しかし正解は sheep。単数も複数もまったく同じ形。
fish も deer も moose も同じルール(むしろルールなき世界)。
──なぜ英語には、こんなに不規則な複数形が存在するのか?
その答えは、1,000年以上前の古英語にありました。
1そもそも英語の複数形、なぜこんなにバラバラ?
英語の複数形には、大きく分けて4つのパターンが存在します。
box → boxes
city → cities
(全体の約95%)
fish → fish
deer → deer
(形が変化しない!)
thesis → theses
criterion → criteria
(ラテン語・ギリシャ語)
なぜこんなにバラバラなのか? その理由は英語の「歴史の地層」にあります。
英語は単一の言語から発展したものではありません。古英語(ゲルマン語系)、ラテン語、古フランス語、ギリシャ語、北欧語──これらの言語が何世紀にもわたって混ざり合い、それぞれの複数形ルールが「化石」のように残ったのです。
日本語で例えるなら、「1本、2本、3本」と数え方が変わるのに似ています。日本語話者にとっては自然でも、外国人には「なぜ “ぽん” が “ほん” や “ぼん” になるの?」と不思議に映る。英語の不規則複数形も、ネイティブにとっては「感覚で覚えている」ものなのです。
2「変化しない複数形」完全リスト──sheep, fish, deer…
英語学習者を最も混乱させるのが、単数形と複数形がまったく同じ「ゼロ複数形(zero plural)」の単語たちです。まずは代表的なものを一覧で見てみましょう。
fish の例外:“fish” は通常ゼロ複数形ですが、異なる種類の魚を指すときは “fishes” も使えます。例:”The aquarium has many colorful fishes.”(水族館にはカラフルないろいろな種類の魚がいる)。ただし日常会話では “fish” がほぼ常に使われます。
3なぜ変化しない?古英語の「ゼロ複数形」の秘密
「sheep はなぜ sheeps にならないのか?」──この疑問の答えは、1,000年以上前の古英語(Old English)にあります。
古英語には、現代英語よりはるかに複雑な名詞の変化体系がありました。名詞は「強変化」と「弱変化」に分かれ、さらに性(男性・女性・中性)によって変化パターンが異なっていたのです。
sheep が変化しない理由を、歴史的に追ってみましょう。
moose はなぜゼロ複数形?
moose は古英語由来ではなく、アルゴンキン語族(北米先住民の言語)からの借用語です。17世紀に英語に入った時、そもそも英語の複数形ルールが適用されず、そのまま単複同形として定着しました。「外来語なので英語のルールに従わなかった」というパターンです。
「群れ」として認識される動物はゼロ複数形になりやすい?
興味深い仮説の一つに、「群れで生活する動物、または狩猟・漁業の対象となる動物」はゼロ複数形になりやすいというものがあります。
sheep(羊の群れ)、fish(魚の群れ)、deer(鹿の群れ)──これらは個体を一つひとつ数えるより、まとまりとして捉えられることが多い。つまり、「数える必要がない=複数形をつくる必要がない」という実用的な理由が関係している可能性があります。
ただし、これはあくまで一つの仮説であり、言語学的に証明されたものではありません。dog や cat のように身近な動物でもゼロ複数形にならないケースもあり、歴史的な偶然と使用頻度の組み合わせが最大の要因と考えられています。
4母音が変わる不思議な複数形──foot→feet, mouse→mice
ゼロ複数形と並んで英語学習者を困惑させるのが、「母音変化型」の複数形です。foot → feet、goose → geese、man → men…。なぜ母音だけが変化するのでしょうか?
この現象は言語学で “i-mutation”(i-ウムラウト)と呼ばれ、これもまた古英語時代の名残です。
MECHANISM
i-ウムラウトはこうして起きた──
古英語では、複数形を作る接尾辞に “-i” を含むものがありました。この “-i” の音が、前の音節の母音を「前寄り」に引っ張るという音声変化を引き起こしたのです。
fōt(単数)→ fōti(複数)→ fēti(母音が前方移動、-iが脱落)→ feet
mūs(単数)→ mūsi(複数)→ mȳsi(母音が前方移動、-iが脱落)→ mice
つまり、もともとは複数を示す接尾辞があったのに、それが消えて母音変化だけが複数の痕跡として残った──という、なんとも皮肉な結果なのです。
ドイツ語を学んだことがある人なら……
「ウムラウト」と聞いてピンとくるはず。ドイツ語の ä, ö, ü はまさにこの i-ウムラウトの名残です。英語とドイツ語は同じゲルマン語族なので、同じ歴史的変化を共有しているのです。
5-en で終わる化石的複数形──ox→oxen, child→children
現代英語でもう一つ異彩を放つのが、“-en” で複数形をつくるグループです。
HISTORY
実は “-en” がかつては標準だった!
