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渡り鳥の目の中には「量子コンパス」が入っているかもしれない

渡り鳥の目の中には「量子コンパス」が入っているかもしれない

読む前に予想してみよう!

ヨーロッパコマドリの磁気コンパスは、身の回りの電子機器が出す弱い電磁ノイズで狂うことがある

研究カード(どんな研究?)
対象
ヨーロッパコマドリ(行動実験)+精製タンパク質
規模
実験室・野外の複数研究
研究の種類
行動実験・分光実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

渡り鳥は地球の磁場で方角を知る。その仕組みとして、目のタンパク質の中で起きる量子の現象が最有力候補になっている。

ひとことで言うと鳥は目で地球の「磁石の向き」を感じているかも。カギは量子のふしぎ!

もくじ
  1. 鳥の体には「方位磁石」が入っている
  2. 目の中の「くるくる回る電子のペア」
  3. 2021年、渡り鳥のクリプトクロムが磁場に反応することを確認
  4. 街の「電磁ノイズ」でコンパスが狂う
  5. まだ「証明」ではない
  6. まとめ

秋になると、小さな渡り鳥たちが、何千kmも離れた冬の住みかへ旅立ちます。地図もスマホもなしで。

鳥たちは太陽や星、景色など、いろいろな手がかりを使っています。その中でも特に不思議なのが、地球の磁場(地磁気)を感じとる力です。

そして、その仕組みのカギを握っているかもしれないのが、なんと量子力学なのです。

01鳥の体には「方位磁石」が入っている

地球は、巨大な磁石のようなものです。北極と南極の間を、目に見えない磁力線がぐるりと結んでいます。

つまり鳥は、「北はどっち?」ではなく、「磁力線が地面に突っこむ角度」から「極の方向」と「赤道の方向」を見分けているらしいのです。

では、その磁場をどこで、どうやって感じているのでしょうか。

02目の中の「くるくる回る電子のペア」

有力なのが、ラジカル対(たい)メカニズムという仮説です。

むずかしい名前ですが、イメージはこうです。

鳥の目の網膜には、クリプトクロムという光に反応するタンパク質があります。ここに光が当たると、電子がひとつポンと移動して、離れた場所に「電子のペア」ができます。電子には「スピン」という、こまのような性質があり、ペアのこまの回り方の組み合わせは、ごく弱い磁場の向きによって、わずかに変わると考えられています。

その変化が化学反応の結果を変え、最終的に「目に見える景色に、磁場の向きを表す模様が重なって見える」のでは——という説です。地磁気はとても弱いので、ふつうの化学反応では感じとれません。量子の世界の、ちょっと不思議なふるまいが必要になるわけです。

目の中の電子のペアが、磁場のコンパスになっているのかもしれない。
目の中の電子のペアが、磁場のコンパスになっているのかもしれない。

032021年、渡り鳥のクリプトクロムが磁場に反応することを確認

この仮説を大きく後押ししたのが、2021年に『Nature』に載った研究です。

ドイツ・オルデンブルク大学とイギリス・オックスフォード大学などのチーム(Xu ら)は、ヨーロッパコマドリのクリプトクロム4というタンパク質を遺伝子から作って精製し、実験室で調べました。すると、このタンパク質の中で起きる反応が、磁場によって実際に変化することが確かめられたのです。しかも、渡りをしないニワトリやハトのクリプトクロム4より、コマドリのもののほうが磁場に敏感な傾向がありました。

04街の「電磁ノイズ」でコンパスが狂う

それほど弱いノイズで狂うということは、逆に言えば、鳥のコンパスがとても繊細な量子の仕組みで動いている可能性を示しているとも考えられます。

05まだ「証明」ではない

ただし、注意も必要です。

タンパク質が実験室で磁場に反応することはわかりましたが、生きた鳥の目の中で、本当にそれがコンパスとして使われているかは、まだ完全には確かめられていません。かつては「くちばしの中の鉄の粒(磁鉄鉱)がセンサー」という説もありましたが、2012年の研究でその細胞は免疫細胞の一種だったと報告され、見直されています。ただ、鉄を使った別の磁気センサーが「地図」の役割を担っている可能性は、今も研究が続いています。

