbon nanotubes and gradually thickening it. The obstacle is the cable. At about 100,000 kilometers long, it would snap under its own weight unless made from a material whose strength relative to its density far exceeds that of steel.
Carbon nanotubes qualify in theory, but only as tiny individual tubes; when they are bundled into longer fibers, defects reduce their strength dramatically. Debris impacts, lightning, and radiation during a climb lasting several days pose further challenges. The idea is therefore physically sound, yet whether it can be built safely and affordably remains an open question.
191 words ・ CEFR B2
和訳を見る
SFの世界のものではありますが、宇宙エレベーターは物理法則に反してはいません。この構想は、地上からおよそ3万6000kmの高さにある静止軌道を利用します。そこでは物体が1日に1回地球を回ります。ケーブルをそこから赤道へ下ろし、同時に別の部分を外側へ伸ばして重りにつなげば、ハンマー投げのワイヤーのように、地球の自転によって構造物全体が引っぱられた状態に保たれます。
技術者ジェローム・ピアソンは1975年にこうした「軌道の塔」の構想を示し、2000年にはブラッドリー・エドワーズが、カーボンナノチューブの細いリボンから始めて少しずつ太くしていく方法を提案しました。障害となるのはケーブルです。長さ約10万kmにもなるため、密度に対する強さが鋼鉄をはるかに上回る材料で作らない限り、自分の重さで切れてしまいます。
カーボンナノチューブは理論上その条件を満たしますが、それは小さな1本1本のチューブとしての話です。束ねて長い繊維にすると、欠陥によって強さが大きく下がってしまいます。宇宙ゴミの衝突、雷、そして数日かかる上昇中の放射線も、さらなる課題です。したがって、この構想は物理的には筋が通っているものの、安全に、しかも手の届く費用で建設できるかどうかは、まだ分からないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the author's overall view of the space elevator?
最終文 physically sound, yet whether it can be built safely and affordably remains an open question が筆者の結論なので B。
Q2. What did Bradley Edwards propose in 2000?
Bradley Edwards proposed starting with a thin ribbon of carbon nanotubes and gradually thickening it とあるので A。
Q3. According to the passage, what happens when carbon nanotubes are bundled into longer fibers?
when they are bundled into longer fibers, defects reduce their strength dramatically とあるので C。
重要単語
- space elevatorB2名詞(句)宇宙エレベーターA space elevator could carry cargo to orbit.
elevator は elevate(持ち上げる)+-or(~するもの)。イギリス英語では lift。 - geostationary orbitC1名詞(句)静止軌道Weather satellites often sit in geostationary orbit.
geo-(地球)+stationary(静止した)。stationery(文房具)とつづりを混同しやすいので注意。 - counterweightC1名詞重り(つり合いおもり)A counterweight keeps the cable tight.
counter-(反対側の)+weight。エレベーターにも実際に使われている。 - tensile strengthC1名詞(句)引っ張り強さThe cable needs enormous tensile strength.
tensile は tension(張力)の形容詞。引っぱられても切れない強さのこと。 - carbon nanotubeC1名詞(句)カーボンナノチューブCarbon nanotubes are light but very strong.
nano- は「10億分の1」。nanometer, nanotechnology など先端技術の英文で頻出。日本の飯島澄男が発見したことでも有名。 - violateB2動詞違反する・反するThe idea does not violate the laws of physics.
violate the law / rules「法律・規則に違反する」が基本コロケーション。名詞は violation。 - obstacleB2名詞障害(物)The biggest obstacle is the strength of the cable.
ob-(前に)+sta(立つ)=「前に立ちはだかるもの」。overcome an obstacle「障害を乗り越える」が定番。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
公式・一次情報をチェック
- 宇宙エレベーター建設構想(大林組「季刊大林」)obayashi.co.jp
このネタ、誰かに教えたくなった?
地上から宇宙までケーブルを張って、エレベーターで宇宙へ。SFみたいだけど、物理的にはちゃんと成り立つ構想らしい。問題は、長さ約10万kmでも切れない最強のケーブルがまだ作れないこと。カギはカーボンナノチューブ。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Pearson (1975) The orbital tower: A spacecraft launcher using the Earth's rotational energy, Acta Astronauticadoi.org
- Edwards (2000) Design and deployment of a space elevator, Acta Astronauticadoi.org
- Aravind (2007) The physics of the space elevator, American Journal of Physicsdoi.org
- 大林組, 宇宙エレベーター建設構想, 季刊大林obayashi.co.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













