留学準備科目で身につけたい4つの力
留学準備科目の目標は、スコアを上げることではなく、留学先で学び、生活を始められる状態を作ることです。内容を次の4つに分けて考えると、授業の設計がしやすくなります。
- 講義を聞いて理解する力:ノートを取りながら要点をつかむ
- 授業に参加する力:ディスカッションで発言し、質問する
- 書いて伝える力:教員へのメール、短いレポート、引用のルール
- 生活し、振り返る力:異文化の中で困ったときに対処し、経験を言葉にする
語学試験のスコアが派遣の条件になっている場合、その対策は別の科目や自習に任せ、この科目では実際の場面で使う力に集中するのがおすすめです。派遣先ごとの要件は、学生自身に公式情報で確認させましょう。
ポイント:「何点取るか」ではなく「現地の最初の2週間で何ができればよいか」から逆算すると、授業内容が具体的になります。
語学面①:講義聴解とノートテイキング
留学直後に多くの学生が戸惑うのが、長い講義を英語で聞き続けることです。授業では短い講義形式の音声や動画を使い、段階的に練習します。
練習の手順
- 予測する:タイトルだけを見て、出てきそうな語や論点を3つ書く
- 1回目は要点だけ:講義の主題と、話し手の結論をメモする
- 2回目は構造を取る:First, ... / On the other hand, ... などの談話標識を手がかりに、見出しと例を分ける
- ペアで比べる:ノートを見せ合い、抜けている点を補う
- 質問を1つ作る:講義の後に教員に聞くつもりで英語の質問を書く
講義中によく使われる「合図の表現」を意識させるのが効果的です。
- The key point here is ...
- Let me give you an example.
- This will come up again later in the course.
学生が作る質問の例も示しておきましょう。
- Could you explain the difference between the two models you mentioned?
- You said the data was limited. What kind of data would be needed?
ノートは完璧な文ではなく、記号や略語を使ってよいことを最初に伝えます。
語学面②:ディスカッションとメール・ライティング
ディスカッションで「最初の一言」を言えるようにする
留学先のゼミ形式の授業では、黙っていると参加していないと受け取られることがあります。まずは短く参加する表現を練習します。
- I'd like to add to what Ken said.
- I'm not sure I agree. Could I give a different example?
- Could you say more about what you mean by "fair"?
授業では4人グループで5分間話し合い、1人1回以上発言するというルールから始め、慣れてきたら司会・記録・反論役など役割を回します。
教員へのメールを書く
留学中は、欠席の連絡や課題の質問をメールで送る場面が必ずあります。件名・宛名・用件・お礼の型を教え、実際に書かせましょう。
- Subject: Question about Assignment 2 (Tuesday seminar)
- Dear Professor Smith,
- I am a student in your Tuesday seminar. I have a question about the word limit for Assignment 2.
- Thank you for your time.
アカデミック・ライティングの基本
パラグラフ構成、引用の仕方、そして剽窃(plagiarism)の考え方を扱います。自分の言葉で言い換えることと出典を示すことの両方が必要だと、例を使って確認します。
生活・異文化面:困ったときに動ける準備
語学力があっても、生活の立ち上げでつまずくと学業にも影響します。この科目では、困ったときに何をすればよいかを事前に考えておく時間を取ります。
ケーススタディで考える
短い場面を提示し、グループで対応を話し合います。
- 寮のルームメイトと生活時間が合わず、よく眠れない
- 授業で発言できず、評価が心配になってきた
- 体調を崩したが、どこに相談すればよいか分からない
英語で相談する一文も一緒に練習します。
- I've been having trouble sleeping because our schedules are different. Could we talk about it?
- Could you tell me where I can get advice about my health?
異文化について考えるときの注意
特定の国や地域について「〜の人はこうだ」とまとめる教え方は避け、違いに気づいたときの考え方を扱います。「驚いたこと」「その理由として考えられること」「自分ができること」の3つに分けて書く練習が役に立ちます。
安全や健康、ビザなどの手続きは、大学の担当部署の情報を必ず案内し、授業で断定的な説明はしないようにしましょう。
目標設定と帰国後の振り返り
留学の成果は、出発前の目標と帰国後の振り返りの質で大きく変わります。
出発前の目標設定
「英語がうまくなりたい」ではなく、行動で確認できる目標を書かせます。英語で書くときのプロンプト例です。
- By the end of my first month, I want to ...
- In every seminar, I will try to ...
- If I feel stuck, I will ...
例:In every seminar, I will try to ask at least one question.
留学中の記録
週1回、短い英語の日記やボイスメモを残すよう勧めます。「今週できたこと」「困ったこと」「次の週に試すこと」の3行で十分です。
帰国後の振り返り
帰国後に1回、報告会や振り返りの課題を設けると、経験が学びに変わります。出発前の目標と比べて、何ができるようになり、何が課題として残ったかを話してもらいます。後輩の留学準備科目で体験を話してもらえば、次の学生にとっても生きた教材になります。
ポイント:目標・記録・振り返りの3点セットを、授業の中で型として渡しておくことが大切です。
15回の授業計画例とよくある失敗
ここまでの内容を15回に配置した一例です。
- 第1回:オリエンテーション、留学の不安と期待を書き出す
- 第2回:講義聴解①予測と要点メモ
- 第3回:講義聴解②構造を取るノートテイキング
- 第4回:ディスカッション①短く参加する表現
- 第5回:ディスカッション②役割を回して話し合う
- 第6回:教員へのメールを書く
- 第7回:アカデミック・ライティング①パラグラフ構成
- 第8回:アカデミック・ライティング②引用と剽窃
- 第9回:ミニ講義+ディスカッションの模擬授業
- 第10回:生活のケーススタディ①
- 第11回:生活のケーススタディ②相談の英語
- 第12回:異文化に気づいたときの考え方
- 第13回:出発前の目標設定と記録方法
- 第14回:留学経験者の話を聞く(可能な場合)
- 第15回:まとめ、自分用の「留学準備チェックリスト」作成
よくある失敗
- 試験対策に時間を使い切る:スコア対策は重要ですが、この科目の役割とは分けて考えます
- 異文化を知識の暗記にしてしまう:場面で考える練習にしましょう
- 目標が抽象的なまま出発させる:行動で書けるまで一緒に直します
- 帰国後の振り返りがない:経験が言葉にならないまま終わってしまいます
まずは次の授業で、学生に「現地の最初の1週間でやりたいこと」を英語で3つ書かせることから始めてみましょう。



