生後2〜5日の赤ちゃんの泣き声に「お国なまり」? 一番高くなる所がフランスとドイツで違った

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生まれて間もない赤ちゃんは、ほかの女性の声よりお母さんの声を好む
1980年の実験で、おしゃぶりの吸い方しだいでお母さんの声かほかの女性の声が流れるようにすると、赤ちゃんはお母さんの声のほうを多く流した。
- 対象
- フランスとドイツの、生まれて2〜5日の健康な赤ちゃん
- 規模
- 60人(声のはっきりした泣き声1,254回分)
- 研究の種類
- 観察研究(録音した泣き声の比較)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
生後2〜5日のフランスとドイツの赤ちゃん60人の泣き声を比べると、一番高い音が来る位置が、フランスは後ろ寄り、ドイツは前寄りの泣き声が多かった。それぞれの国の言葉の抑揚と同じ向きだ。ただし別チームの反論もある。
ひとことで言うと泣き声の音の上がり下がりに、おなかの中で聞いた言葉が出ているのかも?
もくじ
生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ1つの言葉も話せません。泣き声は、どの国の赤ちゃんでも同じに聞こえます。ところが、その泣き声を機械で細かく調べると、国によって形が違っていたという研究があります。
ドイツなどの研究チームが、生まれて2〜5日のフランスの赤ちゃん30人とドイツの赤ちゃん30人の泣き声を比べました。1回の泣き声は、ふつう上がってから下がる山の形をしています。違ったのは、その山の頂上(一番高い音)が来る位置でした。フランスの赤ちゃんは頂上が後半に来る泣き声、ドイツの赤ちゃんは前半に来る泣き声が多かったのです。どちらも、その国の言葉の抑揚(声の上がり下がり)と同じ向きです。
ここで言う「お国なまり」は、発音のことではありません。1回の泣き声の山の頂上が、前寄りか後ろ寄りかという違いのことです。赤ちゃんがおなかの中で聞いた言葉の抑揚を、自分の声で出しているのかもしれない。そう考えた研究です。ただし、あとで別のチームが、別の国の赤ちゃんを調べて「数え方しだいで差はほぼ消える」と反論しています。
01泣き声の「一番高いところ」がどこに来るかを測った
研究したのは、ドイツのヴュルツブルク大学のマンペ(Mampe)さんやヴェルムケ(Wermke)さんたちです。2009年に学術誌『Current Biology』で発表しました。
フランスの赤ちゃんの泣き声は、パリの病院で録音しました。ドイツの赤ちゃんの泣き声は、ドイツの別の研究で以前に録ってあった音を使いました。どちらも、おむつを替えるとき、おっぱいやミルクの前、ぐずったのをあやすときなど、ふだんの場面の泣き声です。採血のような痛みで泣いた声は使っていません。
生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声は、1回の息で出す1つの声が、ふつう「上がって下がる」山の形をしています。チームは、山が1つだけの泣き声を選んで長さを1秒にそろえ、山の頂上(一番高い音)が何秒目に来るかを測りました。頂上が0.5秒より後ろなら、後半に向けて上がっていく形です。前なら、早めに頂上が来て下がっていく形です。
02泣き声の一番高い音は、フランスが後ろ寄り、ドイツが前寄り
頂上の時刻の中央値(小さい順に並べたときの真ん中の値)は、フランスの赤ちゃんで0.60秒、ドイツの赤ちゃんで0.45秒でした。平均でも0.58秒と0.44秒で、はっきりした差がありました。声の大きさが一番になる時刻も、フランスのほうが後ろでした。
この向きは、大人の言葉と合っています。フランス語は、ことばのまとまりの終わりに向けて声が上がることが多い言葉です(文の最後だけは下がります)。ドイツ語は、強く言う音節で高くなり、そこから終わりに向けて下がる形がよくあります。
ただし、どちらの国の赤ちゃんたちも、頂上が後ろ寄りの形・前寄りの形を含む4種類の形の泣き声をすべて出していました。「フランスの子は全員が後ろ寄り」ではなく、多い形が違ったということです。

03体のしくみだけなら、泣き声は後ろほど下がるはず
息を吐くと、のどにかかる空気の押す力はだんだん弱まります。体のしくみだけで泣いているなら、声は後ろほど下がる形になりやすいはずです。ところがフランスの赤ちゃんは、後ろで高くなる泣き声を多く出していました。チームはこれを、赤ちゃんが息とのどを合わせて音の高さを動かしている裏づけだと考えました。
