「65%が最大電圧まで」の真相。ミルグラムの服従実験を、60年後に見直したら

読む前に予想してみよう!
ミルグラムの服従実験では、実験者が「あなたに選択の余地はない」と強く命令するほど、参加者は従いやすくなった
分析や再現研究では、むき出しの「命令」はむしろ拒否を招きやすいとされる。従った理由は「科学への協力」の意識が大きかったとの見方がある。
- 対象
- 一般の成人男性ほか
- 規模
- 40人(1963年)、全条件で計740人
- 研究の種類
- 実験室実験・部分的追試・アーカイブ再分析
- 確かさ
- ★★★☆☆
指示されると多くの人が「危険な電気ショック」のボタンを押し続けた有名実験。現代の追試でも高い服従率は出るが、「ただ命令に従った」という解釈には異論が増えている。
ひとことで言うとえらい人に言われると従っちゃう?でも理由は「命令」だけじゃない!
「では、次の問題を間違えたら、さらに強い電気ショックを与えてください」
白衣の実験者にそう言われたら、あなたはボタンを押しますか? 相手は壁の向こうで「やめてくれ!」と叫んでいます。
1960年代初め、アメリカ・イェール大学の心理学者スタンレー・ミルグラムが行った服従実験は、心理学史上もっとも有名で、もっとも議論を呼んだ実験のひとつです。
0140人中26人が、最後のスイッチまで
実験前、専門家たちは「最後まで押すのはごく一部だろう」と予想していました。参加者の多くは汗をかき、震え、ひきつった笑いを見せながらも、ボタンを押し続けたといいます。
この結果は、「ふつうの人も、権威に命じられれば残酷なことをしてしまう」ことの証拠として、世界中に広まりました。
ただし「65%」は、ミルグラムが行った20以上の条件のうちの1つの数字です。2014年に、最大電圧まで進んだかどうかがわかる21条件・計740人をまとめ直した分析では、全体の服従率は約44%。生徒役が同じ部屋にいる、実験者が電話で指示するといった条件では、服従はぐっと下がっていました。
02現代でも、人は押すのか
今では倫理的な理由から、まったく同じ実験はできません。そこで工夫した追試が行われています。
2009年、アメリカのジェリー・バーガーは、ミルグラムの実験で「やめるかどうかの分かれ道」になりやすかった150ボルトの時点で実験を止める方法で再現しました。70人の大人が参加し、150ボルトを超えて続けようとした人の割合は約7割と、ミルグラムの頃(約8割)より少し低いものの、統計的にはっきりした差はありませんでした。2017年のポーランドでの研究(最大でも150ボルト相当までの簡略版)でも、やはり高い服従率が出ました。
「60年前の人だから従った」わけではなさそうです。

03どんでん返し:「命令」されると、人は逆らった
ところが近年、データを見直す研究が進むと、「人は命令に盲目的に従う」という解釈には疑問が出てきました。
- ミルグラムの複数の実験条件をまとめた分析(Packer, 2008)では、やめる人が最も多かったのは生徒役が初めて「出してくれ」と頼んだ150ボルト付近だった
- 実験者が使った決まり文句のうち、もっとも命令らしい「あなたに選択の余地はない、続けなさい」と言われると、むしろ参加者は拒否しやすかったとの報告がある(バーガーの追試データの分析や、ハスラムらが2014年に行ったミルグラム型の模擬実験)
- ミルグラム自身の別条件でも、実験者が部屋にいないときや、仲間役が反抗したときには、服従は大きく下がった
ここから、イギリスやオーストラリアの研究者らは「人は命令そのものではなく、『科学のために協力している』という意識から続けたのではないか」と主張しています(「関与的フォロワーシップ」と呼ばれる考え方)。
さらに、ミルグラムの助手が残した未発表の調査を再分析した研究(Perryら, 2020)では、23条件のうち18条件で、「本当に痛みを与えている」と信じていた人ほど、早めにやめていたことがわかりました。逆に言えば、最後まで押した人の中には「どうせ本物じゃないだろう」と疑っていた人が少なくなかった可能性があるのです。
04「従う心」を知っておく意味
どの解釈が正しいにせよ、ふつうの人が、状況しだいで誰かを傷つける側に回りうることは、今も重い教訓です。
同じように「教科書の定番」が見直されている例として、スタンフォード監獄実験の記事やアッシュの同調実験の記事もどうぞ。
05まとめ
ミルグラムの実験は「人間は命令に弱い」という単純な話ではありませんでした。むしろ、「正しいことに協力している」と信じたとき、人は最も遠くまで行ってしまうのかもしれません。
「良いことのため」という言葉にこそ、立ち止まる価値があります。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1963, Stanley Milgram asked 40 men to act as "teachers." Each time a "learner" made a mistake, the…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In the 1960s, Stanley Milgram did a famous experiment. People were told to give electric shocks to a man in another room when he made mistakes. The shocks were not real, but the people did not know that.
