心理学ホント

「シロクマのことだけは考えないで」と言われた5分間、人の頭に何が起きた?

「シロクマのことだけは考えないで」と言われた5分間、人の頭に何が起きた?

読む前に予想してみよう!

イヤな考えを頭から追い出すには、「考えるな」と強く念じるのがいちばん効果的だ

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生など
規模
各実験 数十人+31研究のメタ分析
研究の種類
実験室実験・メタ分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

「考えないで」と言われると、かえって考えてしまう。シロクマ実験では、先に我慢した人の方が、後でシロクマを多く思い浮かべた。対策は「代わり」を決めること。

ひとことで言うと「考えちゃダメ」と思うほど、頭から離れなくなる!

もくじ
  1. 実験は文豪の一言から始まった
  2. 脳の中の「見張り役」が裏目に出る
  3. どんでん返し:いつでも逆効果、ではない
  4. 「考えない」より「代わりを考える」
  5. まとめ

ひとつ、お願いがあります。

これから10秒間、シロクマのことを絶対に考えないでください。

……どうでしたか? ふわふわの白い毛、黒い鼻、氷の上をのしのし歩く姿。たぶん、頭のどこかにシロクマが現れたはずです。

これは心理学の世界でとても有名な「シロクマ実験」。考えないようにすればするほど、かえって考えてしまう──そんな心のいたずらを、実験で確かめた研究です。

01実験は文豪の一言から始まった

アイデアのもとになったのは、ロシアの作家ドストエフスキーが書いた「シロクマのことを考えまいとすると、あのいまいましいシロクマが1分ごとに思い浮かぶ」という趣旨の一節でした。

これを読んだアメリカの心理学者ダニエル・ウェグナーは、本当にそうなるのか確かめることにします。

我慢した分だけ、後からどっと戻ってくる。この現象は「リバウンド効果」と呼ばれています。

02脳の中の「見張り役」が裏目に出る

ウェグナーは、この不思議な現象を「皮肉過程理論」で説明しました。私たちが「〇〇を考えない」ようにするとき、脳では2つの働きが動いていると考えます。

  1. 実行係:シロクマ以外のことを考えようと頑張る
  2. 見張り係:シロクマが出てきていないか、こっそりチェックし続ける

問題は2の「見張り係」です。シロクマを見張るためには、シロクマのことを頭の片隅で覚えていなければなりません。つまり、見張れば見張るほど、シロクマが頭に呼び出されやすくなるのです。

しかも、疲れていたり、ほかのことで頭がいっぱいだったりすると、「実行係」の力が弱まり、「見張り係」が呼び出したシロクマが表に出やすくなるといいます。ゴルフのパットで「強く打ちすぎるな」と意識すると、逆にそのミスが出やすくなる、という実験報告もあります。

シロクマを見張る「見張り係」こそが、シロクマを呼び出していた
シロクマを見張る「見張り係」こそが、シロクマを呼び出していた

03どんでん返し:いつでも逆効果、ではない

ただし、その後の研究をまとめたメタ分析(2001年)によると、抑え込んでいる最中に考えが増えるという結果はそれほど一貫しておらず、はっきりしていたのは抑え込みをやめた後のリバウンドの方でした。効果の大きさも「小〜中くらい」とされています。

2020年の新しいメタ分析(31研究)は、ウェグナーの理論の細かい予測まで確かめました。結果は、リバウンドは条件に関係なく見られる一方、抑え込んでいる最中に考えが増える効果は、ほかの作業で頭が忙しい(認知的負荷がある)ときにだけ現れる、というもの。まさに「実行係」が弱ったときに「見張り係」が裏目に出る、という理論の予想どおりでした。

「考えるな」は、いつでも必ず失敗するわけではない。でも、長い目で見るとリバウンドのリスクがあり、疲れているときほど失敗しやすい、というのが今の落ち着きどころです。

04「考えない」より「代わりを考える」

ウェグナーの実験では、「シロクマの代わりに赤い車のことを考えて」と、具体的な代わりのイメージを与えると、リバウンドが小さくなったことも報告されています。

「禁止されるとやりたくなる」という似た話は、心理的リアクタンスの記事で紹介しています。

05まとめ

「考えないようにしよう」は、脳にとっては「考えて見張り続けよう」という命令でもあります。だからこそ、忘れたいことには押さえつけるより、別の道を用意する方がうまくいきやすいのです。

