「38人が見殺し」は誤報だった。人が多いほど助けない"傍観者効果"の本当の話

読む前に予想してみよう!
街中のケンカやトラブルの防犯カメラ映像を分析すると、ほとんどの場面で誰も助けに入らなかった
3か国の映像を分析した研究では、約9割の場面で少なくとも1人が介入していた。
- 対象
- 大学生(実験)/街の防犯カメラ映像
- 規模
- 72人(1968年の実験)+219件の映像(2020年)
- 研究の種類
- 実験室実験+メタ分析+観察研究
- 確かさ
- ★★★★☆
周りに人が多いと「誰かがやるだろう」と助けが遅れる。ただし有名な「38人の目撃者」事件の報道は誇張で、街中の映像では9割の場面で誰かが介入していた。
ひとことで言うと人が多いと「だれかがやるよね」って思っちゃう。でも実は人間、けっこう助ける!
1964年、ニューヨーク。ある女性が深夜に襲われ、命を落としました。
約2週間後、ニューヨーク・タイムズ紙は衝撃的に報じます。「38人の住民が見ていたのに、誰も助けず、警察も呼ばなかった」。この記事はアメリカ中に広まり、「都会の人間は冷たい」という象徴になりました。
そして、この事件をきっかけに生まれたのが、心理学の超有名テーマ傍観者効果です。でも、実はこの物語には大きな「どんでん返し」がありました。
01人数が増えるほど、助けが遅れる
事件に心を動かされた2人の心理学者、ジョン・ダーリーとビブ・ラタネは、ある実験を考えました。
人数が増えると「誰かがもう動いているはず」「自分がやらなくても」と、責任が薄まっていく。これを責任の分散と呼びます。ピザを10人で割り勘すると、1人あたりの「自分のピザ感」が薄れるのと少し似ています。
02どんでん返し①:「38人」は盛られていた
ところが2007年、心理学者マニングらが当時の裁判記録などを調べ直した論文を発表します。
わかったのは、
- 実際に襲撃をはっきり見ていた人は、38人よりずっと少なかった
- 多くは物音を聞いただけで、何が起きているか分からなかった
- 警察に通報した人や、駆け寄った人もいたと考えられる
ということ。「38人が冷たく見殺しにした」という物語は、かなり誇張された「たとえ話」だったのです。

03どんでん返し②:本当の街では、人は助けていた
さらに2020年、イギリス・オランダ・南アフリカの街の防犯カメラ映像で、実際のケンカや口論の場面219件を分析した研究が出ました。
結果は、約9割の場面で、少なくとも1人が割って入っていた。しかも、周りの人数が多いほど「誰かが助ける」確率はむしろ上がっていたのです。
これは一見、傍観者効果と矛盾しているようですが、実はそうとも限りません。
「1人ひとりが動く確率」は人が多いと下がるかもしれない。でも、人数が多ければその中の誰かが動く可能性は高くなる、というわけです。
また、1960年代〜2010年の研究(7,700人以上)をまとめたメタ分析(Fischer ら, 2011)では、傍観者効果そのものは全体として確かに見られる(ほかの人がいると1人ひとりの援助は減る)一方、危険がはっきりしている緊急事態ほど、傍観者効果は弱まることも報告されています。
危ない場面ほど「これは本当の緊急事態だ」とすぐに分かり、心拍が上がって体が動きやすくなる。さらに、周りの人が「一緒に止めに入ってくれる仲間」になることもある。研究者たちは、そう説明しています。
04実験室の結果と、街の現実をつなぐと
ここまでをまとめると、こうなります。
- 実験室:1人ひとりの「助ける確率」は、人が多いと下がる(傍観者効果)
- 街の現実:人が多いほど、その場の誰か1人以上が助ける確率は上がる
- 危険な場面:傍観者効果そのものが弱まる
どれも矛盾しているわけではなく、「誰の行動を数えるか」の違いなのです。心理学の有名な話は、元の記録や大規模なデータで確かめ直すと姿が変わることがあります。同じく「みんなに合わせる」心理を扱ったアッシュの同調実験も、数字を読み直すと別の顔が見えてきます。
05「誰か」を「あなた」に変える
とはいえ、責任の分散が起きやすい場面があるのも事実。そこで役に立つのが、名指しのテクニックです。
06まとめ
傍観者効果は本物の現象です。でも「人間は冷たい」という教訓は言いすぎでした。
人は意外と助ける。ただし「自分の番だ」とわかったときに。だから困ったときは、遠慮なく誰かを指名しましょう。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1964, The New York Times reported that 38 neighbors watched a woman being attacked but did nothing.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In 1964, a newspaper said that 38 people saw a woman attacked in New York, but nobody helped. Later, researchers found that this story was not correct. Far fewer people really saw the attack, and some people did help.
