スタンフォード監獄実験は「演出」だった? 50年後に掘り起こされた録音と資料

読む前に予想してみよう!
スタンフォード監獄実験は、予定どおり2週間続けられた
2週間の予定だったが、6日目に打ち切られた。
- 対象
- 男子大学生
- 規模
- 24人(実際の参加は18人前後)
- 研究の種類
- 模擬監獄の観察研究(対照群なし)
- 確かさ
- ★☆☆☆☆
「普通の学生も看守役になると残酷になる」で有名な実験。後年の資料から看守役への働きかけや参加者の演技が指摘され、証拠としての価値が揺らいでいる。
ひとことで言うと「役割で人は悪くなる」の有名実験。裏には演出があったかも!
1971年夏、アメリカ・スタンフォード大学の地下に、即席の「刑務所」が作られました。
集められたのは、ごく普通の男子大学生。コイントスのようにランダムに「看守役」と「囚人役」に分けられます。すると数日のうちに、看守役は囚人役を辱め、囚人役は精神的に追い詰められていった──。
心理学者フィリップ・ジンバルドーが率いたこのスタンフォード監獄実験は、「人は与えられた役割で簡単に悪に染まる」ことの証拠として、半世紀にわたって語り継がれてきました。でも今、その土台が大きく揺らいでいます。
016日で打ち切られた「刑務所」
この実験は映画やドキュメンタリーにもなり、刑務所の問題や、組織の中で人が残酷になる理由を説明するときによく引用されてきました。
02どんでん返し①:看守役は「指導」されていた?
2019年、フランスの研究者ティボー・ル・テクシエは、スタンフォード大学に保管されていた実験の録音・記録・メモを調べた論文を発表しました。
そこで指摘されたのは、
- 実験スタッフが看守役に対し、もっと「厳しく」振る舞うよう働きかけていたことをうかがわせる録音がある
- 看守のルールの多くは、学生が自然に作ったのではなくスタッフ側が用意していた
- 看守役の中には、実験者が望む結果を察して演じたと後に語った人もいる
といった点でした。また、取り乱して途中で実験を抜けた囚人役の1人は、後年のインタビューで「動揺は一部演技だった」と語っています。
同じ2019年には、オーストラリア・イギリス・アメリカの研究者(ハスラムさんら)も記録を分析し、看守役への働きかけは「私たちのチームとして、囚人をこう扱おう」という仲間意識に訴える形だったと指摘しました。人を動かしたのは役割そのものより、リーダーが作る「私たち」意識だった、という見方です。
ジンバルドー側はこれらの批判に反論しており、評価は今も分かれています。ただ、少なくとも「何の指示もないのに、普通の人が自然に残酷になった」という単純な物語は、そのまま信じられなくなっています。

03どんでん返し②:募集広告そのものが偏っていた?
2007年の研究(Carnahan & McFarland)は、別の角度から疑問を投げかけました。
「刑務所生活についての心理学研究」という募集広告に応募してくる人は、ほかの広告に応募する人と比べて、攻撃性や権威を重んじる傾向などが統計的に有意に高かったのです。つまり、集まった人たち自体が少し偏っていた可能性があります。
04イギリスで再現したら、違う結果に
2002年、イギリスの研究者たちはBBCと協力し、似た設定の実験(BBC監獄研究)を行いました。今度は実験者が看守役に指示を出さないようにしたところ、看守役は自然には暴君にならず、むしろ団結した囚人役の方が力を持つ展開になりました。ただ、その後にできた平等な体制は続かず、専制的な体制を押しつける動きも出たと報告されています。
人が残酷になるかどうかは「役割」だけでなく、グループの一体感やリーダーの方向づけに強く左右される、というのが今の有力な考え方です。ただしBBC監獄研究も、テレビ番組として撮影された1回きりの研究で、カメラの存在が行動に影響した可能性は否定できません。
似たように「教科書の定番」が見直されている実験として、ミルグラムの服従実験の記事もあわせてどうぞ。
05まとめ
スタンフォード監獄実験は、科学的な証拠としては大きな疑問符がつきました。ジンバルドーは2024年に亡くなりましたが、議論は続いています。
それでも、この実験が教えてくれることはあります。それは、「人は悪くなれる」だけでなく「誰かが悪くなるよう方向づけることもできる」ということ。リーダーの言葉や空気づくりの責任は、思っている以上に重いのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe Stanford Prison Experiment is one of the most famous studies in psychology.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In 1971, a psychologist made a fake prison at Stanford University. Some college students became guards, and others became prisoners. The guards soon started to treat the prisoners badly.
