「英語は高周波、日本語は低周波」説を音響データで検証したら、ほぼ誤解だった

読む前に予想してみよう!
日本語は低い周波数ばかりの言語なので、日本人の耳は英語の高い音を聞き取れない
話し声の平均的な周波数の分布は言語間で大きく変わらない。日本語にも「さしすせそ」のように高い周波数を多く含む音がある。
- 対象
- 日本語・英語を含む十数言語の話し声
- 規模
- 各言語の複数の話者
- 研究の種類
- 音響分析(国際比較)
- 確かさ
- ★★★☆☆
「英語は高い周波数の言語だから日本人には聞こえない」説は、話し声の音響分析とは合わない。聞き取れない本当の原因は、耳の性能ではなく「音の分類のクセ」にある。
ひとことで言うと日本人の耳は英語が聞こえないわけじゃない。音の分け方のクセが原因!
「日本語は低い周波数の言語。英語は2,000Hz以上の高い周波数の言語。だから日本人の耳には英語が聞こえない」。
英語学習の広告や本で、こんな説明を見たことはありませんか? 「高い周波数の音を聞いて耳を慣らせば、英語が聞き取れるようになる」という教材まであります。
いかにも科学っぽい話ですが、話し声の音を実際に測った研究と照らし合わせると、この説はほぼ誤解でした。
01そもそも、この説はどこから来た?
この話のルーツは、20世紀フランスの耳鼻科医アルフレッド・トマティスの理論にあるとされます。「言語ごとに、よく使う周波数の帯(パスバンド)がある」という考え方です。
日本では、ここから「英語は2,000〜12,000Hz、日本語は125〜1,500Hz」といった数字が広まりました。ただ、こうした数字が、どんな測定にもとづくのかははっきりしません。
02十数言語の話し声を測ったら、ほぼ同じだった
人の話し声は、どの言語でも低めの周波数にエネルギーが集まり、高い周波数ほど弱くなるという似たパターンを持っています。
それに、日本語にも高い周波数をたっぷり含む音があります。たとえば「さしすせそ」の「s」の音。英語のsと同じように、かなり高い周波数の成分を持っています。
「日本語は低い音しか使わない言語」という前提自体が、成り立たないのです。
03聞き取れない本当の理由は「脳の仕分け箱」
では、なぜ日本人は英語のLとRなどが聞き分けにくいのか。原因は耳の性能ではなく、脳が音を分類するクセにあります。
日本語には、英語のLとRを区別する「箱」がありません。どちらも「ラ行」という同じ箱に入れてしまうのです。
日本人と英語話者に合成した音を聞かせた研究では、英語話者がLとRを区別するときに使う手がかり(第3フォルマントと呼ばれる周波数帯)に、日本人の聞き手はあまり注意を向けず、別の手がかりに引っぱられていたことがわかりました。
聞こえていないのではなく、聞こえているのに、注目すべき手がかりがズレているのです。

04「高周波を聞く訓練」の証拠は?
トマティスの理論にもとづく聴覚訓練については、学習障害のある子どもを対象にした比較試験で、2年後まで追っても効果が支持されなかったという報告があります。また、自閉スペクトラム症への音を使った療法をまとめたコクラン・レビューでも、有効性を支持する十分な証拠はないと結論づけられています。
外国語学習に効くことを、質の高い比較試験で確かめた研究は見当たりません。
05まとめ
英語が聞き取れないのは、日本人の耳が劣っているからではありません。日本語に最適化された脳の「仕分け箱」が、英語の音をうまく分けられていないだけです。
そして脳の仕分け箱は、大人になってからでも練習で変えられることを示した研究があります。必要なのは特殊な周波数ではなく、たくさんの声で、正しい手がかりに注目する練習なのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA popular claim in Japan says that English uses high frequencies above 2,000 Hz while Japanese uses low…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some ads say, "English uses high sounds, and Japanese uses low sounds, so Japanese ears cannot hear English." Is this true? Scientists recorded people speaking more than ten languages, including Japanese and English.
