「宝くじ当選者は不幸になる」は本当か? 数千人を調べた研究が出した意外な答え

読む前に予想してみよう!
宝くじの高額当選者は、当選後むしろ不幸になることが大規模研究で確かめられている
スウェーデンの大規模研究では、賞金が多い人ほど生活満足度が少し高く、その差は10年以上続いていた。日々の気分や心の健康には、はっきりした差はなかった。
- 対象
- スウェーデンの宝くじ当選者
- 規模
- 約3,400人
- 研究の種類
- 自然実験(くじで決まる賞金額の差を利用)、当選の5〜22年後に1回調査
- 確かさ
- ★★★★☆
1978年の小さな研究から「当選者は幸せにならない」と語られてきた。だがスウェーデンの大規模研究では、賞金が多い人ほど生活満足度が少し高く、その差は10年以上続いていた。
ひとことで言うと「当たると不幸になる」は言いすぎ。でも宝くじはほぼ当たらない!
「宝くじで大金が当たった人は、結局不幸になる」
テレビや雑誌で、何度も聞いたことがある話です。浪費して破産した、人間関係が壊れた……そんなエピソードもよく語られます。
でも、この話の科学的な根拠はどこにあるのでしょう? たどってみると、意外と小さな研究に行きつきました。そして最近の大規模研究は、ちょっと違う答えを出しています。
01始まりは1978年、22人の当選者
「当選者は幸せにならない」説の元祖としてよく紹介されるのが、心理学者フィリップ・ブリックマンらの研究です。
この研究は、人は良いことにも悪いことにも慣れてしまう——快楽順応(ヘドニック・アダプテーション)という考え方を広めた、とても重要な研究です。
ただし、当選者はたった22人。しかも当選金額は人によってバラバラでした。ここから「当選者は不幸になる」と言い切るのは、ちょっと無理があったのです。
02スウェーデンで数千人を調べた
そこで登場するのが、2020年の大規模研究です。
スウェーデンの経済学者エリック・リンドクヴィストらは、スウェーデンの宝くじ当選者を、当選から5〜22年後に調査しました。答えた人は約3,400人。しかも宝くじは賞金の額が偶然で決まるので、「もともとお金持ちだから幸せ」といった余計な影響を取り除きやすいのが強みです。
その結果、
- 賞金が多い人ほど、生活満足度(人生への満足感)が高かった。ただし上がり方は大きくなく、10万ドル(約1,500万円)多く当たるごとに、少しずつ上がる程度だった
- その効果は、10年以上たっても続いていた
- 一方、日々の「楽しい気分」や心の健康については、はっきりした差は見られなかった
つまり、「人生の評価」は上がるけれど、「毎日のワクワク」はそれほど変わらない、という結果だったのです。

03「年収と幸せ」の研究ではどうか
アメリカで年収と幸せの関係を調べた2010年の研究では、年収が増えると「人生の満足度」は上がり続けました。一方、「毎日の気分」は、ある年収から先は上がらなくなっていました。2つの幸せが別の動きをする点は、宝くじの研究と同じです。
ただし2023年、意見が食い違っていた研究者どうしが一緒にデータを調べ直しました。すると、多くの人は年収が高いほど毎日の気分も良く、頭打ちになるのは、もともと幸せを感じにくい一部の人だけでした。
お金は生活の安心や選択肢を増やしてくれるので、人生を振り返ったときの満足感は上がりやすい。でも、毎日の気分は人間関係や健康など、お金以外のことにも大きく左右されます。
04でも、宝くじを買う理由にはならない
ここで大事な注意です。
この研究は「当たった人」を調べたもの。日本の宝くじは、賞金の合計が原則として売り上げの半分までと法律で決められていて、買えば買うほど平均的には損をするようにできています。高額当選の確率は、ほとんどゼロに近いのです。
05まとめ
「宝くじ当選者は不幸になる」は、小さな研究から広がった言いすぎでした。大規模なデータでは、賞金が多い人ほど人生の満足度が少し高く、その差は長く続いていました。
でもそれは、宝くじを買うべき理由ではありません。お金で増える幸せと、お金では増えにくい幸せ。その違いを知っておくことの方が、ずっと役に立ちそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPhilip Brickman and his colleagues interviewed just 22 lottery winners in Illinois in 1978.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people say lottery winners become unhappy. This idea comes from a 1978 study of only 22 winners. They were not happier than other people.
