査読とは何か:論文の質を保つ仕組み
査読(peer review)とは、投稿された論文を、同じ分野の研究者が読んで評価し、掲載の可否や修正点について意見を述べる仕組みです。
一般的な流れは次のとおりです。
- 著者が学術誌に論文を投稿する
- 編集者が、学術誌の範囲や基本的な要件に合っているかを確認する(この段階で不採択になることもある)
- 編集者が査読者を選び、論文を送る
- 査読者が論文を読み、コメントと判定の推薦を返す
- 編集者が判定を著者に伝える
判定は、学術誌によって表現が異なりますが、おおむね採択、軽微な修正、大幅な修正、不採択といった区分があります。最初の投稿でそのまま採択されることはまれで、修正を経て採択に至るのが一般的です。
査読の方式には、著者と査読者の双方の名前を伏せる方式や、査読者の名前だけを伏せる方式などがあります。どの方式かは、学術誌の投稿規定で確認しましょう。
投稿先の選び方
投稿先の選択は、採否だけでなく、論文が誰に読まれるかにも関わります。
確認したいポイント
- 学術誌の範囲(Aims and Scope):自分の研究テーマが含まれているか
- 読者層:研究者向けか、実践者向けか
- 論文の種類:研究論文、実践報告、短報など、受け付けている種類
- 言語:日本語か英語か
- 分量と形式:語数の上限、引用のスタイル(APAなど)
- 査読の期間の目安:公開されていれば確認する
- 費用:掲載料がかかるか
実践的な選び方
- 自分の論文で引用している文献が、どの学術誌に掲載されているかを一覧にする
- その中から、テーマや論文の種類が合う学術誌を3つ選ぶ
- 各学術誌の最近の号を読み、掲載されている論文の傾向を確かめる
また、掲載料を求める一方で十分な査読を行わない、いわゆるハゲタカジャーナルにも注意が必要です。見慣れない学術誌から投稿の勧誘メールが届いた場合は、所属機関の図書館や先輩研究者に相談しましょう。
投稿前のチェックリスト
投稿前に次の点を確認すると、編集者の段階で不採択になるリスクを減らせます。
内容面
- 研究の問い(Research Questions)がはっきり書かれているか
- 先行研究の中での、この研究の位置づけが示されているか
- 方法が、他の研究者が再現できる程度に詳しく書かれているか
- 結果と考察が区別されているか
- 研究の限界が書かれているか
形式面
- 投稿規定の語数、引用スタイル、図表の形式を守っているか
- 要旨が指定の語数に収まっているか
- 匿名の査読の場合、本文や資料から著者が特定できる情報を削除したか
倫理面
- 人を対象とする研究の場合、所属機関の倫理審査や参加者の同意の手続きを経ているか
- 他の学術誌に同時に投稿していないか
英文の確認
英語で投稿する場合は、同僚に読んでもらったり、校正サービスを利用したりする研究者も多くいます。内容が良くても、英文が読みにくいと評価が下がることがあるため、投稿前の確認は大切です。
査読結果への返答の書き方
修正の判定を受けたら、修正した論文と一緒に返答書(response letter)を提出するのが一般的です。返答書の書き方で、編集者と査読者の印象は大きく変わります。
返答書の基本の形
- 冒頭で、編集者と査読者に感謝を述べる
- 査読者のコメントを1つずつ引用し、それぞれに返答する
- 何を、論文のどこで、どう修正したかを具体的に示す(ページ番号や行番号を添える)
返答の例(自作)
- Comment 1: The sample size is small, and this should be discussed.
- Response: Thank you for this important point. We have added a paragraph on the sample size in the Limitations section (p. 15, lines 8–15), and we have revised our conclusion to be more cautious.
同意できないコメントへの対応
すべてのコメントに従う必要はありません。同意できない場合は、丁寧に、根拠を示して理由を説明します。
- We appreciate this suggestion. However, we have kept the original analysis because ... . We have added a sentence to clarify this point (p. 9, lines 3–5).
感情的な表現は避け、論文を良くするための対話として返答しましょう。
自分が査読者になるとき
研究を続けていると、自分が査読を依頼されることもあります。初めての査読では、何をどう書けばよいか迷うものです。
査読を引き受ける前に確認すること
- 自分の専門に近いテーマか
- 締め切りまでに十分な時間をとれるか
- 著者との間に利害関係がないか
査読コメントの構成の例
- 論文の要約(2〜3文):論文を正しく理解したことを示す
- 全体的な評価:論文の強みと、主な課題
- 主要なコメント:研究の問い、方法、結果の解釈など、重要な点
- 細かなコメント:表現、図表、引用の誤りなど
コメントを書くときのコツ
- 問題を指摘するだけでなく、どうすれば良くなるかを提案する
- 相手が読んで傷つくような表現を避ける
- 自分の好みと、論文の本質的な問題を区別する
査読は、他の研究者の論文を深く読む貴重な機会でもあります。査読の経験は、自分の論文を書く力にも生きてきます。
不採択・大幅修正を受けたときの1週間の改稿計画
厳しい判定を受けると、気持ちが沈むのは自然なことです。そのうえで、次のような段取りで改稿に取りかかると、前に進みやすくなります。
- 1日目:コメントを一度読み、あとは閉じる。すぐに返答を書かない
- 2日目:コメントを表にまとめ、「すぐ直せる」「時間がかかる」「同意できない」に分類する
- 3日目:「すぐ直せる」コメントに対応する
- 4〜5日目:「時間がかかる」コメント(追加の分析、先行研究の追加など)に取り組む
- 6日目:「同意できない」コメントへの返答を、根拠を示して書く
- 7日目:返答書と論文を通して読み、共著者や同僚に確認してもらう
不採択の場合も、査読者のコメントは貴重な助言です。コメントを反映して論文を改善し、別の学術誌に投稿し直すことは一般的に行われています。
よくある失敗と、その立て直し方
1. 投稿規定を読まずに投稿する
形式が合っていないだけで、内容を読まれずに返却されることがあります。投稿前に規定を必ず読みましょう。
2. 査読コメントに反論ばかりする
同意できない点があっても、まずは受け止め、修正できる部分は修正しましょう。
3. 修正の場所を示さない
返答書で「修正しました」とだけ書くと、査読者はどこが変わったか探さなければなりません。ページと行を示すことが基本です。
まずは手元の原稿について、投稿を考えている学術誌の投稿規定を読み、チェックリストで確認するところから始めてみてください。



