授業研究の目的を取り違えない
公開授業でよくある誤解は、「完璧な授業を見せなければならない」というものです。授業研究の本来の目的は、授業を一緒に検討して、参加者全員が学ぶことです。
そのため、準備で大切なのは次の2点です。
- 見てほしい問い(研究テーマ)をはっきりさせる
- その問いについて、参観者が判断できる材料(生徒の姿)を用意する
たとえば「生徒が即興で話せるようになるには、どんな帯活動が有効か」という問いがあれば、参観者は生徒のやり取りに注目できます。逆に問いがあいまいだと、協議会は「よかったです」「声が小さかった」といった感想で終わってしまいます。
ポイント:見せたいのは「上手な授業」ではなく「検討する価値のある場面」。うまくいかない場面も立派な研究材料です。
4週間前〜:テーマと単元の決め方
準備は、授業日から逆算して進めます。
4週間前
- 学校や教科の研究テーマを確認する
- 公開する単元と時間(単元の何時間目か)を決める
- 単元の最後に生徒ができるようになってほしい姿を1文で書く
例:「自分の町の魅力について、理由を2つ挙げて1分間でALTに紹介できる」
3週間前
- 単元全体の計画(何時間目に何をするか)を作る
- 公開する1時間が、単元のどの位置にあるかを明確にする
公開授業の1時間だけを特別に作り込むと、普段の授業とのつながりが切れてしまいます。単元の流れの中の1時間として見せるほうが、参観者にとっても学びが大きくなります。
テーマ設定のヒント
研究テーマは、大きすぎると1時間の授業で検証できません。次のように、生徒の具体的な姿が見える形に絞りましょう。
- 大きすぎる例:「コミュニケーション能力の育成」
- 絞った例:「中間指導を入れることで、2回目のやり取りで質問を返す生徒が増えるか」
絞ったテーマは、参観者にとっても「どこを見ればよいか」が分かりやすく、協議会で具体的な意見が出やすくなります。
2週間前:指導案を書く
指導案の書式は学校や地域によって違うので、まずは過去の例を確認しましょう。一般的に含まれるのは次の項目です。
- 単元名・単元の目標
- 生徒の実態(得意なこと・課題)
- 単元の評価規準(観点別)
- 単元計画
- 本時の目標・展開・評価
書くときのコツは、本時の目標と評価を一致させることです。目標が「理由を添えて話すことができる」なら、評価も「理由を添えて話しているか」を見る方法になっていなければなりません。
展開の欄では、教師の指示を具体的に書くと、参観者が意図を読み取りやすくなります。
- ×「ペアで会話練習をさせる」
- ○「Tell your partner one thing you like about our town and why. と指示し、1分間話させる。相手は1つ質問する」
また、予想される生徒のつまずきと、そのときの手立てを書いておくと、協議会での議論が深まります。
1週間前:試し授業と修正
可能であれば、別のクラスで同じ流れを試しておきます。難しければ、同僚に生徒役をしてもらって流れだけ確認しても十分です。
チェックしたいのは次の点です。
- 活動の指示が一度で伝わるか(英語の指示が長すぎないか)
- 時間配分は現実的か(特に最後のまとめの時間が残るか)
- ワークシートの字の大きさ・記入欄は十分か
- 機器(音声・プロジェクター・タブレット)はすぐに動くか
試してみると、多くの場合「時間が足りない」ことが分かります。そのときは活動を増やすのではなく削るのが正解です。50分に活動を詰め込みすぎた授業は、生徒が考える時間がなくなり、本当に見てほしい場面が薄くなってしまいます。
当日:参観者に見どころを伝える
当日は、授業の前に参観者へ見てほしいポイントを短く伝えると、協議会の質が上がります。指導案の冒頭に、次のような一文を入れておくのもおすすめです。
本時は、ペアで話す活動の後に中間指導を入れ、2回目の会話で生徒の発話がどう変わるかに注目してください。
授業中は、予定どおりに進まなくても慌てないことが大切です。生徒の反応に合わせて変えた部分は、協議会で「なぜ変えたか」を説明すれば、むしろ価値のある材料になります。
参観者にお願いできるなら、特定のペアやグループを継続して観察してもらうと、生徒の変化を具体的に語ってもらえます。
授業の最後には、生徒の振り返りを1〜2分でも書かせておくと、協議会で「生徒自身は何を学んだと感じたか」を材料にできます。例えば「今日、前より言えるようになったことを1つ書こう」のような短い問いで十分です。参観者の感想だけでなく生徒の声があると、議論がぐっと具体的になります。
授業者のための準備チェックリスト
準備の抜け漏れを防ぐために、時期ごとのチェックリストを用意しておくと安心です。
2週間前まで
- 指導案を研究主任や教科の先生に見てもらったか
- ワークシートや掲示物の原案はできているか
- ALTと一緒に授業する場合、役割分担と打ち合わせの日程を決めたか
前日まで
- 指導案・ワークシートを参観者の人数分印刷したか
- 座席表を用意したか(生徒の名前の扱いは学校のルールに従う)
- 音声機器・ICT機器の動作確認をしたか
- 生徒に「いつもどおりでいい」と伝えたか
当日
- 授業開始前に機器をもう一度確認する
- 参観者の立ち位置が生徒の活動の邪魔にならないか確認する
- 授業後の協議会で話す自評のメモを持っておく
また、生徒への事前の声かけも大切です。「たくさんの先生が来るけれど、みんなの頑張りを見に来るだけ。いつもどおり、間違えてもいいから英語を使おう」と伝えておくと、生徒の緊張がやわらぎます。
参観者が多いときは、生徒のペア活動の声が聞き取りにくくなることもあります。活動の場所や机の配置を事前に決めておくと、参観者にも生徒のやり取りが見えやすくなります。
ポイント:公開授業の成功は、授業そのものより前の「段取り」で半分決まります。チェックリストは次回以降も使い回せるので、一度作って保存しておきましょう。
協議会の記録は、授業者以外の先生に取ってもらうのがおすすめです。授業者は緊張していて、出た意見を正確に覚えていないことが多いからです。記録は、後で見返せるよう「生徒の姿」「手立て」「次への提案」の見出しで整理してもらいましょう。
協議会と振り返り、よくある失敗
協議会では、授業者はまず自評を短く述べます。「ねらい」「うまくいった場面」「課題だと感じた場面」の3点で2〜3分が目安です。
参観者の意見を聞くときは、次のように整理すると後で役立ちます。
- 生徒の具体的な姿についての意見
- 手立て(指示・教材・活動)についての提案
- 次の授業で試せそうなこと
よくある失敗
- 指導案作りに時間をかけすぎて、授業そのものの練習が足りない
- 公開のために普段やっていない活動を入れ、生徒が戸惑う
- 協議会の意見を聞いて終わりにし、次の授業に生かさない
授業後1週間以内に、協議会で出た提案から1つ選んで普段の授業で試してみましょう。それが授業研究の本当のゴールです。まずは、次に公開する予定の単元の「最後の姿」を1文で書くところから始めてみてください。



