洋楽で英語の授業 ― 歌詞の穴埋めで終わらせない6ステップ
洋楽や、歌詞がすべて英語の K-POP の曲は、中学生・高校生が「聞いてみたい」と思える英語です。ただし、流して穴埋めをして終わりでは、学べることは限られます。内容をつかむ→細部を聞く→表現・文法・音を見つける→自分の英語で感想を言う、まで1曲で進めましょう。
- ⏱ 時間
- 30-35分
- 🧰 準備
- 少し
- 👥 形態
- 個人→ペア
- 🎯 技能
- リスニング・語彙・文法・発音・ライティング
- 📶 CEFR
- A2-B2

- 生徒が「聞いてみたい」と思える本物の英語(洋楽・歌詞がすべて英語の K-POP の曲)を、目的をもって何度も聞く。
- 歌の中から、表現・文法・音のつながりを自分で見つけ、意味を確かめる。
- 歌の内容について、自分の英語で感想や質問を言う・書く。
洋楽で英語の授業ってなに?
ひとことで言うと、英語の歌を1曲使って「内容をつかむ → 細かい所を聞く → 表現・文法・音を見つける → 自分の英語で感想を言う」まで進める、中学・高校向けのリスニングの活動です。
使う歌は、洋楽(英語のポップス・ロック・バラードなど)と、歌詞がすべて英語の K-POP の曲です。英語の歌の授業というと「歌詞の穴埋めをして、答え合わせをして、最後にみんなで歌う」形が定番ですが、このページでは穴埋めを途中の1ステップにとどめ、そのあとの「見つける」「自分の英語で言う」に時間を使います。
好きな映画を「もう一度見る」のに似ています。1回目はストーリーを追うだけで精一杯。2回目には細かいセリフが耳に入り、3回目には「あのセリフ、使ってみたい」と思える言い回しが見つかります。そして見終わったら、だれかに「どこがよかったか」を話したくなる。同じ歌を目的を変えて何度も聞き、最後に自分の言葉で話すのが、この活動の中心です。
似た活動とのちがい
| このページ(洋楽で授業) | 歌とチャンツ | 聞き流し | |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 中学・高校 | 小学校・中学校の初めのころ | — |
| 使う歌 | 洋楽、歌詞がすべて英語の K-POP の曲(本物の歌) | 子ども向けの歌、手拍子に乗せて言うチャンツ | 何でも(BGM として流す) |
| 聞き方 | 目的を変えて2〜3回(内容 → 細部 → 確認) | まねして、いっしょに歌う | 意味を確かめずに流す |
| ねらい | 内容理解、表現・文法・音への気づき、自分の意見 | 決まった表現をかたまりで覚えて使う | — |
| 歌うこと | 最後の任意のステップ | 活動の中心 | — |
やり方を3ステップで
このページの6ステップを大きく3つにまとめると、次のとおりです。
- 聞く(手順1〜3):曲の背景を1分で紹介 → 1回目で内容をつかむ → 2回目で穴埋めなどの細部。
- 見つける(手順4):歌詞を見ながら、表現・文法・音のつながりをペアで探す。
- 使う(手順5・6):自分の英語で感想と歌い手への質問を書き、ペアで伝え合う。時間があれば、最後に聞きながら歌う。
曲の選び方(いちばん大事な準備)
授業がうまくいくかどうかは、曲選びで半分決まります。候補の曲は、必ず先生が歌詞の全文を読んでから決めましょう。
| 観点 | 確かめること | 例・目安 |
|---|---|---|
| 歌詞の内容 | 暴力・差別・性的な表現・薬物・汚いことばがないか。恋愛の歌でも、クラスで話題にして困らない内容か | 配信サービスの表示だけで判断せず、全文を自分で読む |
| 速さ | 1行に語がつめこまれていないか。速いラップの部分が長くないか | ゆっくりめのバラードや、ミドルテンポのポップスが使いやすい |
| 語彙の難しさ | 知らない語がどのくらいあるか | 玉手箱の「英文の語彙レベル判定」で歌詞を確かめ、難しい語には語注をつける |
| 聞き取りやすさ | 伴奏に声が埋もれていないか。声の加工が強すぎないか。ささやき声が多くないか | 1回、目をつぶって聞いてみて、半分以上の行が聞き取れるか |
| くり返し | 同じフレーズを何度もくり返すサビがあるか | サビのある曲は、表現を見つけやすく、覚えやすい |
