シャドーイングの導入 ― 初めてのクラスでも挫折させない5ステップ
「影のように、聞こえた英語を少し遅れて追いかける」シャドーイング。準備なしで始めると、音声についていけない生徒が少なくありません。マンブリング→文字つき→文字なしと段階を踏めば、中学生でも始められます。
- ⏱ 時間
- 10分
- 🧰 準備
- 少し
- 👥 形態
- 個人(全体で一斉に)
- 🎯 技能
- リスニング・発音
- 📶 CEFR
- A2-B1

- 英語の音声から音や語を聞き分け、とらえる力(ボトムアップ処理)を鍛える。
- 「聞いた音をそのまま口に出す」体験を通して、自分が聞き取れていない部分に気づかせる。
- 言えなかった原因(知らない語・速さ・音のつながり)を分析し、次の練習につなげる。
シャドーイングってなに?
ひとことで言うと、文字を見ずに、聞こえてくる英語を、影(shadow)のようにすぐ後ろからついていって声に出す練習です。
音は聞いてからでないと言えないので、実際には音声からほんの少し遅れて追いかける形になります。ここが、本文を見ながら音声と同時に重ねて読むオーバーラッピング(シンクロ・リーディング)とのちがいです。文字に頼れないので、耳から入る音そのものに集中することになります。くわしい研究はシャドーイングのページにまとめています。
歌詞カードなしで、流れてくる歌を半拍おくれて口ずさむようなものです。歌詞を見ないので、音のつながりや弱く歌っている所まで、耳で拾うしかありません。ただし、知らない歌をいきなり口ずさむのはとても難しい。だからこのページでは、何度か聞いて、文字つきで重ねて読んでから、文字なしに進むという段階を踏みます。
似た練習とのちがい
| 練習 | 文字を見る? | タイミング | このページの手順では |
|---|---|---|---|
| マンブリング | 見ない | 少し遅れて、小声でつぶやく | ステップ2(ウォームアップ) |
| シンクロ・リーディング(オーバーラッピング) | 見る | 音声と同時に重ねる | ステップ3 |
| シャドーイング | 見ない | 少し遅れて、はっきり声に出す | ステップ4(本番) |
やり方を3ステップで
- 慣れる:文字を見ずに聞く → 小声でなぞる(マンブリング)→ 文字を見ながら音声と同時に読む。
- 追いかける:本文を伏せ、0.5秒ほど遅れて2〜3回シャドーイングする。止まったら次の文から合流。
- 見直す:本文を表に戻して聞き、言えなかった語に○をつけて理由を書く。
授業の流れ(分ごと)
| 時間 | ステップ | 先生 | 生徒 |
|---|---|---|---|
| 0:00〜1:00 | 1 Listen | 音声を流す。"What's it about?" | 文字を見ずに聞く |
| 1:00〜3:00 | 2 Mumbling | 2回再生 | 小声でなぞる |
| 3:00〜4:30 | 3 Synchro | 本文を表に。1回再生 | 文字を見ながら音声と同時に読む |
| 4:30〜7:30 | 4 Shadowing | 本文を伏せさせ、2〜3回再生 | 文字なしで追いかける |
| 7:30〜9:00 | 5 Check | 本文を表に戻させ、もう1回再生 | 言えなかった語に○ |
| 9:00〜10:00 | 振り返り | 「言えなかった理由」を聞く | 記録シートに理由を書く |

- 素材を選ぶ:語彙と内容をすでに学んだ教科書本文か、それよりやさしい音声。10分で終えるなら、初回は20〜30秒ほどの短いもの(60秒の素材なら12〜15分を見こむ)。最初は話す速さが遅めのもの。
- やり方を見せる:初回だけ、先生が音声に0.5秒ほど遅れてついていく様子を実演する("like a shadow")。
- 聞くだけ(1回):文字は見ない。「何の話?」だけ確認。
- マンブリング(2回):聞こえた音を、もごもごと小声でなぞる。言えなくてもOK。
- 文字を見ながら(シンクロ・リーディング)(1回):本文を見ながら、音声と同時に、ぴったり重ねて声に出す(オーバーラッピング・パラレル・リーディングと同じ練習)。少し遅れて追いかけるのは、次の文字なしシャドーイングから。
- 文字なしシャドーイング(2〜3回):本文を伏せ、0.5秒ほど遅れて追いかける。止まっても、次の区切りから再開。
- チェック:本文を表に戻し、もう1回聞きながら言えなかった語に○。記録シートに理由(知らない語/速い/音がつながる/弱く聞こえる/口が追いつかない/集中が切れた・覚えておけない)を書く。言えなかった原因は、聞き取りだけとは限りません。
- 板書:黒板に5つのステップを書き、今どこかをマグネットで示す。言えなかった語のよくある例(want to, did you など)を最後に全体で確認する。
すべてオリジナル。先生が読み上げるか、読み上げツールで音声を作って使えます。
レベル1(中2・ゆっくり・短い)
- I have a cat. She is white. She sleeps on my bed every night.
