2000年もつローマのコンクリート、長持ちの秘密は「わざと残したダマ」だった

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古代ローマのパンテオンのドームは、鉄筋の入っていないコンクリートでできている
約1900年前に完成したドーム(直径約43m)は、今も鉄筋なしのコンクリートドームとして世界最大。
- 対象
- 古代ローマのコンクリート試料と再現試料
- 規模
- 遺跡試料の分析+再現コンクリートのひび割れ実験
- 研究の種類
- 材料分析・室内実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
古代ローマのコンクリートに残る白いダマ(石灰のかたまり)は、ひび割れに水が入ると溶け出して隙間を埋める「自己修復の材料庫」だった可能性が示された。
ひとことで言うとローマのコンクリートは、ひびが入っても自分で治すしかけを持っていた!
ローマにある古代の神殿パンテオン。直径約43mの巨大なドームは、約1900年前(ハドリアヌス帝の時代)に完成してから今も崩れずに建っています。しかも、鉄筋が1本も入っていないコンクリートでできているのです。上にいくほど軽い骨材(最上部は軽石)を使い、厚みも薄くするなど、重さを減らす工夫も重ねられていました。
一方、現代のコンクリートの建物は、数十年で修理や建て替えが必要になることも少なくありません。
古代ローマ人は、どうやってこんなに長持ちするコンクリートを作ったのでしょう? その秘密の1つが、2023年に発表された研究で見えてきました。カギは、コンクリートの中に残っていた白い小さな「ダマ」だったのです。
01ローマのコンクリートの材料
古代ローマのコンクリートは、主に次のような材料でできていました。
- 石灰(せっかい):石灰岩を焼いて作る、白い粉。のりの役目をする
- 火山灰:ナポリ近くのポッツォーリなどでとれた火山灰。石灰と反応してかたまる
- 骨材:石やレンガのかけら
ローマ人は、火山灰と石灰をまぜると、水の中でもかたまる丈夫な材料になることを知っていました。港の防波堤など、海の中の建造物にもこのコンクリートが使われています。
2017年には、アメリカ・ユタ大学のマリー・ジャクソンらが、海の中のローマのコンクリートでは、海水がしみこんで火山灰と反応し、アルミナ質トバモライトという板状の鉱物が何百年もかけて育ち、すき間を埋めて強くしていることを報告しています。
02ずっと「失敗の跡」だと思われていた白いダマ
ローマのコンクリートを割ってみると、中に数ミリほどの白いかたまりが、あちこちに散らばっています。これは石灰のかたまり(ライムクラスト)です。
長い間、研究者たちはこれを「材料の混ぜ方が雑だったせいで残ったダマ」だと考えていました。パンケーキの生地に残った粉のダマのようなもの、というわけです。
でも、ある研究者たちは疑問を持ちました。「ローマ人は材料の品質にとてもこだわっていた。なのに、こんな『失敗』があちこちに残っているのはおかしくないか?」

03「熱い混ぜ方」がダマを生んだ
生石灰に水を加えると、化学反応でぐんぐん熱が出ます。この熱い状態で混ぜることで、反応が速く進み、白い石灰のかたまりが残りやすくなるのです。
つまり白いダマは失敗の跡ではなく、作り方のしるしだった可能性が高いのです。
04ダマが「ひび割れ」を治す
そして、ここからが一番の「マジか」ポイント。このダマが、コンクリートの自己修復に役立っているかもしれないのです。
コンクリートにひび割れができて、そこに雨水などがしみこむと、
- ひびの近くにある白いダマ(石灰)が、水に少しずつ溶け出す
- 溶けたカルシウムが、空気中の二酸化炭素などと反応して炭酸カルシウム(貝がらやチョークと同じ成分)の結晶になる
- その結晶が、ひび割れのすき間を埋めてふさいでしまう
研究チームは、この「ダマ入り」のコンクリートを現代の材料で再現し、わざとひびを入れて水を流す実験もしました。すると、ダマ入りのものは2週間ほどでひびがふさがり、水が通らなくなったのに対し、ダマなしのものはふさがらなかったのです。
2025年には同じ研究グループが、噴火で工事の途中のまま埋もれたポンペイの建設現場を分析し、ローマ人が実際に生石灰と火山灰を乾いたまま前もって混ぜ、あとから水を加えていた証拠を報告しています。
05未来のコンクリートのヒントに
現代のコンクリートの多くは、中に鉄筋を入れて強くしています。でも、ひび割れから水が入ると鉄筋がさびてふくらみ、コンクリートを内側から壊してしまうことがあります。
ひびを自分でふさぐしくみを取り入れられれば、建物の寿命をのばし、修理や建て替えに使う資源やエネルギー、そして二酸化炭素の排出を減らせるかもしれません。2000年前の知恵が、未来の環境問題を解くヒントになろうとしているのです。
06まとめ
- 古代ローマのコンクリートは、石灰と火山灰を使い、2000年近く長持ちしてきた
- 中の白いダマは、「熱い混ぜ方」で生まれたものだった可能性が高い
- ダマはひび割れに入った水で溶け、結晶になってすき間をふさぐ
- このしくみは、長持ちする未来のコンクリートづくりのヒントになる
「失敗の跡」だと思われていたものが、じつは最大の秘密だった。もしかすると、私たちが見過ごしている「ダマ」は、身のまわりにもまだまだ隠れているのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerSome ancient Roman buildings, such as the Pantheon, have lasted for nearly 2,000 years, even though their…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
The Pantheon in Rome has a huge concrete dome. It was finished about 1,900 years ago and is still standing. Roman concrete has small white lumps of lime in it. People once thought these lumps were mistakes.
