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世界最古のパンは農業より4000年早かった。1万4400年前の「焦げたかけら」の正体

世界最古のパンは農業より4000年早かった。1万4400年前の「焦げたかけら」の正体

読む前に予想してみよう!

パンは、人類が畑で小麦を育てるようになってから生まれた食べ物だ

研究カード(どんな研究?)
対象
ヨルダン・シュバイカ1遺跡の炉の焦げた食物片
規模
24点の炭化した食物残渣
研究の種類
考古植物学的分析(電子顕微鏡など)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

ヨルダンの遺跡の焦げたかけらは、約1万4400年前の平たいパンだった。農業開始の少なくとも4000年前、狩猟採集民が野生の麦でパンを焼いていた。

ひとことで言うと畑で麦を育てるずっと前から、人はパンを焼いていた!

もくじ
  1. 黒い砂漠の、たき火のあと
  2. 材料は「野生の麦」と「草の根っこ」
  3. 畑もないのに、なぜパンを?
  4. パンは「文明のはじまり」の味?
  5. まとめ

朝ごはんのトースト、お昼のサンドイッチ。パンは、世界中の人が毎日のように食べている主食です。

では、人類が最初にパンを焼いたのは、いつだと思いますか?

「畑で小麦を育てるようになってからでしょ?」――多くの人がそう考えます。ところが、ヨルダンの遺跡で見つかった焦げた小さなかけらが、その常識をくつがえしました。最古のパンは、なんと農業が始まる少なくとも4000年前に焼かれていたのです。

01黒い砂漠の、たき火のあと

舞台は、中東・ヨルダンの北東部に広がる「黒い砂漠」。黒っぽい玄武岩の石がごろごろ転がる、乾いた土地です。

ここにあるシュバイカ1という遺跡は、約1万4600〜1万1600年前に、ナトゥーフ文化と呼ばれる人々が暮らしていた場所です。ナトゥーフの人々は、まだ畑を耕すことはなく、狩りや野生の植物の採集で暮らす狩猟採集民でした。ただし、石造りの家に定住し始めていた人々でもあり、農業の一歩手前の「前夜」の文化として注目されています。

遺跡からは、石を積んで作ったかまど(炉)が見つかりました。その中に、黒く焦げた食べ物のかけらが残っていたのです。

02材料は「野生の麦」と「草の根っこ」

かけらを分析すると、パンの材料もわかってきました。

  • 野生のヒトツブコムギ:今の小麦の祖先の1つ。人が育てた品種ではなく、野生のもの
  • ウキヤガラの仲間の塊茎(かいけい):水辺に生える草の、地下にあるイモのような部分

ほかにも、オオムギやカラスムギの仲間が使われていた可能性も指摘されています。

焦げたかけらを顕微鏡で見ると、穀物の皮のかけらや、細かくすりつぶされた粒の構造が見えます。これは、材料をすりつぶし、ふるいにかけ、こねてから焼いた証拠だと考えられています。

いわば、1万4000年以上前の「チャパティ」のように、おそらく発酵させない、うすくて平たいパンです。

焦げたかけらの中には、すりつぶした穀物の細かな構造が残っていた
焦げたかけらの中には、すりつぶした穀物の細かな構造が残っていた

03畑もないのに、なぜパンを?

ここで不思議に思いませんか? 野生の麦は、一粒一粒が小さく、集めるのも大変です。さらに、それを石ですりつぶして粉にするのは、ものすごく手間がかかります。

研究チームは、このころのパンは毎日食べる主食ではなく、特別なごちそうだったのではないかと考えています。お祝いの席や、大切な人をもてなすときに出される料理だった可能性があるのです(ただし、これは手間の大きさなどからの推測で、直接の証拠があるわけではありません)。

そして、ここからが面白いところ。「おいしいパンを、もっと食べたい」――そんな気持ちが、やがて人々に野生の麦を自分たちで育てさせるきっかけの1つになったのではないか、という考え方もあります。もしそうなら、パンが農業を生んだ、と言えるかもしれません。もっとも、これはまだ仮説の段階で、気候の変化や人口の増加など、農業の始まりにはほかにも多くの要因が考えられています。

04パンは「文明のはじまり」の味?

