中高生の間で約1年前から広がっているこのスラングの意味は、「AIに仕事を奪われること」。
語源は「シンギュラリティ(技術的特異点)」。それが縮まって「ギュ」になり、「ギュられる」になった。
──Z世代の言語感覚が、AI時代の不安をここまでカジュアルに表現する時代が来ています。
1「ギュられる」とは何か──Z世代スラングの解剖学
まず、この言葉の成り立ちを整理しましょう。
シンギュラリティ
略称化
受身形=AIに奪われる
Xユーザーの@Gechipyiさんが「友達が『ギュられる』って言葉多用するんだけど」と投稿したことで一気に可視化されたこのスラング。その定義は明快です。
自分の職業・スキル・学んできたことの価値が消滅すること。
特にプログラミングなどの知的労働について使われる。
注目すべきは、この言葉が約1年前から中高生の間で使われていたという点です。つまりSNS上で「発見」される前から、10代の日常会話にすでに浸透していた。これはZ世代がAIの脅威を「ニュース」としてではなく、「自分ごと」として体感している証拠です。
Z世代のスラングは「短縮化」と「受身化」が特徴。「シンギュラリティ」という7音節の外来語を「ギュ」の1音に圧縮し、さらに「られる」をつけて被害者目線にする。この言語センスこそが、彼らのAIに対する姿勢──抵抗ではなく受容、でも諦めでもない──を象徴しています。
2Xで大炎上──発端となったポストと反応の全貌
2025年2月、この言葉はXで一気にトレンド入りしました。火付け役となったのが、AI研究者のうみゆき氏(@umiyuki_ai)の率直すぎるポストです。
これに対し、さまざまな立場からの反応が殺到しました。
🤖『人間がコードを書く時代は終わりました』
これ」
この議論が浮き彫りにしたのは、世代間の「ギュ」に対する温度差です。ベテランエンジニアは「自分の蓄積が無駄になった」と嘆き、中高生は「そもそもヒエラルキーが崩壊するならチャンスだ」と逆張りする。同じ「ギュられる」という言葉が、世代によってまったく異なる感情を呼び起こしているのです。
3データが語る現実──プログラマー雇用は本当に崩壊しているのか
「ギュられる」は単なるスラングなのか、それとも現実を反映しているのか?データを見てみましょう。
ここで重要なのは、「コードを書く人」と「設計する人」で明暗がくっきり分かれている点です。
IEEE Spectrumの2025年末の報道によれば、米国のプログラマー(コーディング中心の職種)の雇用は2023年から2025年にかけて27.5%も減少した一方、ソフトウェアデベロッパー(設計・アーキテクチャ寄りの職種)はわずか0.3%の減少にとどまっています。
さらにスタンフォード大学の研究では、22〜25歳の若手開発者がChatGPT登場以降に約20%の雇用を失った一方、26歳以上の開発者は安定または増加していることが判明しました。
つまり、Z世代の「ギュられる」という感覚は、データ上も裏付けられているのです。特に「教科書的な知識=基本的なコーディング構文やアルゴリズム」がAIに最も代替されやすいという研究結果は、まさに「これからプログラミングを学ぼうとする若者」が最も影響を受ける構造を示しています。
4「3ヶ月後に大手が解決してしまうリスク」──深津貴之の指摘
THE GUILDの深津貴之氏(@fladdict)は、この議論にさらに深い視点を加えました。
これは非常に核心的な指摘です。深津氏が言っているのは、AIの進化速度を「体感」したかどうかで、行動が根本的に変わるということ。
この「体感の差」こそが、「ギュられる」を使う世代と使わない世代の分水嶺かもしれません。すでにギュられる経験をした人は、その言葉を痛みとともに理解している。まだの人は、「まさか自分が」と思っている。
賢木イオ氏の反論も重要です:「ビッグテックが滅ぼしにくる個人開発勢」を見てきたが、挑戦した人は結局声がかかる。つまり「ギュられるリスクがあっても、挑戦したこと自体に市場価値がつく」という構造は、まだ健在なのかもしれません。
