科目のねらいを「知識」から「力」へ
異文化コミュニケーションの授業は、ともすると「A国ではこうする、B国ではこうする」という知識の紹介に偏りがちです。知識も大切ですが、それだけでは実際に異なる背景を持つ人と向き合う力にはつながりにくいものです。
外国語教育の分野では、Michael Byramが示した異文化間コミュニケーション能力(ICC)の考え方がよく知られています。この考え方では、次のような要素が挙げられています。
- 態度:好奇心と開かれた心を持ち、自分の見方をいったん保留できること
- 知識:自分と相手の社会や、やり取りの仕方についての知識
- 解釈し関連づけるスキル:異なる文化の出来事を解釈し、自分の文化と関連づける力
- 発見しやり取りするスキル:新しい知識を得て、実際のやり取りの中で使う力
- 批判的な文化意識:自分と他者の文化の価値観を、根拠をもって評価する力
授業のねらいを、これらの力を育てることに置くと、活動の設計が変わってきます。
ステレオタイプを扱うときの注意
異文化の授業では、どうしても「〇〇人は~だ」という一般化が話題にのぼります。これを避けることはできませんが、扱い方には注意が必要です。
押さえておきたい考え方
- 一般化とステレオタイプは違う:傾向を仮説として持つことと、個人に決めつけることは別のもの
- 国=文化ではない:一つの国の中にも、地域、世代、職業、個人による違いがある
- 自分の文化も相対化する:「日本人は~だ」という一般化についても同じように考える
授業での問いかけの例
- 「日本人は時間に正確だ」と言われたら、あなたはどう感じますか。当てはまる場面と、当てはまらない場面を1つずつ挙げてください
- この一般化は、誰にとって、どんな場面で役に立ち、どんな場面で問題になりますか
学生自身が一般化される側の経験を振り返ると、他の文化について語るときの慎重さが自然に育ちます。
活動例1:DIE法で「解釈」と「評価」を分ける
異文化の場面で起こる誤解の多くは、見たことをすぐに評価してしまうことから生まれます。DIE法(Describe・Interpret・Evaluate)は、観察と解釈と評価を分けて考える練習として、異文化トレーニングの分野でよく使われている方法です。
活動の流れ(40分)
- 場面の提示(5分):短い場面を示す(自作の例)
- 「留学生のAさんは、グループ課題の打ち合わせで、話し合いの途中に何度も他の人の発言にかぶせて意見を言った」
- Describe(10分):評価を入れずに、見たことだけを書く
- 例:Aさんは、他の人が話している間に話し始めた
- Interpret(10分):考えられる解釈を3つ以上挙げる
- 例:議論に熱心に参加していることを示したかった/話し合いの進め方の習慣が違った/時間が少ないと焦っていた
- Evaluate(10分):それぞれの解釈に立ったとき、どう感じ、どう対応するかを考える
- 振り返り(5分):最初の印象と、活動後の考えの違いを書く
学生は、同じ行動にも複数の解釈がありうることを体験的に学びます。
活動例2:留学生との協働プロジェクト
キャンパスに留学生がいる大学なら、留学生と日本人学生が一緒に取り組む協働プロジェクトは、異文化コミュニケーションを実際に体験する貴重な機会になります。
プロジェクトの例:「キャンパスの困りごと」調査
- 混成グループ(4〜5人)を作る
- 留学生と日本人学生の双方が感じている、キャンパス生活の困りごとをインタビューで集める
- 困りごとの中から1つを選び、改善案を考える
- 英語(または日本語と英語の両方)で発表する
進めるうえでのポイント
- 役割を明確にする:司会、記録、時間管理などを交代で担当する
- 話し合いのルールを最初に決める:例「全員が1回は発言してから次に進む」「分からない言葉があれば遠慮なく聞く」
- 途中で振り返る:グループでうまくいっていること・困っていることを共有する時間を作る
協働の中で生じるすれ違いや戸惑いそのものが、学びの材料になります。振り返りでは、その経験を言葉にする時間を必ずとりましょう。
15回の授業計画の例
半期15回の授業計画の一例です。英語で行う科目、日本語で行う科目のどちらでも応用できます。
- 第1回:オリエンテーション。「文化」とは何かを自分の言葉で定義する
- 第2〜3回:自分の文化を振り返る(家族や地域の「当たり前」を書き出す)
- 第4回:ステレオタイプと一般化
- 第5回:言葉によらないコミュニケーション(距離、視線、沈黙など)
- 第6回:DIE法の練習
- 第7回:言語と文化(丁寧さの表し方、断り方の違いなど)
- 第8回:中間の振り返り
- 第9〜12回:協働プロジェクト(調査、話し合い、準備)
- 第13〜14回:プロジェクトの発表と相互フィードバック
- 第15回:学期全体の振り返り。第1回の「文化」の定義を書き直す
第1回と第15回で同じ問いに答えさせると、学生は自分の考えの変化を実感できます。
評価の方法:変化と振り返りを見る
異文化コミュニケーションの力は、筆記試験だけでは測りにくいものです。複数の方法を組み合わせるのがおすすめです。
評価の組み合わせの例
- 振り返りジャーナル(30%):毎回の授業後に、気づいたことを短く書く。学期中に数回、教師がコメントを返す
- DIE法などの課題(20%):場面の分析を記述する
- 協働プロジェクト(30%):発表の内容と、グループへの貢献(相互評価を含む)
- 最終レポート(20%):学期を通して自分の見方がどう変わったかを、具体的な経験をもとに論じる
振り返りの問いの例
- 今日の活動で、最初に感じたことと、後で考えたことに違いはありましたか
- あなたが当たり前だと思っていたことで、そうではないかもしれないと感じたことは何ですか
評価の観点は、正しい答えを知っているかではなく、自分の見方を問い直し、他者を理解しようとしているかに置くと、科目のねらいとずれにくくなります。
よくある失敗と、その立て直し方
1. 国別の文化紹介で終わる
知識の紹介だけでは、ステレオタイプを強めることもあります。自分の文化を振り返る活動と組み合わせましょう。
2. 留学生を「文化の代表」にしてしまう
留学生に「あなたの国ではどうですか」と繰り返し聞くと、その学生が国の代表のように扱われてしまいます。個人としての経験を尋ねる問い方にしましょう。
3. 話し合いが表面的になる
「違いを尊重しよう」という結論で終わってしまうことがあります。具体的な場面を使い、どう行動するかまで考えさせましょう。
まずは次の授業で、DIE法の場面を1つ作り、学生に「見たこと」と「解釈」を分けて書かせる活動を試してみてください。