| 英語だけか | 英語以外のことばの部分がどのくらいあるか | K-POP は、英語と韓国語がまざる曲だと穴埋めや表現さがしに使いにくい。歌詞がすべて英語の曲を選ぶ |
| 文法・表現 | その学年で扱う文法が自然に出てくるか | 物語のように出来事が順に進む歌(過去形)、「もし〜なら」と願う歌(仮定法) |
| 長さ | 3〜4分程度か | 長い曲は、1番とサビまでに区切って使う |
曲の「型」の例(特定の曲名ではなく、さがすときの手がかりです)
- ゆっくりで歌詞がはっきりしたバラード
- 同じフレーズを何度もくり返すサビのあるポップス
- 出来事が順に語られる、物語のような歌(過去形・時を表す語が多い)
- 「もし〜だったら」と願う歌(仮定法)
- 相手に呼びかける歌(命令文・Let's ... が多い)
- 歌詞がすべて英語の K-POP の曲(生徒の関心が高く、「聞いてみたい」につながりやすい)
候補の曲をさがすときは、原田英語の英語学習におすすめの洋楽258選(英語大全)が便利です。英語の先生が「英語学習おすすめ度」をつけたランキングで、発音がきれいでゆっくりな曲から最近のヒット曲まで、気分別・レベル別に選べます。世界の公式チャートも毎日更新されています。候補が決まったら、上の表の観点で、先生が歌詞の全文を読んで確かめてから授業に使いましょう。
生徒にリクエストを聞くときは、「曲名とアーティスト名を紙に書いて出す → 先生が歌詞を全文読んで選ぶ」の順にします。リクエストをそのまま流すと、授業中に初めて不適切な歌詞に気づくことがあるからです。
授業の流れ(分ごと)
1曲(3〜4分)を使って、30〜35分で進める例です。時間が足りなければ、手順1〜4と手順5・6を2時間に分けてもかまいません。
| 時間 | ステップ | 先生 | 生徒 |
|---|---|---|---|
| 0:00〜2:00 | ① 背景 | 曲名・アーティスト・いつごろの曲かを紹介。曲名から内容を予想させる | 予想を1文でペアに言う |
| 2:00〜7:00 | ② 1回目 | 歌詞を見せずに通して流す | 内容をつかむ。聞き取れた語をワークシートにメモ |
| 7:00〜8:00 | ② 確認 | "What is the song about?" と聞く | ペアで内容を1文で言う |
| 8:00〜13:00 | ③ 2回目 | 穴埋め(8〜10か所)の歌詞を配る・映す。もう一度流す | プリントの空欄、またはノートに答えを書く |
| 13:00〜16:00 | ③ 答え合わせ | 答えを示し、聞き取りにくかった所だけ再生 | 答えを確かめ、まちがいの理由を考える |
| 16:00〜23:00 | ④ 見つける | 「表現・文法・音を3つ以上」と指示し、机の間を回る | ペアで歌詞から表現をさがし、意味を確かめる |
| 23:00〜31:00 | ⑤ 自分の英語で | 感想の文の型を示す | 感想と質問を2〜3文書き、ペアで伝え合う |
| 31:00〜35:00 | ⑥ 3回目(任意) | 歌詞を見ながら最後にもう一度流す | 聞きながら読む・いっしょに歌う |

- 背景を1分で(先生):曲名・アーティスト・いつごろの曲かを英語で短く紹介します。曲名を板書し、"What do you think this song is about?" と聞いて、ペアで予想を1文ずつ言わせます(例:I think it's about a friend.)。予想しておくと、1回目に「答え合わせ」をする気持ちで聞けます。
- 1回目は内容をつかむ(全員):歌詞は見せずに、通して流します。ワークシートの Song card に「何についての歌か」を1文、Words I caught に聞き取れた語を書きます。流し終わったら、ペアで "What is the song about?" と聞き合います(1分)。全部わからなくて当然です、と先に伝えておきます。
- 2回目は細部を聞く(個人→ペア):歌詞の8〜10か所を空欄にしたプリントを配る(画面に映す場合は空欄に番号をつけ、生徒は番号と答えをノートに書く)。空欄は1行に1か所まで、サビの中の語・機能語(to, a, the)・語尾(-s, -ed)・音がつながる所を中心にし、知らない新出語は空欄にしません。流したあと、ペアで答えを比べ、答え合わせでは聞き取りにくかった所だけを再生します。空欄の作り方は 穴埋めディクテーション と同じです。