The study was planned for two weeks, but it stopped after six days. For many years, people said that a role can make good people cruel. But later, researchers found old recordings. The staff told the guards to be tough.
69 words ・ CEFR A2
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1971年、ある心理学者がスタンフォード大学に偽物の刑務所を作りました。一部の大学生は看守になり、他の学生は囚人になりました。看守たちはすぐに囚人をひどく扱い始めました。
研究は2週間の予定でしたが、6日後に中止されました。長年、人々は「役割は善良な人を残酷にすることがある」と言ってきました。しかしその後、研究者たちが古い録音を見つけました。スタッフは看守たちに厳しくするよう言っていたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
有名な監獄実験と、後に見つかった録音による疑問が全体の主題なので C。
Q2. How long did the study actually last?
planned for two weeks, but it stopped after six days とあるので B。2週間は予定の期間。
Q3. In this passage, "cruel" means ...
cruel は「残酷な」。直前の treat the prisoners badly(ひどく扱う)とつながるので A。
The Stanford Prison Experiment is one of the most famous studies in psychology. In 1971, Philip Zimbardo randomly divided 24 healthy male students into guards and prisoners in a fake prison. The study was supposed to last two weeks, but it was stopped on the sixth day because the guards behaved badly and the prisoners became upset. For decades, it was used as proof that ordinary people become cruel simply because of their roles.
However, in 2019 a French researcher examined recordings and notes kept at Stanford. He pointed out that the staff had encouraged the guards to act tough and that many of the rules had been prepared by the staff. Some participants also said they had been acting.
120 words ・ CEFR B1
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スタンフォード監獄実験は心理学で最も有名な研究の一つです。1971年、フィリップ・ジンバルドーは、健康な男子学生24人を偽の刑務所で看守と囚人にランダムに分けました。研究は2週間続く予定でしたが、看守がひどい振る舞いをし、囚人が動揺したため、6日目に中止されました。何十年もの間、この実験は、普通の人々は役割のせいだけで残酷になるという証拠として使われてきました。
しかし2019年、フランスの研究者がスタンフォードに保管されていた録音とメモを調べました。彼は、スタッフが看守に厳しく振る舞うよう働きかけていたこと、そして規則の多くはスタッフが用意していたことを指摘しました。一部の参加者も、自分は演技をしていたと語りました。
4択リーディングクイズ
Q1. How were the students divided into guards and prisoners?
randomly divided 24 healthy male students into guards and prisoners とあるので D。
Q2. What did the French researcher find in 2019?
the staff had encouraged the guards to act tough とあるので C。規則もスタッフが用意していた。
Q3. What can we infer from the passage?
スタッフの働きかけや参加者の演技が指摘されたことから、「役割だけで残酷になる」証拠としては弱いと推論できるので A。
The study was planned to last two weeks. It was stopped on the sixth day. In 1971, Philip Zimbardo randomly assigned 24 male students to be either guards or prisoners in a mock prison, and for half a century the Stanford Prison Experiment was cited as evidence that ordinary people readily become abusive once they are given a powerful role.
The design, though, had serious weaknesses. There was no control condition, and Zimbardo himself acted as prison superintendent. In 2019, Thibault Le Texier analyzed archival recordings and documents. He argued that guards had been coached to be tough, that the staff had set many of the rules, and that some participants had been performing what they believed the researchers wanted.
Haslam and colleagues read the same records differently. In their reading, cruelty arose when leaders fostered a shared group identity, and roles alone did not produce it. A 2007 study raised a separate problem.
People who answered an advertisement for a "prison life" study scored significantly higher on aggression. Zimbardo disputed these criticisms, and opinions are divided. Even so, the simple claim that people spontaneously turn cruel without guidance can no longer be taken at face value.
