第6章|文法6-4a と the の正体a と the を決めるのは名詞ではなく『相手の頭の中』だった

添削から戻ってきた英作文に、また a と the の赤字が入っている。日本語には冠詞がないので、迷うのは当然です。日本の大学生80人に冠詞の穴埋めテストを受けてもらい、その直後に、なぜその冠詞を選んだのかを聞いた研究があります。誤りの裏に見えてきたのは、不注意ではなく、学習者それぞれの「理屈」でした。a と the を決めているのは、名詞そのものではありません。では、何なのでしょうか。
01冠詞は2つの問いで決まる
冠詞を選ぶとき、頭の中で次の2つの問いに順番に答えます。
- その名詞を「区切りのある1つ」として見ているか?(可算か不可算か)
- 聞き手(読み手)も、どれのことか分かるか?(特定できるか)
この2つの答えで、つける冠詞がほぼ決まります。
| 聞き手も特定できる | 聞き手は特定できない | |
|---|---|---|
| 数えられる・1つ | the book | a book |
| 数えられる・複数 | the books | books(some books) |
| 数えられない | the water | water(some water) |
the は、単数にも複数にも、数えられない名詞にもつきます。a がつくのは「数えられる1つ」で「聞き手が特定できない」場合だけです。表で見ると、a の出番はかなりかぎられていることが分かります。
Cambridge Dictionary の文法解説は、the を「話し手・聞き手(書き手・読み手)がすでに分かっているもの」に、a / an を「まだ分かっていないもの」に使うと説明しています。ポイントは、話し手が知っているかではなく、聞き手も分かるかです。
021つ目の問い:区切りがあるか
英語の名詞は、「形や区切りのある1つ」として見るか、「量やかたまり」として見るかで、数え方が変わります。同じ単語でも、見方が変わると冠詞も変わります。
| 区切りのある1つ(可算) | かたまり・量(不可算) |
|---|---|
| a chicken(1羽のニワトリ) | chicken(鶏肉) |
| a coffee(1杯のコーヒー) | coffee(コーヒーという飲み物) |
| a paper(新聞・論文1本) | paper(紙という素材) |
| a room(1つの部屋) | room(空間・余地) |
| a light(1つの明かり) | light(光) |
- I saw a chicken in the yard.(庭でニワトリを1羽見た)
- I had chicken for dinner.(夕食に鶏肉を食べた)
- Is there room for one more person?(もう1人入る余地はある?)
日本語の感覚では数えられそうなのに、英語では数えない名詞もあります。information、advice、furniture、homework、news などです。Cambridge の解説でも、ほかの言語では数えられるのに英語では数えない名詞として、information や advice が挙げられています。
- Can you give me some advice?(アドバイスをもらえますか)
- Can you give me some advices? とは言わない
数えたいときは、a piece of を使います。
- a piece of advice(1つの助言)
- two pieces of furniture(家具2点)
数えられるかどうか迷ったら、学習者用の英英辞典で [C](countable)か [U](uncountable)かの表示を確かめるのが確実です。
032つ目の問い:相手と共有しているか
次に、聞き手が「どれのことか」を特定できるかを考えます。特定できる理由には、いくつかのパターンがあります。
① 前に話に出てきた
- I bought a bike yesterday. The bike is blue.(昨日自転車を買ったんだ。その自転車は青いんだよ)
1回目は聞き手が知らないので a、2回目はもう共有しているので the です。
② その場にいる全員に、どれか分かる
- Could you open the window?(窓を開けてくれる?)
部屋に窓が1つなら、どの窓かは言わなくても分かります。
③ 世界に1つ、または共通の知識で1つに決まる
- the sun(太陽)/ the moon(月)/ the internet(インターネット)
④ 説明で1つにしぼられる
- the book I borrowed from you(あなたから借りた本)
- the first train(始発電車)/ the tallest building in Japan(日本でいちばん高いビル)
first や最上級は「1つに決まる」ので、the と相性がいいのです。
⑤ 生活の場面で共有している
- I'm going to the station.(駅に行ってくるね)
家族や同じ町の人どうしなら、「いつもの駅」が共有されています。
逆に、話し手だけが知っていて、聞き手は知らないものには a を使います。
- I met a friend from high school today.(今日、高校時代の友達に会ったよ)
話し手にとっては特定の1人ですが、聞き手はだれのことか分かりません。だから a です。
04何もつけない形と、複数形の使い方
冠詞をつけない形にも意味があります。
種類全体について話すとき
- I like dogs.(犬が好き=犬というもの全般)
- I like the dog.(その犬が好き=特定の1匹)
- Cats sleep a lot.(猫はよく眠る)
「犬が好き」と言うとき、日本語の感覚で I like dog. と言うと、数えられない名詞の扱いになり、食べ物の「犬の肉」の話に聞こえかねません。種類全体の話は、無冠詞の複数形が基本です。
建物ではなく「目的」を表すとき
- go to school(勉強しに学校へ行く)
- go to bed(寝る)
- be in hospital(入院している:イギリス英語。アメリカ英語では in the hospital がふつう)
- go by bus / by train(バスで/電車で)
school や bed が「建物・家具」ではなく、「勉強する場」「眠る場」という役割を表すときは、冠詞をつけません。保護者が用事で子どもの学校に行くなら、建物としての学校なので go to the school と言えます。
05日本語話者のつまずきと練習法
冠詞の誤りには、学習者ごとの「理屈」があることも分かっています。
Butler(2002)は、日本の大学生80人に冠詞の穴埋めテストを受けてもらい、その直後のインタビューで、なぜその冠詞を選んだのかを聞きました。分析の結果、誤りの背景には、聞き手が知っているかどうか、特定の物を指しているかどうか、数えられるかどうかについての考え方のずれがあり、そのずれ方は熟達度のグループによって異なっていました。
