睡眠・休息ホント

旅先で眠れないのは、脳の左半分が「見張り番」をしているからだった

旅先で眠れないのは、脳の左半分が「見張り番」をしているからだった

読む前に予想してみよう!

初めての場所で寝ると、脳の片側が見張り番のように警戒している

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な若年成人
規模
各実験11〜13人程度
研究の種類
実験室での脳画像・睡眠ポリグラフ研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

初めての場所で眠ると、脳の左半分が浅い眠りのまま物音を警戒していることがわかった。イルカや鳥の「半分だけ眠る」仕組みに似ている。

ひとことで言うと旅先では、脳の片っぽが「見張り役」で起きている!

もくじ
  1. 脳の「左半分」だけが浅く眠っていた
  2. イルカや鳥の「半分だけ眠る」ワザに似ている
  3. なぜ「左」なの?
  4. この研究の「限界」も知っておこう
  5. まとめ

修学旅行、合宿、出張先のホテル。1日目の夜だけ、なぜかうまく眠れない。2日目になると嘘のようにぐっすり――。

この現象、睡眠研究の世界では昔から「第一夜効果(ファースト・ナイト・エフェクト)」と呼ばれていて、1960年代にはすでに知られていました。実験で初日の睡眠データを使わないのが定番になるほど、よくある現象なのです。

でも「なぜ」そうなるのかは、長いあいだ謎でした。その答えのひとつを見つけたのが、日本人研究者を中心としたチームです。

01脳の「左半分」だけが浅く眠っていた

つまり、慣れない場所では、脳の左半分が「夜警(ナイトウォッチ)」として、ちょっとだけ起きた状態で見張りをしている。研究チームは、これが第一夜効果の正体のひとつだと考えています。

慣れない場所では、脳の「左の塔」に見張り番が立つ
慣れない場所では、脳の「左の塔」に見張り番が立つ

02イルカや鳥の「半分だけ眠る」ワザに似ている

実は自然界には、脳の半分ずつ交代で眠る動物がいます。たとえばイルカは、泳ぎ続けて呼吸するために、片方の脳を眠らせながら、もう片方で起きていることが知られています。一部の鳥も、群れの端にいる個体が、外側の目を開けたまま片方の脳だけで眠ることがあります。

これを「半球睡眠」と呼びます。人間の第一夜効果は、そこまで極端ではありませんが、危険かもしれない知らない場所で、完全に無防備にならないための“小さな半球睡眠”と考えることもできます。

ご先祖さまが洞窟や森で野宿していた時代、初めての場所でぐっすり眠りこけるのは、命取りだったのかもしれません。

03なぜ「左」なの?

今回の研究では、見張りをしていたのは左半分でした。理由はまだはっきりしていません。論文では、左半球のほうが、デフォルトモードネットワークと他の領域とのつながりが強いことなどが可能性として挙げられています。ただ、なぜ片側だけが見張り役になるのか、いつも左なのか、夜のあいだに左右が交代するのかは、今後の研究で調べる必要があります。

04この研究の「限界」も知っておこう

ワクワクする発見ですが、気をつけたい点もあります。

  • 実験はいくつかに分かれていて、それぞれの参加者は十数人程度と少人数
  • 左右差が見つかったのは脳全体ではなく、一部のネットワーク(ぼんやりしている時に働く「デフォルトモードネットワーク」)
  • 「見張り番として働いている」というのは、データと矛盾しない研究チームの解釈であり、別の研究室で同じ結果が確かめられた例はまだ多くない

つまり「第一夜効果の正体を完全に解明した」というより、有力な仕組みのひとつを示した研究と考えるのが正確です。

05まとめ

旅先の初日に眠れないのは、あなたの脳が「ここは大丈夫か?」と見張りをしているせいかもしれません。少し寝不足になるのは、脳の“防犯システム”が働いているからかもしれないのです。

次に修学旅行やホテルで眠れない夜が来たら、「お、今オレの左脳が見張ってるな」と思ってみてください。少しだけ、気が楽になるかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany people sleep badly on their first night in a hotel or on a school trip, but sleep well on the second… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many people sleep badly on their first night in a hotel or on a school trip, but sleep well on the second night. This first-night effect has been known since the 1960s, but its cause was a mystery. In 2016, a research team at Brown University in the US measured the brain activity of young, healthy people sleeping in a laboratory on two nights, a week apart.

On the first night, part of the left side of the brain slept less deeply than the right side during deep sleep. When unusual sounds were played, the left side reacted strongly, and people woke up faster. The researchers think the left side works as a night watch in an unfamiliar place, much like dolphins that sleep with half of their brain.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

多くの人は、ホテルや修学旅行の最初の夜にはよく眠れないのに、2日目の夜にはよく眠れます。この第一夜効果は1960年代から知られていましたが、その原因は謎でした。2016年、アメリカのブラウン大学の研究チームは、実験室で1週間あけて2晩眠る若い健康な人たちの脳の活動を測定しました。最初の夜、深い眠りの間、脳の左側の一部が右側よりも浅く眠っていました。

いつもと違う音を流すと、左側は強く反応し、人々はより早く目を覚ましました。研究者たちは、見慣れない場所では左側が夜の見張り番として働くと考えています。それは、脳の半分で眠るイルカによく似ています。

4択リーディングクイズ

Q1. Since when has the first-night effect been known?

Q2. What happened when unusual sounds were played on the first night?

Q3. Why does the writer mention dolphins?

重要単語

  • hemisphereC1
    名詞(脳の)半球、(地球の)半球The left hemisphere stayed more alert on the first night. hemi-(半分)+sphere(球)。the Northern Hemisphere「北半球」でも使う。
  • vigilantC1
    形容詞警戒している、用心深いGuards must stay vigilant all night. 名詞 vigilance。vigil(寝ずの番)と同語源で「眠らずに見張る」イメージ。
  • unfamiliarB1
    形容詞見慣れない、なじみのないIt is hard to relax in an unfamiliar room. be unfamiliar with ~「~をよく知らない」、be unfamiliar to ~「~に知られていない」の前置詞の違いが頻出。
  • asymmetryC1
    名詞非対称、左右差The researchers found an asymmetry in sleep depth. a-(否定)+symmetry(対称)。形容詞 asymmetric(al)。
  • predatorB2
    名詞捕食者Sleeping with one eye open helps birds spot predators. 対になる語は prey(獲物)。生物系長文の必須語。
  • phenomenonB2
    名詞現象The first-night effect is a common phenomenon. 複数形 phenomena が文法・語法問題で問われる。

動画でもっと知る

4コマでわかる

旅先で眠れないのは、脳の左半分が「見張り番」をしているからだったの4コマ漫画
修学旅行やホテルの1日目に眠れないアレ、科学的な理由があった。初めての場所では、脳の左半分が浅い眠りのまま「見張り番」をしていて、物音にすぐ反応できる状態らしい。イルカみたい。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Tamaki et al. (2016) Night Watch in One Brain Hemisphere during Sleep Associated with the First-Night Effect in Humans, Current Biologydoi.org
  2. Agnew et al. (1966) The first night effect: an EEG study of sleep, Psychophysiologydoi.org
  3. Rattenborg et al. (2000) Behavioral, neurophysiological and evolutionary perspectives on unihemispheric sleep, Neuroscience & Biobehavioral Reviewsdoi.org