地球の海の水は彗星が運んだ?「違う」から「やっぱりありかも」へ揺れた10年

読む前に予想してみよう!
地球の海の水が彗星から来たことは、すでに証明されている
彗星説・小惑星説・地球の材料説などがあり、いまも議論中。複数の起源の組み合わせとする見方も強い。
- 対象
- 彗星・隕石の水
- 規模
- 探査機・宇宙望遠鏡の観測+隕石分析
- 研究の種類
- 同位体比の比較研究
- 確かさ
- ★★★☆☆
海の水と彗星の水の「指紋」比べは二転三転。2015年は「違う」、2024年は「ちりの影響を除けば近い」。いまは複数の起源の合わせ技説が有力。
ひとことで言うと海の水がどこから来たかは、まだはっきりわかっていないよ。
地球の表面の約7割をおおう海。この大量の水は、どこから来たのでしょう?
有名な説のひとつが、「彗星が運んできた」というもの。彗星は「汚れた雪だるま」とも呼ばれる、氷とちりのかたまりです。大昔、たくさんの彗星が地球にぶつかって、水を届けたのでは——というわけです。
ところがこの説、ここ十数年で「違う」→「やっぱりありかも」と、何度もひっくり返ってきました。
01水には「出身地の指紋」がある
水の出身地を調べるカギは、重水素(じゅうすいそ)です。
水素の中には、ごくまれに少しだけ重い水素が混じっています。この「重い水素の割合(D/H比)」は、水が生まれた場所の温度などによって変わります。いわば水の出身地を示す指紋です。
地球の海水では、重水素はふつうの水素約6400個に1個。彗星の水がこれと同じなら、「彗星が運んだ」説に有利になります。

022011年:「海とそっくりの彗星」発見
昔から観測されてきたハレー彗星などは、重水素の割合が地球の海のおよそ2倍。「彗星の水は海とは違う」と考えられていました。
ところが2011年、ドイツのマックス・プランク研究所のハートーグらは、ヨーロッパの宇宙望遠鏡ハーシェルでハートレー第2彗星を観測し、その水が地球の海とほぼ同じ指紋をもつと報告しました。「彗星説、復活か!?」と大きな話題になりました。
032015年:ロゼッタ「やっぱり違う」
次に決定打と期待されたのが、ヨーロッパの探査機ロゼッタです。ロゼッタは2014年から、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)のすぐそばを飛び、水を直接測りました。
04どんでん返し:犯人は「ちり」だった?
ところが2024年、NASAゴダード宇宙飛行センターのマントらが、ロゼッタの全期間のデータを4000回分以上見直しました。
すると、探査機のまわりに氷をまとったちりが多いときほど、重水素の割合が高く出ることがわかったのです。ちりから蒸発した水が、測定をゆがめていたと考えられます。ちりの影響が少ない、彗星から離れた位置の測定だけを使うと、67P彗星の水は地球の海にかなり近い値になりました。
つまり、「彗星説」はふりだしに戻ったのです。
05本命は「地球の材料そのもの」?
さらに2020年、フランス・ロレーヌ大学のピアーニらは、地球をつくった材料に近いとされるエンスタタイト・コンドライトという隕石を調べました。すると、この隕石には、地球の海の水の少なくとも3倍をまかなえるほどの水素が含まれていたのです。
もしそうなら、地球の水は外から届いたのではなく、最初から地球の材料に入っていたことになります。
06まとめ
- 水の出身地は、重い水素の割合という「指紋」で調べる
- 彗星説は「違う」→「海とそっくりの彗星」→「やっぱり違う」→「ちりのせいだった?」と揺れてきた
- 地球の材料そのものに水があった説もあり、複数の起源の合わせ技という見方が有力
コップの水を飲むとき、その中には、もしかしたら彗星のかけらから来た水素も、地球が生まれたときからある水素も、混じっているのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEarth's oceans cover about 70 percent of its surface, but where did all that water come from?
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Where did the water in Earth's oceans come from? Some scientists think comets brought it. Comets are balls of ice and dust. To check this idea, scientists compare a special kind of heavy hydrogen in comet water and ocean water.
The results have changed many times. In 2015, one comet's water looked different. But in 2024, a new study said it was quite similar. Many scientists now think the water came from several places.
74 words ・ CEFR A2
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地球の海の水はどこから来たのでしょうか。彗星が運んできたと考える科学者もいます。彗星は氷とちりのかたまりです。この考えを確かめるために、科学者は彗星の水と海の水にふくまれる特別な「重い水素」を比べます。
結果は何度も変わってきました。2015年には、ある彗星の水は海の水と違うように見えました。しかし2024年、新しい研究はそれがかなり似ていると言いました。いまでは多くの科学者が、水はいくつかの場所から来たと考えています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第1文の問い Where did the water in Earth's oceans come from? が全体のテーマなので D。
Q2. What did the 2024 study say about the comet's water?
But in 2024, a new study said it was quite similar. とあるので B。A は2015年の結果。
Q3. In this passage, "compare" means ...
彗星の水と海の水の重い水素を「比べる」という意味なので C。
Earth's oceans cover about 70 percent of its surface, but where did all that water come from? One famous idea is that comets, which are made of ice and dust, delivered it long ago. To test this, scientists compare the amount of deuterium, a heavy form of hydrogen, in comet water and ocean water. This ratio works like a fingerprint.
In 2015, data from the European spacecraft Rosetta showed that the water of comet 67P had about three times as much deuterium as ocean water. However, in 2024 a NASA team reanalyzed the data and found that icy dust around the spacecraft had raised the numbers. Without this effect, the comet's water looked much closer to Earth's.
117 words ・ CEFR B1
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地球の海は表面の約70パーセントをおおっていますが、そのたくさんの水はどこから来たのでしょうか。有名な考えの1つは、氷とちりでできた彗星が大昔に水を運んできたというものです。これを確かめるため、科学者は彗星の水と海の水にふくまれる、水素の重い仲間である重水素の量を比べます。この割合は指紋のような働きをします。
2015年、ヨーロッパの探査機ロゼッタのデータは、67P彗星の水には海の水の約3倍の重水素がふくまれることを示しました。しかし2024年、NASAのチームがデータを解析し直したところ、探査機のまわりの氷をまとったちりが数値を押し上げていたことが分かりました。この影響を除くと、彗星の水は地球の水にずっと近く見えたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
彗星が水を運んだという考えを、重水素の割合で確かめる話が中心なので A。
Q2. What did the 2015 Rosetta results show?
had about three times as much deuterium as ocean water とあるので D。
Q3. Why does the writer compare the deuterium ratio to "a fingerprint"?
指紋が人を特定するように、重水素の割合で水の出どころを見分けられる、というたとえなので B。
Roughly 70 percent of Earth's surface is ocean, yet the source of that water remains contested. A leading test relies on the deuterium-to-hydrogen ratio, which depends partly on the temperature where water formed and thus acts as a chemical fingerprint. Ocean water contains about one deuterium atom for every 6,400 hydrogen atoms. Comets such as Halley showed roughly twice that value, seemingly ruling them out, but in 2011 the Herschel space telescope found that comet Hartley 2 closely matched the oceans.
Then in 2015, measurements by Europe's Rosetta spacecraft at comet 67P gave a ratio about three times the ocean value, shifting attention toward asteroids. In 2024, however, a NASA-led team reexamined more than 4,000 Rosetta measurements and found that values rose when icy dust surrounded the spacecraft; readings taken farther from the comet were much closer to Earth's. This correction rests on assumptions and still needs independent confirmation.
Meanwhile, a 2020 study of enstatite chondrites, meteorites resembling Earth's building blocks, suggested that Earth may have been born with enough hydrogen for at least three oceans. Many researchers now favor a mixture of sources.