パン作りには、材料を集め、粉にし、こねて、火加減を調整する、というたくさんの工程が必要です。これは、知識や技術を仲間と分け合い、受けついでいく社会があったからこそできたことです。

1万4400年前の焦げたかけらは、ただの「最古のパン」ではありません。人類が自然の恵みに手を加えて、新しい食べ物を生み出していく、その長い歩みの出発点を教えてくれる証拠なのです。

05まとめ

  • ヨルダンの遺跡で、約1万4400年前のパンのかけらが見つかった
  • 農業が始まる少なくとも4000年前、狩猟採集民がパンを焼いていた
  • 材料は野生の麦と、水辺の草の根っこ
  • パンへのあこがれが、農業のきっかけの1つになった可能性もある

次にパンを手に取ったら、その香ばしい香りが、1万4000年以上前のかまどの煙とつながっていると想像してみてください。パンは、人類と一緒に歩んできた、とても古い友だちなのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn northeastern Jordan, archaeologists studied a stone fireplace at a site called Shubayqa 1, where… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In northeastern Jordan, archaeologists studied a stone fireplace at a site called Shubayqa 1, where Natufian hunter-gatherers lived. Inside, they found 24 charred pieces of food. In 2018, a team led by Amaia Arranz-Otaegui reported that these pieces were made from grains that had been ground into flour, mixed, and baked, much like flatbread.

The bread was about 14,400 years old, at least 4,000 years older than the start of farming. It was made from wild einkorn wheat and the roots of a water plant. Because making flour by hand took so much effort, the researchers think this bread may have been a special food rather than an everyday meal.

110 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ヨルダン北東部で、考古学者たちはナトゥーフ文化の狩猟採集民が暮らしていたシュバイカ1という遺跡の石のかまどを調べました。その中から、24個の焦げた食べ物のかけらが見つかりました。2018年、アマイア・アランス=オタエギが率いるチームは、これらのかけらが、穀物を粉にひき、こねて焼いたもので、平たいパンによく似ていると報告しました。

そのパンは約1万4400年前のもので、農業の始まりより少なくとも4000年古いものでした。材料は野生のヒトツブコムギと、水辺の植物の根でした。手で粉を作るのはとても手間がかかったので、研究者たちは、このパンは毎日の食事ではなく特別な食べ物だったのかもしれないと考えています。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What was the bread made from?

Q3. Why might the bread have been a special food?

重要単語

  • hunter-gathererC1
    名詞狩猟採集民Hunter-gatherers baked bread before farming began. hunt(狩る)+gather(集める)。農耕以前の人類の暮らしを表す基本語。
  • agricultureB2
    名詞農業Agriculture changed the way people lived. agri(畑)+culture(耕すこと)。culture の原義は「耕す」で、cultivate と同語源。
  • charredC1
    形容詞焦げた、炭化したArchaeologists found charred food in the fireplace. char(焦がす)の過去分詞形。charcoal(木炭)と関連づけて覚える。
  • cerealB1
    名詞穀物Wild cereals were ground into flour. ローマ神話の穀物の女神 Ceres が語源。朝食のシリアルもこの語。serial(連続の)と同音。
  • grindB2
    動詞すりつぶす、ひくThey had to grind the grains with stones. 活用は grind - ground - ground。ground(地面)と同じつづりの過去分詞に注意。
  • domesticateC1
    動詞(動植物を)栽培化する、家畜化するWheat was domesticated about 10,000 years ago. domestic(家庭の・国内の)+-ate。名詞 domestication。

4コマでわかる

世界最古のパンは農業より4000年早かった。1万4400年前の「焦げたかけら」の正体の4コマ漫画
世界最古のパン、農業が始まるより4000年以上も前に焼かれてたらしい。畑もない時代に、野生の麦をわざわざ集めて粉にしてたとか。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Arranz-Otaegui et al. (2018) Archaeobotanical evidence reveals the origins of bread 14,400 years ago in northeastern Jordan, PNASdoi.org
  2. Arranz-Otaegui et al. (2018) "Founder crops" v. wild plants: Assessing the plant-based diet of the last hunter-gatherers in southwest Asia, Quaternary Science Reviewsdoi.org
  3. Liu et al. (2018) Fermented beverage and food storage in 13,000 y-old stone mortars at Raqefet Cave, Israel: Investigating Natufian ritual feasting, Journal of Archaeological Science: Reportsdoi.org