行列の割り込みに怒るのは、ほぼ"割り込まれた後ろの人"だけ。ミルグラムが街で試した行列実験

読む前に予想してみよう!
行列に誰かが割り込んだとき、抗議するのは前の人も後ろの人も同じくらいだ
ミルグラムらの実験では、抗議の大部分は割り込まれた位置より後ろの人から出た。
- 対象
- ニューヨークの行列に並ぶ人々
- 規模
- 約130の行列でのフィールド実験
- 研究の種類
- フィールド実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
ニューヨークの行列に実験者が割り込むと、抗議の大部分は割り込まれた位置より後ろの人から出た。損をする人が怒る。でもそこには損得だけでない"公平さ"の心理もある。
ひとことで言うと割り込みに怒るのは「自分が損した人」。でも損だけが理由じゃない!
ラーメン屋の行列、レジの列、駅のホーム。ずっと並んでいたのに、目の前にすっと割り込まれたら……。
たった1人分、数十秒〜数分待つ時間が延びるだけ。それなのに、なぜあんなにカチンとくるのでしょう?
この問いに、街の行列で実際に割り込んでみるという大胆な方法で迫ったのが、「服従実験」で有名な心理学者スタンレー・ミルグラムです。
01ニューヨークの行列に、わざと割り込んだ
そして、いちばん面白いのが、誰が抗議したかです。
02怒るのは「後ろの人」、前の人は無関心
抗議の大部分は、割り込まれた位置より後ろに並んでいる人から出ました。割り込まれた位置より前にいる人は、ほとんど反応しませんでした。
考えてみれば当然かもしれません。前の人にとって、割り込みは自分の待ち時間に影響しない。損をするのは、後ろの人たちだけです。
さらに、割り込んだ人のすぐ後ろに黙っている人(サクラ)がいると、抗議はぐっと減りました。本来いちばん文句を言うべき「すぐ後ろの人」が黙っていると、本来いちばん文句を言うべき「すぐ後ろの人」が黙っていると、その後ろの人たちは「自分が言うことじゃない」と感じやすくなる、と考えられています。

03でも、損得だけじゃない
ここで疑問が残ります。1人分の割り込みで延びる待ち時間は、ほんのわずか。それなのに、知らない人に抗議するという気まずい行動をとってまで怒るのはなぜでしょう。
ミルグラムらは、行列を「誰が決めたわけでもないのに、みんなが守っている小さな社会のルール」と捉えました。割り込みは、単に時間を奪うだけでなく、そのルールと公平さを踏みにじる行為だから強い反応を引き起こす、というのです。
行列の研究者リチャード・ラーソンも1987年、人が待ち時間そのものより「先に来た人が先」という公平さが破られることに強く反応する、と論じています。
この感覚は、お金のゲームでも見られます。2人でお金を分けるゲームで、相手から不公平な分け方を提案されると、人は自分がもらえるお金を捨ててでも断ることがよくあります。2003年の研究では、そのとき脳の島皮質(不快感や嫌悪に関わる部位)が強く活動していました。人間の脳は、不公平に"本気で"反応するようにできているのです。
04割り込まれたとき、どうする?
05まとめ
行列の割り込みにカチンとくるのは、心が狭いからではありません。みんなで守っている「公平さ」が破られたことへの、自然な反応です。
だからこそ、怒りに任せて爆発するのではなく、落ち着いてルールを伝えましょう。そして自分が急いでいるときは、ひと声かける。行列という小さな社会は、そんな一人ひとりの気づかいで成り立っています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerStanley Milgram is famous for his obedience experiment, but he also studied what happens when someone cuts…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Have you ever been angry when someone cut in line? In 1986, researchers in New York reported an experiment. A person stepped into real lines, for example at ticket windows. Who complained?
Most of the complaints came from people behind the person who cut in. The people in front did not care much. Waiting one more minute is a small loss, but people also feel it is unfair.
68 words ・ CEFR A2
和訳を見る
誰かが列に割り込んで怒ったことはありますか?1986年、ニューヨークの研究者たちはある実験を報告しました。ある人が、たとえば切符売り場の本物の行列に割り込んだのです。誰が文句を言ったでしょうか?
文句のほとんどは、割り込んだ人の後ろにいる人たちから出ました。前にいる人たちはあまり気にしませんでした。1分多く待つのは小さな損ですが、人はそれが不公平だとも感じるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
行列への割り込みに人がどう反応するかの実験がテーマなので D。
Q2. Who complained most?
Most of the complaints came from people behind the person who cut in. とあるので C。
Q3. In this passage, "unfair" means ...
unfair は「不公平な」。順番を守らないのはみんなにとって公平でない、という意味なので A。
Stanley Milgram is famous for his obedience experiment, but he also studied what happens when someone cuts in line. In a 1986 study, researchers stepped into about 130 real lines in New York, such as lines at ticket counters. They went in between the third and fourth people.
In a large share of lines, someone objected. Objections were even more common when two people cut in. Most complaints came from people standing behind the intruder. People in front, who did not have to wait longer, rarely reacted.
When a silent helper stood right behind the intruder, protests dropped sharply. The researchers argued that a line is a small social system with shared rules. People get angry over a short wait because cutting in breaks their sense of fairness.
