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1億年前ごろ、海辺の恐竜は"海の幸"も口にしていたらしい。歯の成分が内陸の恐竜と違っていた

1億年前ごろ、海辺の恐竜は"海の幸"も口にしていたらしい。歯の成分が内陸の恐竜と違っていた

読む前に予想してみよう!

恐竜の歯の炭素を調べれば、何を食べていたかがピタリと分かる

研究カード(どんな研究?)
対象
白亜紀中ごろ(約1億1000万〜9500万年前)の北米6地層の化石(恐竜・ワニの仲間・カメ・魚など)
規模
同位体分析 約300件(論文の表1の合計)
研究の種類
博物館にある化石の炭素・酸素の同位体(重さが少し違う原子)や、ごく少量の元素を調べて比べた研究(観察研究)
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

1億年前ごろの北米で、海辺の地層の恐竜やワニの仲間の歯は、内陸より「重い炭素」が多かった。海由来の食べ物が混じった可能性が高いが、何を食べたかまでは決まらない。

ひとことで言うと海辺の恐竜の歯には、海の食べ物の"印"が残っていたかも!

もくじ
  1. 歯には「食べた物の炭素」が記録されている
  2. 海辺の5か所と内陸の1か所を比べた
  3. 草食恐竜だけじゃない。ワニの仲間や魚にも"海の印"
  4. どんでん返し①:海辺でも陸の植物だけ食べていたらしい恐竜
  5. どんでん返し②:「何を食べたか」までは分からない
  6. まとめ

嵐の翌朝の海岸には、海藻や小さな海の生き物がどっさり打ち上げられます。今の海辺では、それを動物や虫が食べに来るのはよくある光景です。

では、恐竜の時代の海辺でも同じことが起きていたら? およそ1億年前(白亜紀の中ごろ)の北米で、海沿いに暮らしていた恐竜やワニの仲間の歯を調べると、内陸の仲間には見られない、海から来たらしい炭素の印が残っていました。米アーカンソー大学のフォースター(Forster)さんらが、2026年9月30日に『Frontiers in Ecology and Evolution』で発表した研究です。

ただし先に言っておくと、「恐竜が海藻をむしゃむしゃ食べていた」と決まったわけではありません。どこまで言えて、どこから先は言えないのか。順番に見ていきましょう。

01歯には「食べた物の炭素」が記録されている

炭素には、普通の炭素(炭素12)と、少しだけ重い炭素(炭素13)があります。重いほうがどれくらい混じっているかは、食べ物の種類で少しずつ違うのです。

陸の植物の多くは、光合成のときに重い炭素を取り込みにくい性質があります。一方、海藻は少し変わった光合成のやり方をしていて、重い炭素の割合が高めになります。

この割合を表す目盛りが「δ13C(デルタ・シー・サーティーン)」。基準の物質と比べて重い炭素の割合がどれだけ多いか少ないかを、‰(パーミル=1000分の1)の単位で表します。化石の歯の値はたいていマイナスで、数字が大きいほど(マイナスなら0に近いほど)重い炭素が多いという意味です。たとえば−5‰は、−10‰より重い炭素が多いことになります。食べた物の炭素は体に取り込まれて歯のエナメル質に残るので、いわば歯に押された「食べ物の産地スタンプ」です。

このスタンプは今の動物でも確かめられています。スコットランド北のオークニー諸島ノース・ロナルドセー島には、ほぼ海藻だけを食べて暮らす羊がいます。2005年の研究でこの羊5頭の歯を調べると、δ13Cは陸の植物を食べる動物の範囲からはっきり外れていました。

02海辺の5か所と内陸の1か所を比べた

結果ははっきりしていました。骨や象牙質も含めた平均で、内陸のクローバリー層は−9.36‰。海辺の5か所は−3.02〜−6.53‰で、どれも内陸より高く、統計的にも差がありました。一番傷みにくいエナメル質だけで比べても、内陸の−9.54‰に対し、海辺は−5.83〜−6.76‰です(エナメル質の試料がないダンヴェガン層を除く4か所)。

