コーパスとDDLとは:学生が「用例の探偵」になる
コーパスとは、新聞・小説・会話・学術論文など、実際に使われた英語を大量に集め、検索できるようにしたデータベースです。代表的なものに、アメリカ英語のCOCA、イギリス英語のBNC、学習者向けに作られたSkELLなどがあります。
このコーパスを学習者自身に検索させ、用例から規則やパターンを発見させる学び方をデータ駆動型学習(DDL:Data-Driven Learning)と呼びます。1990年前後にTim Johnsが提唱した考え方として知られています。
DDLの良いところは、教師が答えを与えるのではなく、学生が証拠をもとに自分で結論を出す点です。
- 教師:「make a decision と言います」
- DDL:「decision の前に来る動詞を調べて、多い順に3つ挙げてみよう」
後者では、学生は make だけでなく reach や take も見つけ、「どれが多いか」「どんな文脈で使うか」まで考え始めます。
ポイント:DDLは「コーパスの使い方を教える授業」ではなく、「英語を観察する目を育てる授業」です。
最初に使うならSkELL:登録不要で5分で始められる
初めての授業では、学習者向けの無料ツールSkELLがおすすめです。ブラウザで語を入力するだけで、例文・コロケーション・類義語が表示されます。登録が不要なので、スマホでもすぐに使えます。
最初の5分でやる操作
- SkELLを開き、検索窓に responsibility と入力する
- Examples(例文)タブで40件ほどの例文を眺める
- Word sketch タブで、前に来る動詞(take, accept, bear など)を確認する
- 「take responsibility for ~」の for の後ろに何が来るかを観察する
学生への指示は短くします。
- Look at the examples. What verb often comes before "responsibility"?
- Find two examples you could use in your own essay.
慣れてきたら、COCAのようにジャンル(学術、新聞、会話など)ごとの頻度を比べられるコーパスへ進みます。ジャンル差が見えると、「レポートでは使えるけれど会話では硬い」といった感覚が育ちます。
90分授業の流れ:コロケーション発見活動の例
大学の90分授業で、DDLを1コマ使う場合の流れの例です。テーマは「レポートで使う動詞と名詞の組み合わせ」です。
- 導入(10分):学生の過去のレポートから、不自然な組み合わせを3つ匿名で示す。例:do an effort, make a research, give an influence
- 予想(10分):どこが不自然か、ペアで予想を書く
- 検索(25分):SkELLやCOCAで effort, research, influence の前に来る動詞を調べ、表にまとめる
- 共有(15分):グループごとに発見を1つ発表する。例:「research は conduct や do が多く、make はほとんど出てこなかった」
- 応用(20分):見つけた組み合わせを使って、自分の研究テーマについて3文書く
- 振り返り(10分):「今日の検索で分かったこと」と「まだ疑問なこと」を1文ずつ書く
大切なのは、検索の前に予想させることです。予想と結果のずれが、記憶に残る学びになります。
ライティング添削にコーパスを組み合わせる
コーパスが最も力を発揮するのは、ライティングのフィードバックです。すべての誤りを教師が直すのではなく、「検索すれば直せる誤り」には印だけ付ける方法があります。
添削記号の例
- [C]:コロケーションを確認しよう(例:strong rain → 検索すると heavy rain が多い)
- [P]:前置詞を確認しよう(例:discuss about → discuss の直後の語を調べる)
- [R]:レジスターを確認しよう(例:a lot of → 学術文ではどうか)
学生は[C]や[P]の箇所を自分で検索し、修正案と根拠(検索結果の件数や例文)を書いて再提出します。
この方法には、教師の添削時間を減らしながら、学生が自分で直す力を育てられるという利点があります。ただし、すべての誤りを任せると学生の負担が大きくなるので、1回の課題で印を付けるのは3〜5か所程度にとどめるのが現実的です。
自作コーパスで専門分野の英語を分析する
理系・社会科学系の学部で英語を教えているなら、学生の専門分野の論文を集めて小さなコーパスを作る活動も効果的です。無料ソフトのAntConcを使えば、自分で集めたテキストの頻度リストやKWIC(検索語を中央に並べた一覧)を作れます。
進め方の例(3週間)
- 1週目:各自が専門分野のオープンアクセス論文を5本選び、テキスト形式で保存する(著作権や利用条件は論文ごとに確認する)
- 2週目:AntConcで頻度リストを作り、「自分の分野でよく使われる動詞トップ10」を調べる
- 3週目:We found that / This suggests that など、結果を述べる表現を集め、自分の要旨を書き直す
一般的な単語帳には載らない、分野特有の言い回しが見えてくるのがこの活動の面白さです。医療系なら patients were enrolled、工学系なら the proposed method outperforms のような表現が見つかるかもしれません。
評価の考え方:検索の「過程」も見る
DDLを成績に反映させる場合、正しい表現を書けたかどうかだけでなく、どう調べてその結論に至ったかも評価の対象にすると、学生の取り組み方が変わります。
検索ログ課題の例
学生に、次の3点を1枚にまとめて提出させます。
- 疑問:何が分からなかったか(例:「影響を与える」は give an influence で良いか)
- 検索と結果:どのツールで何を検索し、何が分かったか(例:influence の前に来る動詞は have や exert が多く、give はほとんど見当たらなかった)
- 結論:自分の文をどう直したか(例:This policy had a strong influence on young voters.)
評価の観点の例
- 疑問が具体的に書けているか
- 検索語や条件が適切か
- 結果を根拠に結論を出しているか
学期に数回この課題を出すと、学生は「分からないときに自分で調べる手順」を身につけていきます。これは授業が終わった後も使える、息の長い力です。
よくある失敗と、その立て直し方
DDLを導入したときによく起こる失敗と対策をまとめます。
1. 操作説明で授業が終わる
ツールの機能を全部説明しようとすると、学生は疲れてしまいます。1回の授業で使う機能は1つに絞りましょう。
2. 検索結果が多すぎて読めない
何千件もの用例を前に、学生が固まることがあります。「最初の20件だけ見る」「3つのパターンを見つけたら終わり」と、観察の範囲と終わりの条件を決めておきます。
3. 「件数が多い=正解」と思い込む
頻度は大切な手がかりですが、ジャンルや文脈によって適切な表現は変わります。「どのジャンルで多いか」まで確認する習慣をつけさせましょう。
4. 1回で終わってしまう
DDLは続けてこそ力になります。毎回の授業の最初の5分を「今日の1語」の検索時間にするなど、小さく定期的に取り入れるのが長続きのコツです。
まずは次の授業で、学生がよく間違える組み合わせを1つ選び、SkELLで一緒に調べるところから始めてみてください。



