ルーレットの数字で答えが変わった。最初に見た数字に脳が引きずられる「アンカリング」

読む前に予想してみよう!
まったく関係のない数字を見せられても、その後の推測は影響を受けることがある
トベルスキーとカーネマンの実験では、ルーレットの数字が推測値を大きく動かした。
- 対象
- 大学生・一般成人
- 規模
- 数十人〜数千人(多数の実験)
- 研究の種類
- 実験研究と大規模追試
- 確かさ
- ★★★★☆
最初に見た数字が「いかり」になって、その後の判断が引きずられる。まったく無関係なルーレットの数字でも推測値が変わった。
ひとことで言うと最初に聞いた数字が、頭の中で「ものさし」になっちゃう!
「通常価格 12,800円 → 今だけ 6,980円!」
この表示を見て「安っ!」と思ったことはありませんか?
その「安い」という感覚、じつは最初に見た12,800円という数字に脳が引っ張られた結果かもしれません。心理学ではこれをアンカリング効果と呼びます。アンカーとは船の「いかり」のこと。最初の数字がいかりのように判断をつなぎとめてしまうのです。
01ルーレットの数字で「国連の答え」が変わった
この効果を世界に知らしめたのが、心理学者エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンの有名な実験です。
ルーレットの数字と、国連に占めるアフリカの国の割合なんて、どう考えても無関係。参加者もそれは分かっていたはずです。それでも、目に入った数字が答えを20ポイントも動かしたのです。
02脳はなぜ「いかり」を下ろすのか
アンカリングが起きる理由として、よく挙げられるのが次の2つです。
- 調整が足りない:最初の数字を出発点にして「もうちょっと上かな、下かな」と調整するけれど、途中で止めてしまう
- 思い出す情報が偏る:「65%より大きい?」と聞かれると、頭の中で「大きい理由」を探し始めてしまう
答えが分からないときほど、脳は手近な数字にしがみつきやすいと考えられています。
やっかいなのは、「アンカーに引っ張られないぞ」と意識していても、完全には逃れにくいこと。アンカリングについての研究をまとめたレビューでも、専門家や知識のある人でさえ影響を受けることがある、と紹介されています。不動産の査定や裁判の量刑のように、プロが判断する場面で調べられた例もあるのです。

03有名な追試では「効きめが小さかった」ことも
アンカリングは何度も確認されてきた頑丈な現象ですが、どの実験も同じ強さで再現されるわけではありません。
たとえば、自分の社会保障番号(日本でいうマイナンバーのような数字)の下2桁を書かせてから商品の値段をつけさせると、番号が大きい人ほど高い値をつけた、という2003年の研究(Ariely ら)があります。
ところが2014年に経済学者ジョン・リストらが、同じ論文にある別の実験(不快な音を聞く代わりにいくら受け取りたいかをたずねるもの)を追試したところ、元の研究ほどはっきりした効果は出ませんでした。
一方で、世界の36のサンプル(6,000人以上)が同じ手順で一斉に追試した2014年の「Many Labs」プロジェクトでは、アンカリングは最もはっきり再現された効果の一つでした。
つまり「アンカーは存在する。でも、その強さは状況や手順しだい」というのが今の落ち着きどころです。
04日常にひそむアンカーたち
- 値引き前の価格:「通常価格」が高いほど、割引後がお得に見える
- 給料・値段の交渉:最初に出された金額が、話し合いの基準になりやすい
- メニューの高級品:一番上の高いコースが、他の料理を「手ごろ」に見せる
05まとめ
私たちは数字を自分で「判断している」つもりでも、じつは最初に見た数字のまわりをうろうろしているだけかもしれません。
次に「今だけ半額!」を見たら、心の中でそっと「いかり、上げろー!」と叫んでみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1974, psychologists Amos Tversky and Daniel Kahneman showed how easily a random number can influence our…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In a famous experiment, people watched a wheel spin. It stopped at 10 or 65. Then they guessed how many African countries were in the United Nations, as a percentage.
People who saw 65 guessed much higher numbers than people who saw 10. The number on the wheel had nothing to do with the question. This is called the anchoring effect. The first number we see can change our answers.
70 words ・ CEFR A2
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ある有名な実験で、人々は回る円盤(ルーレット)を見ました。それは10か65で止まりました。その後、国連に占めるアフリカの国の割合を推測しました。
65を見た人は、10を見た人よりずっと大きい数字を答えました。円盤の数字は質問とまったく関係がありませんでした。これはアンカリング効果と呼ばれます。最初に見た数字が、私たちの答えを変えることがあるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
最終文 The first number we see can change our answers. がまとめなので D。
Q2. Who guessed higher numbers?
People who saw 65 guessed much higher numbers とあるので C。
Q3. In this passage, "had nothing to do with" means ...
have nothing to do with ~ は「~と何の関係もない」。ルーレットの数字は質問と無関係なので A。
In 1974, psychologists Amos Tversky and Daniel Kahneman showed how easily a random number can influence our judgment. Participants watched a wheel that was secretly set to stop at either 10 or 65. They were first asked whether the percentage of African countries in the United Nations was higher or lower than that number, and then asked to estimate the actual figure.
People who saw 10 gave a typical answer of 25 percent, while those who saw 65 gave 45 percent. This is known as the anchoring effect. The first number works like a ship's anchor and holds our thinking in place. It also explains why a crossed-out "regular price" makes a sale price look cheap.
