TOEIC・TOEFL・IELTS対策講座の設計|大学教員の授業づくり
「スコアを上げる授業をしてほしい」という学生や大学の期待と、「英語の力そのものを育てたい」という教員の思い。大学の資格試験対策講座は、この二つの間で揺れがちです。この記事では、特定の試験の攻略法ではなく、TOEIC・TOEFL・IELTSのどれにも応用できる講座設計の考え方を、診断から振り返りまでの流れで整理します。

01まず確認したいこと:試験の目的と最新情報
TOEIC、TOEFL、IELTSは、いずれも英語力を測る試験ですが、想定している場面や目的が異なります。
- TOEIC:主に職場や日常生活での英語コミュニケーション能力を測る試験として、就職活動や企業内で広く使われている
- TOEFL:主に英語圏の大学での学習に必要な英語力を測る試験として、留学の出願などに使われる
- IELTS:留学や海外での就労・移住などの場面で使われ、アカデミックと一般の区分がある
試験の形式、試験時間、セクション構成、スコアの表示方法などは改訂されることがあります。講座を設計する前に、必ず各試験の公式サイトで最新の形式を確認しましょう。過去に作った教材が現在の形式と合っていないこともあるため、毎年度の見直しが欠かせません。
ポイント:講座の最初の一枚のスライドには、「この講座で扱う試験の目的」と「公式情報の確認先」を載せておくと、学生の誤解や古い情報に基づく勉強を防げます。
また、学生がその試験を受ける理由(単位認定、留学、就職、学内のクラス分けなど)を把握しておくと、講座の重点が決めやすくなります。
02最新形式の確認先と、講座で使える公式の素材
講座の最初のスライドに載せる「公式情報の確認先」は次のとおりです。形式は改訂されることがあるので、毎年度ここで確かめましょう。
| 試験 | 確認先 | 講座での使い方 |
|---|---|---|
| TOEIC | TOEIC(ETS公式) | 試験の目的と形式を確かめ、学生には日本での実施団体の情報もあわせて確認させる |
| TOEFL | TOEFL(ETS公式) | 改訂の有無を確かめる。日本語の公式セミナー動画(下)を学生の事前視聴に使える |
| IELTS | IELTS(公式)・TakeIELTS(British Council) | 公式の練習問題を診断や演習に使う |
年度初めの確認チェックリスト
- セクション構成・問題数・試験時間が、手元の教材と一致しているか
- スコアの表示方法が変わっていないか
- 学生が受ける目的(単位認定・留学・学内制度)の要件が更新されていないか
- 確認した日付と URL を講座資料に記録したか
公式チャンネルの動画は、試験の全体像を学生に示す教材としても使えます。
使い方:日本語で聞ける公式の TOEFL iBT 入門セミナーです。講座の第1回の事前視聴に指定し、授業では試験の目的と公式情報の確認方法の説明に時間を使います。
使い方:公式チャンネルが IELTS の試験形式を解説する動画です。IELTS を扱う講座では、最初のスライドの情報を公式の説明と照らし合わせるのに使います。
03目標設定:学生と一緒に「現実的な目標」をつくる
対策講座でありがちなのは、学生が非現実的な目標を立てて途中で意欲を失うことです。目標設定は、講座の最初の数回で丁寧に行いましょう。
目標設定の手順です。
- 学生が試験を受ける目的と、必要なスコアの目安を確認する(留学先や学内制度の要件は、各自で公式情報を確認させる)
- 現在の力を診断する(次のセクション参照)
- 学期末までの目標と、それを支える行動目標を分けて書かせる
- 中間で見直す日をあらかじめ決めておく
行動目標は、スコアではなく自分でコントロールできる行動にします。学生に書かせる英語の例です。
- My goal for this semester: to understand the main idea of a short lecture on the first listening.
- My weekly action: I will do three listening sets and write down unknown words every week.
スコアの伸びは、個人差や受験時期によって大きく変わります。講座として「必ず◯点上がる」とは約束せず、伸ばすのは力、スコアはその結果という姿勢を示すことが、成績評価の説明責任の面でも大切です。
使い方:2026年版の TOEFL のスコアレポートで、1〜6のバンド表示と従来の120点満点の違いを整理する動画です。学生と目標を決める前に見て、志望先の基準がどちらの表示かを確かめさせます。
04診断:どこでつまずいているかを見極める
講座の最初に、公式の問題集や自作の模擬問題を使って診断を行います。目的は点数を出すことではなく、つまずきの原因を見つけることです。
診断で見たいポイントの例です。
- リスニング:音が聞き取れないのか、内容は聞き取れても設問の処理が追いつかないのか
- リーディング:語彙が足りないのか、文構造が取れないのか、時間配分の問題なのか
- ライティング:アイデアが出ないのか、構成が弱いのか、文法の誤りが多いのか
- スピーキング:話す内容が出てこないのか、言いたいことを英語にできないのか
診断後に、学生自身に振り返りシートを書かせます。
- Which section was the most difficult for you?
- Why do you think you lost points there? (vocabulary / grammar / time / strategy)
- What will you focus on for the next four weeks?