赤ちゃんがおなかの中で外の声を聞いていることは、前から知られていました。1980年の実験では、おしゃぶりの吸い方しだいで、お母さんの声かほかの女性の声が流れるようにしました。すると生まれて間もない赤ちゃんは、お母さんの声のほうを多く流しました。おなかの壁を通ると、言葉の細かい音はぼやけますが、声の上がり下がりはよく伝わります。
それまで、赤ちゃんが聞いた声をまねして出せると示されていたのは、生後12週ごろからでした。この研究が正しければ、まねはずっと早く、生まれた直後から始まっていることになります。生まれてからの2〜5日の間に覚えた可能性も、論文は完全には否定していません。
04別のチームから反論:「数え方しだいで差はほぼ消える」
2017年、別の研究チームが、この種の研究のやり方に疑問を出しました。赤ちゃんの泣き声には、1人1人に決まったくせがあります。1人の赤ちゃんのたくさんの泣き声を「別々のデータ」として数えると、本当はない差が「差あり」と出やすくなるのです。
このチームは、中国語(北京語)を聞いて育つ赤ちゃんと、アメリカ英語を聞いて育つ赤ちゃんの泣き声を比べました。泣き声を1回ずつ別々に数えると、たくさんの差が出ました。ところが、同じ赤ちゃんの泣き声をひとまとめにして数え直すと、差はほとんど消えました。チームは、赤ちゃんが周りの言葉に合わせて泣き方を変えるという考えには疑問がある、と書いています。
ただし、このチームが数え直したのは中国語と英語の環境の赤ちゃんの泣き声で、2009年のフランスとドイツの赤ちゃんのデータではありません。また、2009年の論文のほうも、差を確かめる計算を泣き声1回ずつで行ったのか、赤ちゃん1人ずつで行ったのかを、本文ではっきり書いていません。
一方、ヴェルムケさんたちは、中国語を聞いて育つ赤ちゃんとドイツ語を聞いて育つ赤ちゃん、計102人の泣き声を比べました。1人ずつの平均で比べても、中国語の赤ちゃんのほうが音の高さの揺れが大きかったと報告しています。中国語は、音の高さの違いで言葉の意味が変わる言葉です。結果が分かれていて、決着はついていません。
05日本の赤ちゃんの泣き声は?
日本の赤ちゃんの泣き声は、2009年の研究では調べていません。ただ、もう少し大きい子どもでは手がかりがあります。1991年の研究では、1歳半ごろのフランスの子ども4人と日本の子ども4人の2音節の声(意味のない声や、言葉として聞き取れた声)を比べました。フランスの子は尻上がり、日本の子は尻下がりが基本で、どちらも大人の言葉の抑揚と合っていました。
外国語の音を聞き分ける力が1歳ごろまでに母語向けに変わっていく話は、赤ちゃんは外国語の音も聞き分けていたで紹介しています。
06まとめ
生まれて2〜5日の赤ちゃんの泣き声で、フランスとドイツの間に、それぞれの言葉の抑揚と同じ向きの差が見つかりました。おなかの中で聞いた声のメロディーを、もう自分の声で出しているのかもしれません。
ただし、60人の研究です。別のチームは、ほかの国の赤ちゃんの泣き声で、同じ赤ちゃんの何回もの泣き声をまとめて扱うと差はほぼ消えることを示し、反論しています。生まれたばかりの泣き声に本当に「お国なまり」があるのか。たくさんの国の赤ちゃんを、同じやり方で、別々のチームが確かめることが必要です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerResearchers in Germany and France recorded the cries of babies aged two to five days.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
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Scientists recorded the cries of 30 French babies and 30 German babies. The babies were only two to five days old. In a baby's cry, the voice usually goes up and then comes down.
Many French cries reached the highest note after the middle. Many German cries reached it before the middle. French phrases often go up at the end, and German phrases often go down. The babies may have heard these sounds before birth.
