宇宙ゴミが宇宙ゴミを生む“連鎖崩壊”。1978年に予言されたケスラーシンドローム

読む前に予想してみよう!
宇宙ゴミは数ミリの小さなものでも、人工衛星に穴をあけることがある
秒速数kmという弾丸よりはるかに速いスピードで飛んでいるため、小さな破片でも大きな破壊力をもつ。
- 対象
- 地球周回軌道の人工物体
- 規模
- 追跡物体数万個+統計モデル
- 研究の種類
- 理論モデル+観測データ
- 確かさ
- ★★★★☆
宇宙ゴミどうしがぶつかって破片が増え、その破片がまた衝突する連鎖を「ケスラーシンドローム」と呼ぶ。1978年に予言され、いま現実味を帯びている。
ひとことで言うと宇宙のゴミがぶつかって、もっと細かいゴミがどんどん増えていくこと。
地球のまわりには、いま何が飛んでいると思いますか?人工衛星、宇宙ステーション……そして、大量のゴミです。
使い終わった人工衛星、ロケットの上の段、爆発した燃料タンクの破片、宇宙飛行士がうっかり手放した工具まで。こうした宇宙ゴミ(スペースデブリ)が、地球のまわりをものすごいスピードで回り続けています。
そして研究者たちが恐れているのが、ゴミがゴミを生む“連鎖崩壊”です。
011978年の「不吉な予言」
この連鎖反応は、のちにケスラーの名をとってケスラーシンドロームと呼ばれるようになりました。
さらにNASAのリオウとジョンソンは2006年、学術誌『Science』で、たとえ新しい打ち上げをすべてやめたとしても、低軌道の一部では衝突による破片の増加が、大気で燃え尽きて減る分を上回るというシミュレーション結果を示しました。
イメージは、ビリヤードのブレイクショット。1つの玉がぶつかると、散らばった玉がまた別の玉にぶつかり、どんどん広がっていく。宇宙でそれが起きると、特定の高さの軌道が使えなくなってしまうおそれがあるのです。

02数ミリのかけらが「弾丸」より危ない
宇宙ゴミがやっかいなのは、そのスピードです。地球の近くを回る物体は、秒速7〜8kmほど。ピストルの弾よりはるかに速い速度です。
そのため、たった数ミリのかけらでも、ぶつかれば人工衛星に穴をあけたり、部品を壊したりする力をもっています。実際、宇宙ステーションの窓に、小さな破片が当たってできた欠けが見つかったこともあります。
地上から追跡されている物体だけでも、数万個(執筆時点)。追跡できないもっと小さなかけらは、ESAの推計で1cm以上のものだけでも100万個を超えるとされています。
03予言は少しずつ現実に
ケスラーの予言は、すでに現実のものになりつつあります。
- 2007年:中国が、自国の古い気象衛星をミサイルで破壊する実験を行い、大量の破片が発生
- 2009年:アメリカの通信衛星「イリジウム33」と、使われなくなったロシアの衛星「コスモス2251」が衝突。人工衛星どうしの大規模な衝突として知られる事故に
- 2021年:ロシアが自国の古い衛星を破壊する実験を行い、ISSの乗組員が一時避難する事態に
ISSは、ゴミとの衝突を避けるために、ときどきエンジンを噴かして軌道をずらすことがあります。宇宙ステーションも、ゴミをよけながら暮らしているのです。
04宇宙の「お掃除」は始まっている
この問題を解決しようと、世界中で取り組みが進んでいます。
- 役目を終えた衛星を、大気圏に落として燃やすルール作り
- ゴミをつかまえて大気圏に引き下ろす宇宙のお掃除衛星の開発(日本の企業も挑戦中)
- そもそもゴミを出さない設計
05まとめ
- ケスラーシンドロームは、宇宙ゴミの衝突が新たなゴミを生む連鎖のこと
- 1978年にNASAの研究者が予言し、すでに一部は現実に
- 数ミリの破片でも、秒速7〜8kmのスピードで飛ぶため危険
天気予報、カーナビ、スマホの地図。私たちの生活は人工衛星に支えられています。宇宙のゴミ問題は、遠い宇宙の話ではなく、私たちの暮らしを守る話なのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1978, NASA researchers Donald Kessler and Burton Cour-Palais predicted that as more objects circled the…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many old satellites and rocket parts fly around the Earth. We call this space junk. It moves very fast, about 7 to 8 kilometers a second, so even a tiny piece can make a hole in a satellite. When two pieces hit each other, they break into many more pieces.