But in 2020, a large study in Sweden looked at thousands of winners. Big winners were more satisfied with their lives, even more than ten years later. Their everyday mood did not change much. But remember, almost nobody wins the lottery!
66 words ・ CEFR A2
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宝くじの当選者は不幸になる、と多くの人が言います。この考えは、わずか22人の当選者を調べた1978年の研究から来ています。彼らは他の人より幸せではありませんでした。
しかし2020年、スウェーデンの大規模な研究が数千人の当選者を調べました。高額当選者は自分の人生により満足しており、それは10年以上たっても続いていました。日々の気分はあまり変わりませんでした。でも、覚えておいてください。宝くじに当たる人はほとんどいないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「当選者は不幸になる」説を、古い研究と新しい研究で検証する話なので B。
Q2. How many winners were in the 1978 study?
a 1978 study of only 22 winners とあるので C。
Q3. In this passage, "satisfied with" means ...
be satisfied with ~ は「~に満足している」。happy with が最も近いので A。
Philip Brickman and his colleagues interviewed just 22 lottery winners in Illinois in 1978. The winners were not much happier than ordinary people, and they seemed to enjoy small daily pleasures less. This study is the main source of the popular idea that lottery winners end up unhappy.
It also helped spread the idea of hedonic adaptation, which means we get used to both good and bad events. A 2020 study in Sweden was much larger. It surveyed thousands of winners 5 to 22 years after their wins.
Bigger prizes led to higher life satisfaction. The rise was modest, but it lasted for more than a decade. But their day-to-day happiness and mental health were not clearly different from those of other people.
123 words ・ CEFR B1
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1978年、フィリップ・ブリックマンらは、イリノイ州でわずか22人の宝くじ当選者にインタビューしました。当選者は一般の人とそれほど変わらない幸福度で、日々のささやかな楽しみをあまり味わえていないようでした。宝くじの当選者は結局不幸になる、という俗説は主にこの研究から来ています。
この研究は快楽順応という考え方を広めるきっかけにもなりました。快楽順応とは、私たちは良い出来事にも悪い出来事にも慣れてしまう、という意味です。2020年のスウェーデンの研究は、はるかに大規模なものでした。数千人の当選者を、当選から5〜22年後に調査したのです。
賞金が多いほど人生への満足度は高くなりました。上がり方は大きくありませんでしたが、10年以上続きました。しかし、日々の幸福感や心の健康は、ほかの人とはっきりした違いはありませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What was a weakness of the 1978 study?
interviewed just 22 lottery winners とあり、just(たった)が人数の少なさを示しているので A。
Q2. What did the Swedish study find about big winners?
「The rise was modest, but it lasted for more than a decade」とあるので C。日々の気分ははっきり違わなかった。
Q3. What does "hedonic adaptation" mean in the passage?
which means we get used to both good and bad events と説明されているので B。
In 1978, Philip Brickman and colleagues interviewed 22 people in Illinois who had won big lottery prizes, along with ordinary people and accident victims. The winners were not much happier than the comparison group, and they seemed to take less pleasure in everyday activities. The study became a landmark of hedonic adaptation research and a major source of the belief that winners end up miserable.
But with only 22 winners and prizes of very different sizes, it could say little about what winning does to people. A more rigorous test came in 2020, when Erik Lindqvist and colleagues surveyed thousands of Swedish lottery players 5 to 22 years after their wins. Because prizes are assigned by chance, the design works as a natural experiment, separating the effect of the money from differences that existed beforehand, such as wealth.
Larger prizes brought a modest but clear rise in life satisfaction that lasted over a decade. Measures of general happiness and mental health, however, showed no clear difference. Money seems to improve how people evaluate their lives without necessarily lifting their daily mood. Tickets are still a losing bet, since lotteries pay back only part of their sales as prizes.