75 words ・ CEFR A2
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科学者たちは、フランスの赤ちゃん30人とドイツの赤ちゃん30人の泣き声を録音した。赤ちゃんたちは、生まれてまだ2〜5日だった。赤ちゃんの泣き声では、声はふつう上がってから下がる。
フランスの泣き声の多くは、真ん中より後ろで一番高い音になった。ドイツの泣き声の多くは、真ん中より前で一番高い音になった。フランス語のことばのまとまりは終わりで上がることが多く、ドイツ語のまとまりは下がることが多い。赤ちゃんたちは、生まれる前にこうした音を聞いていたのかもしれない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
フランスとドイツの赤ちゃんの泣き声で、一番高い音が来る位置が違ったことを説明しているので、正解は B。
Q2. How old were the babies in the study?
「The babies were only two to five days old.」とあるので、正解は A。
Q3. In the passage, "recorded" is closest in meaning to ___.
科学者たちが泣き声を「録音した」という意味なので、正解は C。record は「記録する、録音する」。
Researchers in Germany and France recorded the cries of babies aged two to five days. Thirty came from French-speaking families and thirty from German-speaking families. A newborn's cry usually rises in pitch and then falls. The researchers measured where the highest point came in each cry.
In French babies, it tended to come later, so more of their cries had a rising shape. In German babies, it came earlier. These shapes match the two languages, because French phrases often rise toward the end and German phrases often fall.
The team thinks the babies may have copied the melody they heard in the womb. Later, a team studying babies who heard Mandarin or American English argued that such differences mostly disappear when each baby's cries are grouped together.
127 words ・ CEFR B1
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ドイツとフランスの研究者たちが、生まれて2〜5日の赤ちゃんの泣き声を録音した。30人はフランス語を話す家庭、30人はドイツ語を話す家庭の赤ちゃんだった。生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声は、ふつう音が上がってから下がる。研究者たちは、それぞれの泣き声で一番高いところがどこに来るかを測った。
フランスの赤ちゃんでは、それが後ろに来やすく、尻上がりの形の泣き声が多かった。ドイツの赤ちゃんでは、前に来た。この形は2つの言葉に合っている。フランス語のまとまりは終わりに向けて上がることが多く、ドイツ語は下がることが多いからだ。
チームは、赤ちゃんがおなかの中で聞いたメロディーをまねたのかもしれないと考えている。その後、中国語(北京語)やアメリカ英語を聞いて育つ赤ちゃんを調べたチームが、赤ちゃん1人ごとに泣き声をまとめて扱うとこうした差はほとんど消えると主張した。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
泣き声の高さの形が、それぞれの国の言葉のメロディーと合っていたという研究の話なので、正解は A。
Q2. What did the researchers measure in each cry?
「The researchers measured where the highest point came in each cry.」とあるので、正解は C。
Q3. What does the last sentence tell us about the finding?
最後の文で、別のチームが「赤ちゃん1人ごとに泣き声をまとめて扱うと差はほとんど消える」と主張したとあり、すべての科学者が納得しているわけではないと分かるので、正解は B。
Babies begin hearing voices before they are born, and a 2009 study in Current Biology asked whether that experience shows up in one of their earliest sounds: crying. The team recorded everyday cries from 30 French and 30 German newborns aged two to five days. They kept cries with a single rise-and-fall shape, scaled each one to the same length, and noted when the pitch peaked.
In the French group, the peak usually came after the halfway point. In the German group, it usually came before. That fits the adult languages, since French phrases tend to rise toward the end while German phrases tend to fall. As a baby breathes out, the air pressure behind the voice drops, so a purely physical cry should slide downward. The late peaks in French cries suggest some control over pitch.
The study has weak points. The two groups were recorded in different places, and the babies had heard a few days of speech after birth. In 2017, another team, studying babies who heard Mandarin or American English, showed that treating many cries from one baby as separate data can produce differences that mostly vanish once each baby's cries are grouped together.