Even so, experiments show that when many people are around, each person is less likely to help. But in real street videos, someone stepped in to help in about nine out of ten fights.
73 words ・ CEFR A2
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1964年、ある新聞が、ニューヨークで女性が襲われるのを38人が見ていたのに誰も助けなかったと報じました。後に研究者たちは、この話が正しくなかったことを明らかにしました。実際に襲撃を見た人はずっと少なく、助けた人もいたのです。
それでも実験では、周りにたくさんの人がいると、一人ひとりが助ける可能性は低くなることが示されています。しかし実際の街の映像では、ケンカの約10件に9件で誰かが助けに入っていました。
4択リーディングクイズ
Q1. What did researchers find about the 1964 newspaper story?
researchers found that this story was not correct とあるので B。
Q2. In real street videos, how often did someone help?
someone stepped in to help in about nine out of ten fights とあるので D。
Q3. In this passage, "stepped in" means ...
step in は「介入する・割って入る」。直後に to help とあるので A。
In 1964, The New York Times reported that 38 neighbors watched a woman being attacked but did nothing. The story inspired psychologists John Darley and Bibb Latané to study what is now called the bystander effect. In their 1968 experiment, students heard someone apparently having a seizure over an intercom. When they believed they were the only listener, 85 percent went for help before the seizure ended.
When they thought four others could also hear, only 31 percent did. Responsibility seemed to be shared, so each person felt less need to act. However, a 2007 study of court records showed that the "38 witnesses" story was exaggerated. In addition, a 2020 analysis of security camera footage found that at least one person intervened in about 90 percent of public conflicts.
130 words ・ CEFR B1
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1964年、ニューヨーク・タイムズ紙は、38人の近所の住民が女性が襲われるのを見ていたのに何もしなかったと報じました。この話をきっかけに、心理学者のジョン・ダーリーとビブ・ラタネは、現在傍観者効果と呼ばれるものを研究しました。1968年の彼らの実験では、学生たちはインターホン越しに、誰かが発作を起こしているらしい声を聞きました。自分だけが聞いていると信じた場合、85パーセントが発作が終わる前に助けを求めに行きました。
ほかに4人も聞いていると思った場合、そうしたのは31パーセントだけでした。責任が分け合われたように感じられ、一人ひとりが行動する必要を感じにくくなったのです。しかし、2007年の裁判記録の研究は、「38人の目撃者」の話が誇張されていたことを示しました。さらに、防犯カメラ映像を分析した2020年の研究では、人前でのもめごとの約90パーセントで少なくとも1人が介入していました。
4択リーディングクイズ
Q1. In the 1968 experiment, what percentage helped when they thought four others could hear?
When they thought four others could also hear, only 31 percent did. とあるので B。
Q2. Why did fewer people help when others were present?
Responsibility seemed to be shared, so each person felt less need to act とあるので C。
Q3. What does the 2020 analysis suggest?
約90%の場面で誰かが介入していた=現実では人はよく助けている、と読み取れるので A。
The 1964 murder of Kitty Genovese in New York long stood for big-city coldness. According to The New York Times, 38 neighbors watched and none called the police. It prompted John Darley and Bibb Latané to study the bystander effect. In their 1968 experiment, 85 percent of the students who thought they alone could hear another participant having an apparent seizure sought help before it ended, against 31 percent of those who thought four others were listening. They blamed diffusion of responsibility.
A 2011 meta-analysis of more than 7,700 participants confirmed that others' presence reduces individual helping, though the effect was weaker in clearly dangerous emergencies. The Genovese story has crumbled. In 2007, Manning and colleagues used court records to show that far fewer than 38 people had clearly seen the attack, and some had tried to help.