Then those new pieces can hit other things. In 1978, NASA scientists warned about this chain reaction. Today, people are working to clean up space.
75 words ・ CEFR A2
和訳を見る
古い人工衛星やロケットの部品がたくさん、地球のまわりを飛んでいます。これを宇宙ゴミと呼びます。宇宙ゴミは秒速約7〜8kmととても速く動いているので、小さなかけらでも人工衛星に穴をあけることがあります。2つのかけらがぶつかると、もっとたくさんのかけらに割れます。
すると、その新しいかけらが別のものにぶつかることがあります。1978年、NASAの科学者たちはこの連鎖反応について警告しました。今日、人々は宇宙をきれいにしようと取り組んでいます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宇宙ゴミと、衝突でゴミがさらに増える連鎖について述べているので C。
Q2. How fast does space junk move?
about 7 to 8 kilometers a second とあるので A。「1秒あたり」である点に注意。
Q3. In this passage, "warned about" means NASA scientists ...
warn about ~ は「~について警告する」。危険になりうると前もって伝えたという意味なので D。
In 1978, NASA researchers Donald Kessler and Burton Cour-Palais predicted that as more objects circled the Earth, pieces created by collisions would cause even more collisions. Eventually, debris could keep increasing even without new launches. This chain reaction is now called Kessler syndrome. In 2006, a simulation showed that in some low orbits, fragments from collisions would increase faster than old ones burned up in the atmosphere, even if all launches stopped.
The danger comes from speed: objects near the Earth travel at 7 to 8 kilometers per second, so a piece only a few millimeters across can damage a satellite. The prediction is already coming true. In 2009, an American communications satellite and an unused Russian satellite crashed into each other.
122 words ・ CEFR B1
和訳を見る
1978年、NASAの研究者ドナルド・ケスラーとバートン・クール=パレは、地球のまわりを回る物体が増えると、衝突で生まれた破片がさらに多くの衝突を引き起こすだろうと予測しました。やがては、新たな打ち上げがなくても宇宙ゴミが増え続けるかもしれないというのです。この連鎖反応は現在、ケスラーシンドロームと呼ばれています。2006年のシミュレーションでは、たとえすべての打ち上げをやめたとしても、一部の低軌道では、衝突による破片の増加が、古い破片が大気中で燃え尽きる速さを上回ることが示されました。危険の原因は速度です。
地球近くの物体は秒速7〜8kmで移動しているので、ほんの数ミリのかけらでも人工衛星を壊すことがあります。この予言はすでに現実になりつつあります。2009年には、アメリカの通信衛星と使われなくなったロシアの衛星が衝突しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is Kessler syndrome?
pieces created by collisions would cause even more collisions ... This chain reaction is now called Kessler syndrome とあるので B。
Q2. What did the 2006 simulation show?
fragments from collisions would increase faster than old ones burned up in the atmosphere, even if all launches stopped とあるので D。C はこれと逆。
Q3. Why can a very small piece of debris be dangerous?
The danger comes from speed とあり、秒速7〜8kmで飛ぶため数ミリのかけらでも衛星を壊せると説明されているので A。
A fragment only a few millimeters wide can puncture a satellite, because objects in low Earth orbit travel at 7 to 8 kilometers per second. In 1978, NASA scientists Donald Kessler and Burton Cour-Palais warned that once enough objects crowded Earth's orbit, fragments from collisions would cause further collisions, and the debris would multiply on its own. The idea, later named Kessler syndrome, gained support in 2006.
A study in Science suggested that in parts of low Earth orbit, collisions would create fragments faster than atmospheric drag could remove them, even if every launch stopped. Ground stations now track tens of thousands of objects. ESA estimates that more than a million pieces are larger than one centimeter, but that figure comes from statistical models rather than direct counts.
Experts describe Kessler syndrome as a slow process unfolding over decades or centuries, not a sudden catastrophe. Which altitudes have already passed a critical point depends on modeling assumptions. Even so, real events have begun to match the prediction. China carried out an anti-satellite test in 2007, two satellites collided in 2009, and in 2021 a Russian test forced the crew of the ISS to take shelter.