- 表現・文法・音を見つける(ペア・7分):歌詞を見ながら、ワークシートの Expression hunt に3つ以上書きます。さがすものは3種類です。①表現(決まった言い回し)②文法(その学年で習った形)③音(つながる・消える・弱くなる音)。教科書とちがう形(くだけた言い方、韻やリズムのために語順が変わった所)を見つけたら、「なぜこの形?」とペアで話させます。最後に、先生が3〜4組に1つずつ発表してもらい、板書します。
- 自分の英語で感想と質問(個人→ペア・8分):ワークシートの My response に、文の型を使って2〜3文書きます(例:This song is about a long summer. The part about the old photo made me feel a little sad because I moved last year.)。書いたら、ペアで読み合い、相手に質問を1つします。歌詞の文をそのまま書き写すのではなく、自分の文で書くのがルールです。
- 3回目(任意・全員):歌詞を見ながら最後にもう一度流し、聞きながら読む、または小さな声でいっしょに歌います。歌うのが苦手な生徒には「目で歌詞を追うだけでよい」と伝えます。
すべてオリジナルです。実在の曲の歌詞は入れていません。
手順1:予想を引き出す質問
- What do you think this song is about?
- Look at the title. Is it a happy song or a sad song?
- Who is the singer talking to? A friend, a family member, or a lover?
手順3:空欄にする所(チェックリスト) 4. サビの中の語(何度も聞けるので、2回目で確かめやすい) 5. 機能語(to, a, the, of)・語尾(-s, -ed)・音がつながる所 6. 1行に1か所まで、全部で8〜10か所まで。新出語・固有名詞は空欄にしない
手順4:表現さがしの指示(中学・高校) 7. 中2:Find a past tense verb. What happened in the song? 8. 中3:Find "have + past participle." How long has it been? 9. 高校:Find a sentence with "if." Is it real or imagined? 10. 全学年:Find a sound change. How is it written, and how is it sung?
手順5:感想の文の型 11. This song is about ____ . 12. The part about ____ made me feel ____ because ____ . 13. I would recommend this song to ____ because ____ . 14. If I could ask the singer one question, I would ask, "____ ?"
手順5:ペアで使う質問 15. Which part did you like the best? / Why? 16. Did the song remind you of anything?
- 中学:まず歌詞の短い部分(1番とサビ)だけを使い、空欄は6か所くらいに減らします。手順4は「習った文法を1つ見つける」にしぼり、手順5は文の型の1行目と2行目だけでもかまいません。
- 高校:手順4で、歌詞の「だれが・いつ・どこで」がはっきり書かれていない所に注目させ、「この you はだれだと思う?」と根拠をあげて話し合わせます。手順5を、曲の内容について自分の意見を述べる短いパラグラフ(5〜6文)にしてもよいでしょう。
- K-POP を使うとき:歌詞がすべて英語の曲を選びます。生徒の関心が高い素材なので、ファンの生徒に手順1の背景紹介を英語で任せる方法もあります。英語と韓国語がまざる曲は、英語の部分が少ないと穴埋めや表現さがしに使える所が限られるので避けます。歌い手の多くが英語を母語としないことを話題にして、「英語は世界のいろいろな人が使うことば」につなげることもできます。
