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脳と心理

左利きはなぜ少ない? 約1割が1万年以上変わらない理由を「ケンカ」と「協力」の進化から読み解く

左利きはなぜ少ない? 約1割が1万年以上変わらない理由を「ケンカ」と「協力」の進化から読み解く

読む前に予想してみよう!

左利きの割合は、大昔から今まで大きく変わらず、だいたい1割前後だと考えられている

研究カード(どんな研究?)
対象
世界各地の人々
規模
数百の研究のメタ分析ほか
研究の種類
メタ分析・観察研究・数理モデル
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

左利きは世界で約1割(10.6%)。少数派ほど戦いで有利な「闘争」と、同じ利き手が便利な「協力」。この2つのつり合いで1割前後に保たれる、という説がある。

ひとことで言うと左利きは10人に1人。「珍しいと強い」と「同じが便利」の綱引き!

もくじ
  1. 左利きは本当に1割? 世界の研究をまとめると
  2. 1万年前も1割だった? 洞窟の手形が語ること
  3. 闘争仮説:珍しい左利きはケンカに強い
  4. 協力のモデル:だから右利きが多数派
  5. 左利きを決める遺伝子は1つではない
  6. まとめ

クラスに左利きの人は何人いますか? 40人のクラスなら、だいたい4人前後のはずです。

結論から言うと、左利きの割合は世界全体でおよそ1割(最も良い推定で10.6%)です。なぜ半々にならず、かといってゼロにもならないのでしょう。

よく知られているのが、2つの力がつり合っているという説です。1つは「少数派ほど戦いで有利」という力。もう1つは「みんな同じ利き手のほうが協力しやすい」という力です。この2つが引っぱり合って、1割前後に保たれているというのです。

01左利きは本当に1割? 世界の研究をまとめると

2020年、ギリシャやイギリスなどの研究チームが、心理学のトップ誌 Psychological Bulletin に論文を発表しました。利き手の割合を調べた数百の研究をまとめた、メタ分析(たくさんの研究結果をまとめて分析する方法)です。

同じ「左利き」でも、定義しだいで数字は倍近く変わります。

021万年前も1割だった? 洞窟の手形が語ること

大昔の左利きの割合を、フランス・モンペリエ大学のフォーリーさんとレイモンさんは、ユニークな方法で調べました。

壁に当てる手と管を持つ手で、昔の人の利き手が推測できる
壁に当てる手と管を持つ手で、昔の人の利き手が推測できる

西ヨーロッパの洞窟には、旧石器時代(約3万5000〜1万年前)の「手形」が残っています。片手を壁に当て、その上から管で顔料を吹きつけて、手の形を白く抜いたものです。管を持つのが利き手だとすると、壁に残った手が左手なら右利き、右手なら左利きだったことになります。

2004年の報告では、この洞窟の手形と、現代のフランスの大学生を比べました。大学生にも同じ作業をしてもらったのです。結果、左利きの割合に差は見られませんでした。1万年以上たっても、左利きは「少数派だけど消えない」存在だったのです。

03闘争仮説:珍しい左利きはケンカに強い

では、なぜ消えないのか。レイモンらが1996年に提案したのが闘争仮説です。

右利きばかりの世界では、相手は左利きとあまり戦ったことがありません。だから、左利きが繰り出す慣れない角度からの攻撃に戸惑います。つまり少数派であること自体が武器になる。ただし左利きが増えすぎると、この有利さは薄れます。そのため、割合は低いところで落ち着く、という考え方です。

ただし、闘争仮説にも弱点があります。殺人の多さと左利きの割合の関係は相関(一緒に増える関係)で、どちらが原因かは決められません。スポーツでの有利さが、大昔に生き残りや子孫の数を左右していたのかも、確かめられていません。

04協力のモデル:だから右利きが多数派

一方で、左利きが有利なら、なぜ5割まで増えないのでしょう。米ノースウェスタン大学のエイブラムスとパナッジョは2012年、協力に注目した数理モデルを発表しました。利き手の割合がどう決まるかを、数式で予想するものです。

道具や武器を共有したり、並んで作業したりするなら、みんな同じ利き手のほうが便利です。協力の利点は「多数派に合わせる」方向に働きます。闘争の利点は「少数派になる」方向に働きます。このモデルは、2つのバランスから「右利きが圧倒的多数、左利きは少数派」という世界を数字で説明できたといいます。プロスポーツで種目ごとに左利きの多さが違うことも説明できたそうです。

