睡眠・休息ホント

寝不足でイライラするのは性格のせいじゃない。脳の「警報装置」が約6割も過敏になっていた

寝不足でイライラするのは性格のせいじゃない。脳の「警報装置」が約6割も過敏になっていた

読む前に予想してみよう!

一晩の徹夜で、嫌な画像への扁桃体の反応が強まった実験がある

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な若い成人
規模
数十人規模(徹夜群と睡眠群の比較)
研究の種類
fMRIを使った実験研究(+154研究のメタ分析)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

一晩徹夜しただけで、嫌な画像を見た時の扁桃体(脳の警報装置)の反応が約60%強まった。感情のブレーキ役の前頭葉との連携も弱まっていた。

ひとことで言うと寝不足だと、脳の「びっくりセンサー」が強くなりすぎる!

もくじ
  1. 脳の警報装置「扁桃体」
  2. 徹夜すると、警報は鳴りやすく、ブレーキは効きにくくなる
  3. 50年分の研究をまとめると?
  4. 人間関係にも影響する
  5. まとめ

寝不足の朝、家族のなにげないひと言にカチンときたり、友だちのLINEの返信がそっけなく見えて落ち込んだり。「なんで今日はこんなにイライラするんだろう」と思ったことはありませんか?

それ、あなたの性格が悪くなったわけではありません。寝不足の脳では、感情の“警報装置”が過敏になっていることが、脳スキャンの研究でわかっています。

01脳の警報装置「扁桃体」

脳の奥、左右に1つずつ、アーモンドのような形をした小さな部分があります。これが扁桃体(へんとうたい)です。

扁桃体は、危険や嫌なことをすばやく察知して、「気をつけろ!」と体に知らせる警報装置。ヘビを見てとっさに飛びのくのも、怒鳴り声にビクッとするのも、扁桃体の働きです。

ただ、警報装置が鳴りっぱなしでは困ります。そこで、おでこの裏側にある前頭前野(ぜんとうぜんや)が、「今のは大丈夫、落ち着いて」と警報を調整するブレーキ役を担っています。

02徹夜すると、警報は鳴りやすく、ブレーキは効きにくくなる

つまり寝不足の脳は、警報の感度が上がっているのに、それを止めるブレーキの配線がゆるんでいる状態。ちょっとした出来事にも大きく反応し、それをうまく落ち着かせられない――。寝不足の日のイライラや落ち込みを説明する、有力な手がかりのひとつと考えられています。

ただし、この実験は数十人規模の1つの研究で、測ったのは「画像を見たときの脳の反応」です。「イライラした気分」そのものを測ったわけではない点は、頭の片すみに置いておきましょう。

0350年分の研究をまとめると?

では、「寝不足で感情が乱れる」ことは、ほかの研究でも確かめられているのでしょうか。

アメリカ・モンタナ州立大学などのPalmerさんらは2024年、『Psychological Bulletin』誌で、50年以上にわたる154の実験研究(のべ5,717人)をまとめたメタ分析を発表しました。その結果、徹夜でも、睡眠を短くしても、夜中に何度も起こされても、楽しい・うれしいといった前向きな気持ちが減り、不安が強まることが一貫して見られました。

一方で、「嫌な気分が強まるか」や「落ち込みが強まるか」は、寝不足の種類によって結果がまちまちでした。寝不足で一貫して減るのは「ポジティブな気持ち」というのは、ちょっと意外なポイントです。

寝不足の脳は、アクセル全開でブレーキの効きが悪い車のよう
寝不足の脳は、アクセル全開でブレーキの効きが悪い車のよう

04人間関係にも影響する

寝不足の影響は、自分の気分だけではありません。

同じくWalkerさんのグループ(Ben Simonさんら)は2018年、『Nature Communications』誌で、睡眠不足の人は、他人が近づいてくることに敏感になり、人と距離をとりたがる傾向があることを報告しています。寝不足は、ひとりぼっちの気持ちや人間関係のすれ違いにもつながるかもしれない、というわけです。

一方で、しっかり眠ると、特に夢をよく見るレム睡眠の間に、その日のつらい出来事の“感情のトゲ”が少し丸くなる、という考えも提案されています。まだ検証が続いている仮説ですが、「一晩寝たら気持ちが落ち着いた」という経験とよく合う考え方です。

