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脳と心理ホント

「これは偽薬です」と正直に渡しても効いた。ハーバード大の不思議なプラセボ実験

「これは偽薬です」と正直に渡しても効いた。ハーバード大の不思議なプラセボ実験

読む前に予想してみよう!

プラセボ(偽薬)は、本人が「本物の薬だ」と信じていないと効果がまったく出ない

研究カード(どんな研究?)
対象
過敏性腸症候群・慢性腰痛などの患者
規模
1試験あたり数十〜約100人、メタ分析11試験
研究の種類
ランダム化比較試験(盲検化なし)+メタ分析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「有効成分ゼロの偽薬です」と説明して渡したのに、過敏性腸症候群の患者の症状が改善した。だますことなく効く「オープンラベル・プラセボ」として研究が進む。

ひとことで言うと「ニセの薬だよ」と言われて飲んでも、体が楽になることがある!

もくじ
  1. 「中身ゼロ」と説明して渡した
  2. 腰痛でも、似た結果が
  3. なぜ「ウソじゃない偽薬」が効くの?
  4. まとめ

プラセボ(偽薬)効果という言葉を聞いたことはありますか? 有効成分の入っていない薬でも、「効く」と信じて飲むと、本当に症状が軽くなることがある現象です。

この効果は、「本人が本物の薬だと思い込んでいること」が前提だと考えられてきました。だます必要があるから、医療の現場では使いにくい。

ところが2010年、ハーバード大の研究チームが、この常識をくつがえす実験を発表しました。「これは偽薬です」と正直に伝えて渡しても、効果が出たのです。

01「中身ゼロ」と説明して渡した

偽薬であることを隠さずに渡すので、この方法はオープンラベル・プラセボと呼ばれます。

02腰痛でも、似た結果が

その後、ほかの症状でも研究が進みました。

ポルトガルの研究者らは、慢性的な腰痛に悩む97人をくじ引きで2つのグループに分けました(Pain, 2016)。片方は、ふだんの治療に加えて偽薬を3週間飲みます。もう片方は、ふだんの治療だけです。すると偽薬グループのほうが、痛みや、腰痛による生活の支障が軽くなったと報告されました。

ドイツの研究チームは、11の試験の結果をまとめて分析しました(メタ分析、Scientific Reports, 2021)。対象は腰痛、がんに伴う疲労感、アレルギー性鼻炎、うつ病などです。その結果、オープンラベル・プラセボには全体として中程度の効果がありました。

ただし、注意点もあります。

  • 患者は自分が偽薬を飲んでいると知っています。そのため、どちらのグループかを本人に分からなくする「盲検化」ができません。
  • 効果の多くは「楽になったか」という本人の申告で測られています。研究ごとの結果のばらつきも大きいです。
  • 偽薬と一緒に「効くことがある」という前向きな説明もしているので、偽薬と説明のどちらが効いたのかを分けられません。
  • 研究の進め方による結果のかたよりの心配は「中程度」と評価されています。確かな結論には、もっと大きく厳密な試験が必要です。
「薬を飲む」という行動そのものが、体を楽にする合図になるのかもしれない
「薬を飲む」という行動そのものが、体を楽にする合図になるのかもしれない

03なぜ「ウソじゃない偽薬」が効くの?

だまされていないのに効く理由は、まだはっきりとは分かっていません。いくつかの考え方があります。

  • 「薬を飲む」行動そのものの力:薬を飲むことが、「ケアされている」「よくなっていく」という合図になる
  • 条件づけ:これまで薬を飲んで楽になった経験が、体に「錠剤=楽になる」と覚えさせている
  • 医療者との関わり:丁寧に説明を受け、話を聞いてもらうこと自体が安心感を生む

実際、カプチャクらの実験でも、医療スタッフが温かく丁寧に関わることが大切にされていました。

04まとめ

「偽薬だと分かっていても効く」――。私たちの体には、安心や期待によって不調を和らげる力があるのかもしれません。

だますことなく、その力を引き出せるとしたら。オープンラベル・プラセボは、「薬とは何か」「ケアとは何か」をあらためて考えさせてくれる研究です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe placebo effect happens when a pill without any active ingredient makes people feel better. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The placebo effect happens when a pill without any active ingredient makes people feel better. It was long believed that this only works if patients think the pill is real. In 2010, however, Harvard researchers gave 80 patients with irritable bowel syndrome either no pills or pills that were clearly described as placebos.

The patients were told the pills contained no medicine but might still help the body heal itself. After three weeks, about 60% of the placebo group said their symptoms were adequately relieved, compared with about 35% of the no-pill group. Later studies of back pain found similar results. However, because patients knew what they were taking, the studies could not be blinded.

115 words ・ CEFR B1

和訳を見る

プラセボ効果とは、有効成分の入っていない錠剤で人の具合が良くなることです。これは、患者がその錠剤を本物だと思っている場合にしか効かないと長く信じられてきました。しかし2010年、ハーバード大学の研究者たちは、過敏性腸症候群の患者80人に、錠剤を何も渡さないか、偽薬だとはっきり説明した錠剤を渡しました。

患者たちは、その錠剤には薬が入っていないが、体が自分で治る働きを助けるかもしれないと伝えられました。3週間後、偽薬グループの約60%が症状が十分に和らいだと答えたのに対し、錠剤なしのグループでは約35%でした。その後の腰痛の研究でも同様の結果が得られました。しかし、患者は自分が何を飲んでいるか知っていたので、これらの研究は盲検化できませんでした。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. What percentage of the placebo group reported adequate relief?

Q3. Why could the studies not be blinded?

重要単語

  • placeboC1
    名詞偽薬、プラセボA placebo contains no active ingredient. ラテン語で「私は喜ばせるだろう」。placebo effect「プラセボ効果」は医療・心理の長文の定番。
  • deceptionC1
    名詞だますこと、欺瞞Open-label placebos work without deception. 動詞 deceive(だます)、形容詞 deceptive(人を欺く)。
  • randomized controlled trialC1
    名詞(句)ランダム化比較試験A randomized controlled trial compares groups chosen by chance. 略して RCT。治療効果を調べる研究デザインの代表格。
  • symptomB2
    名詞症状Pain is a common symptom of many illnesses. 発音は /ˈsɪmptəm/(p はほぼ聞こえない)。「兆候」の意味で比喩的にも使う。
  • blindingC1
    名詞盲検化Blinding is impossible when patients know what they take. double-blind(二重盲検)は患者も医師もどちらの群か知らない方式。
  • inertC1
    形容詞(化学的に)不活性の、効き目のないA placebo is an inert pill. inertia(慣性・惰性)と同語源。inert gas「不活性ガス」。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「これは偽薬です」と正直に渡しても効いた。ハーバード大の不思議なプラセボ実験の4コマ漫画
「これは中身のない偽薬です」と正直に説明して渡したのに、患者さんの症状が改善した。そんなハーバード大の実験があるらしい。だまさなくても効くプラセボ。心と体のつながり、奥が深すぎる。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Kaptchuk et al. (2010) Placebos without deception: a randomized controlled trial in irritable bowel syndrome, PLoS ONEdoi.org
  2. Carvalho et al. (2016) Open-label placebo treatment in chronic low back pain: a randomized controlled trial, Paindoi.org
  3. Charlesworth et al. (2017) Effects of placebos without deception compared with no treatment: a systematic review and meta-analysis, Journal of Evidence-Based Medicinedoi.org
  4. von Wernsdorff et al. (2021) Effects of open-label placebos in clinical trials: a systematic review and meta-analysis, Scientific Reportsdoi.org