197 words ・ CEFR B2
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その研究は2週間続ける予定でした。それが6日目に中止されたのです。1971年、フィリップ・ジンバルドーは24人の男子学生を模擬刑務所の看守か囚人にランダムに割り当てました。
そして半世紀にわたり、スタンフォード監獄実験は、普通の人々は力のある役割を与えられると容易に虐待的になるという証拠として引用されてきました。しかし、その設計には深刻な弱点がありました。対照条件がなく、ジンバルドー自身が刑務所長役を務めていたのです。2019年、ティボー・ル・テクシエは保管されていた録音と文書を分析しました。彼は、看守が厳しくするよう指導されていたこと、多くの規則をスタッフが定めていたこと、一部の参加者が研究者の望むと思ったことを演じていたことを主張しました。
ハスラムらは同じ記録を別の形で解釈しました。彼らの解釈では、残酷さはリーダーが集団の一体感を育てたときに生じたもので、役割だけで生まれたわけではありませんでした。2007年の研究は、また別の問題を提起しました。
「刑務所生活」の研究の広告に応募した人々は、攻撃性の得点が有意に高かったのです。ジンバルドーはこれらの批判に反論しており、意見は分かれています。それでも、人は指示がなくても自然に残酷になるという単純な主張は、もはや額面どおりには受け取れません。
4択リーディングクイズ
Q1. Which of the following is mentioned as a weakness of the original design?
There was no control condition, and Zimbardo himself acted as prison superintendent. とあるので D。実際は予定より短く終わった。
Q2. How did Haslam and colleagues explain the guards' cruelty?
cruelty arose when leaders fostered a shared group identity とあるので D。
Q3. What is the author's overall position?
最終文 can no longer be taken at face value が筆者の立場。意見は分かれているとしつつ、単純な結論には疑問を示しているので C。
重要単語
- guardA2名詞看守、警備員The guard checked our bags at the entrance.
動詞では「守る」。guard against ~「~を警戒する」も入試頻出。 - prisonerB1名詞囚人The prisoner was released after five years.
prison(刑務所)+-er。take ~ prisoner「~を捕虜にする」という熟語もある。 - debunkC1動詞(通説の)誤りを暴くScientists debunked the popular myth.
de-(取り除く)+bunk(たわごと)。debunk a myth の形で科学記事に頻出。 - archiveB2名詞記録保管所、保存資料The letters are kept in the university archive.
発音は /ˈɑːrkaɪv/(アーカイヴ)。形容詞 archival(記録保管の)。 - roleA2名詞役割Everyone has a role in the team.
play a role in ~「~で役割を果たす」は最重要コロケーション。roll(転がる)と同音。 - cruelB1形容詞残酷なIt is cruel to leave a dog in a hot car.
名詞 cruelty(残酷さ)。be cruel to ~「~に残酷だ」。 - at face valueC1熟語額面どおりにDon't take every news story at face value.
face value は「額面価格」。accept / take ~ at face value で「うのみにする」。批判的思考の長文で出る。
公式・一次情報をチェック
- Stanford Prison Experiment(実験の公式サイト、ジンバルドーら)prisonexp.org
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「普通の学生も看守役になると残酷になる」で有名なスタンフォード監獄実験。でも後に公開された録音や資料から、看守役に「もっと厳しく」と働きかけていた形跡が見つかったらしい。教科書の定番、実はかなり怪しい。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Haney, Banks & Zimbardo (1972) Interpersonal dynamics in a simulated prison, 米海軍研究局(ONR)技術報告(1973年に International Journal of Criminology and Penology に掲載)doi.org
- Le Texier (2019) Debunking the Stanford Prison Experiment, American Psychologistdoi.org
- Haslam, Reicher & Van Bavel (2019) Rethinking the nature of cruelty: The role of identity leadership in the Stanford Prison Experiment, American Psychologistdoi.org
- Reicher & Haslam (2006) Rethinking the psychology of tyranny: The BBC prison study, British Journal of Social Psychologydoi.org
- Carnahan & McFarland (2007) Revisiting the Stanford Prison Experiment: Could participant self-selection have led to the cruelty?, Personality and Social Psychology Bulletindoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









