「ヤモリの足は吸盤」はウソ。10億個のナノの先端で“分子の引き合う力”を使っていた

読む前に予想してみよう!
ヤモリは足の裏の吸盤で壁にくっついている
吸盤ではなく、指の裏の非常に細い毛と壁の分子どうしが引き合う力(ファンデルワールス力が中心)でくっついている。
- 対象
- トッケイヤモリの指の毛(剛毛)
- 規模
- 剛毛1本〜生きた個体数匹(各研究)
- 研究の種類
- 微小力センサーによる力学計測・表面化学の比較実験
- 確かさ
- ★★★★☆
ヤモリの足には吸盤もノリもない。指の裏の超極細の毛が、分子どうしが引き合う弱い力を何億倍にも積み重ねて、壁や天井にくっついていた。
ひとことで言うとヤモリの足の毛はとても細かくて、かべの分子と引っぱり合ってくっつく!
夜、窓ガラスにぺたりと張りついているヤモリ。ツルツルのガラスも、天井も、平気でスタスタ歩きます。
「足の裏が吸盤になっているんでしょ?」と思いがちですが、実はヤモリの足には吸盤もノリもありません。ヤモリが使っているのは、もっと小さな、分子の世界の力でした。
01指の裏は「毛の森」
ヤモリの指の裏には、細いしま模様のひだが並んでいます。顕微鏡で拡大すると、そこには剛毛(ごうもう)と呼ばれるとても細い毛がびっしり生えています。
2000年に『Nature』に載った研究(アメリカのルイス&クラーク大学のケラー・オータムさん、カリフォルニア大学バークレー校のロバート・フルさんたち)によると、トッケイヤモリの足1本には約50万本の剛毛があります。1本の長さは0.03〜0.13mmほどで、太さは人の髪の毛の10分の1ほど。
しかもその先は何百本にも枝分かれし、先端は0.2〜0.5マイクロメートルという、へら(スパチュラ)のような形になっています。体全体では、この先端が約10億本にもなると見積もられています。

02くっつく力の正体は「分子どうしの引き合い」
どんな物質の分子どうしにも、ごく近づくと弱く引き合う力がはたらきます。これをファンデルワールス力といいます。ふだんは弱すぎて感じませんが、ものすごく近くに、ものすごくたくさんくっつけば、話は別です。
1本1本の力は小さくても、10億本の先端がナノの距離で壁にぴったり沿えば、全体ではとても大きな力になります。
03でも、どうやって「はがす」の?
これほどくっつくなら、今度ははがすのが大変そうです。ところがヤモリは、1秒に何歩も走ることができます。
秘密は角度です。剛毛は、壁に対してある角度より大きく持ち上げると、すっと離れる性質があります。ヤモリは歩くとき、指をつま先からめくるように持ち上げます。セロハンテープを端からはがすと簡単なのと同じ理屈です。
「強くくっつく」と「簡単にはがれる」を、角度で切りかえているのです。
04どんでん返し:湿気も手伝っていた?
ファンデルワールス力だけで決まり、と思いきや、話はもう少し複雑です。
2005年、ドイツのチーム(Huber ら)は、剛毛のさらに先、へら1枚分の力を測りました。すると、湿度が高いほどくっつく力が強くなることがわかりました。表面にできるごく薄い水の膜が、くっつきを助けているらしいのです。
現在では、「主役はファンデルワールス力、条件によっては水の効果も上乗せされる」という見方が一般的です。
05まとめ
ヤモリの足は、吸盤ではなく「細かさ」そのものでくっつく、ナノテクノロジーのかたまりでした。
身近な窓ガラスに張りつく小さな生き物が、分子の力を使いこなしている。次にヤモリを見かけたら、その指の裏に10億本の「へら」が並んでいることを思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIt is often said that geckos climb walls using suction cups, but their feet have neither suction cups nor…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Geckos can walk on glass windows and even on ceilings. Many people think their feet have suction cups, but this is not true. Their toes are covered with very small hairs. The end of each hair splits into many tiny tips. Each tip pulls on the wall only a little.
But there are about one billion tips, so together they hold the gecko. To move, the gecko lifts its toes at an angle, like peeling tape.
76 words ・ CEFR A2
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ヤモリは窓ガラスの上や、天井でさえ歩くことができます。多くの人はヤモリの足に吸盤があると思っていますが、それは本当ではありません。ヤモリの指はとても細い毛でおおわれています。それぞれの毛の先は、たくさんの小さな先端に分かれています。1つ1つの先端が壁を引っぱる力はほんの少しです。
しかし先端は約10億本あるので、合わせるとヤモリの体を支えられます。動くときには、ヤモリはテープをはがすように、ある角度で指を持ち上げます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ヤモリが壁や天井にくっつくしくみ(細い毛)が全体のテーマなので C。
Q2. About how many tiny tips does a gecko have?
there are about one billion tips とあるので B。
Q3. In this passage, "peeling" tape means ...
peel は「(端から)はがす」。テープを端からめくるイメージなので A。
It is often said that geckos climb walls using suction cups, but their feet have neither suction cups nor glue. In 2000, researchers including Kellar Autumn and Robert Full measured the force of a single hair from a gecko's toe for the first time. A tokay gecko has about 500,000 of these hairs on each foot, and each hair branches into hundreds of tiny tips.