In one version, 26 out of 40 people went all the way to the strongest shock. Many people think they simply followed orders. But new studies say the story is more complicated.
70 words ・ CEFR A2
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1960年代、スタンレー・ミルグラムは有名な実験を行いました。人々は、隣の部屋にいる男性が間違えたら電気ショックを与えるように言われました。ショックは本物ではありませんでしたが、人々はそれを知りませんでした。
ある条件では、40人中26人が最も強いショックまで進みました。多くの人は、彼らがただ命令に従っただけだと考えています。しかし新しい研究は、話はもっと複雑だと言っています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ミルグラムの服従実験と、それについての新しい見方がテーマなので D。
Q2. How many people went to the strongest shock in one version?
26 out of 40 people went all the way to the strongest shock とあるので B。
Q3. In this passage, "followed orders" means they ...
follow orders は「命令に従う」。言われたとおりにした、なので A。
In 1963, Stanley Milgram asked 40 men to act as "teachers." Each time a "learner" made a mistake, the teacher had to give him a stronger electric shock. The learner was really an actor, and no shocks were real.
Even so, 26 of the 40 men kept going all the way to 450 volts. But this was only one of more than 20 versions of the experiment. A 2014 analysis of 740 people found that about 44% obeyed overall.
Modern partial replications have also found high obedience. New research, however, questions the idea of blind obedience. When the experimenter said, "You have no other choice," people refused more often. They may have continued because they believed they were helping science.
120 words ・ CEFR B1
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1963年、スタンレー・ミルグラムは40人の男性に「先生役」をしてもらいました。「生徒役」が間違えるたびに、先生役は前より強い電気ショックを与えなければなりませんでした。生徒役は実は役者で、ショックはどれも本物ではありませんでした。
それでも、40人中26人が450ボルトまで続けました。しかし、これは20以上ある実験の条件のうちの1つにすぎませんでした。740人を対象にした2014年の分析では、全体で約44%が服従していました。
現代の部分的な追試でも、高い服従率が見つかっています。しかし新しい研究は、盲目的な服従という考えに疑問を投げかけています。実験者が「あなたには他に選択肢はない」と言うと、人々はより多く拒否したのです。彼らが続けたのは、科学に協力していると信じていたからかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What was the overall obedience rate in the 2014 analysis?
A 2014 analysis of 740 people found that about 44% obeyed overall. とあるので B。65% は1つの条件の数字。
Q2. What happened when the experimenter said, "You have no other choice"?
people refused more often とあるので B。
Q3. According to the new view, why did many people continue?
最終文 They may have continued because they believed they were helping science. とあるので C。
In 1963, 26 of 40 men in Stanley Milgram's laboratory kept delivering what they believed were 450-volt shocks to a learner, who was in fact an actor. The result became one of the most famous and controversial in psychology, a symbol of how ordinary people can harm others under authority. The 65% figure, though, came from just one of more than twenty conditions.
A 2014 synthesis of 21 conditions involving 740 participants put the overall rate at roughly 44%, and obedience dropped sharply when, for example, the experimenter gave instructions by phone. Modern partial replications still find high obedience. For ethical reasons they stop at 150 volts, so they cannot tell us directly how many people would go to the end. The bigger shift concerns interpretation.