05左利きを決める遺伝子は1つではない

では、左利きは遺伝で決まるのでしょうか。2009年の研究は、オーストラリアとオランダの双子とその兄弟、5万4000人以上を調べました。利き手の違いのうち、遺伝で説明できるのは約4分の1。残りは、家族で共有しない環境や偶然の影響でした。

約177万人の遺伝子を調べた研究もあります。左利きに関わる場所が41か所見つかりましたが、どれも影響はわずかでした。「これさえあれば左利き」という単一の遺伝子はないのです。

06まとめ

左利きは世界で約1割。洞窟の手形を見るかぎり、その割合は1万年以上ほとんど変わっていないようです。「珍しいほど強い」と「同じほうが協力しやすい」の綱引きが、このバランスを作っているのかもしれません。

左利きと天才・寿命の関係については「左利きは天才が多い」はホント?と「左利きは9年早死に」説の記事をどうぞ。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMore than 10,000 years ago, people left prints of their hands in caves. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

More than 10,000 years ago, people left prints of their hands in caves. These prints suggest that about the same share of people were left-handed then as now. Today the figure is about ten percent. A 2020 review of hundreds of studies gave a best estimate of 10.6 percent, although the number changed depending on how handedness was measured.

Why do left-handers stay so rare? One popular answer is the fighting hypothesis. Because left-handers are unusual, their opponents are not used to them, and this helps them in fights and sports.

But being like everyone else also helps. Sharing tools and working side by side is easier when most people use the same hand. These two forces may balance each other and keep the number of left-handers low.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1万年以上前、人々は洞窟に手形を残しました。これらの手形からは、当時も今とほぼ同じ割合の人が左利きだったことがうかがえます。現在、その割合は約10パーセントです。数百の研究をまとめた2020年のレビューは、最も良い推定値を10.6パーセントとしましたが、その数字は利き手の測り方によって変わりました。

なぜ左利きはこれほど少ないままなのでしょうか。よく知られた答えの一つが「闘争仮説」です。左利きはめずらしいため相手が慣れておらず、それが戦いやスポーツで有利に働くというものです。

しかし、ほかの人と同じであることも役に立ちます。ほとんどの人が同じ手を使うほうが、道具を共有したり並んで作業したりしやすいのです。この2つの力がつり合って、左利きの数を少なく保っているのかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What was the best estimate in the 2020 review?

Q3. According to the fighting hypothesis, what would happen if left-handers became very common?

重要単語

  • left-handedA2
    形容詞左利きのAbout ten percent of people are left-handed. 左利きの人は left-hander。a left-handed compliment は「ほめているようでけなしている言葉」という慣用句。
  • handednessC1
    名詞利き手Handedness is partly influenced by genes. handed(〜の手を持つ)+-ness。心理学・脳科学の長文で使われる学術語。
  • prevalenceC1
    名詞割合・有病率The prevalence of left-handedness is about 10%. prevail(広まる)の名詞形。形容詞 prevalent「広く行きわたった」も入試頻出。
  • frequency-dependentC1
    形容詞頻度に依存するFrequency-dependent selection favors rare types. frequency(頻度)+dependent(依存した)。少数派ほど有利になる選択を negative frequency-dependent selection と言う。
  • advantageB1
    名詞有利な点Left-handers may have an advantage in boxing. have an advantage over ~「~より有利だ」、take advantage of ~「~を利用する」はどちらも最頻出。反対は disadvantage。
  • heritableC1
    形容詞遺伝するHandedness is only partly heritable. inherit(受け継ぐ)と同語源。名詞 heritability(遺伝率)は双子研究の文脈で必ず出てくる。

動画でもっと知る

左利きは世界で約10.6%。洞窟の手形を調べると、1万年以上前からほぼ同じ割合だったらしい。少数派ほどケンカやスポーツで有利、でも道具は右利き向き。この「綱引き」が1割を保っているという説がある。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Papadatou-Pastou et al. (2020) Human handedness: A meta-analysis, Psychological Bulletindoi.org
  2. Raymond et al. (1996) Frequency-dependent maintenance of left handedness in humans, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
  3. Faurie & Raymond (2004) Handedness frequency over more than ten thousand years, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
  4. Abrams & Panaggio (2012) A model balancing cooperation and competition can explain our right-handed world and the dominance of left-handed athletes, Journal of the Royal Society Interfacedoi.org
  5. Medland et al. (2009) Genetic influences on handedness: Data from 25,732 Australian and Dutch twin families, Neuropsychologiadoi.org