- My father cooks dinner on Sundays. His curry is very good.
- We have a test tomorrow, so I'm going to study tonight.
レベル2(中3・ふつうの速さ) 4. Have you finished your homework yet? I haven't started mine. 5. The man who lives next door is a famous baseball player. 6. I was surprised when I heard the news about the festival.
レベル3(高校) 7. I used to be afraid of speaking in front of people, but now I enjoy it. 8. It's said that the town was much bigger a hundred years ago. 9. If you need any help with the project, just let me know.
聞き取りにくい「つながり」の練習用 10. What are you going to do after school?(going to がつながる) 11. Did you get it?(did you がつながる) 12. I want to ask you a question.(want to がつながる)
- 小学校:シャドーイングは負担が大きいので、先生の1文を聞いて言う「リピート」まで。歌のフレーズを追いかけて歌うのが近い体験です。
- 中学:教科書の既習本文で、手順5(文字つき)までを目標に。文字なしは、既習の音声を無理なく追える生徒から、短い1文で試せば十分です(学年で区切らないのが筆者のおすすめです)。
- 高校:リスニング問題の音声を、解き終わったあとにシャドーイング素材として使う。「聞き取れなかった理由」が音の問題か、語彙の問題かがわかります。
- 大人数クラス:全員一斉に、教室のスピーカーで。声を出す恥ずかしさが減ります。先生は口が動いているかだけ見て回ります。
- 苦手な生徒が多いクラス:0.8倍速で、手順5のシンクロ・リーディングを中心に。文字なしは1文だけ挑戦すればOKとします。
- オンライン・タブレット:各自イヤホンで練習し、最後の1回だけを録音して提出。数人分を先生が聞いて、全体にコメントを返します。
シャドーイングは「聞き取りや音声の再現でつまずく部分を見つける練習」なので、言えた量そのものを成績にするより、練習の質と自己分析を見ます。言えなかった原因は、聞き取りのほかに、口が追いつかない・集中が切れる・覚えておけない、などもありえます。録音で見る再現の度合いは本人へのフィードバック(形成的な評価)に使い、リスニングの力の評価は別の聞き取り課題で確かめます。
- 知識・技能:音声についていき、内容語だけでなく機能語や語尾も再現できる(録音で確認。指導に生かす評価として)。
- 思考・判断・表現:シャドーイングは音の練習なので、この観点は単元の言語活動の方で見ます(例:同じ本文や似た話題の音声を聞き、目的に応じて要点や必要な情報をとらえているか)。記録シートの「言えなかった理由」の分析は、成績のためではなく、次の練習に生かす振り返り(形成的な評価)に使います。
- 主体的に学習に取り組む態度:止まっても再開し、くり返し挑戦する粘り強さに加えて、記録シートをもとに速さ・練習する文・文字の助けを自分で選び、次の練習のやり方を調整しようとしているか。1回の様子ではなく、何回分かの記録をあわせて見ます。
| 段階 | 目安(文字なしシャドーイング) |
|---|---|
| A | ほぼ止まらずについていけ、機能語や語尾も再現できる |
| B | 内容語は言えるが、機能語・語尾が抜ける |
| C | 途中で止まることが多い |
録音をときどき提出させ、学期の最初と最後を本人に聞き比べさせると、伸びが実感できます。
- 素材が難しすぎて、何も言えない → 知らない語だらけの音声は不向き。語彙と内容を学んだ教科書本文が使いやすい選択肢です。
- 途中で止まってしまう → 「止まったら次の文から合流」をルールに。止まらないことを優先させます。
- 「できたかどうか」だけで評価する → シャドーイングは「聞き取りや再現でつまずく部分」を見つける道具です。言えなかった箇所に印をつけ、理由を書くことに意味があります。
- 毎回長時間やって疲れる → 負荷が高い練習です。1回10分、短い素材をくり返す方が続きます。
- 恥ずかしがって声が出ない → 一斉に、スピーカーの音量を大きめにして。マンブリングの段階なら、ほとんど聞こえません。
シャドーイングは日本で広まった練習法で、研究も日本の学習者を対象にしたものが中心です。日本の大学生43人に9回の授業でシャドーイングを行った研究では、音を聞き取る力(音素の知覚)は、リスニングの中位群・下位群どちらも伸びました。一方、高校レベルの聞き取り問題で点が伸びたのは下位群だけでした 1。ただしこの研究には、シャドーイングをしない比べる群(対照群)がありません。授業のほかの活動や、同じテストを2回受けた慣れの影響もありうるので、伸びをすべてシャドーイングのおかげとは言えません。そのうえで、シャドーイングは「音のレベル」に働きかける練習で、とくに音でつまずいている学習者の助けになることが期待される、というのが妥当な読み方です。