「寝不足でイライラするのは、気合いや心の持ちようの問題」と思われがちですが、そうではありません。脳の働きそのものが変わっているので、意志の力だけで抑えるのは難しいのです。自分を責めるより、睡眠を取り戻すほうが近道です。

05まとめ

寝不足のイライラは、脳の警報装置(扁桃体)が過敏になり、ブレーキ(前頭前野)が効きにくくなった結果でした。

ケンカの前に、まずは寝る。大事な決断の前に、まずは寝る。睡眠は、自分の心と、まわりの人との関係を守るいちばん身近なメンテナンスです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAfter a short night, it is easy to snap at people over small things. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

After a short night, it is easy to snap at people over small things. Brain research suggests that this is not simply a matter of willpower. The amygdala, a small area deep in the brain, acts like an alarm that quickly detects danger.

Normally, the prefrontal cortex, which is behind the forehead, works as a brake and calms the alarm down. In a 2007 study, researchers compared young adults who stayed awake for about 35 hours with others who slept normally. Both groups looked at unpleasant images.

The amygdala responses of the sleep-deprived group were about 60 percent stronger. The connection between the amygdala and the brake area had also become weaker. So after a sleepless night, the alarm gets louder while the brake gets weaker.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

睡眠が短かった次の日は、ささいなことで人にきつく当たってしまいがちです。脳の研究は、これが単に意志の力の問題ではないことを示しています。扁桃体は脳の奥にある小さな領域で、危険をすばやく察知する警報装置のように働きます。

ふだんは、おでこの裏にある前頭前野がブレーキとして働き、警報を落ち着かせます。2007年の研究で、研究者たちは約35時間起き続けた若い成人と、ふつうに眠った人たちを比較しました。どちらのグループも不快な画像を見ました。

睡眠不足のグループの扁桃体の反応は、約60%強くなっていました。また、扁桃体とブレーキ役の領域とのつながりも弱まっていました。つまり、眠れなかった夜の後は、警報の音が大きくなる一方で、ブレーキは弱くなるのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. How long did the sleep-deprived group stay awake?

Q3. What can we infer from the passage?

重要単語

  • amygdalaC1
    名詞扁桃体The amygdala helps us notice danger quickly. ギリシャ語で「アーモンド」が語源。形がアーモンドに似ていることから。発音は /əˈmɪɡdələ/。
  • irritableB2
    形容詞怒りっぽい、イライラしたI get irritable when I stay up too late. irritate(いらだたせる)の形容詞形。irritating は「人をイライラさせる」、irritable は「イライラしやすい」で区別。
  • emotion regulationC1
    名詞(句)感情の調整Good sleep supports emotion regulation. regulate(調整する・規制する)の名詞形。心理学系の長文で頻出。
  • prefrontal cortexC1
    名詞(句)前頭前野The prefrontal cortex works like a brake for feelings. pre-(前)+frontal(前頭の)。cortex は「皮質」。判断や自制をつかさどる脳の部位。
  • lonelinessB1
    名詞孤独感Lack of sleep may increase feelings of loneliness. lonely(さびしい)+-ness。alone は「ひとりで」という状態、lonely は「さびしい」という感情。
  • deprivationC1
    名詞欠乏、剥奪Sleep deprivation affects how we feel. deprive A of B「AからBを奪う」の名詞形。sleep-deprived「睡眠不足の」も入試頻出。
  • anxietyB2
    名詞不安Lack of sleep can increase anxiety. 形容詞 anxious。be anxious about ~「~を心配する」、be anxious to do「~したがる」の違いに注意。

動画でもっと知る

4コマでわかる

寝不足でイライラするのは性格のせいじゃない。脳の「警報装置」が約6割も過敏になっていたの4コマ漫画
寝不足の日にちょっとしたことでイラッとするの、性格のせいじゃなかった。一晩徹夜しただけで、脳の「警報装置」扁桃体の反応が約6割も強くなり、ブレーキ役との連携まで弱まっていたという研究がある。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Yoo et al. (2007) The human emotional brain without sleep — a prefrontal amygdala disconnect, Current Biologydoi.org
  2. Goldstein & Walker (2014) The role of sleep in emotional brain function, Annual Review of Clinical Psychologydoi.org
  3. Ben Simon & Walker (2018) Sleep loss causes social withdrawal and loneliness, Nature Communicationsdoi.org
  4. Palmer et al. (2024) Sleep loss and emotion: A systematic review and meta-analysis of over 50 years of experimental research, Psychological Bulletindoi.org