But a 2023 study showed that when water gets into a crack, the lumps can dissolve a little and fill the crack. The concrete can fix itself!
64 words ・ CEFR A2
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ローマのパンテオンには、巨大なコンクリートのドームがあります。それは約1900年前に完成し、今も建っています。ローマのコンクリートには、小さな白い石灰のかたまりが入っています。人々はかつて、このかたまりは失敗の跡だと考えていました。
しかし2023年の研究で、ひび割れに水が入ると、このかたまりが少し溶けてひびを埋めることがわかりました。コンクリートが自分で自分を直せるのです!
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ローマのコンクリートが自分でひび割れを直せるしくみがテーマなので D。
Q2. What did people once think about the white lumps?
People once thought these lumps were mistakes. とあるので A。
Q3. In this passage, "fix itself" means ...
fix は「直す」。fix itself で「自分で自分を直す」なので C。
Some ancient Roman buildings, such as the Pantheon, have lasted for nearly 2,000 years, even though their concrete contains no steel bars. Roman concrete was made from lime, volcanic ash, and pieces of rock or brick. It often contains small white lumps of lime, which experts long believed were signs of careless mixing.
In 2023, however, a team at MIT suggested that the lumps came from "hot mixing" with quicklime, which releases heat when water is added. In tests, when cracks formed and water flowed through, the lime dissolved and formed new crystals that filled the cracks within about two weeks. Concrete without the lumps did not heal.
108 words ・ CEFR B1
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パンテオンのような古代ローマの建物の中には、コンクリートに鉄筋が入っていないにもかかわらず、2000年近くもってきたものがあります。ローマのコンクリートは、石灰、火山灰、そして石やレンガのかけらから作られていました。その中には小さな白い石灰のかたまりがよく含まれていて、専門家たちは長い間、それを雑な混ぜ方の跡だと考えていました。
しかし2023年、マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームは、このかたまりは、水を加えると熱を出す生石灰を使った「ホットミキシング(熱い混ぜ方)」によってできたものだと提案しました。実験では、ひび割れができて水が流れると、石灰が溶けて新しい結晶をつくり、約2週間でひびを埋めました。かたまりのないコンクリートは修復されませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
白い石灰のかたまりがひび割れを埋める役割を持つかもしれない、という内容なので B。
Q2. How long did it take for the cracks to fill in the tests?
filled the cracks within about two weeks とあるので D。
Q3. Why did experts change their opinion about the lumps?
実験で、かたまりがひび割れを埋める役に立つことが示されたからなので A。
The Pantheon's 43-meter dome, completed about 1,900 years ago, is still the largest unreinforced concrete dome in the world, while many modern structures need major repairs within decades. Roman concrete combined lime, volcanic ash, and rock fragments. In seawater structures, reactions with the ash slowly grew platy minerals that made the material stronger. A 2023 study led by MIT researchers looked at millimeter-scale white lime lumps, traditionally dismissed as a sign of poor mixing.