Quitting was most likely around 150 volts, the point at which the learner first demanded to be released. The most direct command, "You have no other choice," tended to provoke refusal. And a 2020 reanalysis of unpublished data showed that participants who believed the pain was real stopped earlier. Some researchers now argue that those who carried on did so because they identified with the scientific project.
193 words ・ CEFR B2
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1963年、スタンレー・ミルグラムの実験室で、40人中26人の男性が、実は役者だった生徒役に対し、450ボルトだと信じたショックを与え続けました。この結果は心理学で最も有名で、最も議論を呼んだものの1つとなり、権威のもとでふつうの人が他人を傷つけうることの象徴になりました。しかし、65%という数字は20以上ある条件のうちのたった1つから来たものでした。
740人が参加した21条件をまとめた2014年の統合分析では、全体の服従率はおよそ44%で、たとえば実験者が電話で指示を出すと服従は急激に下がりました。現代の部分的な追試でも、依然として高い服従率が見つかっています。倫理的な理由から150ボルトで止めるため、最後まで行く人が何人いるかを直接知ることはできません。より大きな変化は解釈に関するものです。
やめる人が最も多かったのは、生徒役が初めて解放を求めた150ボルト付近でした。最も直接的な命令である「あなたには他に選択肢はない」は、拒否を引き起こしがちでした。さらに、未発表データを再分析した2020年の研究では、痛みが本物だと信じていた参加者ほど早くやめていたことが示されました。また現在、一部の研究者は、続けた人々がそうしたのは科学的なプロジェクトに一体感を持っていたからだと主張しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
高い服従率は追試でも出るが、The bigger shift concerns interpretation. 以降で解釈の見直しを述べているので D。
Q2. What is a limitation of modern partial replications?
they stop at 150 volts, so they cannot tell us directly how many people would go to the end とあるので B。
Q3. What does the 2020 reanalysis suggest about some people who went all the way?
participants who believed the pain was real stopped earlier とある。痛みが本物だと信じた人ほど早くやめたのなら、最後まで続けた人の中には本物だと疑っていた人がいた可能性があると推論できる。A。
重要単語
- obedienceB2名詞服従The army expects strict obedience from soldiers.
動詞 obey(従う)、形容詞 obedient。反対は disobedience。obey は他動詞で obey the rules(to 不要)。 - authorityB2名詞権威、権力をもつ人People often trust figures of authority.
複数形 the authorities で「当局」。an authority on ~=「~の権威(専門家)」。 - replicateC1動詞(実験を)再現する、追試するOther scientists failed to replicate the result.
名詞 replication。replica(複製品)と同語源。研究の信頼性を語る英文で必須。 - ethicalB2形容詞倫理的なToday's rules make such experiments hard to run for ethical reasons.
名詞 ethics(倫理)。for ethical reasons(倫理的な理由で)がコロケーション。 - defyC1動詞逆らう、従わないA few participants chose to defy the experimenter.
名詞 defiance、形容詞 defiant。defy description(言葉では表せない)という熟語も。 - controversialB2形容詞議論を呼ぶThe experiment remains controversial today.
名詞 controversy(論争)。アクセントは con-tro-VER-sial。 - provokeC1動詞引き起こす、挑発するThe command provoked refusal.
pro-(前へ)+voke(呼ぶ)。provoke anger / a reaction のように悪い反応を引き起こす場合が多い。
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「先生役」が「生徒役」に電気ショックを与え続ける、ミルグラムの服従実験。40人中26人が最大電圧まで押したことで有名だけど、「続けなさい、選択の余地はない」とハッキリ命令されると、逆に人は拒否しやすかったらしい。
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- Milgram (1963) Behavioral study of obedience, Journal of Abnormal and Social Psychologydoi.org
- Burger (2009) Replicating Milgram: Would people still obey today?, American Psychologistdoi.org
- Packer (2008) Identifying systematic disobedience in Milgram's obedience experiments: A meta-analytic review, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org
- Haslam, Loughnan & Perry (2014) Meta-Milgram: An empirical synthesis of the obedience experiments, PLoS ONEdoi.org
- Perry et al. (2020) Credibility and incredulity in Milgram's obedience experiments: A reanalysis of an unpublished test, Social Psychology Quarterlydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









