第3章|続ける技術3-1習慣になるまで何日?「習慣化は21日」ではなかった。研究の中央値は66日、人によって18〜254日

ロンドン大学の Lally らが2010年に発表した実験では、96人のボランティアが新しい行動を1つ選び、毎日同じ場面でくり返しました。たとえば「朝食のあとに水を1杯飲む」。期間は12週間です。ここから生まれたのが、よく聞く「習慣化には66日」という数字でした。ところが、かかった日数は18日の人から254日の人まで大きく開いていました。では、66日とはいったい誰の数字だったのか。
この節の目次(5項目)
01「66日」はどんな実験から出た数字か
習慣化の話になると、必ずと言っていいほど出てくるのが「66日」という数字です。出どころは、ロンドン大学(UCL)の Phillippa Lally らが2010年に発表した研究です。まず、実験の中身を正確に見ておきましょう。
- 参加したのは96人のボランティア
- 一人ひとりが「食べる・飲む・体を動かす」に関する新しい行動を1つ選び、毎日同じ場面で行う(例:朝食のあとに水を1杯飲む)
- 期間は12週間(84日)
- 毎日、その行動をしたかどうかと、「どれくらい考えずにできたか(自動性)」を自分で記録する
自動性の点数は、はじめは急に上がり、だんだん上がり方がゆるやかになって、やがて頭打ちになります。研究チームはこの曲線を一人ずつ計算し、「頭打ちの95%に届くまで何日かかるか」を求めました。
66日は「全員の平均」ではない
ここが大事なところです。データが十分にそろったのは82人で、曲線がきれいに当てはまったのはそのうち39人でした。66日は、この39人の中央値です。しかも、かかった日数は18日から254日まで大きく開いていました。実験は84日間なので、84日を超える数字は、データから計算した見込みです。
ポイント:66日は「これだけやれば習慣になる日数」ではなく、「大きな個人差がある中での真ん中あたり」。2〜3か月は見ておくのが現実的です。
Lally 本人も2026年のインタビューで、66日という数字は文脈から切り離されて使われることがあり、多くの人にとってぴったり66日かかるわけではない、所要時間は人によって大きく変わる、と話しています。
英語に当てはめると
この研究が調べたのは「水を1杯飲む」のような、1回数秒から数分の行動です。英語学習そのものを調べたわけではありません。英語の勉強は、それより手順が多く、頭も使います。ですから、英語が「考えずに始まる」状態になるまでに66日より長くかかっても不思議ではありません。1か月たってもまだ「よし、やるぞ」と気合いが必要だとしても、それは失敗のサインではなく、途中経過にすぎません。
02習慣の正体:きっかけ・行動・ごほうび
習慣とは、ひとことで言えば「考える前に始まっている行動」です。心理学者の Wendy Wood と David Neal(2007)は、習慣を「行動」と「その行動をするときの状況(場所や、直前の動作など)」の結びつきとして説明しました。同じ状況で同じ行動を何度もくり返すと、その結びつきが少しずつ強くなります。やがて、状況に出会うだけで行動が始まるようになり、いちいち「英語をがんばろう」という目標を思い出す必要がなくなります。
これを英語学習に置きかえると、3つの部品に分けられます。
| 部品 | 意味 | 英語学習の例 |
|---|---|---|
| きっかけ | 行動を始める合図になる状況 | 朝、コーヒーをいれたら/電車の座席に座ったら |
| 行動 | 毎回同じようにやること | 単語アプリを5分/ポッドキャストを1本再生 |
| ごほうび | 終わったときの小さな満足 | 記録表に丸をつける/「できた」と感じる |
「きっかけ・行動・ごほうび」という3つの分け方は、習慣づくりの本などで広く使われている整理のしかたです。ごほうびは「くり返す理由をくれるもの」と考えると分かりやすくなります。習慣ができる前は、やりとげた満足感や、たまっていく記録が、くり返しを後押しします。習慣ができてしまえば、きっかけだけで行動が動き出します。
Wood と Dennis Rünger(2016)の総説も、人は同じ状況で同じ行動をくり返しやすく、習慣は頭の力をあまり使わない「初期設定」の反応として働くと整理しています。意志の力で毎回スタートを切るより、状況に任せたほうが楽なのです。
「やる気」をきっかけにしない
よくある失敗は、「やる気が出たらやる」「時間ができたらやる」という決め方です。やる気や空き時間は毎日ちがうので、同じきっかけになりません。きっかけには、毎日ほぼ必ず起こる、目に見える出来事を選びます。歯みがき、朝食、電車に乗る、お風呂から出る、ふとんに入る。こうした出来事は、放っておいても毎日やってきます。
03「いつもの動作のあと」に英語をつなげる
新しい行動を、すでにある生活の流れのどこに入れるかも大切です。デンタルフロスの習慣を調べた Judah ほか(2013)の研究では、50人を「歯みがきの前にフロスをする」グループと「歯みがきの後にする」グループに分けました。すると、後にしたグループのほうが習慣が強くなる傾向があり、8か月後にも習慣が強く、フロスをする回数も多いという結果でした。
人数が少ない探索的な研究なので断定はできません。それでも、「いつもの動作が終わった直後」は新しい行動を入れやすい場所の一つだと考えられます。
英語学習で言えば、次のような形です。
- 朝食を食べ終えたら → 英語ニュースの見出しを3本読む
- 駅のホームに着いたら → イヤホンをつけて英語の音声を再生する
- 昼ごはんを食べ終えたら → 単語カードを20枚めくる
- 歯みがきが終わったら → 今日の英文を1つ音読する
- ふとんに入ったら → 単語の復習を5分
どれも「〜したら」の部分が、すでに毎日やっている動作です。新しく覚えるのは英語の行動だけで済むので、負担が小さくなります。
自分の1日を思い出して、「毎日必ずやっていること」を5つ書き出してみてください。そのうち、終わったあとに2〜5分の余裕があるものが、英語を差しこむ候補になります。
041日のメニュー:朝・通学・昼休み・寝る前
具体的なメニューを、生活の型ごとに作ってみます。時間は目安です。最初は1つか2つだけ選んでください。全部を一度に始めると、どれも続かなくなりがちです。
中学生・高校生の例
| 時間帯 | きっかけ | やること(目安) |
|---|---|---|
| 朝 | 朝ごはんを食べ終えたら | 教科書の本文を1回音読(3分) |
| 通学 | 駅や停留所に着いたら | 単語帳の今日の範囲を、意味を隠して思い出す(10分) |
| 昼休み | お弁当を食べ終えたら | 前の日に覚えた単語を5個、紙に書けるか試す(3分) |
| 寝る前 | 宿題が終わったら | 今日の単語をもう一度テスト(5分) |
社会人の例
| 時間帯 | きっかけ | やること(目安) |
|---|---|---|
| 朝 | コーヒーをいれたら | やさしい英語ニュースを1本読む(10分) |
| 通勤 | 電車に乗ったら | ポッドキャストを聞き、気になった1文をメモ(20分) |
| 昼休み | 食べ終えたら | 単語アプリで復習(5分) |
| 寝る前 | 歯みがきのあと | 英語日記を3行(5分) |
寝る前の復習については、記憶と睡眠の関係を扱った第1章の睡眠の節もあわせて読んでください。
最初の1週間は「行動」より「きっかけ」を育てる
始めたばかりのころは、英語の中身より、「きっかけが来たら英語に手をのばす」流れを体に覚えさせることを優先します。音読が1回だけでも、単語が3個だけでも、きっかけのたびに英語を始められたら合格です。中身を充実させるのは、流れが安定してからで間に合います。
051日休んでも大丈夫。大事なのは戻り方
Lally ほかの研究には、もう一つ心強い結果があります。1回やらなかった日があっても、自動性の伸び方には大きな影響がなかったのです。習慣は「1日でも休んだら最初からやり直し」というものではありません。
一方で、同じ研究では、行動を安定して続けた人ほど、習慣化の曲線がきれいに当てはまっていました。休んでもかまわないけれど、休みがだらだら続くと習慣は育ちにくい、ということです。そこで、原田英語からの提案は次のルールです。
ポイント:「2日続けて休まない」。1日休んだら、次の日はどんなに小さくてもいいので必ずやる。
これは研究で直接確かめられたルールではなく、研究結果をふまえた実用上の工夫です。休んだ翌日は、いつもの半分、あるいは2分だけでもかまいません(小さく始める方法は、この章の「2分ルール」の節で詳しく扱います)。
習慣になったかを自分で確かめる
日数を数えるより、次の3つの質問で自分の状態を確かめるほうが役に立ちます。
- きっかけの場面になると、英語のことが自然に頭に浮かぶか
- 始めるときに「よし、やるか」という気合いがほとんど要らないか
- やらなかった日に、なんとなく落ち着かない感じがするか
3つとも「はい」なら、その行動はかなり習慣に近づいています。まだなら、きっかけの選び方を見直すか、行動をもっと小さくしてみましょう。習慣になった行動が1つできたら、それを足場に、次のきっかけと行動を1つ加えます。
習慣は日数ではなく「同じきっかけでくり返した回数」で育つ
今日からのやり方
- 毎日必ず起こる動作を1つ選び、きっかけにする(例:朝食を食べ終えたら)
- そのあとにやる英語の行動を1つ、5分以内の大きさで決める
- 「きっかけ→行動」を紙に書き、毎日目に入る場所に貼る
- やった日は記録表に丸をつけ、小さな「できた」を味わう
- 1日休んだら、翌日は2分だけでも必ずやって流れを戻す
- 2〜3か月は試す前提で続け、3つの質問で習慣になったかを確かめる
レベル別:あなたならこうする
最初は教科書や単語帳など、いま持っている教材で1日5分から。きっかけは「朝ごはんのあと」のように家の中の動作にすると、毎日そろえやすくなります。中身より「毎日同じ場面でやる」ことを優先しましょう。
通学や通勤など、毎日ある移動時間をきっかけにして、リスニングや単語の復習を固定します。慣れてきたら朝と夜の2か所にきっかけを作り、インプットと復習を分けて置くと学習量が安定します。
すでに学習量がある人は、何となく続いている行動の中身を点検します。習慣になった行動は惰性になりやすいので、月に1回、教材の難しさや練習の種類が今の目標に合っているかを見直しましょう。
よくある失敗と対策
空き時間は毎日ちがうので、きっかけになりません。朝食のあと、電車に乗ったら、など毎日必ず起こる動作に結びつけましょう。
研究では習慣化に18〜254日という大きな幅がありました。3週間で自動的にならないのは普通のことです。2〜3か月は試す前提で計画を立てましょう。
大きすぎる行動は休む日を増やし、くり返しの回数を減らします。最初は5分以内にして、毎日同じ場面でくり返すことを優先しましょう。
1 MIN
「〇〇したら英語を△分」と1行書き、机か冷蔵庫に貼る
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
3-1「21日で習慣になる」は研究で確かめられた?
Lally ほか(2010)の実験では、行動が自動的になるまでの日数は中央値で66日、人によって18〜254日と大きく開きました。「21日」はこの研究の結果ではありません。3週間で身につかなくても、失敗ではないのです。
3-11日サボったら、習慣づくりはリセット?
同じ研究で、1回やらなかった日があっても、自動化の進み方に大きな影響は見られませんでした。大事なのは休んだ翌日に戻ることです。1日の空白より、そこであきらめてしまうことのほうが損失は大きくなります。
3-1習慣のスイッチを押しているのは「やる気」?
習慣の研究では、行動は場所や直前の動作などの「状況」と結びついて身につくと考えられています。習慣ができると、その状況に出会うだけで行動が始まり、そのつど目標を思い出す必要がなくなります。
PRACTICE KIT
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
96人が新しい行動を毎日同じ場面で84日間続けた。曲線がよく当てはまった39人では、自動性が頭打ちの95%に届くまでの中央値は66日、幅は18〜254日。1回休んでも大きな影響はなかった。
Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009.出典を開く ↗習慣は、行動とそれを行う状況(場所や直前の動作など)との結びつきがくり返しで少しずつ強まって生まれ、いったんできると状況を知覚するだけで、目標を介さずに行動が始まるというモデルを示した。
Wood, W., & Neal, D. T. (2007). A new look at habits and the habit–goal interface. Psychological Review, 114(4), 843–863.出典を開く ↗50人に歯みがきの前か後にフロスをするよう指示した探索的な研究。後にした人のほうが習慣が強くなる傾向があり、8か月後も習慣が強く、フロスの回数も多かった。
Judah, G., Gardner, B., & Aunger, R. (2013). Forming a flossing habit: An exploratory study of the psychological determinants of habit formation. British Journal of Health Psychology, 18(2), 338–353.出典を開く ↗習慣の認知・動機・脳のしくみをまとめた総説。人は同じ状況で同じ行動をくり返しやすく、習慣は効率のよい初期設定の反応として働くと整理した。
Wood, W., & Rünger, D. (2016). Psychology of habit. Annual Review of Psychology, 67, 289–314.出典を開く ↗よくある質問
66日続ければ、必ず習慣になりますか?
必ずではありません。66日は研究参加者の中央値で、18日で自動的になった人もいれば、計算上254日かかる人もいました。日数より、同じきっかけでくり返せているかを見てください。
毎日ちがう時間にしか勉強できません。
時刻ではなく「動作」をきっかけにしましょう。帰宅して着替えたら、夕食を食べ終えたら、のように、時刻が変わっても毎日ある動作に結びつければ、同じ流れを作れます。
習慣になったら、もう意識しなくていい?
始めることは楽になりますが、中身は見直しが必要です。同じ教材を惰性で続けると伸びが止まることがあります。始め方は習慣に任せ、内容は月に1回点検するのがおすすめです。