教員は全員の振り返りを読み、クラス全体の傾向をつかんで講座の配分を調整します。人数が多い場合は、LMSのアンケート機能で集計すると傾向が見えやすくなります。
使い方:形成的評価の基本的な考え方を語る短い動画です。診断テストを点数ではなく「つまずきの原因探し」に使う考え方を確かめ、振り返りシートを作ります。
05技能別の配分と1コマの流れ
講座の時間配分は、試験の構成と学生の弱点の両方から決めます。試験に含まれる技能をバランスよく扱いつつ、診断で弱点が集中していた技能に少し多めの時間を割きます。
100分授業の流れ例です。
- 0〜10分:語彙の小テストと前回の振り返り
- 10〜35分:技能①の演習(時間を計って解く)
- 35〜50分:解説とペアでの答え合わせ(なぜその答えか説明し合う)
- 50〜75分:技能②の演習と解説
- 75〜90分:弱点補強の練習(音読、ディクテーション、要約など)
- 90〜100分:学習記録の記入と次週の課題確認
ペアでの答え合わせの指示例です。
- Compare your answers. For each question you disagree on, explain which part of the text supports your answer.
「問題を解いて答えを確認する」だけでは、同じ間違いが繰り返されます。根拠を言語化する時間を入れることで、学生が自分の解き方を見直すきっかけになります。
ポイント:演習の時間と、それを英語の力に変える時間(音読・要約・書き直しなど)を同じくらい確保すると、スコアと実力の両方が伸びやすくなります。
使い方:IELTS の採点の仕組みを公式に解説する回です。技能別の配分を決める前に見て、学生に採点の考え方を説明する資料を作ります。
06演習と振り返りのサイクル:15回の講座計画例
半期15回の講座計画例です。
- 第1回:オリエンテーション、試験の目的と公式情報の確認方法
- 第2回:診断テストと振り返りシート
- 第3回:目標設定と学習計画づくり
- 第4〜7回:技能別の演習と解説(弱点補強を含む)
- 第8回:中間の模擬テストと目標の見直し
- 第9〜13回:応用演習、時間配分の練習、ライティング・スピーキングの個別フィードバック
- 第14回:模擬テスト②
- 第15回:学期の振り返りと、講座後の自学計画
1週間の自学サイクルの例も示しておくと、授業外の学習が習慣になりやすくなります。
- 月:語彙20語
- 火:リスニング演習1セット+音読
- 水:リーディング演習1セット
- 木:ライティングかスピーキングの練習1回
- 金:間違えた問題の見直し
- 土:模擬問題の一部を時間を計って解く
- 日:学習記録の振り返り
ポイント:中間の模擬テスト後は、目標を上げ下げすること自体を失敗と考えないよう伝えます。「計画を修正できた」ことが、自律した学習者への一歩です。講座後も続けられる自学計画を第15回で書かせると、学期の学びが次につながります。
07教養としての英語との両立
試験対策講座は、どうしても「解き方」に偏りがちです。しかし大学の英語授業として位置づける以上、試験の先にある英語の使い方も意識したいところです。
両立のための工夫です。
- 演習で使った読み物・音声のテーマについて、短いディスカッションを入れる
- 試験の形式に近いライティング課題でも、自分の経験や専門分野と結びつけて書かせる
- 講座の最後に、試験の勉強で身につけた力を留学・研究・仕事でどう使うかを考えさせる
ディスカッションの問いの例です。
- The passage was about remote work. Do you think remote work is good for university students' future careers? Why?
このような時間は、試験のスコアに直接は結びつかないように見えるかもしれません。しかし、内容に関心を持って読んだり聞いたりする経験は、学習の動機づけにもつながります。
使い方:学習の評価を実践的に紹介するウェビナーです。試験対策と教養としての英語を両立させるため、スコア以外に何を評価するかを考える材料にします。
08よくある失敗と最初の一歩
資格試験対策講座でよく見られる失敗です。
- 古い形式の教材を使い続ける:毎年度、公式情報で形式を確認します。
- 演習ばかりで振り返りがない:解きっぱなしでは力に変わりません。
- スコアを約束する:個人差があるため、行動目標と学習プロセスを評価の軸にします。
- 全員に同じ課題を出す:診断結果に応じて、弱点別の補強課題を選べるようにします。
まずは、次に担当する講座のために、学生向けの振り返りシート(英語の問い3つ)を作ってみてください。診断と振り返りの仕組みが、講座全体の土台になります。
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よくある質問
TOEIC・TOEFL・IELTSを一つの講座でまとめて扱えますか?
共通する基礎力(語彙、文構造、要点把握など)はまとめて扱えますが、試験ごとに目的や形式が異なります。受験予定の試験が分かれる場合は、基礎は共通で、演習部分を試験別に選べる形にすると運営しやすくなります。
講座の成績はスコアで評価してもよいですか?
スコアは個人差や受験時期の影響を受けるため、それだけで評価するのは説明が難しくなります。課題の提出、演習の取り組み、振り返りの質など、講座内の学習プロセスを評価の中心にすると公平性を保ちやすくなります。
教材はどのように選べばよいですか?
各試験の公式問題集を軸にし、形式が最新のものかを確認するのが基本です。そのうえで、学生の弱点に合わせた語彙や多読の教材を補助的に組み合わせましょう。
読了ボーナス