5落合陽一「2026年にはほとんどの知的作業がAIに置き換わる」
メディアアーティストで筑波大学准教授の落合陽一氏は、さらに踏み込んだ未来予測を語っています。
落合氏はエンジニアtype誌のインタビューで、最も置き換えられやすいのは「人対データ」の仕事だと指摘しました。データを直接扱うソフトウェアエンジニアは代替の筆頭であり、「コードを書くよりも高度な技術が求められる」時代がすでに到来していると述べています。
mattn氏の「AIで作られてしまった不幸なシステムを調査して直す仕事」という予測は、皮肉ながら非常に的を射ています。AIが大量のコードを生成する時代には、そのコードの品質を判断し、問題を特定し、修正できる人間がむしろ重宝されるのです。
Google のCEOスンダー・ピチャイ氏は「自社コードの25%がAI支援」と明かしつつも、「真の成果はエンジニアの置き換えではなく、開発速度の10%向上」だと強調しています。これは「ギュる」のではなく「ブーストする」という捉え方です。
6それでも「ギュられない」スキルとは──生存戦略マップ
では、どうすれば「ギュられない」側に回れるのか?データと専門家の意見を統合すると、以下の構造が見えてきます。
世界経済フォーラムのFuture of Jobs Report 2025によると、2030年までに職業スキルの39%が変容するとされています。しかし同時に、AIは9200万の仕事を消滅させる一方で1億7000万の新しい仕事を創出し、差し引き7800万のプラスになるという予測も出ています。
7英語で読み解く「AI失業」──世界はどう議論しているか
「ギュられる」は日本独自のスラングですが、同じ不安は英語圏でもさまざまな表現で語られています。英語学習者のために、関連する英語表現を整理しましょう。
興味深い対比:日本のZ世代は「ギュられる」(受身=される側)という表現を選んだのに対し、英語圏では “upskill or perish”(能動=する側に回れ)という命令形が主流。言語の選び方に、文化的な対処姿勢の違いが表れています。
8Z世代の言語が映す未来──「ギュ」は絶望か、それとも適応か
「ギュられる」という言葉を、ただの若者言葉として片づけるのはもったいない。この言葉には、Z世代の3つの本音が凝縮されています。
日本の教育は「努力は報われる」が前提です。しかしAI時代には、何年もかけて磨いたスキルが一夜にして陳腐化する。「ギュられる」は、この「努力の無力化」に対するやりきれなさを、たった4文字で表現しています。英語にこれほど簡潔な等価表現はありません。
「オッサンどもが全員ギュられようがざまあ」というポストが示すように、Z世代の一部は「ギュ」を既存の権力構造を破壊するチャンスとして捉えています。経験も年功序列も意味をなくすなら、「ゼロからのスタート」は若者に有利──という逆転の発想です。
「ギュられる」はネガティブな意味の言葉ですが、そこにユーモアを込めているのがZ世代らしさ。深刻な話題を深刻に語らず、スラング化することで心理的な距離をとる。これは彼らなりの精神的サバイバル戦略なのかもしれません。
過去の「若者の危機感スラング」との比較:
| 時代 | スラング | 意味 | 背景 |
|---|---|---|---|
| 2000年代 | 負け組 | 格差社会の敗者 | 就職氷河期 |
| 2010年代 | オワコン | 終わったコンテンツ | SNS時代の栄枯盛衰 |
| 2024〜2025年 | ギュられる | AIに代替される | 生成AI革命 |
まとめ──「ギュられる」時代をどう生きるか
「ギュられる」は単なるスラングではありません。
それはAI時代を生きるZ世代の、最もリアルな危機感の結晶です。
「ギュられる」と笑い飛ばせるうちに、
「ギュる側」に回る準備を始めよう。