草食恐竜に絞ると、さらに分かりやすくなります。内陸の草食恐竜は平均−10.27‰。陸の植物だけを食べていた場合の計算値(約−11‰)とほぼ合います。ところが海辺のウッドバイン層では−3.58‰。ここのハドロサウルス類(カモノハシ竜)の歯は平均−4.26‰、プロトハドロスという種類の1標本は−2.17‰でした。論文はこれらの値を、海藻や海草をほぼ専門に食べていた大昔(始新世)の海牛類(ジュゴンやマナティーの仲間)の値(0〜−3‰)に匹敵すると書いています。ただし、その範囲にきっちり入るのはプロトハドロスの1標本だけで、ハドロサウルス類の平均は範囲より少し低めです。

海辺だった5か所と、内陸の1か所の化石を比べた(イメージ)
海辺だった5か所と、内陸の1か所の化石を比べた(イメージ)

03草食恐竜だけじゃない。ワニの仲間や魚にも"海の印"

海の炭素は、食物連鎖をそのまま上っていきます。海藻を食べた動物を食べれば、捕食者にも同じスタンプが付くからです。

ウッドバイン層のワニの仲間は、陸の食べ物だけなら約−12.5‰になるはずが、実際は約−5‰。論文の計算では7.5‰も高い値でした。今のフロリダ南部でも、アメリカワニ(クロコダイル)の成体は食べ物の約65%を海のものに頼っていると、同位体の分析から推定されています(2012年の研究)。

内陸のクローバリー層から出たガー(古代魚の仲間)のうろこ1枚は、ほかの内陸の動物と違って炭素の値が高く、ストロンチウムとカルシウムの比も海の魚に近い値でした。研究チームは、この魚が海と川を行き来していた可能性を考え、その場合、当時この場所から川をたどって60km以内に河口があったと推定しています。

白亜紀は今より海面が高く、嵐も強かったと考えられています。海の恵みが浜辺に届きやすい時代だったとみられます。

04どんでん返し①:海辺でも陸の植物だけ食べていたらしい恐竜

海辺の動物が全部高かったわけではありません。草食恐竜テノントサウルスの歯は、海辺のアントラーズ層でも−9.6‰。内陸のクローバリー層の仲間(−10.5‰)とほとんど同じで、陸の植物だけを食べていたように見えるのです。

実はこれが論文のカギです。空気の成分のような「環境全体」のせいで値が上がったなら、テノントサウルスも高くなるはず。そうならないのは、食べ物の違いで説明したほうが自然だ、という理屈です。

ただしテノントサウルスの試料はごく少なく、論文自身も「さらに調べる必要がある」と認めています。

05どんでん返し②:「何を食べたか」までは分からない

一番大事な注意点は、δ13Cが高い=海藻を食べた、とは限らないことです。論文が書いているように、淡水の水草の中にも値が高いものがあります。土の中の微生物の働きなど、別の説明を出している研究者もいます。

また、高い値の原因として以前は「恐竜の体の仕組みが特別だから」という説もありました。しかし2023年の研究で、同じ場所の恐竜以外の動物も軒並み高いと分かり、恐竜だけの特徴ではなさそうだとされています。「当時の空気の炭素が今と違ったから」という説も、同じ時代の内陸の値が高くないことと合わない、と論文は退けています。

ダンヴェガン層は試料が骨だけで、骨は化石になる途中で成分が変わりやすいという弱点もあります。論文自身、海と陸の炭素を見分けるには地質や別の同位体の情報が必要だとしています。

06まとめ

嵐で打ち上げられた海の恵みが、1億年前ごろの浜辺でも食物連鎖に入り込み、恐竜やワニの仲間の歯にまで届いていたのかもしれない。今の海辺で見られる光景が、恐竜の時代にもあった可能性が出てきました。

一方で、歯の炭素が教えてくれるのは「重い炭素が多い何か」が混じっていたところまで。海藻なのか、それを食べた獲物なのか、淡水の水草なのか。次の一手は、別の同位体や地層の手がかりを組み合わせて、"何を食べていたか"に迫ることになりそうです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAbout 100 million years ago, some dinosaurs in North America lived close to the sea. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

About 100 million years ago, some dinosaurs in North America lived close to the sea. Scientists from the University of Arkansas and other universities studied fossil teeth and bones from six places. Five were on the coast, and one was far inland. Seaweed holds more heavy carbon than most land plants, and this carbon stays in the teeth of the animals that eat it.

