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「1000円」と「980円」、たった20円差なのに安く見えるのはなぜ? 脳は左端の数字で判断していた

「1000円」と「980円」、たった20円差なのに安く見えるのはなぜ? 脳は左端の数字で判断していた

読む前に予想してみよう!

洋服の通販実験で、39ドルの商品が34ドルの同じ商品より売れたことがある

研究カード(どんな研究?)
対象
消費者(実験参加者・通販客・中古車市場)
規模
数百人〜2,200万件超の取引
研究の種類
実験・フィールド実験・市場データ分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

980円が1000円よりずっと安く感じるのは、数字を左から読み、一番左の桁で大きさをざっくり決めてしまいがちだから。「左端の桁効果」と呼ばれ、売り上げにも表れる。ただし、いつも効くわけではない。

ひとことで言うと脳は数字の「いちばん左」を見て、高い・安いを決めがち!

もくじ
  1. 脳は数字を「左から」ナナメ読みしている
  2. 39ドルが34ドルより売れた!?
  3. 中古車の値段にも「左端の壁」
  4. 「980円」のちょっとした注意点
  5. まとめ

スーパーで見かける「980円」「1,980円」「298円」。

冷静に考えれば、1000円との差はたった20円。でも、なぜか「1000円しないなら、まあいっか」とカゴに入れてしまう。

この「キリの悪い値段」には、ちゃんと科学的なワケがありました。

01脳は数字を「左から」ナナメ読みしている

私たちは数字を左から右へ読みます。そして、一番左の桁を読んだ時点で「だいたいこのくらい」と大きさを決めてしまいがちなのです。

980円は「9百いくら」、1000円は「千」。たった20円の差なのに、左端の数字が「9」から「1」(桁も1つ増える)に変わることで、感覚的な差がぐっと大きくなります。

これを左端の桁効果(レフト・ディジット効果)と呼びます。

0239ドルが34ドルより売れた!?

もっとびっくりな実験もあります。

シカゴ大学のエリック・アンダーソンとMITのダンカン・シメスター(所属は当時)は、女性向け衣料品の通販カタログで3回の実験をしました。値段の付け方だけを変えたカタログを、別々の客に送ったのです。3回とも、9で終わる値段にすると売れる数が増えました。

著者たちが一般向けの記事で紹介した例では、ある服を34ドル・39ドル・44ドルで載せたところ、39ドルが最もよく売れたそうです。5ドル安い34ドルよりも、です。

「9で終わる値段」は、それだけで「お買い得ですよ」というサインとして受け取られているのかもしれません。9で終わる値段の効果は、お店が前の年から売っていた商品より、新しく出た商品で強く出ていました。

同じ論文では、「SALE」の表示と9で終わる値段を組み合わせると、9の効果が弱まる傾向も報告されています。どちらも「お得ですよ」という合図なので、片方があればもう片方の役目が小さくなる、と考えられます。値段の数字は、私たちにとってただの金額ではなくメッセージでもあるのですね。

数字の「重さ」は、実際の差より左端の数字で感じてしまいがち
数字の「重さ」は、実際の差より左端の数字で感じてしまいがち

03中古車の値段にも「左端の壁」

この効果は、値段以外の数字でも現れます。

アメリカの中古車オークション2,200万件以上を分析した研究があります(Lacetera ら、2012年)。走行距離が1万マイルの区切り(例:59,999と60,000)をまたぐと、売値が階段のように一段下がることが分かりました。1,000マイルの区切りでも、小さな段差がありました。

実際の車の状態はほぼ同じなのに、左端の数字が変わるだけで「古い車」と受け取られているようです。分析からは、プロの業者より、最終的に車を買う一般のお客さんの見方が効いていると考えられています。

最近は、もっと大きなデータでも確かめられています。配車アプリの Lyft では、2,100万人の乗客を対象にした実験が行われました(List ら、2023年)。すると、運賃が14.00ドルから13.99ドルに下がるような「ドルの区切り」で、利用が段差のように増えたのです。

アメリカの小売りチェーン25社が売った3,500品目のデータ(Strulov-Shlain、2022年)も調べられています。99セントで終わる値段から1セント上げただけで、20セント以上値上げしたかのように売れ行きが落ちると推定されました。

04「980円」のちょっとした注意点

ただし、端数価格はいつも効くわけではありません。

  • 高級ブランドでは、あえて「10,000円」のようなキリのいい値段にして高級感を出すこともあります
  • 端数価格が当たり前になりすぎると、効果が薄れる可能性もあります
  • ネットで宝くじ券を買ってもらう実験(Fenneman ら、2022年、266人)では、端数価格の効果は見られませんでした。商品や場面によっては、ほとんど効かないこともあるのです
  • 69の研究をまとめた分析(Troll ら、2023年)では、端数価格で買う人が増える効果は、平均すると小さいものでした。研究ごとのばらつきも大きいことが分かっています