The sounds of all the languages were very similar. Japanese also has high sounds, like "s." The real problem is in the brain. Japanese puts English L and R into one group. You can practice with word pairs like "light" and "right."
75 words ・ CEFR A2
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「英語は高い音を使い、日本語は低い音を使うので、日本人の耳には英語が聞こえない」と言う広告があります。これは本当でしょうか。科学者たちは、日本語と英語を含む十数の言語を話す人々の声を録音しました。
すべての言語の音はとてもよく似ていました。日本語にも「s」のような高い音があります。本当の問題は脳の中にあります。日本語では、英語のLとRを1つのグループに入れてしまうのです。light と right のような単語のペアで練習することができます。
4択リーディングクイズ
Q1. What did scientists find when they recorded many languages?
The sounds of all the languages were very similar. とあるので B。
Q2. According to the passage, where is the real problem?
The real problem is in the brain. とあるので C。
Q3. What does the passage suggest you do?
You can practice with word pairs like "light" and "right." とあるので A。
A popular claim in Japan says that English uses high frequencies above 2,000 Hz while Japanese uses low ones, so Japanese ears cannot catch English. This idea is said to come from the theories of a French doctor, Alfred Tomatis.
However, when an international team in 1994 compared the average sound spectrum of speech in more than ten languages, including Japanese and English, they found only small differences. In every language, most energy is in the lower frequencies. Japanese also contains high-frequency sounds, such as the "s" in "sa" and "su." So why do Japanese learners struggle with L and R? A 2003 study suggested that Japanese listeners paid little attention to the main cue English speakers use to tell them apart. The problem is attention, not hearing.
128 words ・ CEFR B1
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日本では、英語は2,000Hz以上の高い周波数を使い、日本語は低い周波数を使うので、日本人の耳には英語が聞こえない、という説が人気です。この考えは、フランスの医師アルフレッド・トマティスの理論から来ていると言われます。
しかし、1994年に国際チームが日本語と英語を含む十数言語の話し声の平均的な音のスペクトルを比べたところ、違いは小さいことがわかりました。どの言語でも、エネルギーのほとんどは低い周波数にあります。日本語にも、「さ」や「す」の「s」のような高い周波数の音が含まれています。では、なぜ日本人学習者はLとRに苦労するのでしょうか。2003年の研究は、日本人の聞き手は、英語話者がLとRを聞き分けるのに使う主な手がかりにほとんど注意を向けていないことを示しました。問題は注意であって、聴力ではないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 1994 international study compare?
compared the average sound spectrum of speech in more than ten languages とあるので D。
Q2. Which example of a high-frequency sound in Japanese is given?
such as the "s" in "sa" and "su" とあるので A。
Q3. What does "The problem is attention, not hearing" mean?
日本人は音を聞いているが、LとRを区別する主な手がかりに注意を向けていない、という意味なので B。
Japanese learners are often told that English occupies a high-frequency band, roughly 2,000 to 12,000 Hz, while Japanese stays below about 1,500 Hz, leaving Japanese ears unable to pick up English. The claim is usually traced to the French physician Alfred Tomatis, who proposed that each language has its own characteristic frequency band, but the specific figures circulating in Japan have no clear measurement behind them. In 1994, an international team led by Byrne compared the long-term average speech spectra of more than ten languages, including Japanese and English, and found much the same overall shape everywhere, with energy concentrated in the lower frequencies in every language.
Japanese also has high-frequency sounds such as /s/. The real difficulty lies in perception. A 2003 study using synthesized speech showed that Japanese listeners attended little to the third formant, the cue English speakers rely on to distinguish /r/ from /l/, and were drawn to other cues instead. As for listening programs based on Tomatis's ideas, a two-year controlled evaluation with children found no support for them, and a Cochrane review of sound therapies for autism found insufficient evidence of benefit. Retraining attention through varied minimal-pair practice is a better-supported strategy.
