逆さまの顔はなぜ誰だかわからない?「サッチャー錯視」が暴いた、脳の“顔の読み方”

読む前に予想してみよう!
顔写真を上下逆さにすると、家や車の写真を逆さにしたときと同じくらいしか見分けにくくならない
顔は逆さにしたときの見分けにくさが、ほかの物よりずっと大きい(倒立効果)。
- 対象
- 健康な成人
- 規模
- 数人〜数十人規模の実験
- 研究の種類
- 実験心理学研究・総説
- 確かさ
- ★★★★☆
顔は逆さにすると、ほかの物よりずっと見分けにくい。脳が顔を目・鼻・口の「配置ごと全体」で読むため。目と口だけ逆さの顔も、全体を逆さにすると気づけない。
ひとことで言うと脳は顔を「全体のかたち」で見ている。だから逆さだとわからなくなる!
スマホで撮った友だちの写真を、上下逆さに見てみてください。毎日会っている顔なのに、なんだか「誰?」という感じがしませんか。
答えを先に言うと、脳は顔を、目・鼻・口の「パーツの配置ごと、全体として」読んでいるからです。上下が逆さになると、この「全体で読む」やり方がうまく働かなくなり、顔だけが極端に見分けにくくなります。これを心理学では顔の倒立効果と呼びます。
01逆さにすると、顔だけが特別にわからなくなる
逆さにすれば何でも見にくくなるのは当たり前。でも、顔はその落ち込み方がケタ違いでした。顔には、ほかの物とは違う特別な「読み方」があるのではないか――ここから半世紀以上にわたる研究が始まります。
02「サッチャー錯視」の衝撃
1980年、イギリスの心理学者トンプソン(Thompson)さんは、科学誌『Perception』に、当時のイギリス首相の顔写真を使った錯視を発表しました。
作り方は簡単です。顔写真の目と口の部分だけを切り取って上下反転し、元の位置に戻します。正しい向きで見ると、ぎょっとするほど不気味な顔になります。ところが、写真全体を上下逆さにして見ると、違和感がほとんど消えて、ふつうの顔に見えるのです。
逆さの顔では、目や口が「逆さかどうか」という細かい関係に気づけない。これが「サッチャー錯視」です。

03脳は顔を「全体」で読んでいる
なぜこんなことが起きるのでしょう。
ベルギーの研究者ロシオン(Rossion)さんは2008年の総説で、多くの研究をもとに、こう説明しています。正しい向きの顔を見るとき、脳は目・鼻・口を一つずつ見るのではなく、それらの位置関係もふくめて「ひとかたまり(全体)」として一気に処理している。ところが顔が逆さになると、この全体処理がうまく働かなくなり、パーツを一つずつ確かめるような、効率の悪い見方に切り替わってしまう。つまり、逆さの顔は「少し見にくい顔」ではなく、脳にとって質的に違う見え方になっているというのです。
サッチャー錯視でも、逆さの顔では目や口を「顔全体の中のパーツ」として関係づけられないため、それぞれが逆さになっていても違和感が生まれないと考えられています。
04どんでん返し:顔の「専門家」だからこそ弱点がある
逆さの顔に弱いのは、脳がポンコツだからではありません。むしろ、正しい向きの顔を見分けることに特化しすぎた結果です。
私たちは毎日、膨大な数の顔を「正しい向き」で見ています。そのため脳は、わずかな目の間隔や鼻の位置の違いまで読み取れる、顔の「専門家」になっています。専門家の技は、決まった条件でこそ力を発揮します。条件が変わると、急に素人並みになってしまう。顔の倒立効果は、私たちがどれほど顔の専門家なのかを、逆に証明しているのです。
05まとめ
逆さまの顔が誰だかわからないのは、脳が顔をパーツの配置ごと「全体」で読む、特別な仕組みを持っているから。その仕組みは、上下が逆になると急に働かなくなります。サッチャー錯視は、その弱点を鮮やかに見せてくれました。
顔の「専門家」である自分の脳を、今日は写真を逆さにして試してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy is it so hard to recognize a face that is upside down?
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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Look at a photo of your friend upside down. It is suddenly hard to know who it is! Our brain reads a face as a whole, not part by part. It looks at the eyes, nose and mouth together.
When a face is upside down, this does not work well. In the Thatcher illusion, a face with upside-down eyes and mouth looks normal when the whole picture is upside down. Turn it back, and it looks strange!
77 words ・ CEFR A2
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友だちの写真を上下逆さにして見てください。急に誰だかわかりにくくなります!私たちの脳は、顔をパーツごとではなく、全体として読み取っています。目と鼻と口をいっしょに見ているのです。
顔が逆さになると、これがうまく働きません。サッチャー錯視では、目と口だけが逆さになった顔も、写真全体を逆さにするとふつうに見えます。元に戻すと、変な顔に見えるのです!
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
逆さの顔がわかりにくくなる理由(脳が全体で読む)を説明しているので C。
Q2. How does our brain read a face?
Our brain reads a face as a whole, not part by part. とあるので A。
Q3. In this passage, "upside down" means ...
upside down は「上下逆さまに」。上の部分が下に来ている状態なので D。
Why is it so hard to recognize a face that is upside down? In 1969, a psychologist asked people to remember photos of faces and of objects such as houses and airplanes. When the pictures were upright, faces were remembered better than the objects.
But when they were turned upside down, performance dropped much more for faces. In 1980, another psychologist created the Thatcher illusion. He flipped only the eyes and mouth in a photo of a face. Upright, the face looks very strange, but when the whole picture is upside down, it looks almost normal. Researchers believe that we process upright faces as a whole, including the positions of the eyes, nose and mouth, and this system fails when faces are inverted.