184 words ・ CEFR B2
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地球の表面のおよそ70パーセントは海ですが、その水の起源はいまも議論の的です。有力な検証方法は重水素と水素の比(D/H比)を使うもので、この比は水ができた場所の温度などに左右されるため、化学的な指紋として働きます。海水には、水素原子約6400個に対して重水素原子が約1個ふくまれます。ハレー彗星などの彗星はその約2倍の値を示し、彗星説は否定されたかに見えましたが、2011年、ハーシェル宇宙望遠鏡はハートレー第2彗星が海とよく一致することを発見しました。
ところが2015年、ヨーロッパの探査機ロゼッタが67P彗星で行った測定では海の値の約3倍の比が得られ、関心は小惑星へと移りました。しかし2024年、NASAが率いるチームはロゼッタの4000回以上の測定を見直し、探査機のまわりを氷をまとったちりが取り巻いているときに値が高くなることを見いだしました。彗星から離れた位置での測定値は、地球の値にずっと近かったのです。この補正は仮定にもとづいており、独立した確認がまだ必要です。
一方、地球の材料に似た隕石であるエンスタタイト・コンドライトを調べた2020年の研究は、地球が少なくとも海3つ分をまかなえる水素をもって生まれた可能性を示しました。いまでは多くの研究者が、複数の起源の組み合わせを支持しています。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best describes the passage?
2011年・2015年・2024年と結果が揺れ動き、最終文で a mixture of sources が支持されていると述べているので C。
Q2. According to the 2024 reanalysis, why were some Rosetta values high?
values rose when icy dust surrounded the spacecraft とあるので A。離れた位置の測定はむしろ地球に近かった。
Q3. What does the author imply by saying the correction "still needs independent confirmation"?
rests on assumptions(仮定にもとづく)とも述べており、結論を確定扱いせず慎重に受け止めるべきだという含意なので D。
重要単語
- cometB1名詞彗星A comet is a ball of ice and dust.
ギリシャ語の「長い髪をもつ(星)」が語源。尾が髪のように見えるから。asteroid(小惑星)と区別。 - deuteriumC1名詞重水素Deuterium is a heavy form of hydrogen.
deutero-(2番目の)が語源。中性子を1つもつ水素。heavy water(重水)にふくまれる。 - isotopeC1名詞同位体Isotopes act like fingerprints of water.
iso-(同じ)+tope(場所)=周期表で同じ場所に入る原子。年代測定の話でも頻出。 - originB1名詞起源The origin of Earth's oceans is still debated.
形容詞 original、動詞 originate(生じる)。originate from ~「~に由来する」。 - reanalysisC1名詞再解析A reanalysis changed the conclusion.
re-(再び)+analysis(分析)。複数形は reanalyses。動詞は reanalyze。 - meteoriteB2名詞隕石Some meteorites contain water-bearing minerals.
地上に落ちてきたものが meteorite、宇宙を飛んでいる段階は meteoroid、光る現象は meteor(流星)。 - contestedC1形容詞議論のある、争われているThe origin of the water remains contested.
contest(争う)の過去分詞。a hotly contested issue「激しく議論されている問題」。
公式・一次情報をチェック
- NASA-Led Team Links Comet Water to Earth's Oceans(NASA Science)science.nasa.gov
- Rosetta(ESA)esa.int
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地球の海の水は彗星が運んできた? 2015年には探査機ロゼッタが「彗星の水は海と違う」と報告。ところが2024年、NASAのチームが「彗星のちりが測定値を押し上げていた可能性がある」と再解析し、話がふりだしに戻ったらしい。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Hartogh et al. (2011) Ocean-like water in the Jupiter-family comet 103P/Hartley 2, Naturedoi.org
- Altwegg et al. (2015) 67P/Churyumov-Gerasimenko, a Jupiter family comet with a high D/H ratio, Sciencedoi.org
- Mandt et al. (2024) A nearly terrestrial D/H for comet 67P/Churyumov-Gerasimenko, Science Advancesdoi.org
- Piani et al. (2020) Earth's water may have been inherited from material similar to enstatite chondrite meteorites, Sciencedoi.org
- Lis et al. (2019) Terrestrial deuterium-to-hydrogen ratio in water in hyperactive comets, Astronomy & Astrophysicsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