Fossils from the coast clearly had more heavy carbon than the inland ones. This was true for plant-eating dinosaurs and for crocodile relatives. Storms may have thrown seaweed and sea animals onto the beach, and that food then moved up the food chain. But one plant-eating dinosaur, Tenontosaurus, showed almost the same low values on the coast and inland.

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

約1億年前、北米の恐竜の中には海の近くに暮らすものがいた。アーカンソー大学などの科学者たちは、6か所から出た化石の歯と骨を調べた。5か所は海岸で、1か所は内陸の奥だった。海藻はほとんどの陸の植物より重い炭素を多く含み、この炭素はそれを食べた動物の歯に残る。

海岸の化石は、内陸のものよりはっきりと重い炭素が多かった。これは草食恐竜にも、ワニの仲間にも当てはまった。嵐が海藻や海の動物を浜に打ち上げ、その食べ物が食物連鎖を上っていったのかもしれない。しかし草食恐竜の1種、テノントサウルスは、海岸でも内陸でもほぼ同じ低い値を示した。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. How many of the six places were on the coast?

Q3. What can we infer about Tenontosaurus?

重要単語

  • isotopeC1
    名詞同位体(同じ元素で重さが少し違うもの)Carbon has a light isotope and a slightly heavier one. ギリシャ語 iso(同じ)+ topos(場所)。周期表で「同じ場所」に入ることから。stable isotope=安定同位体
  • enamelB2
    名詞(歯の)エナメル質Tooth enamel is the hardest part of the human body. 発音は「イナメル」(第2音節にアクセント)。鍋などのほうろう(琺瑯)も enamel
  • seaweedB1
    名詞海藻Some sheep on a small island eat seaweed on the beach. sea + weed(雑草)。数えられない名詞として使うことが多い。学術的には macroalgae(大型藻類)
  • coastalB2
    形容詞海岸の、沿岸のCoastal towns are often hit by strong storms. coast(海岸)の形容詞。coastal area / coastal waters の形でよく出る
  • inlandB2
    形容詞・副詞内陸の、内陸へThe family moved inland after the flood. in + land。inland sea(内海)は地理の長文で頻出。coastal と対で覚える
  • food chainB1
    名詞食物連鎖Small fish are an important link in the food chain. at the top of the food chain(食物連鎖の頂点に)は比喩でも使う。food web=食物網
  • predatorB2
    名詞捕食者The crocodile is a patient predator. 反対語は prey(獲物)。predator and prey のセットで入試の生物テーマに頻出
1億年前ごろ、海辺に住んでいた恐竜やワニの仲間の歯を調べたら、内陸の仲間より、海の食べ物に多い「重い炭素」が多かったらしい。嵐で打ち上がった海藻などが、食物連鎖に入り込んでいた可能性。ただし海藻を食べたと決まったわけではない。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Forster et al. (2026) Marine subsidization of dinosaurian ecosystems, Frontiers in Ecology and Evolutiondoi.org
  2. Balasse et al. (2005) The use of isotope ratios to test for seaweed eating in sheep, Journal of Zoologydoi.org
  3. Wheatley et al. (2012) Estimating marine resource use by the American crocodile Crocodylus acutus in southern Florida, USA, Marine Ecology Progress Seriesdoi.org
  4. Cullen et al. (2023) Anomalous 13C enrichment in Mesozoic vertebrate enamel reflects environmental conditions in a "vanished world" and not a unique dietary physiology, Paleobiologydoi.org
  5. Chin et al. (2017) Consumption of crustaceans by megaherbivorous dinosaurs: dietary flexibility and dinosaur life history strategies, Scientific Reportsdoi.org