116 words ・ CEFR B1
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1974年、心理学者のエイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンは、でたらめな数字がいかに簡単に私たちの判断に影響するかを示しました。参加者は、こっそり10か65で止まるように仕掛けられた円盤を見ました。まず、国連に占めるアフリカの国の割合がその数字より大きいか小さいかを聞かれ、次に実際の数値を推測するよう求められました。
10を見た人の典型的な答えは25%、65を見た人は45%でした。これはアンカリング効果として知られています。最初の数字が船のいかりのように働き、私たちの考えをその場につなぎとめてしまうのです。これは、二重線で消された「通常価格」があるとセール価格が安く見える理由も説明します。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the experiment show?
第1文 showed how easily a random number can influence our judgment が主旨なので B。
Q2. What was the typical answer from people who saw 65?
those who saw 65 gave 45 percent とあるので D。25%は10を見た人の答え。
Q3. Why does a crossed-out "regular price" make a sale price look cheap?
アンカリング効果の説明の直後に It also explains why ... とあり、通常価格がいかり(基準)になるという推論なので A。
In 1974, Amos Tversky and Daniel Kahneman spun a wheel of fortune that had been rigged to stop at either 10 or 65. They asked participants whether the share of African nations in the United Nations was above or below that number, and then asked for a precise estimate. The median answers were 25 percent and 45 percent. A meaningless number had moved people's guesses by twenty points.
Psychologists call this anchoring, the tendency for an initial figure to pull later estimates toward it, even when it is obviously irrelevant. Two explanations are usually offered. People adjust too little from the starting point, and the comparison question makes facts that fit the anchor easier to recall. Knowing about the bias does not reliably protect against it. The effect does vary in strength, though.
When John List and colleagues repeated an earlier experiment in which people named a price for hearing an annoying sound, the effect was much weaker than first reported. The large Many Labs project, with more than 6,000 participants, found anchoring to be one of its most clearly reproduced effects. So anchors are real, but how hard they pull depends on the task and the procedure.
198 words ・ CEFR B2
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1974年、エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンは、10か65のどちらかに止まるよう細工しておいた円盤を回しました。そして参加者に、国連に占めるアフリカ諸国の割合がその数字より上か下かを尋ね、その後で正確な推定を求めました。答えの中央値は25%と45%でした。意味のない数字が、人々の推測を20ポイントも動かしたのです。
心理学者はこれをアンカリングと呼びます。最初に示された数字が、たとえ明らかに無関係でも、その後の推定を自分の方へ引き寄せる傾向のことです。よく挙げられる説明は2つあります。人は出発点からの調整が足りないこと、そして比較の質問によって、アンカーに合う事実が思い出しやすくなることです。このバイアスを知っていても、確実に防げるわけではありません。ただし、効果の強さは一定ではありません。
不快な音を聞くことへの値段を人々に答えさせた以前の実験を、ジョン・リストらが繰り返したところ、効果は最初の報告よりずっと弱いものでした。一方、6,000人以上が参加した大規模なMany Labsプロジェクトでは、アンカリングは最もはっきり再現された効果の一つでした。つまり、アンカーは実在しますが、どれほど強く引っぱるかは課題や手順によって変わるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
最終文 So anchors are real, but how hard they pull depends on the task and the procedure. が結論なので B。
Q2. According to the passage, what happened when List and colleagues repeated a study?
the effect was much weaker than first reported とあるので C。
Q3. Which of the following can be inferred from the passage?
Knowing about the bias does not reliably protect against it. から、知らせるだけでは防げない可能性が推論できるので A。円盤は10か65にしか止まらないよう細工されていた。
重要単語
- anchorB2名詞・動詞いかり/基準として固定するThe first price you see can anchor your judgment.
語中の ch は /k/ で発音(アンカー)。ニュースの anchor は「総合司会者」。 - estimateB1名詞・動詞見積もり/推定するPlease estimate the number of beans in the jar.
動詞は /ˈestɪmeɪt/、名詞は /ˈestɪmət/ と発音が変わる。overestimate / underestimate も頻出。 - arbitraryC1形容詞恣意的な、でたらめなEven an arbitrary number can change our answers.
arbiter(裁定者)と同語源で「その人の気分しだい」→「根拠のない」。難関大頻出。 - biasB2名詞偏り、先入観Knowing about a bias does not always remove it.
cognitive bias「認知バイアス」、be biased against ~「~に偏見を持つ」もセットで。 - negotiationB2名詞交渉The first offer often shapes the whole negotiation.
動詞 negotiate。neg-(否定)+otium(暇)=「暇でない」→商売・交渉、という語源。 - irrelevantB2形容詞無関係なThe number on the wheel was irrelevant to the question.
ir-(否定)+relevant(関連のある)。be irrelevant to ~ の形で出る。 - replicateC1動詞(実験を)再現するThe anchoring effect has been replicated many times.
名詞 replication。研究の信頼性を語る長文で必須の語。
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ルーレットで10が出た人と65が出た人に「アフリカの国が国連に占める割合は?」と聞いたら、65を見た人の方がずっと大きい数字を答えたらしい。関係ない数字なのに。セールの「通常価格」もこの仕組み。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Tversky & Kahneman (1974) Judgment under uncertainty: Heuristics and biases, Sciencedoi.org
- Ariely, Loewenstein & Prelec (2003) "Coherent arbitrariness": Stable demand curves without stable preferences, The Quarterly Journal of Economicsdoi.org
- Maniadis, Tufano & List (2014) One swallow doesn't make a summer: New evidence on anchoring effects, American Economic Reviewdoi.org
- Klein et al. (2014) Investigating variation in replicability: A "Many Labs" replication project, Social Psychologydoi.org
- Furnham & Boo (2011) A literature review of the anchoring effect, The Journal of Socio-Economicsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