- 苦手な生徒が多いクラス:穴埋めは選択肢つき(2択)にし、1回目の前に、語注(難しい語5つ程度)を配ります。手順5は日本語で考えてから、文の型の空所に1語ずつ入れる形でかまいません。
- 大人数クラス:ペアの活動は隣どうしで全員同時に行い、手順4の発表は3〜4組にしぼります。残りの組の発見は、ワークシートを集めて次の時間に紹介します。
- タブレット・ICT:穴埋めは玉手箱の「リスニング穴埋め問題作成」で作ると、その場で答え合わせができます。手順5の感想は、クラスだけが見られる共有ボードに書き込ませると、ほかの人の感想も読めます。歌詞や音源をクラウドに上げるときは、下の「著作権」の節を先に読んでください。
- 帯活動として:1曲を3回の授業に分け、毎時間の初めの10分で「1回目+内容」「2回目+穴埋め」「表現さがし+感想」と進める方法もあります。同じ曲を間をあけて何度も聞くことになります。
- 知識・技能:見つけた表現や文法の意味・働きを説明できるか(Expression hunt の記述)。音のつながりに気づき、どの語がつながったかを言えるか。
- 思考・判断・表現:曲の内容を踏まえて、自分の感想や考えを理由とともに書いたり話したりできているか(My response)。歌詞をそのまま写した文ではなく、自分の文で書いているかを見ます。
- 主体的に学習に取り組む態度:聞き取れなかった所を、くり返し聞いたり歌詞と照らしたりして確かめようとしているか。振り返りで、次に聞くときに何に気をつけるかを具体的に書いているか。1回の授業で決めず、何回かの記録から判断します(この観点は、粘り強い取組の中で自分の学習を調整しようとしているかも含めて見るものです 1)。
歌がうまいかどうか、その曲を好きかどうかは評価しません。
| 見る点 | よくできている | できている | もう少し |
|---|---|---|---|
| 表現さがし | 表現・文法・音の3種類を見つけ、意味や働きを説明できる | 3つ以上見つけ、意味を確かめている | 1〜2つ見つけたが、意味があいまい |
| 感想(My response) | 曲の内容を踏まえ、理由と質問をつけて自分の文で書いている | 文の型を使って、理由つきで2文以上書いている | 1文だけ、または歌詞を写した文が中心 |
- 穴埋めがほとんど聞き取れず、白紙の生徒が多かったら → 空欄を減らす(6か所程度)、2択の選択肢をつける、聞き取りにくい行だけをもう一度流す、のどれかにします。次からは、もう少しゆっくりで声がはっきりした曲を選びます。
- 答え合わせで時間がなくなり、手順4・5まで進めなかったら → 穴埋めの空欄を減らし、答え合わせは答えを映すだけにします。「見つける」「自分の英語で言う」の時間を先に確保して、残りで穴埋めをする、という順で時間を考えます。
- 授業の途中で、ふさわしくない歌詞に気づいたら → その曲はそこで止め、別の曲に切りかえます。曲は必ず先生が全文を読んでから選ぶ、を徹底します(リクエスト曲も同じ)。
- 「洋楽を毎日聞いていれば英語ができるようになる」と言う生徒がいたら → 意味を確かめずにただ流すのと、目的をもって聞き、意味を確かめ、使ってみるのはちがう、と伝えます(聞き流し のページ)。家で聞くなら「好きな曲の歌詞を読んで、意味を調べた表現を1つノートに書く」のように、確かめる1歩を足すことをすすめます。
- 好みが分かれて、乗らない生徒がいたら → 学期の中で、ちがうジャンル(バラード、ロック、K-POP など)を順番に使います。「この曲は好きじゃない」も立派な感想なので、手順5で理由とともに英語で書いてよい、と伝えます。
- 歌詞を替えた「替え歌」を作って発表したい、と言われたら → 歌詞を変えることは、作った人の思いに関わります。文化祭などで発表する場合は特に注意が必要です(下の「著作権」の節)。替え歌の代わりに、歌のテーマで自分のオリジナルの英文(短い詩やメッセージ)を書く活動にします。
著作権:授業で歌詞を配る・曲を流すとき
洋楽を授業で使うときに、いちばん気をつけたいのが著作権です。ここでは、文化庁と、教育関係者・権利者などでつくる「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」の資料で確かめられた範囲だけを書きます。このページは法律の助言ではありません。迷うときは、学校の決まりを確認し、管理職や教育委員会に相談してください。
