心理学ビミョー

「環境のために」より「この部屋の皆さんは」が効いた? ホテルのタオル実験と追試の結末

「環境のために」より「この部屋の皆さんは」が効いた? ホテルのタオル実験と追試の結末

読む前に予想してみよう!

「この公園から石を持ち帰る人が多くて困っています」という看板は、持ち帰りを減らす効果がある

研究カード(どんな研究?)
対象
ホテル宿泊客
規模
数百〜千人規模の実験が複数
研究の種類
フィールド実験・追試・ベイズ統合
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「多くのお客様がタオルを再利用しています」と書くと再利用が増えた、という有名実験。ただし追試では再現しないものも多く、効果はあっても小さめと考えられている。

ひとことで言うと「みんなやってるよ」は効く。でも、思ったほど魔法じゃないかも!

もくじ
  1. タオルのカード、書き方を変えたら
  2. どんでん返し:ドイツで追試したら……
  3. 社会的証明の「落とし穴」
  4. まとめ

行列のできているラーメン屋と、ガラガラのラーメン屋。初めての街なら、どっちに入りますか?

多くの人は、行列の方を選びます。「みんなが選んでいるなら、きっと正しい」。この心理を、心理学では社会的証明と呼びます。

この社会的証明を、ある意外な場所で試した研究があります。ホテルのバスルームです。

01タオルのカード、書き方を変えたら

ホテルの部屋でよく見かける「環境のため、タオルの再利用にご協力ください」というカード。心理学者ロバート・チャルディーニらのチームは、この文面を変える実験をしました。

「地球のため」という正論より、「あなたと同じ立場の人たちはこうしている」という情報の方が、人を動かしたわけです。この研究は数千回引用され、行動科学の代表的な成功例になりました。

02どんでん返し:ドイツで追試したら……

ところが2014年、ドイツの研究者が2つのホテル(計約900人)で同じような実験を行うと、結果は違いました。

「みんなやってます型」のカードは、ふつうのカードより効果が高いとは言えなかったのです。どちらのカードも「カードなし」よりは再利用を増やしましたが、両者の差ははっきりしませんでした。そもそもドイツのホテルでは、再利用する人の割合が最初から高かったことも影響したと考えられています。

その後、複数の追試をまとめて計算し直した研究(2016年)では、全体としては「効果はありそう、でも元の論文が示したほど大きくはない」という方向の結論が示されました。

1か所の実験結果が、別の国でも同じように出るとは限らない
1か所の実験結果が、別の国でも同じように出るとは限らない

03社会的証明の「落とし穴」

社会的証明には、もうひとつ注意点があります。悪い行動にも同じように効いてしまうのです。

アメリカの国立公園で、化石化した木を持ち帰る人が多いことに困っていた例で、チャルディーニらは看板の文面を比べました。「これまで多くの来園者が持ち帰り、森が失われています」と、問題の大きさを訴える看板は、かえって持ち帰りを増やしてしまったと報告されています。「みんなやってるなら、自分も」と受け取られたのです。

電気の節約でも、「ご近所の平均」を伝えると、平均より少なく使っていた家庭がかえって使用量を増やすことがありました。ところが、少なく使っている家庭に笑顔マークを添えて「いいね」を伝えると、それを防げたそうです。

周りに合わせてしまう心理の古典は、アッシュの同調実験の記事でも紹介しています。

04まとめ

「みんなやってます」は、たしかに人を動かします。でも、その力は国や状況によって大きく変わるし、使い方を間違えると逆効果にもなります。

ひとつの有名な実験が「必ず効く法則」として広まるとき、そこには追試という続きの物語があります。タオル実験は、そのことも教えてくれます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHotels often place small cards in bathrooms asking guests to reuse their towels. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Hotels often place small cards in bathrooms asking guests to reuse their towels. In a well-known study, researchers led by Robert Cialdini compared two messages. A standard card asked guests to protect the environment, while another card said that most guests reused their towels. About 35% of guests reused towels with the standard card, but about 44% did so with the "most guests" card.

The effect was even stronger when the card mentioned guests who had stayed in the same room. This idea is called social proof. We tend to follow what similar people do. However, when researchers in Germany repeated the study, the "most guests" card was not clearly better than the standard one.

115 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ホテルはよくバスルームに、客にタオルの再利用を頼む小さなカードを置いています。有名な研究で、ロバート・チャルディーニ率いる研究者たちは2つのメッセージを比較しました。標準的なカードは環境を守るよう客に頼み、もう一方のカードは、ほとんどの客がタオルを再利用していると伝えました。標準のカードではタオルを再利用した客は約35%でしたが、「ほとんどの客」カードでは約44%でした。

カードが同じ部屋に泊まった客に言及したときには、効果はさらに強くなりました。この考え方は社会的証明と呼ばれます。私たちは自分と似た人がすることに従いがちなのです。しかし、ドイツの研究者たちがこの研究を繰り返したところ、「ほとんどの客」カードは標準のカードよりはっきり優れているとは言えませんでした。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the researchers compare in the study?

Q2. About what percentage of guests reused towels with the standard card?

Q3. What can we infer from the German study?

重要単語

  • social normB2
    名詞(句)社会規範Social norms tell us what most people do. norm は「標準・規範」。normal(普通の)と同語源。descriptive norm(記述的規範=みんながしていること)も心理学の定番。
  • reuseA2
    動詞再利用するPlease reuse your shopping bags. re-(再び)+use。reduce・reuse・recycle の「3R」は環境系長文の頻出セット。
  • replicationC1
    名詞追試、再現Replication is the heart of good science. 動詞 replicate(再現する)。replication crisis(再現性の危機)は心理学系の入試長文で急増中。
  • nudgeC1
    名詞・動詞ナッジ(行動をそっと後押しする工夫)/軽く押すA simple nudge can help people save energy. もとは「ひじで軽くつつく」。行動経済学のセイラーらが広めた用語。
  • backfireB2
    動詞裏目に出るThe sign backfired and more people took stones. back(逆に)+fire(発火)。plan / policy backfires の形でよく使う。目的語はとらない自動詞。
  • persuadeB1
    動詞説得するThe message persuaded more guests to reuse their towels. persuade A to do「Aを説得して~させる」。形容詞 persuasive(説得力のある)も頻出。
  • field experimentB2
    名詞(句)フィールド実験(現場で行う実験)The study was a field experiment in a real hotel. field は「現場」。laboratory experiment(実験室実験)と対比で覚える。

動画でもっと知る

ホテルのタオル再利用のお願い。「環境を守ろう」より「この部屋に泊まった多くの方が再利用しています」の方が効いた、という超有名な実験。ところがドイツでの追試では差が出なかったらしい。行動科学の"どんでん返し"。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Goldstein, Cialdini & Griskevicius (2008) A room with a viewpoint, Journal of Consumer Researchdoi.org
  2. Bohner & Schlüter (2014) A room with a viewpoint revisited, PLoS ONEdoi.org
  3. Scheibehenne, Jamil & Wagenmakers (2016) Bayesian evidence synthesis can reconcile seemingly inconsistent results, Psychological Sciencedoi.org
  4. Cialdini (2003) Crafting normative messages to protect the environment, Current Directions in Psychological Sciencedoi.org
  5. Schultz et al. (2007) The constructive, destructive, and reconstructive power of social norms, Psychological Sciencedoi.org