また、日本では「980円」「298円」のように「8」を使った値段もよく見かけます。なぜ「9」ではなく「8」なのかについては、はっきりした研究が少なく、お店側の経験則による部分も大きいと考えられます。

05まとめ

980円の「お得感」は、脳が楽をしようとして数字を左端で判断することから生まれていると考えられています。

次に値札を見たら、「これは本当に安いのか、それとも左端マジックか?」と一瞬立ち止まってみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPrices like 980 yen or 1,980 yen are everywhere, and there is a scientific reason for them. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Prices like 980 yen or 1,980 yen are everywhere, and there is a scientific reason for them. We read numbers from left to right, so our brain tends to judge a price mainly by its leftmost digit. This is called the left-digit effect. In a 2005 study, 2.99 dollars felt much lower than 3.00 dollars, but only when the leftmost digit changed.

In another experiment, the researchers said, the same dress was priced at 34, 39 or 44 dollars in catalogs sent to different customers. The 39-dollar version sold the most, even more than the cheaper one. Prices ending in 9 may tell shoppers that something is a good deal. Used-car prices also drop suddenly when the mileage passes a round number such as 60,000 miles.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

980円や1,980円のような値段はどこにでもあり、それには科学的な理由があります。私たちは数字を左から右へ読むので、脳は主に一番左の数字で値段を判断しがちです。これは左端の桁効果と呼ばれます。2005年の研究では、2.99ドルは3.00ドルよりずっと安く感じられましたが、それは左端の数字が変わるときだけでした。

研究者たちによると、別の実験では、別々の客に送った衣料品カタログで、同じドレスを34ドル、39ドル、44ドルのいずれかの価格にしました。いちばん売れたのは39ドル版で、より安いものよりも売れました。9で終わる値段は、お買い得だと買い物客に伝えているのかもしれません。中古車の価格も、走行距離が6万マイルのようなきりのいい数字を超えると急に下がります。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the left-digit effect?

Q2. In the catalog experiment, which price sold the most?

Q3. Why might a used car with 60,000 miles sell for less than one with 59,999 miles?

重要単語

  • digitB2
    名詞桁、数字The leftmost digit catches our eye first. 原義はラテン語で「指」。指で数えたことから「数字」に。digital と同語源。
  • perceiveB2
    動詞知覚する、感じとるShoppers perceive 980 yen as much cheaper. perceive A as B「AをBとみなす」。名詞 perception「知覚・認識」も頻出。
  • discountB1
    名詞値引きA sale sign signals a discount. at a discount「割引で」。動詞では「(話などを)割り引いて聞く」の意味もある。
  • heuristicC1
    名詞経験則、思考の近道Reading only the first digit is a mental heuristic. ギリシャ語 heuriskein(見つける)から。Eureka! と同語源。行動経済学の長文で必須。
  • mileageB2
    名詞走行距離Used cars with lower mileage sell for more. mile+-age(量)。航空会社の「マイレージ」も同じ語。
  • bargainB1
    名詞お買い得品、掘り出し物Prices ending in 9 often look like a bargain. It's a bargain!「お買い得だ」。動詞では「値切る、交渉する」。
  • thresholdC1
    名詞境目、しきい値Prices fell sharply at the 60,000-mile threshold. 原義は「敷居」。発音は /ˈθreʃhoʊld/(/ˈθreʃoʊld/ とも)。on the threshold of ~「~の始まりに」。

動画でもっと知る

980円が1000円よりかなり安く見えるのは気のせいじゃない。脳は数字を左から読んで、最初の桁でざっくり大きさを決めちゃうらしい。洋服の通販で「39ドル」が「34ドル」より売れた実験まである。

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出典・参考文献(9件)タップで表示
  1. Thomas & Morwitz (2005) Penny wise and pound foolish: The left-digit effect in price cognition, Journal of Consumer Researchdoi.org
  2. Anderson & Simester (2003) Effects of $9 price endings on retail sales: Evidence from field experiments, Quantitative Marketing and Economicsdoi.org
  3. Lacetera, Pope & Sydnor (2012) Heuristic thinking and limited attention in the car market, American Economic Reviewdoi.org
  4. Schindler & Kirby (1997) Patterns of rightmost digits used in advertised prices: Implications for nine-ending effects, Journal of Consumer Researchdoi.org
  5. Strulov-Shlain (2022) More than a penny's worth: Left-digit bias and firm pricing, The Review of Economic Studiesdoi.org
  6. List, Muir, Pope & Sun (2023) Left-digit bias at Lyft, The Review of Economic Studiesdoi.org
  7. Fenneman et al. (2022) Psychological price perception may exert a weaker effect on purchasing decisions than previously suggested, PLoS ONEdoi.org
  8. Stiving (2000) Price-endings when prices signal quality, Management Sciencedoi.org
  9. Troll, Frankenbach, Friese & Loschelder (2023) A meta-analysis on the effects of just-below versus round prices, Journal of Consumer Psychologydoi.org