英語が苦手な生徒のやる気を引き出す声かけと評価|今日から使えるコツ
「どうせ英語なんてできない」。そんな言葉を生徒から聞くと、胸が痛みますよね。やる気は、生徒の性格だけで決まるものではなく、授業の中での経験や、先生の声かけによっても変わります。この記事では、動機づけの考え方をもとに、今日から使える声かけと評価の工夫を紹介します。

01やる気を支える3つの気持ち
動機づけの研究でよく知られている考え方に、Deci と Ryan による自己決定理論があります。この理論では、人が意欲的に取り組むためには、次の3つの気持ちが満たされることが大切だとされています。
- 自律性:自分で選んでいる、自分で決めているという感覚
- 有能感:自分はできる、成長しているという感覚
- 関係性:周りの人とつながっている、受け入れられているという感覚
英語の授業に当てはめると、次のような工夫につながります。
- 自律性:話すテーマや読む本を、生徒が選べるようにする
- 有能感:少しがんばればできる課題を用意し、「できた」を実感させる
- 関係性:間違えても笑われない、安心して話せるクラスの雰囲気を作る
ポイント:「やる気を出せ」と言うよりも、やる気が自然に生まれる環境を整えることが、先生にできる一番のサポートです。
使い方:学習者を授業に引き込むエンゲージメントをテーマにしたドルニェイ氏の講演です。この節の3つの気持ちと照らし合わせ、自分の授業で一番手薄なものを1つ選びます。
02プロセスをほめる声かけ
ほめ方にも工夫ができます。「頭がいいね」のように能力をほめるより、努力や工夫、取り組みの過程(プロセス)をほめるほうが、生徒が次の挑戦に向かいやすいと言われています。
能力をほめる声かけ
- You're so smart!
プロセスをほめる声かけ
- You practiced a lot. I can tell!
- You used a new word today. Great challenge!
- You kept talking even when it was difficult. Nice!
- Your pronunciation is much better than last month.
日本語で伝える場合も同じです。「さすがだね」ではなく、「昨日より声が大きくなったね」「新しい表現を使ってみたのがいいね」のように、具体的に何が良かったかを伝えます。
間違えた生徒への声かけも大切です。
- Good try! Mistakes help us learn.
- That's a good idea. Let's say it this way...
- Almost! You're getting closer.
間違いを責めるのではなく、挑戦したことを認めてから、正しい形を示しましょう。
03小さな成功体験を作る授業の工夫
英語が苦手な生徒にとって、「できた」という経験は、何よりのやる気のもとになります。授業の中に、小さな成功体験を意図的に作りましょう。
1. スモールステップにする
いきなり「1分間スピーチ」ではなく、1文→3文→30秒→1分と段階を踏みます。各段階で「できた」を確認します。
2. 同じ活動を繰り返す
ペアを変えて同じ活動を3回行うと、1回目より2回目、2回目より3回目と、上達を実感できます。Was it easier the third time? と問いかけて、成長に気づかせましょう。
3. モデルと型を示す
何を言えばいいか分からない状態では、挑戦できません。モデル文や、穴埋め式の型を用意します。
- I like ___ because ___.
4. 選択肢を与える
課題を2〜3種類用意し、自分で選べるようにします。例:スピーチのテーマを「好きな食べ物」「好きな場所」「好きな人」から選ぶ。自分で選んだことは、最後までやり遂げようという気持ちが生まれやすくなります。
ワンポイント:「まだ」という言葉を使う
できない生徒には、「できない」ではなく「まだできない」と伝えてみましょう。英語なら You can't do it yet. But you're getting there. のように、yet を付けるだけで「これからできるようになる」というメッセージになります。生徒自身にも、I can't do it. ではなく I can't do it yet. と言い換える習慣をつけさせると、苦手意識が少しやわらぎます。
使い方:「まだ(yet)」という言葉の力について語る、成長マインドセットのTEDxトークです。この節のワンポイントの声かけを始める前に見て、使う場面を3つ決めます。
使い方:すぐに答えを教えず、生徒が少し粘って考える価値を紹介する動画です。スモールステップの課題で、どこまで待ってからヒントを出すかの目安を考えます。
04振り返りと自己評価で成長を見える化する
生徒が自分の成長に気づけるように、振り返りの時間を取りましょう。
振り返りシートの例
- 今日のゴール:Can-do(例:週末にしたことを3文で言える)
- 今日の自己評価:◎・○・△
- できるようになったこと:
- 次にがんばりたいこと:
成長を記録する工夫
- 録音のビフォー・アフター:学期の最初と最後に同じテーマで話したものを録音し、聞き比べる
- 作文ポートフォリオ:書いた作文をファイルにためていき、学期末に最初の作文と比べる
- Can-doリスト:単元ごとの「できること」リストに、自分でチェックを入れる
ビフォー・アフターを聞き比べた生徒は、自分でも驚くほどの成長に気づくことがよくあります。Listen to your first recording. What changed? と問いかけ、変化を言葉にさせましょう。
05成長を見える化する資料と道具、単元のCan-doリストの作り方
「できるようになった」を生徒が自分で確かめられる仕組みは、公式の資料とこのサイトの記録の道具を組み合わせると作りやすくなります。
| 目的 | 使う資料・道具 | 使い方 |
|---|---|---|
| 「できること」の書き方の見本 | 英検Can-doリスト(日本英語検定協会) | 級ごとに、英語で何ができるかを文で示したリスト。単元のCan-doを「〜できる」の形で書くときの言い回しの参考にする |
| 単元の目標の文言 | 中学校学習指導要領解説(文部科学省) | 外国語編の目標を確かめ、単元のCan-doと結びつける |
| 書いた量を見える化 | 英語日記 | このサイトの3文英語日記ジム。毎日3文書いて保存でき、これまでの日記が一覧で見られる。家庭での続きの練習として案内する |
| 読んだ量の記録 | 多読ログ | このサイトの多読の記録。読んだ量が目に見えて増えることが、有能感につながる |
単元のCan-doリストを作る手順(20分)
- 単元の最後のパフォーマンス課題を1文で書く(例:週末にしたことを30秒で話せる)
- そこに至る小さなステップを3つ、「〜できる」の形で書く(例:過去形の文を1つ言える→3文で言える→質問に答えて付け足せる)
- 英検Can-doリストの書き方を参考に、観察できる行動の言葉に直す
- 振り返りシートの上に貼り、毎時間、生徒が自分でチェックを入れる
ステップを細かく刻むほど、英語が苦手な生徒も毎時間1つは「できた」に印をつけられます。その印が、この記事の有能感を支える仕組みになります。
0640人クラスでの工夫
40人のクラスで、全員に丁寧な声かけをするのは簡単ではありません。次の工夫で、少しずつでも全員に届くようにしましょう。
- 名簿で声かけの記録:机間指導で声をかけた生徒に印をつけ、1週間で全員に1回は個別に声をかけるようにします
- 振り返りシートにひとことコメント:全員の振り返りシートに、短いコメント(Nice! / Great progress!)やスタンプを返します。長く書かなくても、見てもらえているという実感が生まれます
- 全体の前でほめるときは具体的に:I heard a great sentence from this group. のように、グループ単位でほめると、個人が目立つのが苦手な生徒も安心です
- 生徒同士でほめ合う:発表の後、聞き手が One good point を伝えるルールにします
- 苦手な生徒には事前にヒントを:活動の前に、そっとモデル文を渡しておくと、安心して参加できます
使い方:教室の入り口で生徒を一人ひとり出迎えることの良さを紹介する1分弱の動画です。40人に声をかける工夫として、ドアの前での短い英語のあいさつを試します。
07避けたい声かけと評価のNG
やる気を下げてしまいやすい声かけや評価も知っておきましょう。
- 他の生徒と比べる:「○○さんはできているのに」は、比べられた生徒のやる気を大きく下げます。比べるなら、その生徒の過去と今です
- 間違いを笑う・笑わせる:先生が笑わなくても、クラスで笑いが起きたらすぐにフォローしましょう。Everyone makes mistakes. That's how we learn.
- 点数だけを返す:テストや作文を返すときは、点数だけでなく、良かった点と次の目標を1つずつ伝えます
- 「簡単でしょ」と言う:苦手な生徒にとっては、できない自分を責める言葉になります。「難しいけど、一緒にやってみよう」と伝えましょう
- ほめ言葉を乱発する:何にでも Great! と言うと、ほめ言葉の価値が下がります。具体的にほめることを意識しましょう
使い方:生徒が点数だけでなく学びそのものに目を向けるための工夫の動画です。この節の「点数だけを返す」を避けるため、小テストの返し方を1つ変えます。
08今日から始める1週間
- 月:授業で使うプロセスをほめる英語を5つ決め、カードにして教卓に置く
- 火:同じ活動をペアを変えて3回行い、Was it easier? と聞いてみる
- 水:課題に2つの選択肢を用意し、生徒に選ばせる
- 木:振り返りシートを配り、全員にひとことコメントを返す
- 金:名簿を見て、今週まだ個別に声をかけていない生徒に声をかける
やる気は、一度の声かけで劇的に変わるものではありません。でも、「先生は自分の成長を見てくれている」という実感の積み重ねが、生徒の英語への気持ちを少しずつ変えていきます。
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よくある質問
どうしてもやる気を見せない生徒にはどうすればいいですか?
まずは、英語以外の話題も含めて、その生徒との関係を作ることから始めましょう。そのうえで、確実にできる小さな課題を用意し、できたことを具体的に認める経験を積み重ねていくことが大切です。
ほめすぎると、生徒が調子に乗りませんか?
何でもほめるのではなく、具体的な努力や工夫をほめることが大切です。『声が大きくなった』『新しい表現を使った』など、事実に基づいたほめ方なら、生徒は次に何をすればいいかが分かります。
振り返りシートを書かせても、毎回同じことしか書きません。
『今日できるようになったことを英語で1文』『次の授業で使いたい表現を1つ』など、具体的な問いに変えてみましょう。先生がコメントを返すことで、振り返りの質も少しずつ上がっていきます。
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