忘れるのは失敗ではない
19世紀のドイツの心理学者エビングハウスは、意味のない音の並びを覚え、時間がたつとどれくらい忘れるかを自分自身で記録しました。その結果をもとに描かれたのが有名な「忘却曲線」で、覚えた直後から記憶は急速に薄れていくことが示されました。
つまり、一度覚えた単語を忘れるのは、誰にでも起きる当たり前のことです。単語帳を1周して、半分以上忘れていても驚くことはありません。
大切なのは「忘れないこと」ではなく、忘れることを前提に、何度も取り戻す仕組みを作ることです。
ポイント:「忘れた」は「覚えていなかった」とは違います。一度記憶に入った単語は、完全に消えたように見えても、手がかりが残っていることが多いのです。
覚え直しは最初より速い
エビングハウスが記憶を測るときに使ったのは、「思い出せたかどうか」ではなく、もう一度覚えるのにかかった時間がどれだけ短くなったかという方法でした。これを「節約率(savings)」と呼びます。
一度覚えたものを覚え直すと、完全に忘れたように思えても、最初に覚えたときより少ない回数・短い時間で覚え直せる。これは記憶研究でよく知られている現象です。
英単語に当てはめると、こういうことです。
- 最初に覚えたとき:5回繰り返してやっと覚えた
- 1か月後に忘れていた
- 覚え直し:2〜3回で思い出せるようになった
「忘れたからゼロからやり直し」ではなく、「忘れても、前回より速く取り戻せる」と考えると、復習がずっと前向きになります。
覚え直すたびに、忘れにくくなる
さらに、忘れかけたところで思い出す作業をくり返すほど、次に忘れるまでの期間が長くなっていくと考えられています。これが間隔反復の考え方です。忘れて、取り戻して、また忘れて、また取り戻す――このサイクルそのものが、単語を長期記憶にしていく過程なのです。
忘れた単語の原因別チェック
忘れた単語を何度もくり返しても覚えられないときは、原因を見てみましょう。原因によって対策が変わります。
原因1:似た単語と混ざっている
例:adapt(適応する)と adopt(採用する)、affect と effect
- 対策:2つを並べて違いを1文で書く。adapt → 環境に合わせる、adopt → 取り入れる。例文を1つずつ作る。
原因2:意味のイメージがわかない
例:抽象的な単語(inevitable 避けられない、substantial かなりの)
- 対策:自分の生活に関係する例文を作る。Mistakes are inevitable when you learn a language.(言語を学ぶとき、間違いは避けられない)
原因3:音があいまい
例:発音を知らずにつづりだけで覚えた単語
- 対策:音声を聞いて声に出す。音と意味を結びつけ直す。
原因4:そもそも1回しか見ていない
- 対策:覚えられないのではなく、まだ回数が足りないだけ。気にせず周回を続ける。
ポイント:何度も忘れる単語は「自分の苦手ポイント」の宝庫。原因がわかれば、覚え方を変えられます。
再学習の具体的な手順
久しぶりに単語帳を開いたら、ほとんど忘れていた――そんなときの立て直し手順です。
ステップ1:まずテストする
いきなり読み直すのではなく、意味を隠して思い出せるかテストします。この「思い出そうとする」作業そのものが、記憶を呼び起こす練習になります。
ステップ2:3つに仕分ける
- A:すぐ言えた → 今回は復習不要。次は間隔をあける。
- B:少し考えて言えた → 数日後にもう一度。
- C:言えなかった → 今日中にもう一度テストし、明日も確認。
ステップ3:Cの単語だけに手がかりを足す
言えなかった単語に、語源・例文・イラスト・似た単語との違いなど、前回とは違う手がかりを1つ足します。同じ覚え方を続けるより、手がかりを増やすほうが効果的です。
ステップ4:短い間隔で何度か思い出す
Cの単語は、当日中にもう一度、翌日、3日後、1週間後、とテストします。言えるようになったらBへ、さらにAへと格上げしていきます。
例:substantial の再学習
- テスト:意味が出てこない(C)
- 手がかりを足す:sub(下に)+stand(立つ)のイメージから「しっかり中身がある → かなりの」とつなげる。例文 We made substantial progress this month.(今月はかなり前進した)
- 当日夜・翌日・3日後にテスト
よくある失敗
失敗1:忘れたら最初からやり直す
1,000語の単語帳を1ページ目から全部やり直すと、すでに覚えている単語にも時間を使ってしまいます。まずテストして、忘れたものだけに時間をかけましょう。
失敗2:読み直すだけで復習した気になる
答えを見ながら読み直すと、「ああ、そうだった」と思い出した気になりますが、次に自分で思い出せるとは限りません。必ず隠して思い出すステップを入れましょう。
失敗3:何度も忘れる単語に同じ方法を続ける
同じ方法で10回やっても覚えられない単語は、覚え方を変えるサインです。原因別チェックに戻りましょう。
失敗4:忘れたことで自分を責める
「こんなに忘れるなんて向いていない」と思ってやめてしまうのが、いちばんもったいない失敗です。忘れるのは全員同じ。取り戻す回数が多い人ほど、最後に覚えているのです。
1週間の立て直しメニュー
しばらく単語学習をお休みしていた人や、忘れた単語が多くて落ち込んでいる人向けのメニューです。
- 月曜:現状テスト――単語帳の最初の100語を隠してテストし、A・B・Cに仕分ける。
- 火曜:Cに手がかりを足す――Cの単語に語源・例文・似た単語との違いを1つずつ書き足す。
- 水曜:C再テスト+次の100語――Cの単語をテストし、次の100語も仕分ける。
- 木曜:Bの確認――月曜にBだった単語をテスト。言えたらAへ。
- 金曜:C再テスト+次の100語――水曜と同じ流れ。
- 土曜:今週のCだけ総テスト――まだ言えない単語を確認し、原因別チェックをする。
- 日曜:休み、または振り返り――今週Cから格上げできた単語の数を数える。
ポイント:日曜に「取り戻せた単語の数」を数えると、忘れた数ではなく、取り戻した数に目が向くようになります。
まとめ:忘れて、取り戻して、強くなる
英単語の再学習のポイントです。
- 忘れるのは記憶の自然な性質。落ち込まなくていい
- 覚え直しは、最初に覚えるより速い
- まずテストして、忘れた単語だけに集中する
- 何度も忘れる単語は、原因を見て覚え方を変える
再学習のコツは、「全部を取り戻そう」と思わないことです。1日に取り戻す単語は少なくてかまいません。少しずつでも、Cの単語がBへ、Bの単語がAへ移っていく様子が見えれば、それが確実な前進です。
今日は、しばらく開いていなかった単語帳の1ページだけを、意味を隠してテストしてみてください。思い出せなかった単語も、今日もう一度見れば、前よりずっと速く戻ってきます。