| 場面 | 資料で確かめられたこと | 授業での注意 |
|---|---|---|
| 授業中に曲を流す・動画サイトの動画を画面で見せる | 学校などの教育機関で、授業のために必要な範囲で著作物を複製・公衆送信・公に伝達することは、条件を満たせば許諾なしでできる(第35条)。例として、動画投稿サイト上の著作物をディスプレイで生徒に視聴させることが挙がっている 2 | 違法にアップロードされたと思われる動画は使わない。営利目的の教育機関(塾など)はこの規定の対象外 2 |
| 歌詞をプリントにして配る(穴埋めプリントを含む) | 第35条の複製。授業に必要な限度であること、著作権者の利益を不当に害しないことが条件で、文化庁のテキストは著作物の全部を複製することを対象外になる例にあげている。慣行があるときは出所(曲名・作者名など)を示す 2。運用指針は、全部を複製しても利益を不当に害しない可能性が高い例に「俳句、短歌、詩等の短文の言語の著作物」をあげているが、歌詞は名指しされていない 3 | 歌詞の全文を配ってよいかは、このページでは言い切りません。学校の決まりを確認してください。使う部分(1番とサビなど)にしぼる、曲名・作詞者・アーティストを書く、配ったプリントは授業以外に使わない 2、が基本です |
| 歌詞や音源を、授業支援クラウドに上げる | 公衆送信にあたる。教育機関の設置者が、事前に SARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)に登録して補償金を払う必要がある 2。ID とパスワードなどで、授業を受ける生徒だけが見られるようにする 3 | 自分の学校(設置者)が登録しているかを確かめる。授業に必要な範囲を超えて、音楽の全編をいつでもダウンロードして聞けるようにしておくことは、許諾が必要な例にあげられている 3 |
| 学校のホームページや動画共有サービスで、だれでも見られる形にする | 誰でもアクセスできる形での公衆送信は、著作権者の利益を不当に害する例にあげられている 3 | 授業の様子を公開するときは、曲が入らないようにするか、権利の処理が必要かを学校で確かめる |
| 文化祭などで歌う・曲を流す | 営利を目的とせず、聞く人からお金をとらず、出演者に報酬が支払われない場合は、許諾なしで上演・演奏できる(第38条)。ただし、複製や公衆送信はこの規定に含まれない 2 | 録音・録画して配信するときは、別に確かめる |
| 歌詞を替えて歌う・発表する | 運用指針の追補版は、授業で作品を使うときも、やむを得ない場合を除いて改変をしない配慮が必要とし、特別活動で歌詞の変更を行う場合は、控えるか権利者の意向を聞いて判断することが望まれるとしている 4 | 替え歌は授業の中でも慎重に。発表や公開はしない |
あわせて、違法にアップロードされた音楽だと知りながらダウンロードすることは、自分で楽しむためでも違法です 2。生徒に「好きな曲を家で聞いておいて」と言うときも、公式の配信やCDなど正規の方法で、と添えておきましょう。
歌は言い回しを丸ごと覚えやすい。 大人60人が知らない言語(ハンガリー語)のフレーズを、①ふつうに話す、②リズムをつけて話す、③歌う、のどれかで「聞いてくり返す」形で覚えた実験では、歌ったグループが、フレーズを思い出して言う2つのテストで、ほかのグループより有意によい成績でした 5。ニュージーランドの大学に出された Friederike Tegge 氏の博士論文でも、歌を使った授業と詩を使った授業は、散文を使った授業より、文をそのままの形で見分けたり、手がかりから思い出したりする成績が高くなりました 6。歌だけでなく詩でも差が出たことから、リズムやくり返しのある文章の形が効いているのかもしれません。
