地球・歴史・物理

一瞬で時が止まった町ポンペイ。2000年後のDNA鑑定が「親子の物語」を書き換えた

一瞬で時が止まった町ポンペイ。2000年後のDNA鑑定が「親子の物語」を書き換えた

読む前に予想してみよう!

ポンペイの噴火は8月24日に起きたと確定している

研究カード(どんな研究?)
対象
ポンペイの犠牲者の石膏像に残る骨
規模
石膏像内の骨片からの古代DNA
研究の種類
古代DNA解析(性別・血縁・祖先)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

79年の噴火で火山灰に埋もれたポンペイ。石膏像のDNAを調べると「子を抱く母」は血縁のない成人男性だった。思い込みが科学で覆された。

ひとことで言うと火山にうもれた町の人たちを、DNAで調べたら、思っていた関係とちがっていた!

もくじ
  1. その日、何が起きたのか
  2. 「人のかたち」を残した石膏像
  3. DNAが語った「本当の関係」
  4. ポンペイは「国際都市」だった
  5. 噴火は「夏」ではなく「秋」だった?
  6. まとめ

イタリア南部、ナポリの近くにある古代ローマの町ポンペイ。

西暦79年、すぐそばのヴェスヴィオ火山が大噴火を起こし、町は厚さ数mの軽石と火山灰の下に埋もれました。パン屋のかまどには焼きかけのパン、壁には選挙ポスターや落書き。人々の暮らしが、まるで一瞬で一時停止ボタンを押されたように残されたのです。

そして2024年、このポンペイをめぐって、「マジか!」な発表がありました。長く語られてきた犠牲者たちの物語が、DNAによって書き換えられたのです。

01その日、何が起きたのか

噴火の様子は、ローマの文人小プリニウスが、のちに歴史家タキトゥスにあてた手紙で書き残しています。彼は湾をはさんだ対岸の町から、噴火を目撃しました。

噴火はおおまかに、2つの段階で進んだと考えられています。

  1. 軽石と灰の雨:高さ30km前後まで噴き上がった噴煙から、軽石が雨のように半日以上降り注ぎ、屋根が重みで崩れた
  2. 火砕流・火砕サージ:噴煙の柱が崩れ、高温のガスと火山灰が猛スピードで地面をはうように流れこみ、町をのみこんだ

多くの人が命を落としたのは、2つめの段階だと考えられています。小プリニウスのおじで、博物学者だった大プリニウスも、救助に向かった先で亡くなりました。

噴煙は、まるで松の木のように空高く立ちのぼったと記録されている
噴煙は、まるで松の木のように空高く立ちのぼったと記録されている

02「人のかたち」を残した石膏像

ポンペイが有名な理由の1つが、犠牲者の石膏像です。

亡くなった人々の体は、降り積もった火山灰に包まれたまま、長い年月で朽ちていきました。すると、固まった灰の中に、人の形をした空洞だけが残ります。

1863年、発掘を指揮していた考古学者ジュゼッペ・フィオレッリは、この空洞に石膏を流しこむ方法を考えました。こうして、最期の瞬間の姿勢をそのまま写しとった像が作られたのです。

人々はその姿勢から、「わが子を抱く母親」「抱き合って亡くなった姉妹」といった物語を思い描いてきました。

03DNAが語った「本当の関係」

さらに、「抱き合って亡くなった姉妹」と考えられてきた2人のうち、少なくとも1人は遺伝的には男性だったことも判明しました。

研究チームは、現代の私たちが持つ「アクセサリーをつけているのは女性」「子どもを抱いているのは母親」といった思い込みで、昔の人々を解釈してしまう危うさを指摘しています。

さらに、石膏像は19世紀以降の修復のたびに姿勢や形が手直しされてきたこともわかっています。「物語」は、発掘した人や見せる人の手でも少しずつ作られてきたのです。

04ポンペイは「国際都市」だった

DNAからは、もう1つ興味深いことがわかりました。

調べたポンペイの人々の祖先は、主に東地中海地域(今のギリシャやトルコ、中東のあたり)から比較的最近やってきた人たちの流れを強く受けついでいたのです(ただし、調べられた人数は限られています)。同じ時代のローマの都の人々にも似た傾向が見られ、ローマ帝国が、さまざまな地域から人が集まる国際色ゆたかな社会だったことを裏づけています。

05噴火は「夏」ではなく「秋」だった?