A 2020 study of 219 public conflicts caught on security cameras in three countries found that at least one bystander intervened in about nine in ten cases, and more bystanders made intervention more likely. Both findings can be true. Each person may act less readily in a crowd, while the crowd as a whole is more likely to contain a helper.
199 words ・ CEFR B2
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1964年にニューヨークで起きたキティ・ジェノヴィーズ殺害事件は、長いあいだ大都会の冷たさの象徴とされてきました。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、38人の隣人が見ていて誰も警察を呼ばなかったというのです。この事件をきっかけに、ジョン・ダーリーとビブ・ラタネは傍観者効果を研究しました。1968年の実験では、ほかの参加者が発作を起こしているらしい声を自分だけが聞けると思った学生は、発作が終わる前に85パーセントが助けを求めたのに対し、他に4人が聞いていると思った場合は31パーセントでした。彼らはこれを責任の分散のせいだと考えました。
7,700人以上を対象とした2011年のメタ分析は、他者がいると個人の援助が減ることを確認しましたが、明らかに危険な緊急事態ではその効果は弱まりました。ジェノヴィーズ事件の話そのものは崩れています。2007年、マニングらは裁判記録をもとに、襲撃をはっきり目撃した人は38人よりはるかに少なく、助けようとした人もいたことを示しました。
3か国の防犯カメラがとらえた219件の人前でのもめごとを調べた2020年の研究では、約10件に9件で少なくとも1人の居合わせた人が介入し、居合わせた人が多いほど介入が起こりやすくなっていました。どちらの結果も正しいということはありえます。群衆の中では一人ひとりが行動しにくくなっても、群衆全体としては助ける人が含まれる可能性が高まるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did Darley and Latané attribute their results to?
They blamed diffusion of responsibility. とあるので C。
Q2. What did the 2011 meta-analysis add?
though the effect was weaker in clearly dangerous emergencies とあるので A。
Q3. How does the author reconcile the lab results with the 2020 street findings?
最終文 Each person may act less readily in a crowd, while the crowd as a whole is more likely to contain a helper. より D。個人と集団という分析の単位の違いで説明している。
重要単語
- bystanderC1名詞居合わせた人、傍観者A bystander called an ambulance.
by(そばに)+stander(立つ人)。bystander effect「傍観者効果」は社会心理の超定番。 - interveneC1動詞介入する、割って入るSomeone intervened to stop the fight.
inter-(間に)+vene(来る)。名詞 intervention は医療・政治の長文でも頻出。 - diffusion of responsibilityC2名詞(句)責任の分散Diffusion of responsibility makes people wait for others.
diffuse は「拡散させる」。責任が薄く広がるイメージ。 - witnessB2名詞・動詞目撃者/目撃するThe police talked to every witness.
動詞で witness an accident「事故を目撃する」。eyewitness も同義。 - emergencyB1名詞緊急事態Stay calm in an emergency.
emerge(現れる)から。in case of emergency「緊急時には」。 - apathyC2名詞無関心The story became a symbol of urban apathy.
a-(否定)+pathy(感情)。sympathy, empathy と同じ path。 - scrutinyC2名詞精査、綿密な検討The famous story did not survive scrutiny.
動詞 scrutinize。under scrutiny「詳しく調べられて」。
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このネタ、誰かに教えたくなった?
「38人が見ていたのに誰も助けなかった」で有名な事件、後の検証で報道がかなり誇張だったとわかったらしい。しかも街の防犯カメラ映像を分析すると、トラブルの9割で誰かが割って入っていた。人間、捨てたもんじゃない。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Darley & Latané (1968) Bystander intervention in emergencies: Diffusion of responsibility, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Manning, Levine & Collins (2007) The Kitty Genovese murder and the social psychology of helping: The parable of the 38 witnesses, American Psychologistdoi.org
- Fischer et al. (2011) The bystander-effect: A meta-analytic review on bystander intervention in dangerous and non-dangerous emergencies, Psychological Bulletindoi.org
- Philpot et al. (2020) Would I be helped? Cross-national CCTV footage shows that intervention is the norm in public conflicts, American Psychologistdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