歌詞の語彙は、本物の英語の中では比較的やさしい。 Tegge 氏が、先生たちが授業で使った英語の歌635曲を調べたところ、歌は短く、くり返しが多く、ほかの本物の英語の文章にくらべて語彙の負担は比較的軽いものでした。よく使われる上位4,000語族(play, plays, played のような変化形に加え、player, playful のような一定の派生語もまとめて1つと数える単位)を知っていれば、歌詞に出てくる語の98%がカバーされます 6。聞き取りの研究では、知っている語が95%程度あると、英語を母語としない聞き手も比較的安定して理解できたと報告されています 7。生徒の語彙の量によっては知らない語がもっと多く残るので、難しい語には語注を用意しましょう。また Tegge 氏の分析では、初級・中級・上級向けとして選ばれた歌の間で、語彙の負担にあまり差がありませんでした 6。「初級向け」という評判をうのみにせず、歌詞を自分で確かめるのが安全です。歌と言語学習について論文を書いてきた研究者の Tim Murphey 氏は、ヒットチャート上位50曲の歌詞を調べ、ポップスの歌詞は短く、感情に訴え、なじみのある語が何度もくり返される一方、内容があいまいになりやすいと報告しています 8。手順4の高校のアレンジで「この you はだれ?」と話し合うのは、このあいまいさを生かすためです。
聞く回数が増えるほど、語は少しずつ身につく。 Niousha Pavia 氏と、語彙の研究で知られる Stuart Webb 氏らは、2曲の歌を使い、そのうち1曲は聞く回数を1回・3回・5回と変えて、聞くだけで語の音の形・意味・語の組み合わせがどれだけ身につくかを調べました。歌を聞くことで語の知識は伸び、くり返し聞くほど、また目当ての語に出会う回数が多いほど、伸びは大きくなりました 9。手順2・3・6で同じ曲を目的を変えて3回聞くのは、このためです。
ただし「流すだけ」では残りにくい。 イタリアの8年生(12〜13歳)27人に、英語のポップス2曲を使った授業をした研究では、目当ての語の意味をはっきり扱った(歌詞の中で色をつけて意味を確かめ、その語を使うゲームをした)曲でも、意味を扱わず別の語の発音を練習した曲でも、授業の直後には語の知識が伸びました。しかし1か月後のテストで伸びがはっきり残っていたのは、意味を扱った方だけでした 10。著者らも、曲が2曲だけ・2日間だけ・人数が少ない・比べるための何もしないグループがない、という限界を認めています 10。それでも、手順4のように表現の意味を確かめる時間をとる理由にはなります。
Murphey 氏は、歌が頭から離れずにくり返し流れる現象を、言語を身につける過程の「頭の中のくり返し」と結びつける仮説も出しています 11。ただしこれは実験で確かめられた結果ではなく、考え方の提案です。
まとめると、歌には「覚えやすい」「くり返し聞ける」「語彙が比較的やさしい」という強みがありますが、どの研究も小規模で、このページの6ステップの流れそのものを調べた研究はありません。洋楽を聞けば英語が身につく、とは言えません。目的をもって聞き、意味を確かめ、自分の英語で使う時間をとることで、歌の強みを授業に生かすのがこのページの提案です。
❓ よくある質問
Q. 洋楽を使った英語の授業は、どんな流れで進めればいいですか?
1曲を使い、①曲の背景を1分で紹介 → ②1回目は歌詞を見ずに内容をつかむ → ③2回目は穴埋めなどで細部を聞く → ④歌詞から表現・文法・音のつながりを見つける → ⑤自分の英語で感想と質問を書いてペアで伝え合う → ⑥最後に聞きながら読む・歌う(任意)、の6ステップで進めます。30〜35分が目安で、2時間に分けてもかまいません。
Q. 授業で使う洋楽は、どうやって選べばいいですか?
必ず先生が歌詞の全文を読んでから選びます。見るのは、歌詞の内容が授業にふさわしいか、速さ、語彙の難しさ、声がはっきり聞こえるか、サビのくり返しがあるか、英語以外のことばがまざっていないか、の点です。生徒のリクエストも、曲名を出してもらい、先生が歌詞を確かめてから使います。
Q. K-POP の曲も英語の授業に使えますか?
歌詞がすべて英語の曲なら使えます。生徒の関心が高い素材で、ファンの生徒に背景紹介を英語で任せる方法もあります。英語と韓国語がまざる曲は、英語の部分が少ないと穴埋めや表現さがしに使える所が限られるので避けます。
Q. 洋楽を聞いているだけで英語は身につきますか?
歌を聞く回数が多いほど語の知識が伸びたという実験はあります 9。一方、英語のポップスを使った教室研究では、語の意味をはっきり扱った方が伸びが1か月後まで残りました 10。どちらも小規模な研究で、洋楽を聞けば英語が身につくとは言えません。目的をもって聞き、意味を確かめ、自分の英語で使う時間をとりましょう。