ポンペイの研究は、今も新しい発見が続いています。

噴火の日付は、小プリニウスの手紙の写本をもとに長く8月24日とされてきました。しかし2018年、遺跡の家の壁から10月17日にあたる日付が書かれた木炭の落書きが見つかり、噴火は10月下旬ごろだった可能性が有力になっています。遺跡から見つかったザクロなどの秋の果物や、厚手の服も、この説を支えています(木炭の文字が1年以上残るとは考えにくい、というのがポイントです)。

2025年には、建設途中のまま残された工事現場の分析から、生石灰と火山灰を乾いたまま混ぜてから水を加える「ホットミキシング」という、ローマ人のコンクリートの作り方まで明らかにされました。ポンペイは、2000年たった今も、新しい「答え」をくれる場所なのです。

06まとめ

  • 79年のヴェスヴィオ火山の噴火で、ポンペイは軽石と火山灰に埋もれた
  • 犠牲者の石膏像は、灰に残った体の形の空洞に石膏を流して作られた
  • 2024年のDNA分析で、「母と子」「姉妹」という解釈が覆された
  • ポンペイの人々は、多様なルーツを持つ国際的な社会に暮らしていた

私たちは、見たものに「わかりやすい物語」をつけたくなる生き物です。でも科学は、ときにその物語に「本当にそう?」と問いかけます。ポンペイの人々は、2000年たって、ようやく「自分自身」の姿を語り始めたのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 79 AD, Mount Vesuvius erupted and buried the Roman town of Pompeii. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 79 AD, Mount Vesuvius erupted and buried the Roman town of Pompeii. First, pumice and ash fell for hours, and then fast, extremely hot flows of gas and ash swept through the town, killing many people. Their bodies left empty spaces in the hardened ash, and in 1863 an archaeologist filled them with plaster, creating famous figures.

People imagined stories about them, such as a mother holding her child. In 2024, an international team extracted DNA from bones inside the figures. They found that the "mother" was actually an adult man with no family link to the child. The study warns that modern assumptions can shape how we interpret the past.

112 words ・ CEFR B1

和訳を見る

西暦79年、ヴェスヴィオ山が噴火し、古代ローマの町ポンペイを埋めてしまいました。まず軽石と火山灰が何時間も降り、次に高速でとても熱いガスと火山灰の流れが町を襲い、多くの人の命を奪いました。遺体は固まった灰の中に空洞を残し、1863年、ある考古学者がそこに石膏を流しこんで、有名な像を作りました。

人々は像について、子どもを抱いた母親といった物語を思い描きました。2024年、国際チームが像の中の骨からDNAを取り出しました。その結果、「母親」は実は成人の男性で、子どもとは血縁がないことがわかりました。この研究は、現代の思い込みが過去の解釈を形作ってしまうことがあると警告しています。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. How were the plaster figures made?

Q3. What lesson does the study suggest?

重要単語

  • eruptionB2
    名詞噴火The eruption of Vesuvius buried Pompeii. 動詞 erupt。e-(外へ)+rupt(破る)。interrupt、bankrupt も同じ rupt。
  • plaster castC1
    名詞(句)石膏像(石膏の型)Plaster casts show the victims' last moments. plaster は「石膏・しっくい」。cast は「型に流して作ったもの」。骨折の「ギプス」も cast。
  • ancient DNAB2
    名詞(句)古代DNAAncient DNA can reveal family relationships. aDNA と略されることもある。考古学と遺伝学を組み合わせた分野は archaeogenetics。
  • assumptionB2
    名詞思い込み、仮定Modern assumptions shaped the old stories. 動詞 assume(当然のことと思う)。on the assumption that ~「~と仮定して」。
  • pyroclastic flowC1
    名詞(句)火砕流A pyroclastic flow moves faster than a car. pyro(火)+clastic(砕けた)。pyromania(放火癖)の pyro と同じ。
  • archaeologistB2
    名詞考古学者An archaeologist filled the hollows with plaster. archaeo(古い)+-logist(学者)。archaeology(考古学)。つづりの -ae- に注意(米 archeology も可)。

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4コマでわかる

一瞬で時が止まった町ポンペイ。2000年後のDNA鑑定が「親子の物語」を書き換えたの4コマ漫画
ポンペイの「子どもを抱いた母親」と言われてきた石膏像、DNAを調べたら血のつながらない大人の男性だったらしい。長年の思い込みが科学でひっくり返った。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Pilli et al. (2024) Ancient DNA challenges prevailing interpretations of the Pompeii plaster casts, Current Biologydoi.org
  2. Harper (2024) Archaeogenetics: Four letters from Pompeii, Current Biologydoi.org
  3. Vaserman et al. (2025) An unfinished Pompeian construction site reveals ancient Roman building technology, Nature Communicationsdoi.org