宝くじに当たっても幸せは続かない? 「快楽順応」研究の意外な続き

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人は良いことにも悪いことにも、いずれ必ず完全に慣れて元の幸福度に戻る
多くの出来事には慣れていくが、研究によっては、失業や障害などの後に幸福度が元に戻りきらない場合があることが示されている。
- 対象
- 宝くじ当選者・一般成人
- 規模
- 73人(1978年)〜数千人(2020年)
- 研究の種類
- 横断比較・自然実験・長期追跡調査
- 確かさ
- ★★★★☆
人は良いことにも悪いことにも慣れていく。1978年の研究で宝くじ当選者は特別幸せではなかったが、近年の大規模研究では人生の満足度が長く上がっていた。
ひとことで言うとうれしいことにも、人はだんだん慣れちゃう。でも全部じゃない!
宝くじで1等が当たったら、毎日がバラ色になる。そう思いませんか?
ところが心理学には、「宝くじに当たっても、人はそれほど幸せにならない」という、ちょっとショッキングな研究があります。
人は、良いことにも悪いことにもだんだん慣れていく。このしくみは「快楽順応」と呼ばれます。でも実は、この話には意外な続きがあったんです。
011978年の衝撃の研究
大きな喜びを知ってしまうと、ふだんの小さな楽しみが色あせて見える。そして、当選の喜びそのものにも、だんだん慣れていく。この研究は「幸せはお金では買えない」という話の代表例として、世界中で紹介されてきました。
02幸せの「ルームランナー」
研究者たちは、この現象を「ヘドニック・トレッドミル(快楽のルームランナー)」とたとえました。
ルームランナーの上では、どんなに走っても景色は変わりません。同じように、新しいスマホを買っても、昇進しても、しばらくすると喜びは薄れ、幸福度はもとの位置(セットポイント)に戻っていく、という考え方です。
身近な例では、転職の研究もあります。2005年のアメリカの研究では、転職した管理職の仕事への満足度は、転職直後にぐっと上がるものの、その後少しずつ下がっていく傾向が見られました。「ハネムーン(新婚期)とその後の二日酔い」効果と名付けられています。

03ところが、意外な続きが
ここからが「マジか」の続きです。
1978年の研究は、当選者が22人と少なく、比べ方にも限界がありました。そこでスウェーデンの経済学者リンドクヴィストさんらは(2020年に論文発表)、数千人規模の宝くじ参加者を、当選から5〜22年後に調査しました。
すると、高額当選者は比較グループに比べて、人生全体への満足度が高く、その差は10年以上たっても消えていなかったのです。とくに「お金の面での満足度」が上がったことが大きく影響していました。
一方で、「毎日の気分の幸せ」や心の健康への影響は、かなり小さめでした。つまり、お金は「人生をふりかえったときの満足度」は上げても、「毎日のウキウキ」はそれほど変えない、ということかもしれません。
04セットポイントも「絶対」ではない
さらに、アメリカの心理学者ルーカスさんは2007年の論文で、大規模なパネル調査(同じ人を何年も追う調査)の結果を整理。失業や重い障害などの出来事のあとには、幸福度が元の水準まで戻りきらないことがあり、慣れ方には大きな個人差があると示しました。
人はたしかに多くのことに慣れていきます。でも、すべてに完全に慣れるわけではない。幸福度のセットポイントは、思われていたほど固定されたものではなかったのです。
05まとめ
人は良いことにも悪いことにも慣れていく。だから、宝くじに当たっても毎日のウキウキはそれほど続かないかもしれません。
でも、人生の満足度は長く上がることもあるし、セットポイントも動く。判定は「ビミョー」です。幸せは手に入れた瞬間より、慣れとどう付き合うかで決まるのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPsychologists use the term "hedonic adaptation" to describe how people get used to both good and bad events.
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この研究を英語で読もう
Many people think that winning the lottery will make them happy forever. But people get used to good things and bad things. In a 1978 study, lottery winners were not much happier than other people.