06まとめ

渡り鳥は地磁気を感じて方角を決めています。その仕組みとして、目のタンパク質の中で起きる量子の現象が最有力候補になっています。

ただ、まだ「ほぼ決まり」ではなく「かなり有力」の段階。空を渡る小さな鳥たちは、物理学のいちばん不思議な部分を、毎年の旅で使いこなしているのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMigratory birds travel thousands of kilometers using many clues, including the sun, the stars and the… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Migratory birds travel thousands of kilometers using many clues, including the sun, the stars and the Earth's magnetic field. In 1972, German scientists showed that when they changed the direction of a magnetic field, European robins tried to fly in a different direction. What the birds sensed was the angle of the magnetic field lines rather than north and south.

A leading explanation involves a light-sensitive protein called cryptochrome in the retina. When light hits it, a pair of electrons forms, and the pair's behavior may change slightly depending on the magnetic field. In 2021, researchers confirmed in the lab that a robin's cryptochrome reacts to magnetic fields. However, it has not been proven that birds actually use it as a compass.

122 words ・ CEFR B1

和訳を見る

渡り鳥は、太陽、星、地球の磁場など、多くの手がかりを使って何千キロも移動します。1972年、ドイツの科学者たちは、磁場の向きを変えると、ヨーロッパコマドリが別の方向へ飛ぼうとすることを示しました。鳥が感じとっていたのは、北と南ではなく、磁力線の角度でした。

有力な説明は、網膜にあるクリプトクロムという光に反応するタンパク質に関わるものです。光が当たると電子のペアができ、そのペアのふるまいが磁場によってわずかに変わるのかもしれません。2021年、研究者たちは実験室で、コマドリのクリプトクロムが磁場に反応することを確かめました。しかし、鳥が実際にそれを方位磁石として使っていることは証明されていません。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened when scientists changed the direction of the magnetic field in 1972?

Q2. What did the birds sense, according to the passage?

Q3. What is the author's view of the cryptochrome explanation?

重要単語

  • magnetic fieldB2
    名詞(句)磁場Birds may be able to see the Earth's magnetic field. magnet(磁石)の形容詞 magnetic。field は物理では「場」。
  • migratoryC1
    形容詞渡りをするThe European robin is a migratory songbird. migrate(移住する・渡る)の形容詞。migratory birds「渡り鳥」。
  • retinaC1
    名詞網膜Cryptochrome is found in the retina of birds. 目の奥で光を受け取る膜。lens(水晶体)、cornea(角膜)もセットで。
  • radical pairC1
    名詞(句)ラジカル対(電子のペア)A radical pair can be affected by weak magnetic fields. 化学の radical は「遊離基」。日常語の「過激な」とは別の意味。
  • disruptB2
    動詞乱す、妨げるElectronic noise can disrupt the bird's compass. dis-(ばらばらに)+rupt(壊す)。名詞 disruption。
  • orientationB2
    名詞方向定め、方角の把握Noise disrupted the robins' orientation. orient(東)が語源で「方角を合わせる」。新入生の「オリエンテーション」も同じ語。

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4コマでわかる

渡り鳥の目の中には「量子コンパス」が入っているかもしれないの4コマ漫画
渡り鳥が何千kmも迷わず飛べる理由、目の中のタンパク質で「量子力学」の現象が起きているからかもしれないらしい。しかも、街の電子機器の電磁ノイズでコンパスが狂うという実験まである。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Xu et al. (2021) Magnetic sensitivity of cryptochrome 4 from a migratory songbird, Naturedoi.org
  2. Engels et al. (2014) Anthropogenic electromagnetic noise disrupts magnetic compass orientation in a migratory bird, Naturedoi.org
  3. Wiltschko & Wiltschko (1972) Magnetic compass of European robins, Sciencedoi.org
  4. Ritz, Adem & Schulten (2000) A model for photoreceptor-based magnetoreception in birds, Biophysical Journaldoi.org
  5. Hore & Mouritsen (2016) The radical-pair mechanism of magnetoreception, Annual Review of Biophysicsdoi.org