Ionin, Ko & Wexler(2004)は、冠詞のない言語(ロシア語・韓国語)を話す英語学習者を調べ、学習者の選び方が「聞き手が特定できるか(definiteness)」と「話し手が特定の物を思い浮かべているか(specificity)」の間でゆれることを示しました。先ほどの I met a friend from high school today. で、話し手が特定の人を思い浮かべているせいで the を使ってしまう、というタイプの誤りです。
2つの研究から言えるのは、冠詞の誤りは単なる不注意ではなく、判断の基準のずれから来るということです。基準を「話し手の頭の中」から「聞き手の頭の中」に切りかえるだけで、誤りの一部は減らせます。
今日からの練習
- 英文を読むとき、名詞の前の a / the / 無冠詞に印をつけ、「なぜこれか」を2つの問いで説明してみる。
- 自分の英作文で名詞を見つけるたびに、「数える?」「相手は分かる?」と確かめる。
- 数えられるか迷った名詞は、辞書の [C] [U] を確かめ、ノートに例文ごと書く。
冠詞は、長く学んでいる人でも迷いやすい分野です。会話では多少まちがえても、意味はたいてい通じます。まずは書く英語から精度を上げていきましょう。
冠詞は「1つと数えるか」と「相手も分かるか」の合図
今日からのやり方
- 名詞を見たら、まず「区切りのある1つか、量か」を考える
- 次に「聞き手もどれか分かるか」を考え、分かるなら the を選ぶ
- 英文を読むとき、冠詞に印をつけて理由を説明する練習を1日3文する
- 迷った名詞は英英辞典で [C] [U] を確かめ、例文ごとメモする
- 自分の作文を見直すとき、名詞に下線を引いて冠詞を1つずつ点検する
レベル別:あなたならこうする
まず「初めて話に出すときは a、2回目からは the」を例文で体にしみこませます。I have a dog. The dog is white. のような2文セットを、自分の身の回りの物で作ってみます。
可算・不可算の見分けと、無冠詞の複数形で種類全体を表す使い方を固めます。information や advice など、日本語の感覚とずれる不可算名詞のリストを自分で作ります。
話し手だけが知っている物に the を使っていないか、自分の作文を点検します。a good knowledge of 〜 のような抽象名詞の使い方や、論文・ニュースでの冠詞の使われ方を観察します。
よくある失敗と対策
基準は「聞き手も分かるか」です。初めて話題に出す物は、自分にとって特定の物でも a を使います。
英語では量として扱う名詞です。数えたいときは a piece of を使います。よく使う不可算名詞は、例文ごと覚えてしまいます。
種類全体は、無冠詞の複数形で I like dogs. が基本です。数えられる名詞を単数・無冠詞で使うと、量や食べ物の意味に聞こえることがあります。
1 MIN
身の回りの物を3つ選び、a と the を使った2文セットで言ってみる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
6-4the を使うかどうか、決め手は何?
Cambridge の文法解説は、the は話し手と聞き手(書き手と読み手)がどれのことか分かっているものに使うと説明しています。話し手が知っているかではなく、「相手も特定できるか」で決まります。
6-4information に s がつかないのはなぜ?
英語では information、advice、furniture などを「ひとまとまりの量」として扱い、数えません。日本語の感覚では数えられそうでも、英語では不可算です。数えたいときは a piece of advice のように言います。
6-4日本人の冠詞の迷い方には型がある?
Butler(2002)は日本の大学生80人に、冠詞を選んだ理由をインタビューしました。聞き手が知っているか、特定の物を指すか、数えられるかについての考え方のずれが、レベルごとの誤りを説明していました。
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
日本の大学生80人に冠詞テストと面接を行った。聞き手の知識・特定の指示・可算性についての考え方のずれが、熟達度ごとの冠詞の誤りを説明していた。
Butler, Y. G. (2002). Second language learners' theories on the use of English articles. Studies in Second Language Acquisition, 24(3), 451–480.出典を開く ↗冠詞のない言語(ロシア語・韓国語)の話者は、英語の冠詞を選ぶとき、聞き手が特定できるか(definiteness)と話し手が特定の物を考えているか(specificity)の間でゆれた。
Ionin, T., Ko, H., & Wexler, K. (2004). Article semantics in L2 acquisition: The role of specificity. Language Acquisition, 12(1), 3–69.出典を開く ↗the は話し手と聞き手がすでにどれか分かっているものに、a / an はまだ分かっていないものに使うと説明。a / an は数えられる名詞の単数にだけ使う。
Cambridge Dictionary. A/an and the. English Grammar Today. 2026年10月確認.出典を開く ↗advice、information、furniture などは英語では不可算で、a や複数形にしない。ほかの言語では数えられることがあると注意し、数えるときは a piece of などを使うと説明。
Cambridge Dictionary. Nouns: countable and uncountable. English Grammar Today. 2026年10月確認.出典を開く ↗よくある質問
a と an の使い分けは?
次の語の「つづり」ではなく「音」で決めます。母音の音で始まれば an、子音の音なら a です。an hour(h を発音しない)、a university(「ユ」の音で始まる)が代表例です。
冠詞をまちがえると通じない?
会話では、冠詞の誤りで意味が通じなくなることはあまりありません。ただし a paper(論文・新聞)と paper(紙)のように意味が変わる場合があり、試験の英作文では減点の対象になります。話すときは気にしすぎず、書くときに見直すのが現実的です。
固有名詞に the がつくのはどんなとき?
人名や多くの国名には冠詞をつけません。ただし the United States や the Philippines のように複数形や「連合」を表す国名、the Pacific Ocean のような海の名前などには the がつきます。迷ったら辞書の例文で確かめます。


