まず確認したいこと:試験の目的と最新情報
TOEIC、TOEFL、IELTSは、いずれも英語力を測る試験ですが、想定している場面や目的が異なります。
- TOEIC:主に職場や日常生活での英語コミュニケーション能力を測る試験として、就職活動や企業内で広く使われている
- TOEFL:主に英語圏の大学での学習に必要な英語力を測る試験として、留学の出願などに使われる
- IELTS:留学や海外での就労・移住などの場面で使われ、アカデミックと一般の区分がある
試験の形式、試験時間、セクション構成、スコアの表示方法などは改訂されることがあります。講座を設計する前に、必ず各試験の公式サイトで最新の形式を確認しましょう。過去に作った教材が現在の形式と合っていないこともあるため、毎年度の見直しが欠かせません。
ポイント:講座の最初の一枚のスライドには、「この講座で扱う試験の目的」と「公式情報の確認先」を載せておくと、学生の誤解や古い情報に基づく勉強を防げます。
また、学生がその試験を受ける理由(単位認定、留学、就職、学内のクラス分けなど)を把握しておくと、講座の重点が決めやすくなります。
目標設定:学生と一緒に「現実的な目標」をつくる
対策講座でありがちなのは、学生が非現実的な目標を立てて途中で意欲を失うことです。目標設定は、講座の最初の数回で丁寧に行いましょう。
目標設定の手順です。
- 学生が試験を受ける目的と、必要なスコアの目安を確認する(留学先や学内制度の要件は、各自で公式情報を確認させる)
- 現在の力を診断する(次のセクション参照)
- 学期末までの目標と、それを支える行動目標を分けて書かせる
- 中間で見直す日をあらかじめ決めておく
行動目標は、スコアではなく自分でコントロールできる行動にします。学生に書かせる英語の例です。
- My goal for this semester: to understand the main idea of a short lecture on the first listening.
- My weekly action: I will do three listening sets and write down unknown words every week.
スコアの伸びは、個人差や受験時期によって大きく変わります。講座として「必ず◯点上がる」とは約束せず、伸ばすのは力、スコアはその結果という姿勢を示すことが、成績評価の説明責任の面でも大切です。
診断:どこでつまずいているかを見極める
講座の最初に、公式の問題集や自作の模擬問題を使って診断を行います。目的は点数を出すことではなく、つまずきの原因を見つけることです。
診断で見たいポイントの例です。
- リスニング:音が聞き取れないのか、内容は聞き取れても設問の処理が追いつかないのか
- リーディング:語彙が足りないのか、文構造が取れないのか、時間配分の問題なのか
- ライティング:アイデアが出ないのか、構成が弱いのか、文法の誤りが多いのか
- スピーキング:話す内容が出てこないのか、言いたいことを英語にできないのか
診断後に、学生自身に振り返りシートを書かせます。
- Which section was the most difficult for you?
- Why do you think you lost points there? (vocabulary / grammar / time / strategy)
- What will you focus on for the next four weeks?
教員は全員の振り返りを読み、クラス全体の傾向をつかんで講座の配分を調整します。人数が多い場合は、LMSのアンケート機能で集計すると傾向が見えやすくなります。
技能別の配分と1コマの流れ
講座の時間配分は、試験の構成と学生の弱点の両方から決めます。試験に含まれる技能をバランスよく扱いつつ、診断で弱点が集中していた技能に少し多めの時間を割きます。
100分授業の流れ例です。
- 0〜10分:語彙の小テストと前回の振り返り
- 10〜35分:技能①の演習(時間を計って解く)
- 35〜50分:解説とペアでの答え合わせ(なぜその答えか説明し合う)
- 50〜75分:技能②の演習と解説
- 75〜90分:弱点補強の練習(音読、ディクテーション、要約など)
- 90〜100分:学習記録の記入と次週の課題確認
ペアでの答え合わせの指示例です。
- Compare your answers. For each question you disagree on, explain which part of the text supports your answer.
「問題を解いて答えを確認する」だけでは、同じ間違いが繰り返されます。根拠を言語化する時間を入れることで、学生が自分の解き方を見直すきっかけになります。
ポイント:演習の時間と、それを英語の力に変える時間(音読・要約・書き直しなど)を同じくらい確保すると、スコアと実力の両方が伸びやすくなります。
演習と振り返りのサイクル:15回の講座計画例
半期15回の講座計画例です。
- 第1回:オリエンテーション、試験の目的と公式情報の確認方法
- 第2回:診断テストと振り返りシート
- 第3回:目標設定と学習計画づくり
- 第4〜7回:技能別の演習と解説(弱点補強を含む)
- 第8回:中間の模擬テストと目標の見直し
- 第9〜13回:応用演習、時間配分の練習、ライティング・スピーキングの個別フィードバック
- 第14回:模擬テスト②
- 第15回:学期の振り返りと、講座後の自学計画
1週間の自学サイクルの例も示しておくと、授業外の学習が習慣になりやすくなります。
- 月:語彙20語
- 火:リスニング演習1セット+音読
- 水:リーディング演習1セット
- 木:ライティングかスピーキングの練習1回
- 金:間違えた問題の見直し
- 土:模擬問題の一部を時間を計って解く
- 日:学習記録の振り返り
ポイント:中間の模擬テスト後は、目標を上げ下げすること自体を失敗と考えないよう伝えます。「計画を修正できた」ことが、自律した学習者への一歩です。講座後も続けられる自学計画を第15回で書かせると、学期の学びが次につながります。
教養としての英語との両立
試験対策講座は、どうしても「解き方」に偏りがちです。しかし大学の英語授業として位置づける以上、試験の先にある英語の使い方も意識したいところです。
両立のための工夫です。
- 演習で使った読み物・音声のテーマについて、短いディスカッションを入れる
- 試験の形式に近いライティング課題でも、自分の経験や専門分野と結びつけて書かせる
- 講座の最後に、試験の勉強で身につけた力を留学・研究・仕事でどう使うかを考えさせる
ディスカッションの問いの例です。
- The passage was about remote work. Do you think remote work is good for university students' future careers? Why?
このような時間は、試験のスコアに直接は結びつかないように見えるかもしれません。しかし、内容に関心を持って読んだり聞いたりする経験は、学習の動機づけにもつながります。
よくある失敗と最初の一歩
資格試験対策講座でよく見られる失敗です。
- 古い形式の教材を使い続ける:毎年度、公式情報で形式を確認します。
- 演習ばかりで振り返りがない:解きっぱなしでは力に変わりません。
- スコアを約束する:個人差があるため、行動目標と学習プロセスを評価の軸にします。
- 全員に同じ課題を出す:診断結果に応じて、弱点別の補強課題を選べるようにします。
まずは、次に担当する講座のために、学生向けの振り返りシート(英語の問い3つ)を作ってみてください。診断と振り返りの仕組みが、講座全体の土台になります。