A new study from Sweden found something different. Big winners were more satisfied with their lives for over ten years. But their everyday mood did not change much. So money can help, but only in some ways.
72 words ・ CEFR A2
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多くの人は、宝くじに当たればずっと幸せになれると考えています。しかし、人は良いことにも悪いことにも慣れてしまいます。1978年の研究では、宝くじの当選者は他の人々とくらべてそれほど幸せではありませんでした。
スウェーデンの新しい研究は、違うことを発見しました。高額当選者は10年以上、自分の人生により満足していたのです。しかし、毎日の気分はあまり変わりませんでした。つまり、お金は役に立つことがありますが、それはある面においてだけなのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宝くじ当選で長く幸せになれるか、2つの研究を比べて説明しているので C。
Q2. What did the study from Sweden find?
Big winners were more satisfied with their lives for over ten years. とあるので C。日々の気分はあまり変わらなかった。
Q3. In this passage, "get used to" means ...
get used to ~ は「~に慣れる」。良いことにも悪いことにも慣れる、という文脈なので A。
Psychologists use the term "hedonic adaptation" to describe how people get used to both good and bad events. In a famous 1978 study, 22 lottery winners were not clearly happier than a comparison group, and they even enjoyed small daily pleasures less.
Researchers compared this to a treadmill. You keep running, but the view never changes. However, the story did not end there. Swedish researchers later studied thousands of lottery players five to 22 years after they won.
Big winners were more satisfied with their lives, and the difference lasted for more than ten years. Their daily mood, however, changed only a little. Money may raise how people judge their lives without making every day feel brighter.
117 words ・ CEFR B1
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心理学者は「快楽順応」という言葉で、人が良い出来事にも悪い出来事にも慣れていくことを表します。有名な1978年の研究では、22人の宝くじ当選者は比較グループよりはっきり幸せとは言えず、日々の小さな楽しみをむしろあまり楽しめていませんでした。
研究者たちはこれをルームランナーにたとえました。走り続けても、景色は決して変わらないのです。しかし、話はそこで終わりませんでした。スウェーデンの研究者たちはその後、当選から5〜22年後の数千人の宝くじ参加者を調べました。
高額当選者は人生により満足しており、その差は10年以上続きました。しかし、毎日の気分は少ししか変わりませんでした。お金は、毎日を明るく感じさせることはなくても、人が自分の人生をどう評価するかを高めるのかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What does "hedonic adaptation" mean?
第1文で how people get used to both good and bad events と定義されているので A。
Q2. How was the Swedish study different from the 1978 study?
1978年は22人、スウェーデンの研究は thousands of lottery players five to 22 years after they won なので B。
Q3. What can we infer from the last sentence?
人生の評価は上がっても毎日の気分は明るくならない、と2種類の幸福を区別しているので C。
Hedonic adaptation refers to our tendency to return to a baseline level of happiness after both positive and negative life events. Its best-known illustration is a 1978 study in which 22 lottery winners reported no clearly greater happiness than 22 controls and took less pleasure in ordinary activities. The image of a "hedonic treadmill" spread widely, along with the idea that each person has a fixed happiness set point.
Later research, however, has complicated this picture. The 1978 study was a small, cross-sectional comparison rather than a long-term follow-up. In contrast, a Swedish study published in 2020 exploited the randomness of lottery prizes to survey thousands of players five to 22 years after their wins.
Large winners showed higher life satisfaction that persisted for over a decade, driven largely by financial satisfaction, while effects on everyday emotional well-being and mental health were small. Long-term panel data have also shown that after unemployment or serious disability, some people do not fully recover their previous level of well-being. Adaptation is real, but it is neither complete nor universal, and the type of happiness being measured matters.