Q. 授業で歌詞を配ったり、曲を流したりしても著作権は大丈夫ですか?
学校の授業では、必要な範囲で著作物を複製したり、動画サイトの動画を画面で見せたりすることが、著作権法第35条の条件を満たせば許諾なしでできます 2。ただし歌詞の全文を配ってよいかは公的な資料で言い切れないため、学校の決まりを確認してください。クラウドに上げるときは設置者の補償金の手続きが前提で、だれでも見られる形での公開はできません 23。
🎁 玉手箱で使えるツール
原田英語の「英語の先生の玉手箱」の無料ツール。登録なしで授業にそのまま使えます。
📑 出典(11件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- 文部科学省 (2019). 小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知) 公式ページ ✔ リンク確認済観点別学習状況の評価を「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理した文科省の通知(2019年)
- 文化庁著作権課 (2026). 著作権テキスト(令和8年度版) 公式ページ ✔ リンク確認済文化庁の著作権の入門テキスト。学校の授業での複製・公衆送信(第35条)、非営利・無料の上演・演奏(第38条)、私的使用の複製と違法ダウンロード(第30条)の条件を解説
- 著作物の教育利用に関する関係者フォーラム (2020). 改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版) 公式ページ ✔ リンク確認済教育関係者・権利者・有識者のフォーラムがまとめた、授業での著作物の複製・公衆送信の運用指針(SARTRAS のサイトで公開)
- 著作物の教育利用に関する関係者フォーラム (2021). 改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度)特別活動追補版 公式ページ ✔ リンク確認済特別活動での音楽・映像の配信の扱いと、授業での作品の改変(歌詞の変更など)を控える配慮を示した追補版
- Ludke, K. M., Ferreira, F., & Overy, K. (2014). Singing can facilitate foreign language learning. Memory & Cognition, 42(1), 41-52. doi:10.3758/s13421-013-0342-5 ✔ DOI照合済大人60人がハンガリー語のフレーズを、話す・リズムで話す・歌う、のどれかで聞いてくり返す実験。歌った群が言い出すテストで最もよかった
- Tegge, F. A. G. (2015). Investigating song-based language teaching and its effect on lexical learning. Victoria University of Wellington(博士論文) 公式ページ ✔ リンク確認済教師が授業で使う英語の歌635曲の語彙の分析、41か国568人の教師への調査、歌・詩・散文で授業を比べた実験をまとめた博士論文(ニュージーランド)
- van Zeeland, H., & Schmitt, N. (2013). Lexical coverage in L1 and L2 listening comprehension: The same or different from reading comprehension?. Applied Linguistics, 34(4), 457-479. doi:10.1093/applin/ams074 ✔ DOI照合済聞いて理解するために、知っている語が何%必要かを調べた研究(約95%で多くの人が十分に理解)
- Murphey, T. (1992). The discourse of pop songs. TESOL Quarterly, 26(4), 770. doi:10.2307/3586887 ✔ DOI照合済1987年のヒットチャート上位50曲の歌詞の語の頻度を数えた分析。短く、感情に訴え、やさしい語のくり返しが多いが、だれ・いつ・どこがあいまい
- Pavia, N., Webb, S., & Faez, F. (2019). Incidental vocabulary learning through listening to songs. Studies in Second Language Acquisition, 41(4), 745-768. doi:10.1017/S0272263119000020 ✔ DOI照合済2曲を1・3・5回聞かせ、聞くだけで語の音の形・意味・組み合わせ(コロケーション)がどれだけ身につくかを調べた実験。聞く回数・語に出会う回数が多いほど伸びた
- Mannarelli, P., & Serrano, R. (2022). 'Thank you for the music': examining how songs can promote vocabulary learning in an EFL class. The Language Learning Journal, 52(1), 1-15. doi:10.1080/09571736.2022.2092198 ✔ DOI照合済イタリアの中学2年相当(12〜13歳)27人。英語のポップス2曲で、語の意味をはっきり扱う授業と扱わない授業を比べた。どちらも直後は伸びたが、1か月後まで残ったのは意味を扱った方
- Murphey, T. (1990). The song stuck in my head phenomenon: A melodic din in the LAD?. System, 18(1), 53-64. doi:10.1016/0346-251X(90)90028-4 ✔ DOI照合済歌が頭の中でくり返し流れる現象を、言語習得の内なるくり返し(内言など)と結びつけて論じた理論的な論文(仮説の提案)
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら







