心理学ビミョー

友達と一緒だと坂がゆるく見える? 人気の実験に「それ、空気を読んだだけでは」とツッコミ

友達と一緒だと坂がゆるく見える? 人気の実験に「それ、空気を読んだだけでは」とツッコミ

読む前に予想してみよう!

友達と一緒にいると、坂の傾きの見積もりがゆるやかになったという実験がある

研究カード(どんな研究?)
対象
米国の大学生など
規模
数十人規模の実験を複数
研究の種類
実験+反論実験+理論的レビュー
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

友達と一緒に坂を見ると、ひとりのときより坂がゆるやかに見積もられた——という実験がある。でも「実験の意図を察して答えを変えただけでは?」という強い批判もある。

ひとことで言うと友達がいると坂がラクに見える? でも「見え方」まで変わったかは議論中。

もくじ
  1. 友達と一緒だと坂がゆるく見えた?
  2. 「それ、空気を読んだだけでは?」
  3. 「見え方」と「答え方」は別物
  4. まとめ

長い上り坂を、ひとりで歩くとき。「うわ、きつそう……」と思わず足が止まりそうになります。でも、友達とおしゃべりしながらなら、同じ坂がなんだか平気に思えることもありますよね。

「友達がいると、坂そのものがゆるやかに見える」——そんな心温まる研究があります。ところがこの研究には、知覚の専門家たちから鋭いツッコミが入っていました。

01友達と一緒だと坂がゆるく見えた?

研究チームは、これを「使える"資源"が多いと、世界は違って見える」という考え方で説明しました。疲れているとき、重い荷物を持っているとき、坂は急に見える。逆に、支えてくれる人がいると、坂はゆるく見える——。体のコンディションや人間関係が、目に映る世界そのものを変えるというのです。

02「それ、空気を読んだだけでは?」

この研究の仲間には、「重いリュックを背負うと、坂が急に見える」という実験もありました。ところが、ほかの研究者たちが、この実験にこんな疑問を投げかけました。

「参加者は、なぜリュックを背負わされているのかを考えて、"きっと坂を急に答えてほしいんだな"と察したのでは?」

心理学では、参加者が実験の目的を推測して、無意識のうちに期待されていそうな答えをしてしまうことを「要求特性」と呼びます。

アメリカの研究者たちは、リュックを背負う実験を行い、参加者に「なぜリュックを背負うと思うか」も聞きました。その結果、坂を急に答える効果は、実験の目的を察していた人たちに偏って見られ、リュックを背負う「もっともらしい理由」を参加者に伝えると、効果は見られなくなったのです。

参加者が「実験の意図」を察すると、答えが変わってしまうことがある
参加者が「実験の意図」を察すると、答えが変わってしまうことがある

03「見え方」と「答え方」は別物

2016年には、イェール大学の研究者たちが、「気持ちや考えが"見え方"そのものを変える」とされる数多くの研究を検討した大論文を発表しました。

彼らの結論は、「これらの研究のどれも、見え方そのものが変わったという説得力のある証拠にはなっていない」というもの。多くの研究は、

  • 参加者が実験の意図を察して答えを変えた(要求特性)
  • 「どう見えるか」ではなく「どう判断したか」を測ってしまっている
  • 記憶や注意など、ほかの要因で説明できる

といったいくつかの"落とし穴"のどれかにはまっている可能性がある、と指摘しました。

ただし、これは「友達が支えになることには意味がない」という話ではありません。友達と一緒だと坂を登る気持ちがラクになることや、「登れそうだ」と判断しやすくなることは、十分ありえます。問題は、それが目に映る傾きそのものまで変えているのかどうか、という点なのです。

04まとめ

「友達と一緒だと坂がゆるく見える」という研究は、とても魅力的です。でも、それが本当に目に映る世界を変えているのか、それとも「答え方」が変わっただけなのかは、今も議論が続いています。

ひとつ確かなのは、大変な坂道も、友達と一緒なら登る気持ちはきっと軽くなるということ。科学の結論が出るまで、その感覚を大切にしておきましょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA 2008 study by researchers at the University of Virginia and elsewhere suggested that friends can change… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

A 2008 study by researchers at the University of Virginia and elsewhere suggested that friends can change how we see the world. University students stood at the bottom of a hill and estimated its slope. Those standing with a friend judged the hill to be less steep than those standing alone, and the effect was stronger when they had known the friend longer. Even imagining a supportive person had a similar effect.

However, similar experiments faced criticism. In one, people wearing heavy backpacks judged hills as steeper, but another team found this mostly happened among participants who guessed the purpose of the study. When they were given a believable reason for the backpack, the effect disappeared.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

バージニア大学などの研究者による2008年の研究は、友達が私たちの世界の見え方を変えうることを示しました。大学生たちが坂のふもとに立ち、その傾きを見積もりました。友達と一緒に立っていた人は、ひとりで立っていた人よりも坂がゆるやかだと判断し、その友達との付き合いが長いほど効果は強くなりました。支えてくれる人を思い浮かべるだけでも、似た効果がありました。

しかし、似た実験は批判にさらされました。ある実験では、重いリュックを背負った人が坂をより急だと判断しましたが、別のチームは、これが主に研究の目的を察した参加者の間で起きていたことを発見しました。リュックについてもっともらしい理由を伝えられると、その効果は消えたのです。

4択リーディングクイズ

Q1. When was the effect of a friend stronger?

Q2. What happened when participants were given a believable reason for the backpack?

Q3. What does the criticism suggest?

重要単語

  • slopeB2
    名詞坂、傾斜The slope was too steep to ride a bike. ski slope「スキー場の斜面」。数学ではグラフの「傾き」も slope。
  • estimateB2
    動詞・名詞見積もる/見積もりCan you estimate the height of that tree? 動詞は /ˈestɪmeɪt/、名詞は /ˈestɪmət/ と語尾の発音が変わる。
  • perceptionB2
    名詞知覚、見え方Our perception can be fooled by colors. perceive の名詞形。perception と judgment(判断)の区別がこの記事のポイント。
  • demandB2
    名詞要求、(実験で)参加者が感じとる期待Experimental demand can change how people answer. demand characteristics「要求特性」は心理学実験の重要概念。経済では「需要」。
  • supportA2
    名詞・動詞支え、支援/支えるHer friends gave her support before the exam. social support「社会的支援」。support A in B「BでAを支える」。
  • plausibleC1
    形容詞もっともらしいShe gave a plausible excuse for being late. 反対は implausible(ありそうにない)。a plausible explanation「もっともらしい説明」。
友達と一緒に坂の前に立つと、ひとりのときより傾きをゆるく見積もった——そんな心温まる実験がある。でも別の研究者は「参加者が実験の意図を察して答えを変えただけでは」と指摘。科学の"どんでん返し"は続いている。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Schnall et al. (2008) Social support and the perception of geographical slant, Journal of Experimental Social Psychologydoi.org
  2. Durgin et al. (2009) Who is being deceived? The experimental demands of wearing a backpack, Psychonomic Bulletin & Reviewdoi.org
  3. Firestone & Scholl (2016) Cognition does not affect perception: Evaluating the evidence for "top-down" effects, Behavioral and Brain Sciencesdoi.org