驚くべきことに、中英語の時代(特に南部方言)では、“-en” が複数形の主流でした。
・eye → eyen(目)
・shoe → shoen(靴)
・house → housen(家)
・tree → treen(木)
しかし、北部方言の “-s” 複数形が勢力を広げ、ロンドンの標準語として採用されたため、”-en” は急速に衰退。ox → oxen だけが最後の砦として、1,000年以上にわたって生き残っているのです。
children は「複数形の複数形」?
child の古英語複数形は “cildru”(チルドル)。ここにさらに “-en” が追加されて “children” になりました。つまり複数を示す語尾が二重に重なった、英語史上でも珍しい「二重複数形」。まるで「子どもたちたち」と言っているようなもの。
6外来語の複数形バトル──octopus問題を徹底解剖
さて、英語の不規則複数形で最も「論争」を巻き起こしているのが、octopus(タコ)の複数形問題です。これは英語ネイティブの間でも意見が分かれる、まさに「言語学の聖戦」。
octopus の複数形は?
この3つの候補を、言語学的に正確に検証してみましょう。
octopus は英語に取り入れられた単語なので、英語の標準的な複数形ルール(-es を付ける)を適用するのが最も自然です。Merriam-Webster、Oxford Dictionary など主要辞書のすべてが、これを第一の推奨形としています。日常会話でもこれが最も一般的。
多くの人が「octopi がカッコイイ」「学術的に正しい」と信じていますが、これは言語学的には誤用(hypercorrection)です。なぜなら──
・ しかし octopus はラテン語由来ではなくギリシャ語由来!
・ ギリシャ語の “oktōpous” をラテン語化したもので、ラテン語第2変化には属さない
・ つまり “-i” を適用する言語学的根拠がない
とはいえ、あまりにも広く使われているため、多くの辞書が「非推奨だが許容」として掲載しています。「間違いだけど、みんなが使うから事実上のOK」──言語はこうして進化するのです。
ギリシャ語の複数形ルール(第3変化名詞 “-pous → -podes”)を適用した形。発音は「オクトポディーズ」。語源的には最も正確ですが、現実の英語ではほとんど使われません。使うと「この人、ペダンティック(知識をひけらかしたがり)だな…」と思われるかも。
同じ「外来語複数形バトル」の仲間たち:
・ cactus: cacti(ラテン式)vs cactuses(英語式)── 両方OK、cacti がやや優勢
・ fungus: fungi(ラテン式)vs funguses(英語式)── fungi が圧倒的に優勢
・ antenna: antennae(ラテン式=生物の触角)vs antennas(英語式=電波のアンテナ)── 意味で使い分け!
・ formula: formulae(ラテン式=学術)vs formulas(英語式=一般)── 文脈で使い分け
・ index: indices(ラテン式=数学)vs indexes(英語式=本の索引)── 意味で使い分け!
7日本人が間違えやすい「複数形トラップ」10選
ここからは実践的な知識です。試験でも日常会話でも、日本人が特に引っかかりやすい複数形の「罠」を10個厳選しました。
TRAP ①
TRAP ②
TRAP ③
TRAP ④
TRAP ⑤
TRAP ⑥
TRAP ⑦
TRAP ⑧
TRAP ⑨
TRAP ⑩
8知って得する!不規則複数形の覚え方&語呂合わせ
不規則複数形は「理屈」で覚えるのが基本ですが、最終的にはパターンごとにまとめて記憶に定着させることが大切です。ここでは、記憶に残りやすい覚え方を紹介します。
🎵 ゼロ複数形は「動物園グループ」で覚える
🐑🦌🐟🫎🦬
Sheep・Deer・Fish・Moose・Bison
頭文字で “S.D.F.M.B” →
「Super Deer Friend, Mr. Bison」
(スーパー・ディア・フレンド、ミスター・バイソン)
※ 無理やりですが一度覚えると忘れない!
🔄 母音変化型は「ペア」で覚える
tooth → teeth
goose → geese
louse → lice
woman → women
覚え方のコツ
「フィートで歯を磨くグース」
“The geese brushed their teeth with their feet.”
(ガチョウたちが足で歯を磨いた)バカバカしいイメージほど記憶に残ります。「oo が ee に変わる仲間」を一発で覚えられます。
🌍 外来語型は「由来言語」でグループ化
入試対策の最重要ポイント:
大学入試で問われやすいのは、phenomenon→phenomena、criterion→criteria、analysis→analyses の3つ。特に “criteria is…”(❌) と単数扱いする間違いは、英作文の減点対象になりやすいので注意。
まとめ──不規則こそが英語の「味」
英語の不規則複数形は「面倒なルール」ではありません。
それは1,000年以上の言語の歴史が刻まれた「化石」です。
不規則複数形を知ることは、英語の「暗記リスト」を増やすことではありません。
英語という言語が歩んできた壮大な歴史を、単語一つから読み解くこと──
それが、本当の意味での「英語を理解する」ということなのです。
次に “sheep” を見たとき、
そこに1,000年分の物語が詰まっていることを思い出してください。🐑
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