順番についての研究もあります。日本の大学1年生を2群に分け、約1か月・8回の授業で比べた研究では、少し難しめの教科書本文を使う場合、語彙と内容を学んだ「あと」にシャドーイングした群(ポスト・シャドーイング)ではリスニングの得点が有意に伸び、先にシャドーイングしてから語彙・内容を学んだ群では、伸びは有意ではありませんでした 2。ただし、2つの群の伸びの差を直接検定した研究ではなく、もとのクラスのまま比べた小規模な研究です。著者は、内容を知っていると不安が減って負担が軽くなること、すでに活性化された知識に支えられて音の処理に集中しやすくなることなどを理由に挙げています 2。「シャドーイングは初見の音声でやるほど効く」という思いこみは、教科書を使う授業では当てはまらないかもしれません。
シャドーイング研究をまとめた総説では、初級の学習者はまず聞くためのシャドーイングから始め、聞き取りの力が十分に育ってから、発音など話すためのシャドーイングへ進むことがすすめられています 3。同じ授業の中ですぐに切りかえるのではなく、段階を追って進む、という意味です。その理論的な背景(聞く・頭の中でくり返す・話す・自分をモニターする、の4つの働き)は、シャドーイングと音読の研究を長く続けてきた英語教育学者の門田修平氏の本に詳しくまとめられています 4。
❓ よくある質問
Q. シャドーイングは、どんな手順で導入すればいいですか?
①文字を見ずに聞く ②マンブリング(小声でなぞる)2回 ③シンクロ・リーディング(文字を見ながら音声と同時に読む)1回 ④本文を伏せてシャドーイング2〜3回 ⑤本文を見て言えなかった語に○、の5ステップで、全体で10分ほどです。初回は、先生が0.5秒ほど遅れてついていく様子を実演します。
Q. シャドーイングの素材は、何を使えばいいですか?
語彙と内容をすでに学んだ教科書本文か、それよりやさしい音声です。10分で終えるなら、初回は20〜30秒ほどの短いものにします。少し難しめの教科書本文では、語彙と内容を学んだ「あと」にシャドーイングした群でリスニングの得点が有意に伸び、先にした群では有意な伸びが見られなかったという研究があります(2群の差を直接比べた検定ではありません) 2。
Q. シャドーイングで、どんな力が伸びますか?
日本の大学生43人の研究では、シャドーイングを含む授業の前後で、音を聞き取る力は中位群・下位群どちらも伸び、聞き取り問題の点が伸びたのは下位群だけでした 1。対照群のない研究なので伸びのすべてがシャドーイングのおかげとは言えませんが、「音のレベル」に働きかけ、とくに音でつまずいている学習者の助けになることが期待されます。
Q. 中学生にも、文字なしのシャドーイングをさせますか?
中学では既習の教科書本文で、文字つきのシンクロ・リーディングまでを目標にします。文字なしは、既習の音声を無理なく追える生徒から、短い1文で試せば十分です。苦手な生徒が多いクラスでは0.8倍速にし、文字なしは1文だけ挑戦すればOKとします。
Q. 途中で止まって、続けられなくなる生徒がいます。
「止まったら次の文から合流」をルールにし、止まらないことを優先させます。終わったら言えなかった語に○をつけ、理由(知らない語/速い/音がつながる/弱く聞こえる/口が追いつかない など)を書かせると、次の練習につながります。
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📑 出典(4件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Hamada, Y. (2016). Shadowing: Who benefits and how? Uncovering a booming EFL teaching technique for listening comprehension. Language Teaching Research, 20(1), 35-52. doi:10.1177/1362168815597504 ✔ DOI照合済日本の大学生43人。シャドーイングで音の聞き取りは両群で伸び、聞いて理解する力は下位群で伸びた
- Hamada, Y. (2014). The effectiveness of pre- and post-shadowing in improving listening comprehension skills. The Language Teacher, 38(1). doi:10.37546/jalttlt38.1-1 ✔ DOI照合済日本の大学1年生。語彙・内容を学んだあとにシャドーイングする「ポスト・シャドーイング」群でリスニングが伸びた
- Hamada, Y. (2019). Shadowing: What is it? How to use it. Where will it go?. RELC Journal, 50(3), 386-393. doi:10.1177/0033688218771380 ✔ DOI照合済シャドーイング研究25年をまとめ、授業での使い方を提案した総説
- Kadota, S. (2019). Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition: Connecting Inputs and Outputs. Routledge doi:10.4324/9781351049108 ✔ DOI照合済門田修平によるシャドーイングの理論と研究をまとめた英語の専門書
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら





