World Englishesとは:英語は一つではない
World Englishesは、世界の各地で使われているさまざまな英語を、それぞれ独自の変種として捉える考え方です。インド英語、シンガポール英語、ナイジェリア英語などは、アメリカやイギリスの英語の「崩れた形」ではなく、それぞれの社会で発達した英語だと考えます。
この分野でよく知られているのが、Braj Kachruが示した3つの同心円のモデルです。
- 内円:英語が主に第一言語として使われる国(アメリカ、イギリス、オーストラリアなど)
- 外円:歴史的な経緯から、英語が公用語や第二言語として社会の中で使われる国(インド、シンガポール、フィリピンなど)
- 拡大円:英語が主に外国語として学ばれる国(日本、中国、ブラジルなど)
このモデルには、国単位で分けることの限界などの批判もありますが、英語の広がりを考える入り口として授業で紹介しやすい枠組みです。
ELFとは:共通語として使われる英語
ELF(English as a Lingua Franca)は、第一言語が異なる人どうしが、共通の言葉として英語を使う場面に注目する考え方です。たとえば、日本人とタイ人とドイツ人がオンライン会議で英語を使う場面がこれにあたります。
ELFの研究では、こうした場面で実際に意思疎通がうまくいく要因に関心が向けられています。発音の分野では、Jennifer Jenkinsが、第一言語が異なる話者どうしの理解に特に影響する発音の特徴を「リンガ・フランカ・コア」として提案したことが知られています。
ELFの考え方から見ると、大切なのは次のような力です。
- 相手の英語に合わせて、話し方を調整する力
- 分からないときに聞き返し、確認する力
- 自分の英語が伝わらなかったときに、言い換える力
ポイント:ELFは「正確さはどうでもよい」という考え方ではありません。相手に伝わることを中心に、何を優先して学ぶかを考え直す視点です。
ネイティブ基準とどう向き合うか
World EnglishesやELFの考え方に触れると、「では、アメリカ英語やイギリス英語を目標にするのはやめるべきか」という疑問が出てきます。
授業での現実的な考え方は、次のようなものです。
- 教材のモデルとしては、辞書や教材が充実している標準的な英語を使ってよい
- ただし、唯一の正解として扱わない
- 理解する力の面では、多様な英語に触れる機会を作る
- 話す・書く力の面では、ネイティブのようになることより、相手に伝わることを目標にする
学生への伝え方の例
「この授業では、教科書のアメリカ英語をモデルにします。でも、皆さんの目標はアメリカ人のように話すことではなく、世界のいろいろな人と英語で分かり合えるようになることです」
このように伝えるだけで、発音のなまりを気にして話せなくなっていた学生が、少し気持ちを楽にすることがあります。
授業で使える活動1:多様な英語を聞き比べる
多様な英語に慣れるには、実際に聞いてみるのが一番です。大学の授業でできる活動の例を紹介します。
活動の流れ(30分)
- 予想(5分):「英語を話す人は世界にどれくらいいて、そのうち第一言語として話す人はどれくらいか」をペアで予想する
- 視聴(10分):さまざまな地域の話者が同じテーマ(例:自分の町の紹介)について話す音声や動画を、3人分聞く
- 比較(10分):聞き取りやすかった点、難しかった点をグループで話し合う
- Speaker B was easy to understand because she spoke slowly and clearly.
- I found Speaker C difficult because of the rhythm, but I could guess the meaning from the context.
- まとめ(5分):「分かりやすさは何で決まるか」を1文で書く
この活動で学生が気づくのは、聞き取りやすさは「ネイティブかどうか」だけでは決まらないということです。話す速さ、区切り方、言葉の選び方なども大きく影響します。
授業で使える活動2:伝わらないときの対処を練習する
ELFの場面で役立つのは、分からないときに会話を立て直す表現です。これらは短い時間で練習できます。
教える表現の例
- 聞き返す:Sorry, could you say that again? / Did you mean ...?
- 確認する:So, you're saying that ... , right?
- 言い換える:Let me put it another way. / In other words, ...
- ゆっくりを頼む:Could you speak a little more slowly, please?
ロールプレイの例
ペアのAには、専門用語を含む説明カード(例:自分の専攻の研究内容)を渡します。Bは、分からない語が出てきたら必ず上の表現で聞き返します。Aは、別の言葉で言い換えて説明します。
- A: My research is about biodiversity in urban areas.
- B: Sorry, did you mean the number of animals?
- A: Not only animals. In other words, the variety of living things, like plants, insects and birds.
この練習は、留学や国際的な仕事の場面でそのまま役立つ力になります。
評価と目標設定をどう見直すか
World EnglishesやELFの考え方を授業に取り入れるなら、評価の基準も見直す必要があります。
スピーキングの評価の観点の例
- 伝わりやすさ:聞き手が大きな負担なく理解できるか
- 調整する力:相手の反応を見て、言い換えたり確認したりできるか
- 内容:伝えたいことが整理されているか
- 正確さ:意味の理解を妨げる誤りが少ないか
「ネイティブらしい発音かどうか」を評価の観点から外し、伝わりやすさに置き換えるだけでも、学生の取り組み方は変わります。
ただし、TOEFLやIELTSなど外部試験の対策を目的とする科目では、各試験の評価基準を確認し、それに合わせた指導も必要です。科目の目的に応じて、どの基準を使うかを学生に明示することが大切です。
よくある誤解と注意点
1. 「どんな英語でもよい」という誤解
ELFの考え方は、正確さを軽視するものではありません。伝わるために必要な正確さは、むしろ大切にされます。
2. 特定の地域の英語を笑いの対象にしてしまう
多様な英語を紹介するとき、話し方をまねして笑うような雰囲気にならないよう注意が必要です。どの英語にも背景と価値があることを最初に伝えましょう。
3. 理論の説明に時間を使いすぎる
学生にとって大切なのは、概念の名前より、実際に多様な英語を聞き、伝え合う経験です。
まずは次の授業で、異なる地域の英語話者の音声を2〜3人分聞き比べる活動を10分だけ入れてみてください。



