第15章|段階別ロードマップ15-6大人のやり直し学び始めの数か月、英語の伸びが速かったのは子どもより大人だった

「大人になってからでは、英語は身につかない」。そう思って始められない人は少なくありません。ところが、オランダに移り住んだ英語を話す家族を年齢別に1年間追った研究では、最初の数か月で最も速く伸びたのは、12〜15歳と大人でした。小さな子どもではなかったのです。では、大人に不利な点は本当にないのか。そして、学生のころ苦手だった英語には、どこから戻ればいいのか。
01年齢の不安に、研究で答える
「大人になってからでは英語は身につかない」。そう思って始められない人は少なくありません。研究は何を言っているのでしょうか。正直に、3つに分けて見ます。
1. 学び始めは、大人のほうが速い。 オランダに移り住んだ英語を話す家族を年齢別に1年間追った研究(Snow & Hoefnagel-Höhle, 1978)では、最初の数か月で最も速く伸びたのは12〜15歳と大人でした。3〜5歳はすべてのテストで最も低い結果でした。大人は、文法のしくみを理解する力、辞書や教材を使いこなす力、計画を立てる力を持っています。
2. ネイティブと区別がつかない文法の感覚は、若いほうが有利。 約67万人の英語話者のデータを分析した研究(Hartshorne, Tenenbaum & Pinker, 2018)は、文法を学ぶ力が17.4歳ごろまで高く保たれ、その後は少しずつ下がると推定しました。ネイティブと見分けがつかないレベルの文法をめざすなら、早く始めたほうが有利だということです。
3. 大切なのは量と質。 教室で学ぶ外国語の研究をまとめた Muñoz(2008)は、触れる英語の量と質が、始めた年齢の効果を大きく左右すると論じています。
つまり、大人の不利は「最終的に届く天井」の話で、「伸びるかどうか」の話ではありません。 仕事で通じる、旅行で困らない、映画や本を楽しめる。こうした目標に、年齢の壁はありません。年齢の研究について、くわしくは第2章「年齢と英語の本当」と第16章で扱います。
02最短ルート:中学英語を3か月で通り直す
なぜ中学英語から? 中学で習う英語は、小学校の語と合わせて2200〜2500語程度、文法は英語の文の骨組みのほぼ全部です。ここがあやふやなまま難しい教材に進むと、どこかで必ず止まります。逆に、中学英語が口からすぐ出る状態になれば、そこから先は「量」を増やすだけで伸びていきます。
| 段階 | 期間 | ゴール | やること |
|---|---|---|---|
| STEP1 | 最初の1か月 | 音と中1の文法 | フォニックスの基本、be動詞・一般動詞・疑問文・過去形 |
| STEP2 | 2か月目 | 中2の文法 | 未来の表現・助動詞・不定詞・動名詞・比較 |
| STEP3 | 3か月目 | 中3の文法 | 現在完了・受け身・後ろから説明する形(関係代名詞など) |
| STEP4 | 4〜6か月目 | 量を増やす | やさしい読み物の多読、音読、瞬間英作文 |
| STEP5 | 1年 | 目的に合わせる | 英検2級・TOEIC・英会話など、1つを選んで進む |
教材は3つに絞ります。
- 中学文法を説明した本か動画(大人向けのやり直し本、無料の動画授業)
- 音声つきの例文集(必ず音声があるもの)
- やさしい読み物(音声つきの学習者向けの読み物サイトなど)
この3つを3か月は替えないと決めます。教材を増やすより、同じ例文を何度も口に出すほうが、英語が体に入ります。
03中学文法の骨格チェックリスト
日本語だけを見て、英語ですぐ言えるか試してください。言えなかった項目が、あなたの復習リストです。
- be動詞:I'm a nurse.(私は看護師です)
- 一般動詞:She works in Osaka.(彼女は大阪で働いている)
- 疑問文・否定文:Do you drink coffee? / I don't drink coffee.(コーヒーを飲みますか/飲みません)
- 過去形:We visited Kyoto last year.(私たちは去年京都を訪れた)
- 進行形:I'm cooking dinner now.(今、夕食を作っている)
- 未来の表現:I'm going to call him tonight.(今夜、彼に電話するつもりだ)
- 助動詞:You should take a break.(休憩したほうがいいよ)
- 不定詞・動名詞:I want to learn English. / I enjoy reading.(英語を学びたい/読書を楽しむ)