123 words ・ CEFR B1
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逆さまの顔を見分けるのは、なぜそんなに難しいのでしょうか。1969年、ある心理学者が人々に、顔の写真と、家や飛行機などの物の写真を覚えてもらいました。写真が正しい向きのときは、顔のほうが物よりよく覚えられていました。
しかし上下逆さにすると、成績の落ち方は顔のほうがずっと大きかったのです。1980年、別の心理学者がサッチャー錯視を作りました。彼は顔写真の目と口だけを上下反転させました。正しい向きでは顔はとても奇妙に見えますが、写真全体を逆さにすると、ほとんどふつうに見えます。研究者たちは、私たちは正しい向きの顔を、目・鼻・口の位置もふくめて全体として処理しており、顔が逆さになるとこの仕組みがうまく働かなくなるのだと考えています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
1969年の研究とサッチャー錯視から、逆さの顔がとくに見分けにくい理由を説明しているので B。
Q2. In the Thatcher illusion, what was changed in the photo?
He flipped only the eyes and mouth in a photo of a face. とあるので D。
Q3. What can we infer about upright faces from the passage?
正しい向きでは全体として処理するが、逆さになるとその仕組みが働かない、とあるので A が推論できる。C は本文と逆。
Turn a photo of a friend upside down, and you may struggle to recognize the face. In 1969, the psychologist Yin compared memory for faces with memory for other things usually seen one way up, such as houses, airplanes and human figures. Upright faces were remembered better than the other objects, but turning the pictures over hurt faces far more than anything else.
In 1980, Thompson published a vivid demonstration in the journal Perception, using a photograph of the then British prime minister. When the eyes and mouth are cut out, flipped vertically and put back, the upright face looks grotesque. Turn the whole image upside down, and the oddity largely disappears. In a 2008 review, the Belgian researcher Rossion argued that upright faces are processed holistically, with features and their spatial relationships combined into a single representation.
Inversion breaks this process and forces a slower, feature-by-feature analysis. In his view, the change is one of kind, not merely of degree. Some researchers disagree, maintaining that weaker holistic processing survives in inverted faces, and Yin's original experiment was small. Paradoxically, the weakness grows out of expertise. We see countless upright faces, so the brain becomes highly specialized for them.
199 words ・ CEFR B2
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友達の写真を上下逆さにすると、その顔を見分けるのに苦労するかもしれません。1969年、心理学者のインは、顔の記憶と、家・飛行機・動く人の図のように、ふだん決まった向きで見る物の記憶とを比較しました。正しい向きの顔はほかの物よりよく覚えられていましたが、写真を逆さにすると、ほかの何よりも顔の成績が大きく落ちました。
1980年、トンプソンは当時のイギリス首相の写真を使った鮮やかな実例を『Perception』誌に発表しました。目と口を切り取って上下反転し、元の位置に戻すと、正しい向きの顔はグロテスクに見えます。画像全体を逆さにすると、その奇妙さはほとんど消えてしまいます。2008年のレビューで、ベルギーの研究者ロシオンは、正しい向きの顔は全体的に処理され、パーツとその位置関係が1つの表象にまとめられていると主張しました。逆さにするとこの処理が崩れ、より遅い、パーツごとの分析をせざるをえなくなります。
彼の考えでは、この変化は単なる程度の差ではなく、質の違いです。これに反対し、逆さの顔でも弱い全体処理は残っていると主張する研究者もいます。また、インの最初の実験は小規模でした。逆説的ですが、この弱点は熟達から生まれています。私たちは数えきれないほど正しい向きの顔を見ているので、脳はそれに高度に特化しているのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
倒立効果とサッチャー錯視を、全体処理(holistic)の破綻と顔の熟達で説明しているので D。
Q2. According to Yin's 1969 study, what happened when pictures were inverted?
turning the pictures over hurt faces far more than anything else(逆さにすると顔だけが特に大きく損なわれた)とあるので B。
Q3. Why does the author describe the weakness as a paradox?
Paradoxically, the weakness grows out of expertise. とあり、弱点が「顔の専門家であること」から生じるという逆説なので C。
重要単語
- upside downA2副詞句上下逆さまにTurn the photo upside down.
turn ~ upside down は「~をひっくり返す、大混乱させる」の比喩でも使う。inside out は「裏返しに」。 - recognizeB1動詞見分ける、それと認めるI couldn't recognize my friend in the photo.
名詞 recognition(face recognition=顔認識)。「(事実を)認める」の意味も頻出。 - inversionC1名詞逆転、倒立Face inversion makes recognition harder.
動詞 invert。英文法の「倒置」も inversion と呼ぶ。 - holisticC1形容詞全体的なWe process faces in a holistic way.
whole(全体)と同語源。holistic medicine「全人的医療」。 - illusionB2名詞錯覚、錯視The Thatcher illusion surprises everyone.
optical illusion「目の錯覚」。allusion(言及)と混同しやすいので注意。 - expertiseB2名詞専門知識、熟達Our expertise with faces has a weak point.
expert(専門家)の名詞形。アクセントは最後の -tise(エクスパーティーズ)。
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写真を逆さにすると、知っている人の顔でも急にわからなくなる。1980年の「サッチャー錯視」では、目と口だけを上下反転させた顔も、写真ごと逆さにすると違和感がほぼ消えるらしい。脳は顔を“パーツの配置ごと”読んでいる。
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