128 words ・ CEFR B1
和訳を見る
スタンレー・ミルグラムは服従実験で有名ですが、誰かが列に割り込んだときに何が起こるかも研究しました。1986年の研究で、研究者たちはニューヨークにある約130の実際の行列、たとえばチケット売り場の列に割り込みました。3番目と4番目の人の間に入ったのです。
かなりの割合の列で、誰かが抗議しました。2人が割り込むと、抗議はさらに多くなりました。文句のほとんどは、割り込んだ人より後ろに並んでいた人から出ました。それ以上待つ必要のない前の人たちは、めったに反応しませんでした。
何も言わない協力者が割り込んだ人のすぐ後ろに立つと、抗議は大きく減りました。研究者たちは、行列は共通のルールをもつ小さな社会システムだと主張しました。人がほんの少し待たされるだけで怒るのは、割り込みが公平さの感覚を壊すからなのです。
4択リーディングクイズ
Q1. When were objections even more common?
Objections were even more common when two people cut in. とあるので A。
Q2. What happened when a silent helper stood right behind the intruder?
protests dropped sharply とあるので B。
Q3. Why do people react so strongly to a short wait, according to the passage?
最終文 People get angry over a short wait because cutting in breaks their sense of fairness. とあるので D。
Why does a stranger stepping into a queue irritate us so much when it costs us only a minute or two? In 1986, Stanley Milgram and his colleagues reported a bold field experiment in New York on the question. At around 130 waiting lines, an experimenter politely announced that they wanted to get in and inserted themselves between the third and fourth people.
The researchers varied the number of intruders and whether silent confederates acted as "buffers" behind them. A single intrusion drew objections in a considerable proportion of lines, and two intruders drew even more. Most of the objections came from people behind the point of intrusion. Those in front, whose waiting time was unaffected, rarely responded.
When buffers stood silently behind the intruder, protests fell markedly, apparently because the people further back felt that the duty to object belonged to the person directly behind. Self-interest alone cannot explain why people accept the awkwardness of confronting a stranger over so small a loss. The researchers saw the queue as a social system governed by an unspoken first-come, first-served rule. Later work on fairness, including research on how people reject unfair offers in money-sharing games, supports that view.
198 words ・ CEFR B2
和訳を見る
見知らぬ人が列に割り込んでも、失うのはせいぜい1〜2分なのに、なぜ私たちはこれほどいら立つのでしょうか。1986年、スタンレー・ミルグラムと同僚たちは、この問いに関するニューヨークでの大胆なフィールド実験を報告しました。約130の行列で、実験者が丁寧に「入れてほしい」と告げて、3番目と4番目の人の間に割り込みました。
研究者たちは、割り込む人数や、何も言わないサクラが割り込んだ人のすぐ後ろで「緩衝材」になるかどうかを変えました。1人の割り込みでもかなりの割合の列で抗議が起こり、2人が割り込むとさらに多くなりました。抗議の大部分は、割り込まれた地点より後ろの人から出ました。待ち時間が変わらない前の人たちは、めったに反応しませんでした。緩衝役が割り込んだ人のすぐ後ろに黙って立つと、抗議ははっきりと減りました。
それより後ろの人たちは、抗議するのはすぐ後ろの人の役目だと感じたようです。自分の損得だけでは、なぜ人がこれほど小さな損のために見知らぬ人と対決する気まずさを引き受けるのかを説明できません。研究者たちは、行列を「先着順」という暗黙のルールに支配された社会システムとみなしました。お金を分け合うゲームで人が不公平な提案を拒否することについての研究など、公平さに関するその後の研究も、その見方を支持しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main question the passage tries to answer?
第1文の「失うのは1〜2分なのに、なぜこれほどいら立つのか」という問いを中心に展開しているので C。
Q2. Why did protests fall when buffers stood behind the intruder?
the duty to object belonged to the person directly behind と感じたため、とあるので A。
Q3. What does "self-interest alone cannot explain" imply?
損得だけでは説明できず、first-come, first-served(先着順)という公平さのルールが関わっている、と続くので B。
重要単語
- queueB1名詞・動詞行列、順番待ちの列/列に並ぶWe waited in a long queue.
主にイギリス英語。アメリカでは line。発音は cue と同じ /kjuː/。queue up=列に並ぶ。 - cut in lineB1動詞(句)列に割り込むIt's rude to cut in line.
イギリスでは jump the queue。cut in は「(会話に)口をはさむ」の意味もある。 - intruderC1名詞侵入者、割り込んだ人The intruder was asked to leave the line.
動詞 intrude(侵入する・じゃまをする)、名詞 intrusion。intrude on ~ の形で使う。 - fairnessB2名詞公平さFairness matters more than a few minutes.
fair(公平な)+-ness。in fairness to ~=「~の名誉のために言えば」。 - normB2名詞社会のきまり、規範Waiting in line is a social norm.
social norm(社会規範)の形でよく出る。normal と同語源。「標準」の意味も。 - objectB2動詞反対する、異議を唱えるSeveral people objected to the plan.
object to ~ / doing(to は前置詞)。名詞「物」とアクセントが違う:動詞は ob-JECT。 - confrontB2動詞立ち向かう、対決するShe decided to confront the man who cut in.
名詞 confrontation。be confronted with ~(~に直面する)も頻出。
このネタ、誰かに教えたくなった?
服従実験で有名なミルグラムは、街の行列に実験者を割り込ませる実験もしていた。抗議したのは、ほぼ割り込まれた位置より後ろの人。前の人は知らんぷり。1人分待つ時間が延びるだけで本気で怒るのは、損得だけでは説明できないらしい。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Milgram, Liberty, Toledo & Wackenhut (1986) Response to intrusion into waiting lines, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Schmitt, Dubé & Leclerc (1992) Intrusions into waiting lines: Does the queue constitute a social system?, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Larson (1987) Perspectives on queues: Social justice and the psychology of queueing, Operations Researchdoi.org
- Sanfey et al. (2003) The neural basis of economic decision-making in the Ultimatum Game, Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









