心理学ビミョー

宝くじに当たっても幸せは続かない? 「快楽順応」研究の意外な続き

宝くじに当たっても幸せは続かない? 「快楽順応」研究の意外な続き

読む前に予想してみよう!

人は良いことにも悪いことにも、いずれ必ず完全に慣れて元の幸福度に戻る

研究カード(どんな研究?)
対象
宝くじ当選者・一般成人
規模
73人(1978年)〜数千人(2020年)
研究の種類
横断比較・自然実験・長期追跡調査
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

人は良いことにも悪いことにも慣れていく。1978年の研究で宝くじ当選者は特別幸せではなかったが、近年の大規模研究では人生の満足度が長く上がっていた。

ひとことで言うとうれしいことにも、人はだんだん慣れちゃう。でも全部じゃない!

もくじ
  1. 1978年の衝撃の研究
  2. 幸せの「ルームランナー」
  3. ところが、意外な続きが
  4. セットポイントも「絶対」ではない
  5. まとめ

宝くじで1等が当たったら、毎日がバラ色になる。そう思いませんか?

ところが心理学には、「宝くじに当たっても、人はそれほど幸せにならない」という、ちょっとショッキングな研究があります。

人は、良いことにも悪いことにもだんだん慣れていく。このしくみは「快楽順応」と呼ばれます。でも実は、この話には意外な続きがあったんです。

011978年の衝撃の研究

大きな喜びを知ってしまうと、ふだんの小さな楽しみが色あせて見える。そして、当選の喜びそのものにも、だんだん慣れていく。この研究は「幸せはお金では買えない」という話の代表例として、世界中で紹介されてきました。

02幸せの「ルームランナー」

研究者たちは、この現象を「ヘドニック・トレッドミル(快楽のルームランナー)」とたとえました。

ルームランナーの上では、どんなに走っても景色は変わりません。同じように、新しいスマホを買っても、昇進しても、しばらくすると喜びは薄れ、幸福度はもとの位置(セットポイント)に戻っていく、という考え方です。

身近な例では、転職の研究もあります。2005年のアメリカの研究では、転職した管理職の仕事への満足度は、転職直後にぐっと上がるものの、その後少しずつ下がっていく傾向が見られました。「ハネムーン(新婚期)とその後の二日酔い」効果と名付けられています。

新しい喜びも、走り続けるうちに見慣れた景色になっていく
新しい喜びも、走り続けるうちに見慣れた景色になっていく

03ところが、意外な続きが

ここからが「マジか」の続きです。

1978年の研究は、当選者が22人と少なく、比べ方にも限界がありました。そこでスウェーデンの経済学者リンドクヴィストさんらは(2020年に論文発表)、数千人規模の宝くじ参加者を、当選から5〜22年後に調査しました。

すると、高額当選者は比較グループに比べて、人生全体への満足度が高く、その差は10年以上たっても消えていなかったのです。とくに「お金の面での満足度」が上がったことが大きく影響していました。

一方で、「毎日の気分の幸せ」や心の健康への影響は、かなり小さめでした。つまり、お金は「人生をふりかえったときの満足度」は上げても、「毎日のウキウキ」はそれほど変えない、ということかもしれません。

04セットポイントも「絶対」ではない

さらに、アメリカの心理学者ルーカスさんは2007年の論文で、大規模なパネル調査(同じ人を何年も追う調査)の結果を整理。失業や重い障害などの出来事のあとには、幸福度が元の水準まで戻りきらないことがあり、慣れ方には大きな個人差があると示しました。

人はたしかに多くのことに慣れていきます。でも、すべてに完全に慣れるわけではない。幸福度のセットポイントは、思われていたほど固定されたものではなかったのです。

05まとめ

人は良いことにも悪いことにも慣れていく。だから、宝くじに当たっても毎日のウキウキはそれほど続かないかもしれません。

でも、人生の満足度は長く上がることもあるし、セットポイントも動く。判定は「ビミョー」です。幸せは手に入れた瞬間より、慣れとどう付き合うかで決まるのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPsychologists use the term "hedonic adaptation" to describe how people get used to both good and bad events. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Psychologists use the term "hedonic adaptation" to describe how people get used to both good and bad events. In a famous 1978 study, 22 lottery winners were not clearly happier than a comparison group, and they even enjoyed small daily pleasures less.