- 比較:This bag is lighter than that one.(このかばんはあれより軽い)
- 現在完了:I've lived here for ten years.(ここに10年住んでいる)
- 受け身:This bridge was built fifty years ago.(この橋は50年前に建てられた)
- 関係代名詞:I have a friend who lives in Canada.(カナダに住んでいる友だちがいる)
12項目すべて3秒以内に言えたら、中学英語の骨格はできています。STEP4の「量を増やす」へ進んでください。
言えなかった項目は、1日1項目ずつ復習します。例文を5つ覚え、最後に自分のことに作り変えて言います。
- I've lived here for ten years. → I've worked at this company for five years.(この会社で5年働いている)
自分の生活に結びついた文は、覚えやすく、すぐ使えます。
041日30分のメニュー
平日(合計30分)
| 時刻 | 内容 | 時間 |
|---|---|---|
| 朝 7:00 | 文法を1項目、本か動画で理解する | 10分 |
| 昼休み | 例文の思い出すテスト(日本語→英語) | 5分 |
| 夜 21:00 | 例文の音読(音声を聞く→まねる→見ないで言う) | 10分 |
| 寝る前 | 今日の例文を1つ、自分のことに作り変えて言う | 5分 |
週末(合計45分):その週の例文をまとめてテスト(15分)、やさしい読み物を音声つきで1本(15分)、好きな英語の動画(15分)。
朝の10分を「理解」、昼と夜を「思い出す・口に出す」にあてるのがポイントです。文法は、わかっただけでは使えません。外国語の単語学習の実験(Karpicke & Roediger, 2008)では、一度覚えたものを読み返し続けても後の成績は変わらず、テストで思い出すことを続けると大きく伸びました。例文も同じで、日本語を見て英語を言う練習が、使える文法を育てます。
時刻は、if-thenの形で決めておきます。
- 朝のコーヒーをいれたら、文法を10分。
- 歯をみがいたら、例文を1つ作り変えて言う。
決まった行動に英語をくっつけると、「今日はやるか、やらないか」を毎日悩まずに済みます。
05大人がつまずく3つの落とし穴
1. 完璧主義。 分厚い文法書を1ページ目から完璧に理解しようとして、途中で止まる。大人のやり直しでよくある止まり方です。12項目に絞り、例文で覚え、わからないところは先に進んでから戻る。それで十分です。
2. 教材コレクター。 新しい教材を買うと、やる気が出た気がします。けれど教材を替えるたびに、最初からのやり直しです。3か月は替えないと決めましょう。
3. 「聞き流すだけ」に頼る。 意味のわからない英語を流し続けても、理解できる量はなかなか増えません。聞く前にスクリプトや訳で意味を確かめ、わかる英語を何度も聞くほうが効果的です(第16章「聞き流すだけで話せる」)。
そして、大人には大人の武器があります。
- 目的がはっきりしている:仕事、旅行、趣味。使う場面から逆算できる
- 日本語の知識と経験がある:自分がよく知っている分野の英文は、知らない単語があっても内容から推測できる
- 自分で計画を立てられる:時間の使い方を自分で決められる
1日休んでも、それで終わりではありません。習慣の研究(Lally ら, 2010)では、1回やらなかった日があっても、習慣づくりに大きな影響はありませんでした。大事なのは、翌日いつもの時刻に戻ることです。
大人は遅くない。中学英語を3か月で通り直し、目的へ進む
今日からのやり方
- 中学文法12項目の例文を、日本語を見て英語で言えるかテストする
- 言えなかった項目から1日1項目ずつ、3か月で一周する計画を立てる
- 毎日の時刻を決め、朝10分・昼5分・夜10分・寝る前5分に分ける
- 覚えた例文を、自分の仕事や生活の文に1つ作り変えて言う
- 3か月後に、英検・TOEIC・英会話のどれかで外に出す日を決める
レベル別:あなたならこうする
アルファベットや be動詞から不安な人は、この章の『完全初心者の最初の30日』から始めます。30日たったら、この節の中学文法3か月ルートへ進みます。
中学文法はなんとなくわかる人は、12項目の例文を日本語から英語で言えるかテストし、言えなかった項目だけを復習。浮いた時間を音読と多読にあてます。
中学英語が口からすぐ出る人は、目的を1つ決めて次へ。英検2級、TOEIC、オンライン英会話、洋書の多読など、1年続けられるものを選びます。
