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耳を動かす筋肉は「無駄な名残」じゃなかった。聞こうとすると、その筋肉は今も働いている

耳を動かす筋肉は「無駄な名残」じゃなかった。聞こうとすると、その筋肉は今も働いている

読む前に予想してみよう!

人の耳を動かす筋肉は、完全に機能を失っている

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人
規模
参加者20人(別実験でも同規模)
研究の種類
表面筋電図を用いた実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

人の耳を動かす筋肉は退化したとされてきたが、注意を向けた音の方向に合わせて筋電図に活動が現れ、いちばん聞き取りにくい条件では耳の上の筋肉の活動が大きくなった。

ひとことで言うと犬のように耳は動かせなくても、聞こうとすると耳の筋肉は働いている。

もくじ
  1. 「神経の化石」を探す実験
  2. 「がんばって聞く」と強くなる
  3. 何の役に立つの?
  4. どんでん返し:動きは目には見えないレベル
  5. まとめ

犬や猫は、音がするとサッと耳を向けます。耳そのものを動かして、音を集める向きを変えているのです。

人間にはできません。耳の周りには耳介筋(じかいきん)という筋肉がありますが、ほとんどの人は意識的に動かせず、「退化した器官」の代表例として教科書に載ってきました。

ところが2020年、ドイツの研究チームが、その筋肉がまだ働いていたことを示しました。

01「神経の化石」を探す実験

研究チームはこれを、約2500万年前に失われたとされる「耳を向けるシステム」が、脳の中に神経の化石(neural fossil)として残っている証拠だと表現しました。

02「がんばって聞く」と強くなる

その後の研究で、もう一歩踏み込んだ結果が出ます。

つまり、

  • 後ろの筋肉 → 音の方向に反応
  • 上の筋肉 → 聞き取りのがんばり(努力)に反応

という役割の違いがありそうなのです。

耳の周りの小さな筋肉の電気活動を、皮膚の上から記録する
耳の周りの小さな筋肉の電気活動を、皮膚の上から記録する

03何の役に立つの?

この発見は、基礎研究としての面白さだけでなく、応用も期待されています。

研究者が挙げているのは、補聴器への応用です。もし耳の筋肉の活動から「この人はどちらの音に注意を向けているか」「どれくらい聞き取りに苦労しているか」がわかれば、その方向の音を強め、他を抑える補聴器が作れるかもしれません。

脳波より測りやすく、耳のすぐ近くで記録できるのも利点です。

04どんでん返し:動きは目には見えないレベル

勘違いしないでほしいのは、この活動が見える動きではないことです。

記録されているのは、皮膚の上から測れるごくわずかな電気信号で、耳が実際に動くわけではありません(意識的に耳を動かせる人は人口の一部にいますが、それとは別の話です)。

また、参加者は20人前後の小規模な研究で、効果の大きさには個人差があります。筋電図は顔の表情の筋肉や、体の動きのノイズを拾いやすいという技術的な難しさもあります。

05まとめ

  • 人の耳を動かす筋肉は「退化した」とされてきたが、電気的な活動は残っている
  • 注意を向けた音の方向に応じて、筋肉の活動が変わる
  • 聞き取りがいちばん難しい条件では、上の筋肉の活動がさらに大きくなる
  • 補聴器への応用が期待されるが、動きは目に見えないレベル

耳を動かせないあなたの耳も、好きな音のほうへ、ほんのわずかに「向こうとしている」。2500万年前の名残が、今日も働いているのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany animals turn their ears toward interesting sounds, but humans lost this ability millions of years ago. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many animals turn their ears toward interesting sounds, but humans lost this ability millions of years ago. The muscles around our ears have therefore been called vestigial, meaning they have lost their original purpose. In 2020, however, Strauss and his team in Germany recorded tiny electrical signals from these muscles.

When participants paid attention to sounds from a certain direction, the muscles on that side became more active. In 2025, the same group found that one muscle above the ear became especially active when listening was very difficult, such as when several voices were talking at once. The ears do not visibly move, but researchers hope this activity could someday help control smarter hearing aids.

115 words ・ CEFR B1

和訳を見る

多くの動物は興味を引く音の方へ耳を向けますが、人間は何百万年も前にこの能力を失いました。そのため、耳の周りの筋肉は退化した、つまり元の目的を失ったと言われてきました。しかし2020年、ドイツのシュトラウスと彼のチームは、これらの筋肉からごく小さな電気信号を記録しました。

参加者が特定の方向からの音に注意を向けると、その側の筋肉がより活発になりました。2025年、同じグループは、何人もの声が同時に話しているときのように聞き取りがとても難しいとき、耳の上にある筋肉の一つが特に活発になることを発見しました。耳は目に見えて動くわけではありませんが、研究者たちは、この活動がいつか、より賢い補聴器を制御するのに役立つことを期待しています。

4択リーディングクイズ

Q1. What does "vestigial" mean in this passage?

Q2. When did the muscle above the ear become especially active?

Q3. How might this research be used in the future?

重要単語

  • vestigialC1
    形容詞退化した・名残のThese are vestigial muscles. vestige(痕跡)から。vestigial organ「痕跡器官」。
  • pinnaC1
    名詞耳介(耳の外側の部分)Animals turn the pinna toward sounds. ラテン語で「羽」。日常語では単に ear(外に見える耳)。
  • electromyogramC1
    名詞筋電図The electromyogram showed tiny signals. electro(電気)+myo(筋肉)+gram(記録)。略して EMG。
  • attentionA2
    名詞注意Attention changed the muscle activity. pay attention to ~「~に注意を払う」は最重要熟語。
  • effortB1
    名詞努力Listening in noise takes effort. make an effort to do「~しようと努力する」。effortless は「楽々とした」。
  • reflexB2
    名詞反射Part of the response is a reflex. 形容詞 reflexive(反射的な)。reflect(反射する・よく考える)と同語源。

4コマでわかる

耳を動かす筋肉は「無駄な名残」じゃなかった。聞こうとすると、その筋肉は今も働いているの4コマ漫画
犬や猫は音の方へ耳を向けるが人はできない。でも耳の筋肉に電極を貼ると、注意を向けた音の方向に活動が出て、いちばん聞き取りにくい条件では耳の上の筋肉の活動が強くなったらしい。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Strauss et al. (2020) Vestigial auriculomotor activity indicates the direction of auditory attention in humans, eLifedoi.org
  2. Schroeer et al. (2025) Electromyographic correlates of effortful listening in the vestigial auriculomotor system, Frontiers in Neurosciencedoi.org
  3. Schroeer et al. (2024) The vestigial pinna-orienting system in humans briefly suppresses superior auricular muscle activity during reflexive orienting toward auditory stimuli, Journal of Neurophysiologydoi.org