198 words ・ CEFR B2
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赤ちゃんは生まれる前から声を聞き始める。2009年に『Current Biology』に載った研究は、その経験が、赤ちゃんがごく早い時期に出す音の1つである泣き声に表れるかを問うた。チームは、生まれて2〜5日のフランスの赤ちゃん30人とドイツの赤ちゃん30人の、ふだんの泣き声を録音した。上がって下がる山が1つの泣き声を選び、どれも同じ長さにそろえて、音の高さが頂上になる時刻を記録した。
フランスのグループでは、頂上はたいてい真ん中より後ろに来た。ドイツのグループでは、たいてい前に来た。これは大人の言葉と合っている。フランス語のまとまりは終わりに向けて上がりやすく、ドイツ語は下がりやすいからだ。赤ちゃんが息を吐くと、声を押し出す空気の圧力は下がるので、体のしくみだけで出る泣き声は下がっていくはずだ。
フランスの泣き声の後ろの頂上は、音の高さをある程度コントロールしていることを示していると考えられる。この研究には弱い点もある。2つのグループは別々の場所で録音され、赤ちゃんたちは生まれてから数日分の話し声を聞いていた。2017年、別のチームは、中国語(北京語)やアメリカ英語を聞いて育つ赤ちゃんを調べ、1人の赤ちゃんの多くの泣き声を別々のデータとして扱うと差が生まれ、その差は赤ちゃんごとに泣き声をまとめて数えるとほとんど消えてしまうことを示した。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main purpose of the passage?
前半で2009年の泣き声の研究を説明し、後半でその弱い点と別のチームの指摘を述べているので、正解は B。
Q2. Why did the late peaks in French cries matter to the researchers?
息を吐くと圧力が下がるので、体のしくみだけなら泣き声は下がるはずで、後ろの頂上は音の高さをある程度コントロールしていることを示していると考えられる、と書かれているので、正解は C。
Q3. What can be inferred about the 2017 study?
2017年の研究は、同じ赤ちゃんの泣き声を別々に数えると差が出て、赤ちゃんごとにまとめて数えると差がほぼ消えると示した。数え方によって結果が変わりうると読み取れるので、正解は A。
重要単語
- newbornB1名詞・形容詞生まれたばかりの赤ちゃん(の)The newborn slept for most of the day.
new+born(生まれた)。a newborn baby のように形容詞でも使う - pitchB2名詞音の高さHer voice rose in pitch at the end of the question.
high pitch(高い音)/low pitch(低い音)。野球の「投げる」と同じつづり - intonationB2名詞抑揚、イントネーションEnglish questions often end with a rising intonation.
rising intonation(上がり調子)/falling intonation(下がり調子)はセットで覚える - wombB2名詞子宮、おなかの中Babies can hear sounds while they are still in the womb.
b は発音しない(ウーム)。climb・lamb と同じ - imitateB1動詞まねるYoung children imitate the way their parents talk.
名詞は imitation(まね、模造品)。copy よりも「動きや話し方をまねる」に使いやすい - peakB2名詞・動詞頂上、最高点(に達する)The pitch peaked near the end of the cry.
山の頂上が元の意味。peak hours(いちばん混む時間)のようにも使う
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生後2〜5日の赤ちゃん60人の泣き声を調べた。泣き声はふつう、上がって下がる山の形。その一番高くなる所が、フランスの子は後ろ寄り、ドイツの子は前寄りの泣き声が多かった。それぞれの言葉の抑揚と同じ向き。ただ、別の国の赤ちゃんで「同じ赤ちゃんの何回もの泣き声をまとめて扱うと、差はほぼ消える」と示したチームもいる。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Mampe, Friederici, Christophe & Wermke (2009) Newborns' cry melody is shaped by their native language, Current Biologydoi.org
- Gustafson, Sanborn, Lin & Green (2017) Newborns' cries are unique to individuals (but not to language environment), Infancydoi.org
- Wermke et al. (2017) Fundamental frequency variation in crying of Mandarin and German neonates, Journal of Voicedoi.org
- DeCasper & Fifer (1980) Of human bonding: Newborns prefer their mothers' voices, Sciencedoi.org
- Hallé, de Boysson-Bardies & Vihman (1991) Beginnings of prosodic organization: Intonation and duration patterns of disyllables produced by Japanese and French infants, Language and Speechdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