184 words ・ CEFR B2
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快楽順応とは、良い出来事の後にも悪い出来事の後にも、幸福度が基準の水準に戻っていく傾向を指します。最もよく知られた例は1978年の研究で、22人の宝くじ当選者は22人の対照群より、はっきり幸福だとは報告せず、日常の活動からの楽しみはむしろ少なかったのです。「快楽のルームランナー」というイメージは、人にはそれぞれ固定された幸福のセットポイントがあるという考えとともに広まりました。
しかし、その後の研究はこの図式を複雑にしました。1978年の研究は、長期的な追跡ではなく、小規模な横断的比較でした。対照的に、2020年に発表されたスウェーデンの研究は、宝くじの賞金がランダムに決まることを利用して、当選から5〜22年後の数千人の参加者を調査しました。高額当選者は人生の満足度が高く、それは10年以上続きました。
その主な要因はお金の面での満足度でしたが、日々の感情的な幸福や心の健康への影響は小さいものでした。長期的なパネルデータはまた、失業や重い障害の後、以前の幸福の水準を完全には取り戻さない人がいることも示しています。順応は実在しますが、完全でも普遍的でもなく、どの種類の幸福を測るかが重要なのです。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best expresses the main idea?
最終文 Adaptation is real, but it is neither complete nor universal, and the type of happiness being measured matters. が主旨なので D。
Q2. What was a weakness of the 1978 study, according to the passage?
a small, cross-sectional comparison rather than a long-term follow-up とあるので C。cross-sectional は「一時点で比べる」こと。
Q3. Why does the author mention that the Swedish study "exploited the randomness of lottery prizes"?
当選額がランダムに決まるので、お金の効果を他の要因と切り分けやすい(自然実験)。小規模な1978年研究との対比で、より強い証拠だと示す意図なので B。
重要単語
- adaptB1動詞慣れる、適応するIt took me a month to adapt to the new school.
adapt to ~ で「~に適応する」。adopt(採用する)とのつづり違いは入試の定番ひっかけ。 - well-beingB2名詞幸福、よい状態Sleep is important for your well-being.
happiness より広く「心身ともに良い状態」。ハイフンありが標準的なつづり。 - life satisfactionB2名詞(句)人生の満足度Life satisfaction is often measured with a 0-10 scale.
satisfy(満足させる)の名詞形。be satisfied with ~ の with に注意。 - set pointC1名詞(句)基準点、もとの水準Your weight may return to its set point after a diet.
もとは体温調節などの「設定値」。幸福研究では happiness set point として使われる。 - treadmillB2名詞ルームランナー、単調な繰り返しHe runs on a treadmill every morning.
tread(踏む)+mill(臼)。比喩で「抜け出せない単調な生活」の意味もある。 - persistB2動詞持続する、固執するThe effect persisted for more than ten years.
per-(通して)+sist(立つ)。persist in ~ で「~に固執する」。形容詞 persistent。 - baselineC1名詞基準(値)Her mood soon returned to its baseline.
テニスコートの「ベースライン」と同じ語。研究では「比較の基準となる最初の値」。
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1978年の有名な研究では、宝くじ当選者は特別に幸せではなかった。人はすぐ慣れる「快楽順応」の代表例。ところが2020年に発表されたスウェーデンの大規模研究では、高額当選者の人生の満足度は10年以上高いままだったらしい。
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- Brickman, Coates & Janoff-Bulman (1978) Lottery winners and accident victims: Is happiness relative?, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Lindqvist, Östling & Cesarini (2020) Long-run effects of lottery wealth on psychological well-being, The Review of Economic Studiesdoi.org
- Lucas (2007) Adaptation and the set-point model of subjective well-being: Does happiness change after major life events?, Current Directions in Psychological Sciencedoi.org
- Diener, Lucas & Scollon (2006) Beyond the hedonic treadmill: Revising the adaptation theory of well-being, American Psychologistdoi.org
- Boswell, Boudreau & Tichy (2005) The relationship between employee job change and job satisfaction: The honeymoon-hangover effect, Journal of Applied Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