なお、つらい考えやイメージが何度も浮かんで生活に支障が出ている場合は、ひとりで抱え込まず、医師やカウンセラーなどの専門家に相談してください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTry not to think about a white bear for ten seconds. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Try not to think about a white bear for ten seconds. It is hard. In 1987, the American psychologist Daniel Wegner tested this idea, which came from a line by the Russian writer Dostoevsky. Students spoke their thoughts aloud and rang a bell whenever they thought of a white bear. Even while trying hard not to think about it, they thought of it more than once a minute on average.

When they were later allowed to think about the bear, they thought about it more than students who had been allowed to think about it from the beginning. This is called the rebound effect. Wegner also found that giving people a specific alternative, such as a red car, made the rebound smaller.

122 words ・ CEFR B1

和訳を見る

10秒間、シロクマのことを考えないようにしてみてください。それは難しいものです。1987年、アメリカの心理学者ダニエル・ウェグナーは、ロシアの作家ドストエフスキーの一節から生まれたこの考えを検証しました。学生たちは自分の考えを声に出して話し、シロクマのことを考えるたびにベルを鳴らしました。考えないよう懸命に努力している間でさえ、彼らは平均して1分に1回以上シロクマのことを考えました。

その後シロクマのことを考えてよいと言われると、彼らは最初から考えてよいと言われていた学生よりも多くシロクマのことを考えました。これはリバウンド効果と呼ばれます。ウェグナーはまた、赤い車のような具体的な代わりのものを与えると、リバウンドが小さくなることも見いだしました。

4択リーディングクイズ

Q1. Where did the idea for Wegner's experiment come from?

Q2. What is the "rebound effect" in this passage?

Q3. What advice would Wegner most likely give to someone who wants to stop thinking about a worry?

重要単語

  • suppressC1
    動詞抑え込むHe tried to suppress a laugh during the lesson. sup-(下に)+press(押す)=「押さえつける」。名詞 suppression。thought suppression(思考抑制)。
  • ironicB2
    形容詞皮肉なIt's ironic that the fire station burned down. 「期待と逆の結果になる」という意味。It is ironic that ~ の構文で使う。名詞 irony。
  • reboundB2
    名詞・動詞はね返り、反動/はね返るStrict diets often lead to a rebound in weight. re-(元に)+bound(はねる)。バスケの「リバウンド」と同じ語。
  • distractionB2
    名詞気をそらすものMusic can be a useful distraction from worry. 動詞 distract(気をそらす)。distract A from B「AをBからそらす」が頻出。
  • intrusive thoughtC1
    名詞(句)侵入思考(勝手に浮かぶ考え)Everyone has intrusive thoughts from time to time. intrude(侵入する)の形容詞。in-(中へ)+trude(押す)。
  • alternativeB2
    名詞・形容詞代わりのもの/代わりのThink of an alternative, such as a red car. an alternative to ~「~に代わるもの」。alternative energy(代替エネルギー)も頻出。
  • cognitive loadC1
    名詞(句)認知的負荷(頭の忙しさ)Under heavy cognitive load, people make more mistakes. cognitive は「認知の」。cognition(認知)と合わせて心理学長文の必須語。

4コマでわかる

「シロクマのことだけは考えないで」と言われた5分間、人の頭に何が起きた?の4コマ漫画
「これから5分間、シロクマのことだけは考えないでください。考えたらベルを鳴らして」。そんな実験で、人は考えないつもりでも何度もベルを鳴らしたらしい。しかも我慢した後の方が、もっと思い出す。忘れたい時ほど逆効果。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Wegner et al. (1987) Paradoxical effects of thought suppression, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Wegner (1994) Ironic processes of mental control, Psychological Reviewdoi.org
  3. Wegner, Ansfield & Pilloff (1998) The putt and the pendulum: Ironic effects of the mental control of action, Psychological Sciencedoi.org
  4. Abramowitz, Tolin & Street (2001) Paradoxical effects of thought suppression: A meta-analysis of controlled studies, Clinical Psychology Reviewdoi.org
  5. Wang, Hagger & Chatzisarantis (2020) Ironic effects of thought suppression: A meta-analysis, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org