よくある失敗と対策
最初から完璧に読もうとすると、途中で止まりがちです。中学3年分の文法を12項目に絞り、1日1項目を例文で覚えるほうが、3か月で一周できます。
教材が増えるほど、どれも途中になります。文法の本か動画・音声つきの例文集・やさしい読み物の3つに絞り、3か月は替えないと決めます。
意味のわからない英語を流しても、理解できる量は増えにくいものです。聞く前にスクリプトで意味を確かめ、わかる英語を何度も聞くほうが力になります。
1 MIN
中学文法12項目のうち1つを選び、日本語だけ見て英語で言えるか試す
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
15-6新しい言語を学び始めた数か月、いちばん伸びた年齢は?
オランダに移り住んだ英語話者を追った研究では、最初の数か月に最も速く伸びたのは12〜15歳と大人でした。3〜5歳はすべてのテストで最も低い結果。大人が『伸びない』わけではありません。
15-6新しい言語の文法を学ぶ力は、何歳まで保たれる?
約67万人のデータを分析した研究では、文法を学ぶ力は17.4歳ごろまで高く保たれ、その後は少しずつ下がると推定されました。下がるのは到達できる『天井』の話で、大人が伸びないという意味ではありません。
15-6英語のやり直し、1日休むと振り出しに戻る?
毎日の行動が習慣になるまでを追った研究では、1回やらなかった日があっても習慣づくりに大きな影響はありませんでした。休んだら、翌日いつもの時刻に戻ればそれで十分です。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
オランダに移り住んだ英語話者を年齢別に1年間追跡。最初の数か月で最も速く伸びたのは12〜15歳と大人で、3〜5歳はすべてのテストで最も低かった。
Snow, C. E., & Hoefnagel-Höhle, M. (1978). The critical period for language acquisition: Evidence from second language learning. Child Development, 49(4), 1114–1128.出典を開く ↗約67万人のデータから、文法を学ぶ力は17.4歳ごろまで保たれ、その後は少しずつ下がると推定。ネイティブ並みの文法への到達には早い開始が有利とした。
Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B., & Pinker, S. (2018). A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers. Cognition, 177, 263–277.出典を開く ↗教室で学ぶ外国語では、触れる英語の量と質が、始めた年齢の効果を左右すると論じた。
Muñoz, C. (2008). Symmetries and asymmetries of age effects in naturalistic and instructed L2 learning. Applied Linguistics, 29(4), 578–596.出典を開く ↗外国語の単語学習で、一度言えた語を読み返し続けても後の成績は変わらず、テストで思い出すことを続けると大きく伸びた。
Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.出典を開く ↗毎日の行動が自動化に近づくまで18〜254日と個人差が大きく、1回やらなかった日があっても習慣づくりに大きな影響はなかった。
Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009.出典を開く ↗よくある質問
中学の教科書を買うべき?
必須ではありません。大人向けの中学英語のやり直し本や、無料の動画授業でも同じ範囲を学べます。どれを選ぶ場合も、音声がついていることをいちばんの条件にしてください。
記憶力が落ちて単語が覚えられない
覚えにくいと感じたら、覚え方を変えます。読み返すより隠して思い出すテスト、まとめてより日を空けた復習。どちらも多くの実験で効果が確かめられている方法で、大人の学習にも使えます。
何か月で話せるようになる?
目標によって大きく違うので、確かな数字は言えません。目安としては、中学文法を3か月で通り直し、そのあと毎日30分の音読と会話練習を続けて、1年後に自己紹介や仕事の簡単な説明を自分の言葉で言えることを目標に置きます。