Researchers compared this to a treadmill. You keep running, but the view never changes. However, the story did not end there. Swedish researchers later studied thousands of lottery players five to 22 years after they won.

Big winners were more satisfied with their lives, and the difference lasted for more than ten years. Their daily mood, however, changed only a little. Money may raise how people judge their lives without making every day feel brighter.

117 words ・ CEFR B1

和訳を見る

心理学者は「快楽順応」という言葉で、人が良い出来事にも悪い出来事にも慣れていくことを表します。有名な1978年の研究では、22人の宝くじ当選者は比較グループよりはっきり幸せとは言えず、日々の小さな楽しみをむしろあまり楽しめていませんでした。

研究者たちはこれをルームランナーにたとえました。走り続けても、景色は決して変わらないのです。しかし、話はそこで終わりませんでした。スウェーデンの研究者たちはその後、当選から5〜22年後の数千人の宝くじ参加者を調べました。

高額当選者は人生により満足しており、その差は10年以上続きました。しかし、毎日の気分は少ししか変わりませんでした。お金は、毎日を明るく感じさせることはなくても、人が自分の人生をどう評価するかを高めるのかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. What does "hedonic adaptation" mean?

Q2. How was the Swedish study different from the 1978 study?

Q3. What can we infer from the last sentence?

重要単語

  • adaptB1
    動詞慣れる、適応するIt took me a month to adapt to the new school. adapt to ~ で「~に適応する」。adopt(採用する)とのつづり違いは入試の定番ひっかけ。
  • well-beingB2
    名詞幸福、よい状態Sleep is important for your well-being. happiness より広く「心身ともに良い状態」。ハイフンありが標準的なつづり。
  • life satisfactionB2
    名詞(句)人生の満足度Life satisfaction is often measured with a 0-10 scale. satisfy(満足させる)の名詞形。be satisfied with ~ の with に注意。
  • set pointC1
    名詞(句)基準点、もとの水準Your weight may return to its set point after a diet. もとは体温調節などの「設定値」。幸福研究では happiness set point として使われる。
  • treadmillB2
    名詞ルームランナー、単調な繰り返しHe runs on a treadmill every morning. tread(踏む)+mill(臼)。比喩で「抜け出せない単調な生活」の意味もある。
  • persistB2
    動詞持続する、固執するThe effect persisted for more than ten years. per-(通して)+sist(立つ)。persist in ~ で「~に固執する」。形容詞 persistent。
  • baselineC1
    名詞基準(値)Her mood soon returned to its baseline. テニスコートの「ベースライン」と同じ語。研究では「比較の基準となる最初の値」。

動画でもっと知る

4コマでわかる

宝くじに当たっても幸せは続かない? 「快楽順応」研究の意外な続きの4コマ漫画
1978年の有名な研究では、宝くじ当選者は特別に幸せではなかった。人はすぐ慣れる「快楽順応」の代表例。ところが2020年に発表されたスウェーデンの大規模研究では、高額当選者の人生の満足度は10年以上高いままだったらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Brickman, Coates & Janoff-Bulman (1978) Lottery winners and accident victims: Is happiness relative?, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Lindqvist, Östling & Cesarini (2020) Long-run effects of lottery wealth on psychological well-being, The Review of Economic Studiesdoi.org
  3. Lucas (2007) Adaptation and the set-point model of subjective well-being: Does happiness change after major life events?, Current Directions in Psychological Sciencedoi.org
  4. Diener, Lucas & Scollon (2006) Beyond the hedonic treadmill: Revising the adaptation theory of well-being, American Psychologistdoi.org
  5. Boswell, Boudreau & Tichy (2005) The relationship between employee job change and job satisfaction: The honeymoon-hangover effect, Journal of Applied Psychologydoi.org