195 words ・ CEFR B2
和訳を見る
低軌道の物体は秒速7〜8kmで移動しているため、幅わずか数ミリの破片でも人工衛星に穴をあけることがあります。1978年、NASAの科学者ドナルド・ケスラーとバートン・クール=パレは、地球の軌道上が物体で十分に混み合うと、衝突で生じた破片がさらに衝突を引き起こし、宇宙ゴミがひとりでに増えていくと警告しました。後にケスラーシンドロームと名づけられたこの考えは、2006年に裏づけを得ました。
『Science』に掲載された研究が、たとえすべての打ち上げをやめても、低軌道の一部では大気の抵抗で取り除かれるより速く、衝突によって破片が生まれると示したのです。現在、地上からは数万個の物体が追跡されています。ESAは1cmより大きな破片が100万個以上あると推定していますが、この数字は直接数えたものではなく、統計モデルから出したものです。
専門家たちは、ケスラーシンドロームを突然の大惨事ではなく、数十年から数百年かけてゆっくり進む過程だと説明しています。どの高度がすでに臨界点を超えたかは、モデルの前提によって変わります。それでも、実際の出来事は予言と一致し始めています。2007年に中国が衛星破壊実験を行い、2009年には衛星どうしが衝突し、2021年にはロシアの実験によってISSの乗組員が避難を余儀なくされました。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 2006 study in Science suggest?
collisions would create fragments faster than atmospheric drag could remove them, even if every launch stopped とあるので C。
Q2. Which event forced the ISS crew to take shelter?
in 2021 a Russian test forced the crew of the ISS to take shelter とあるので A。
Q3. How do experts view Kessler syndrome, according to the passage?
a slow process unfolding over decades or centuries, not a sudden catastrophe とあり、どの高度が臨界点を超えたかは depends on modeling assumptions と述べているので D。
重要単語
- space debrisC1名詞(句)宇宙ゴミ(スペースデブリ)Space debris travels faster than a bullet.
debris はフランス語由来で語末の s は発音しない(/dəˈbriː/)。不可算名詞。space junk とも言う。 - collisionB2名詞衝突A collision can create thousands of fragments.
動詞は collide(衝突する)。collide with ~「~と衝突する」の形で頻出。 - chain reactionB2名詞(句)連鎖反応One crash could start a chain reaction.
鎖(chain)のように反応が次々つながるイメージ。核反応のほか、社会現象の比喩にも使う。 - fragmentB2名詞破片・断片Tiny fragments can damage a satellite.
fragile(壊れやすい)と同語源で「壊れたもの」。動詞で「ばらばらになる」の意味もある。 - low Earth orbitC1名詞(句)低軌道(地球低軌道)Many satellites fly in low Earth orbit.
略称 LEO。ISS もここを回っている。in orbit「軌道上に」の前置詞 in に注意。 - cascadeC1名詞連鎖・段階的に続く現象(もとは小さな滝)A cascade of collisions could make some orbits unusable.
階段状に流れ落ちる滝から「次々と連なること」の意味に。a cascade of ~「次々に起こる~」は学術英語で頻出。 - punctureC1動詞(穴を)突き刺してあけるA tiny fragment can puncture a satellite.
自転車の「パンク」の語源。punct-(点・刺す)は punctual(時間厳守の)、punctuation(句読点)と同じ。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- Space Debris(ESA, 欧州宇宙機関)esa.int
- Orbital Debris Program Office(NASA)orbitaldebris.jsc.nasa.gov
このネタ、誰かに教えたくなった?
地球のまわりには、使い終わった衛星やロケットの破片がびっしり。ゴミどうしがぶつかると破片が増え、その破片がまた別の衛星を壊す。1978年にNASAの研究者が予言したこの連鎖は「ケスラーシンドローム」と呼ばれている。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Kessler & Cour-Palais (1978) Collision frequency of artificial satellites: The creation of a debris belt, Journal of Geophysical Researchdoi.org
- Liou & Johnson (2006) Risks in Space from Orbiting Debris, Sciencedoi.org
- ESA, Space Debris, European Space Agencyesa.int
- NASA Orbital Debris Program Office, Orbital Debris Program Office, NASA Johnson Space Centerorbitaldebris.jsc.nasa.gov
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