When so many tips touch a surface very closely, weak forces between molecules, called van der Waals forces, add up to a strong grip. The single hair was about ten times stronger than expected. Geckos can still run quickly, because the hairs let go easily when the toe is lifted at a certain angle.
119 words ・ CEFR B1
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ヤモリは吸盤を使って壁を登るとよく言われますが、その足には吸盤もノリもありません。2000年、ケラー・オータムさんやロバート・フルさんを含む研究者たちは、ヤモリの指の毛1本がくっつく力を初めて測定しました。トッケイヤモリは足1本に約50万本のこうした毛を持ち、それぞれの毛は何百もの小さな先端に枝分かれしています。
これほど多くの先端が表面にとても近く触れると、ファンデルワールス力と呼ばれる分子どうしの弱い力が積み重なって、強い粘着力になります。毛1本の力は予想より約10倍強いものでした。それでもヤモリが速く走れるのは、指をある角度で持ち上げると毛が簡単に離れるからです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the researchers measure in 2000?
measured the force of a single hair from a gecko's toe とあるので B。そもそも吸盤はない。
Q2. How many hairs does a tokay gecko have on each foot?
about 500,000 of these hairs on each foot とあるので C。10億は体全体の「先端」の数(A2本文)で、ここでは毛の数を問うている。
Q3. Why can geckos run quickly even though their feet stick strongly?
最終文に the hairs let go easily when the toe is lifted at a certain angle とあるので D。
The ability of geckos to run across ceilings has long fascinated scientists, and the explanation turns out to lie at the nanoscale. A gecko's toes carry hundreds of thousands of hair-like setae, each of which branches into spatula-shaped tips only 0.2 to 0.5 micrometers wide; across the whole body, there may be around a billion of them. In 2000, Kellar Autumn and colleagues measured the adhesion of a single seta and found it roughly ten times greater than estimates based on whole animals.
Two years later, the same group showed that setae stick equally well to water-repelling and water-attracting surfaces, which suggested that the geometry of the tips, rather than surface chemistry, is what matters. This pointed to van der Waals forces as the main mechanism. The story is not entirely settled, however. In 2005, a German team measuring a single spatula found that adhesion increased with humidity, so thin layers of water probably contribute too. Most researchers now regard van der Waals forces as the primary mechanism, with moisture adding to it under some conditions.
176 words ・ CEFR B2
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天井を走り抜けるヤモリの能力は長く科学者を魅了してきましたが、その説明はナノの世界にあることがわかりました。ヤモリの指には何十万本もの毛のような剛毛があり、それぞれが幅わずか0.2〜0.5マイクロメートルのへら状の先端に枝分かれしています。体全体では、その数は約10億本にもなるかもしれません。
2000年、ケラー・オータムさんらは剛毛1本の付着力を測定し、それが動物全体からの推定値の約10倍であることを発見しました。2年後、同じグループは、剛毛が水をはじく表面にも水になじむ表面にも同じくらいよくくっつくことを示し、表面の化学的性質ではなく先端の形状こそが重要だと示唆しました。これはファンデルワールス力が主なしくみであることを示していました。しかし、話は完全に決着したわけではありません。2005年、へら1枚を測定したドイツのチームは、湿度とともに付着力が増すことを発見し、薄い水の層も寄与していることを示唆しました。現在ではほとんどの研究者が、ファンデルワールス力を主なしくみとみなし、条件によっては水分がそれに上乗せされると考えています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
ナノサイズの先端とファンデルワールス力が主役で、条件によって水分が上乗せされる、という全体の流れなので C。
Q2. Why was the 2002 finding about different surfaces important?
the geometry of the tips, rather than surface chemistry, is what matters とあるので A。単一へらの測定は2005年の研究。
Q3. What does the phrase "not entirely settled" suggest about the research?
直後に2005年の湿度の研究が続き、水の寄与をめぐる議論が残っていることを示すので B。ファンデルワールス力が否定されたわけではない。
重要単語
- adhesionC1名詞付着、くっつくことGecko adhesion works even on glass.
動詞は adhere(くっつく)、形容詞は adhesive(粘着性の、接着剤)。adhere to rules「規則を守る」も頻出。 - van der Waals forceC1名詞(句)ファンデルワールス力(分子間の弱い引力)Van der Waals forces are weak but add up.
オランダの物理学者ファン・デル・ワールスの名から。化学基礎で出てくる用語を英語でも押さえておこう。 - setaC1名詞剛毛Each seta splits into hundreds of tiny tips.
複数形は setae(ラテン語由来)。bacterium → bacteria と同じく不規則な複数形に注意。 - peelB1動詞はがす、皮をむくGeckos peel their toes off the wall.
peel an orange「オレンジの皮をむく」でもおなじみ。peel off ~「~をはがす」。 - biomimeticC1形容詞生物を模倣したScientists made a biomimetic tape based on gecko feet.
bio(生命)+mimetic(まねる)。名詞 biomimetics / biomimicry は入試の科学技術テーマで頻出。 - humidityB2名詞湿度Adhesion became stronger as humidity increased.
形容詞は humid(蒸し暑い)。high humidity「高い湿度」と形容詞 high を使う点に注意。
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ヤモリが天井を歩けるのは吸盤のおかげ…ではなかった。指の裏の毛は先が枝分かれして、先端が全部で約10億本もあり、分子同士が引き合う「ファンデルワールス力」でくっついているらしい。しかもはがすときは角度を変えるだけ。
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※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