198 words ・ CEFR B2
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1978年、フィリップ・ブリックマンらは、宝くじで高額当選したイリノイ州の22人に、一般の人や事故の被害者とあわせてインタビューを行いました。当選者は比較対象のグループと比べて特に幸せというわけではなく、日常の活動から得る楽しみも少ないように見えました。この研究は快楽順応研究の代表例となり、当選者は結局みじめになるという俗説の大きな出どころにもなりました。
しかし、当選者はわずか22人で賞金額もまちまちだったため、当選が人にどんな影響を与えるかについてはほとんど何も言えませんでした。より厳密な検証が行われたのは2020年です。エリック・リンドクヴィストらが、当選から5〜22年後のスウェーデンの宝くじ購入者数千人を調査しました。賞金は偶然で割り当てられるので、この設計は自然実験として働き、お金の効果を、資産のようにもともとあった違いから切り離すことができます。
賞金が多いほど人生への満足度は高く、その上がり方は大きくはないもののはっきりしていて、10年以上続きました。一方、全般的な幸福感や心の健康の指標には、はっきりした差は見られませんでした。お金は、人が自分の人生をどう評価するかを高めても、日々の気分まで上げるとは限らないようです。それでも、宝くじは売り上げの一部しか賞金として払い戻さないので、分の悪い賭けであることに変わりはありません。
4択リーディングクイズ
Q1. Why could the 1978 study say little about the effects of winning?
with only 22 winners and prizes of very different sizes, it could say little about what winning does to people とあるので A。
Q2. Why is the Swedish study described as a natural experiment?
Because prizes are assigned by chance, the design works as a natural experiment とあるので C。
Q3. Which statement is best supported by the passage?
Money seems to improve how people evaluate their lives without necessarily lifting their daily mood. とあるので D。
重要単語
- lotteryB1名詞宝くじThe odds of winning the lottery are tiny.
lot(くじ)+-ery。draw lots「くじを引く」。win the lottery の形で使う。 - life satisfactionB2名詞(句)生活満足度Life satisfaction rose after the big win.
人生全体を振り返った「評価」。その時々の気分(happiness, mood)と区別して使われる。 - hedonic adaptationC1名詞(句)快楽順応Hedonic adaptation makes new joys fade.
hedonic は「快楽の」。hedonic treadmill「快楽のランニングマシン」という比喩でも知られる。 - windfallC1名詞思いがけない大金She saved most of the windfall.
原義は「風で落ちた果実」。労せずに手に入るもの。windfall profit「たなぼた利益」。 - oddsB2名詞見込み、確率The odds are heavily against buyers.
常に複数形。against all odds「あらゆる困難をのりこえて」は頻出イディオム。 - rigorousC1形容詞厳密なA more rigorous study was needed.
名詞 rigor「厳しさ」。研究の質を評価するときの定番形容詞。 - miserableB2形容詞みじめな、不幸なHe felt miserable after losing his job.
名詞 misery。sad より強く「ひどくつらい」状態を表す。
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「宝くじの高額当選者は幸せにならない」説の元は1978年の22人の調査。スウェーデンで約3,400人を調べた2020年の研究では、賞金が多い人ほど生活満足度が高く、それが10年以上続いていたらしい。ただし宝くじはほぼ当たりません。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- Brickman, Coates & Janoff-Bulman (1978) Lottery winners and accident victims: Is happiness relative?, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Lindqvist, Östling & Cesarini (2020) Long-run effects of lottery wealth on psychological well-being, The Review of Economic Studiesdoi.org
- Gardner & Oswald (2007) Money and mental wellbeing: A longitudinal study of medium-sized lottery wins, Journal of Health Economicsdoi.org
- Kahneman & Deaton (2010) High income improves evaluation of life but not emotional well-being, Proceedings of the National Academy of Sciencesdoi.org
- Killingsworth, Kahneman & Mellers (2023) Income and emotional well-being: A conflict resolved, Proceedings of the National Academy of Sciencesdoi.org
- Diener, Lucas & Scollon (2006) Beyond the hedonic treadmill: Revising the adaptation theory of well-being, American Psychologistdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











