心理学ホント

行列の割り込みに怒るのは、ほぼ"割り込まれた後ろの人"だけ。ミルグラムが街で試した行列実験

行列の割り込みに怒るのは、ほぼ"割り込まれた後ろの人"だけ。ミルグラムが街で試した行列実験

読む前に予想してみよう!

行列に誰かが割り込んだとき、抗議するのは前の人も後ろの人も同じくらいだ

研究カード(どんな研究?)
対象
ニューヨークの行列に並ぶ人々
規模
約130の行列でのフィールド実験
研究の種類
フィールド実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

ニューヨークの行列に実験者が割り込むと、抗議の大部分は割り込まれた位置より後ろの人から出た。損をする人が怒る。でもそこには損得だけでない"公平さ"の心理もある。

ひとことで言うと割り込みに怒るのは「自分が損した人」。でも損だけが理由じゃない!

もくじ
  1. ニューヨークの行列に、わざと割り込んだ
  2. 怒るのは「後ろの人」、前の人は無関心
  3. でも、損得だけじゃない
  4. 割り込まれたとき、どうする?
  5. まとめ

ラーメン屋の行列、レジの列、駅のホーム。ずっと並んでいたのに、目の前にすっと割り込まれたら……。

たった1人分、数十秒〜数分待つ時間が延びるだけ。それなのに、なぜあんなにカチンとくるのでしょう?

この問いに、街の行列で実際に割り込んでみるという大胆な方法で迫ったのが、「服従実験」で有名な心理学者スタンレー・ミルグラムです。

01ニューヨークの行列に、わざと割り込んだ

そして、いちばん面白いのが、誰が抗議したかです。

02怒るのは「後ろの人」、前の人は無関心

抗議の大部分は、割り込まれた位置より後ろに並んでいる人から出ました。割り込まれた位置より前にいる人は、ほとんど反応しませんでした。

考えてみれば当然かもしれません。前の人にとって、割り込みは自分の待ち時間に影響しない。損をするのは、後ろの人たちだけです。

さらに、割り込んだ人のすぐ後ろに黙っている人(サクラ)がいると、抗議はぐっと減りました。本来いちばん文句を言うべき「すぐ後ろの人」が黙っていると、本来いちばん文句を言うべき「すぐ後ろの人」が黙っていると、その後ろの人たちは「自分が言うことじゃない」と感じやすくなる、と考えられています。

割り込みへの怒りは、"損をする側"に集中する
割り込みへの怒りは、"損をする側"に集中する

03でも、損得だけじゃない

ここで疑問が残ります。1人分の割り込みで延びる待ち時間は、ほんのわずか。それなのに、知らない人に抗議するという気まずい行動をとってまで怒るのはなぜでしょう。

ミルグラムらは、行列を「誰が決めたわけでもないのに、みんなが守っている小さな社会のルール」と捉えました。割り込みは、単に時間を奪うだけでなく、そのルールと公平さを踏みにじる行為だから強い反応を引き起こす、というのです。

行列の研究者リチャード・ラーソンも1987年、人が待ち時間そのものより「先に来た人が先」という公平さが破られることに強く反応する、と論じています。

この感覚は、お金のゲームでも見られます。2人でお金を分けるゲームで、相手から不公平な分け方を提案されると、人は自分がもらえるお金を捨ててでも断ることがよくあります。2003年の研究では、そのとき脳の島皮質(不快感や嫌悪に関わる部位)が強く活動していました。人間の脳は、不公平に"本気で"反応するようにできているのです。

04割り込まれたとき、どうする?

05まとめ

行列の割り込みにカチンとくるのは、心が狭いからではありません。みんなで守っている「公平さ」が破られたことへの、自然な反応です。

だからこそ、怒りに任せて爆発するのではなく、落ち着いてルールを伝えましょう。そして自分が急いでいるときは、ひと声かける。行列という小さな社会は、そんな一人ひとりの気づかいで成り立っています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerStanley Milgram is famous for his obedience experiment, but he also studied what happens when someone cuts… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Stanley Milgram is famous for his obedience experiment, but he also studied what happens when someone cuts in line. In a 1986 study, researchers stepped into about 130 real lines in New York, such as lines at ticket counters. They went in between the third and fourth people.

In a large share of lines, someone objected. Objections were even more common when two people cut in. Most complaints came from people standing behind the intruder. People in front, who did not have to wait longer, rarely reacted.

When a silent helper stood right behind the intruder, protests dropped sharply. The researchers argued that a line is a small social system with shared rules. People get angry over a short wait because cutting in breaks their sense of fairness.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

スタンレー・ミルグラムは服従実験で有名ですが、誰かが列に割り込んだときに何が起こるかも研究しました。1986年の研究で、研究者たちはニューヨークにある約130の実際の行列、たとえばチケット売り場の列に割り込みました。3番目と4番目の人の間に入ったのです。

かなりの割合の列で、誰かが抗議しました。2人が割り込むと、抗議はさらに多くなりました。文句のほとんどは、割り込んだ人より後ろに並んでいた人から出ました。それ以上待つ必要のない前の人たちは、めったに反応しませんでした。

何も言わない協力者が割り込んだ人のすぐ後ろに立つと、抗議は大きく減りました。研究者たちは、行列は共通のルールをもつ小さな社会システムだと主張しました。人がほんの少し待たされるだけで怒るのは、割り込みが公平さの感覚を壊すからなのです。

4択リーディングクイズ

Q1. When were objections even more common?

Q2. What happened when a silent helper stood right behind the intruder?

Q3. Why do people react so strongly to a short wait, according to the passage?

重要単語

  • queueB1
    名詞・動詞行列、順番待ちの列/列に並ぶWe waited in a long queue. 主にイギリス英語。アメリカでは line。発音は cue と同じ /kjuː/。queue up=列に並ぶ。
  • cut in lineB1
    動詞(句)列に割り込むIt's rude to cut in line. イギリスでは jump the queue。cut in は「(会話に)口をはさむ」の意味もある。
  • intruderC1
    名詞侵入者、割り込んだ人The intruder was asked to leave the line. 動詞 intrude(侵入する・じゃまをする)、名詞 intrusion。intrude on ~ の形で使う。
  • fairnessB2
    名詞公平さFairness matters more than a few minutes. fair(公平な)+-ness。in fairness to ~=「~の名誉のために言えば」。
  • normB2
    名詞社会のきまり、規範Waiting in line is a social norm. social norm(社会規範)の形でよく出る。normal と同語源。「標準」の意味も。
  • objectB2
    動詞反対する、異議を唱えるSeveral people objected to the plan. object to ~ / doing(to は前置詞)。名詞「物」とアクセントが違う:動詞は ob-JECT。
  • confrontB2
    動詞立ち向かう、対決するShe decided to confront the man who cut in. 名詞 confrontation。be confronted with ~(~に直面する)も頻出。
服従実験で有名なミルグラムは、街の行列に実験者を割り込ませる実験もしていた。抗議したのは、ほぼ割り込まれた位置より後ろの人。前の人は知らんぷり。1人分待つ時間が延びるだけで本気で怒るのは、損得だけでは説明できないらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Milgram, Liberty, Toledo & Wackenhut (1986) Response to intrusion into waiting lines, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Schmitt, Dubé & Leclerc (1992) Intrusions into waiting lines: Does the queue constitute a social system?, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  3. Larson (1987) Perspectives on queues: Social justice and the psychology of queueing, Operations Researchdoi.org
  4. Sanfey et al. (2003) The neural basis of economic decision-making in the Ultimatum Game, Sciencedoi.org