After analyzing samples from an ancient city wall, the team concluded that the lumps reflect hot mixing, in which quicklime reacts with water and releases heat. When cracks later let water in, the lumps can dissolve and recrystallize as calcium carbonate, sealing the gaps. In replica samples, cracked concrete with lumps stopped leaking within about two weeks.
Samples without lumps kept leaking. This healing has been shown only in laboratory tests. Nobody can directly measure how much it helped over two thousand years, and the Roman buildings standing today are only the ones that survived. Modern concrete is also often stronger in compression. A 2025 analysis of an unfinished construction site at Pompeii supported one part of the story, that Romans premixed quicklime and ash dry.
200 words ・ CEFR B2
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約1900年前に完成したパンテオンの直径43mのドームは、今も世界最大の無筋コンクリートのドームですが、現代の建物の多くは数十年で大規模な修理が必要になります。ローマのコンクリートは、石灰、火山灰、石のかけらを組み合わせたものでした。海水の中に建てられた建造物では、火山灰との反応によって板状の鉱物が少しずつ育ち、材料を強くしました。MITの研究者が主導した2023年の研究は、ミリ単位の白い石灰のかたまりに注目しました。
これは従来、混ぜ方が悪い証拠として片づけられてきたものです。古代の城壁の試料を分析したチームは、このかたまりは、生石灰が水と反応して熱を出す「ホットミキシング」を反映していると結論づけました。のちにひび割れから水が入ると、かたまりが溶けて炭酸カルシウムとして再び結晶化し、すき間をふさぐのです。再現試料では、かたまりを含むひび割れたコンクリートは約2週間で水漏れが止まりました。
かたまりのない試料では、水漏れが続きました。ただし、この修復が示されたのは実験室の試験だけです。2000年の間にそれがどれだけ役立ったかは誰にも直接測れませんし、今も残るローマの建物は、生き残ったものにすぎません。また、押しつぶす力に対する強さでは、現代のコンクリートのほうが上のことが多いのです。2025年のポンペイの未完成の建設現場の分析は、ローマ人が生石灰と火山灰を乾いたまま前もって混ぜていたという、話の一部を裏づけました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
石灰のかたまりによる自己修復のしくみと、その証拠の限界を述べているので C。
Q2. What does "hot mixing" involve?
hot mixing, in which quicklime reacts with water and releases heat とあるので B。
Q3. Why does the author mention that the Roman buildings standing today are only the ones that survived?
the Roman buildings standing today are only the ones that survived とあり、残った建物だけを見ると実際より優秀に見える、という注意なので D。
重要単語
- concreteB1名詞コンクリートRoman concrete has lasted for about 2,000 years.
形容詞では「具体的な」(反対は abstract)。concrete example「具体例」は頻出。 - durableB2形容詞長持ちする、耐久性のあるThe Pantheon is made of durable concrete.
dur(続く)が語源。during、endure と同じ仲間。名詞 durability。 - limeB2名詞石灰Lime reacts with volcanic ash to harden.
果物のライムと同じつづり。quicklime は「生石灰」。limestone は「石灰岩」。 - crackB1名詞ひび割れWater seeped into the crack.
動詞では「ひびが入る・割る」。crack a joke「冗談を言う」、crack a code「暗号を解く」も。 - self-healingC1形容詞自己修復のScientists are developing self-healing materials.
heal(治る・治す)。health と同語源。 - reinforceB2動詞補強するModern concrete is reinforced with steel bars.
re-+inforce(力を加える)。unreinforced は「補強されていない=無筋の」。reinforced concrete「鉄筋コンクリート」。
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古代ローマのコンクリートに入ってる白いダマ、ずっと「混ぜ方が雑だった跡」と思われてたけど、実はひび割れを自分で埋める秘密兵器だったかもしれないらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Seymour et al. (2023) Hot mixing: Mechanistic insights into the durability of ancient Roman concrete, Science Advancesdoi.org
- Vaserman et al. (2025) An unfinished Pompeian construction site reveals ancient Roman building technology, Nature Communicationsdoi.org
- Jackson et al. (2017) Phillipsite and Al-tobermorite mineral cements produced through low-temperature water-rock reactions in Roman marine concrete, American Mineralogistdoi.org
- De Belie et al. (2018) A Review of Self-Healing Concrete for Damage Management of Structures, Advanced Materials Interfacesdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