198 words ・ CEFR B2
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日本の学習者はしばしば、英語はおよそ2,000〜12,000Hzの高い周波数帯を占め、日本語は約1,500Hz以下にとどまるので、日本人の耳は英語を聞き取れない、と言われます。この主張はたいてい、各言語には特有の周波数帯があると提唱したフランスの医師アルフレッド・トマティスにさかのぼるとされますが、日本で出回っている具体的な数字には、はっきりした測定の裏づけがありません。1994年、バーン率いる国際チームは、日本語と英語を含む十数言語の長時間平均スペクトルを比較し、全体の形はどこでもほぼ同じで、どの言語でもエネルギーが低い周波数に集中していることを見出しました。
日本語にも /s/ のような高い周波数の音があります。本当の難しさは知覚にあります。合成音声を用いた2003年の研究は、日本人の聞き手は英語話者が /r/ と /l/ を区別するのに頼る手がかりである第3フォルマントにほとんど注意を向けず、代わりにほかの手がかりに引っぱられていることを示しました。トマティスの考えに基づくリスニング訓練については、子どもを対象とした2年間の比較評価でその効果は支持されず、自閉スペクトラム症への音を使った療法に関するコクラン・レビューでも、有益性を支持する十分な証拠は見つかりませんでした。さまざまなミニマルペアの練習を通じて注意を再訓練するほうが、より根拠のある方法です。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the author say about the specific frequency figures circulating in Japan?
the specific figures circulating in Japan have no clear measurement behind them とあるので B。
Q2. What was the main finding of the 1994 study?
found much the same overall shape everywhere とあるので A。
Q3. Which strategy does the author consider better supported?
最終文 Retraining attention through varied minimal-pair practice is a better-supported strategy. と一致するので D。
重要単語
- frequencyB2名詞周波数・頻度Human ears can hear a wide range of frequencies.
「頻度」の意味でも頻出(high-frequency words=頻出語)。単位は Hz(ヘルツ)。 - spectrumC1名詞スペクトル(周波数成分の分布)・範囲The speech spectrum was similar across languages.
複数形 spectra。a wide spectrum of opinions「幅広い意見」のように「範囲」の意味でも使う。 - acousticC1形容詞音響のAcoustic analysis did not support the claim.
acoustic guitar(電気を使わないギター)でおなじみ。acoustics は「音響学」。 - formantC2名詞フォルマント(声の中で強く響く周波数帯)English /r/ and /l/ differ mainly in the third formant.
母音や一部子音を聞き分ける手がかり。F1・F2・F3 と番号で呼ぶ。音声学の専門語。 - perceptionB2名詞知覚The difficulty lies in perception, not hearing.
hearing(聴力=音が届くか)と perception(どう分類・解釈するか)の区別がこの記事のポイント。 - minimal pairC1名詞(句)ミニマルペア(1音だけ違う単語の組)Light and right are a minimal pair.
sink / think、bat / bet など。発音・リスニング練習の基本教材。入試の発音問題もこの発想。 - pseudoscienceC2名詞似非科学(科学っぽいが根拠のない主張)Be careful of pseudoscience in language learning ads.
pseudo-(偽の)の p は発音しない /ˈsuːdoʊ/。pseudonym(ペンネーム)も同じ接頭辞。
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「英語は2000Hz以上の高周波、日本語は低周波だから日本人は英語が聞き取れない」という有名な説。日本語を含む十数言語の話し声を比べた研究では、平均的な音の成分は言語でほとんど変わらなかったらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Byrne et al. (1994) An international comparison of long-term average speech spectra, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
- Iverson et al. (2003) A perceptual interference account of acquisition difficulties for non-native phonemes, Cognitiondoi.org
- Kershner et al. (1990) Two-year evaluation of the Tomatis Listening Training Program with learning disabled children, Learning Disability Quarterlydoi.org
- Sinha et al. (2011) Auditory integration training and other sound therapies for autism spectrum disorders (ASD), Cochrane Database of Systematic Reviewsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












