「全部直す」をやめる理由
すべての誤りを直した作文は、教師の努力の結晶です。しかし、生徒の側から見ると次のような問題があります。
- 直された箇所が多すぎて、何を優先して見直せばよいか分からない
- 正しい形が書き込まれているので、自分で考える機会がない
- 内容よりも「間違いの数」に目が向き、書くことへの意欲が下がる
さらに、教師にとっては1人5分でも40人で200分。複数クラスを担当すれば、現実的な負担を大きく超えます。
そこで発想を変えます。1回の課題で見るポイントを1〜2つに絞る。そして、誤りの場所だけを示し、直すのは生徒自身に任せる。この2つだけで、添削時間は大きく減り、生徒の学びはむしろ深くなります。
ポイント:添削は「教師が直す作業」ではなく「生徒が見直すきっかけを渡す作業」と考えると、やるべきことがシンプルになります。
書く前の足場かけで誤りを減らす
添削の負担を減らす一番の近道は、そもそも誤りが少ない状態で書かせることです。書く前の5〜10分で、次のような足場を用意します。
モデル文を示す
たとえば中学2年で「週末の出来事」を書く課題なら、教師の自作モデル文を見せます。
Last Sunday, I went to the zoo with my cousin. We saw a baby panda. It was sleeping, but it was very cute. After that, we ate ice cream. I was tired, but I had a great time.
"Look at the model. Find three things: when, what you did, and how you felt."
構成の型を示す
- 1文目:いつ・誰と・どこへ
- 2〜3文目:何をしたか
- 4文目:どう感じたか
- 5文目:まとめ
使える表現リストを配る
After that, / At first, / Finally, / It was exciting. / I want to … again.
このように型と表現を先に渡しておくと、内容に集中でき、文法的な誤りも減ります。
焦点を絞ったフィードバックの方法
1回の課題で見るポイントを決める
課題を出すときに、生徒にも評価のポイントを伝えます。
- "This time, I will check two things: past tense verbs and the order of your ideas."
記号で場所だけ示す
直す代わりに、誤りの種類を記号で示します。事前に記号の一覧表を配っておきます。
- T:時制(tense)
- S/V:主語と動詞の一致
- Sp:つづり(spelling)
- WO:語順(word order)
- ^:何かが抜けている
例:I go to the park yesterday. → go の下に線を引き、余白に T
コメントは「良い点1つ+改善点1つ」
"Good! Your ending sentence is very clear." + "Try to use 'after that' to connect your ideas."
このやり方なら、1人あたりの時間を大幅に短くでき、生徒は自分で直す過程を通して学べます。
全員に同じ深さで添削しない
もう一つの考え方として、提出物をすべて同じ深さで見ない方法があります。たとえば毎回の短い課題は「提出したか」と「焦点の2点」だけを確認し、単元末の作文だけ丁寧に見る。あるいは、クラスを4つのグループに分け、毎回1グループ分だけ詳しくコメントし、残りは記号だけにする。1か月で全員が一度は詳しいコメントを受け取れる形にすれば、公平さも保てます。
ライティングの授業の流れ(50分)
記号添削と書き直しを組み込んだ授業の流れです。
1時間目:書く
- 0〜5分:導入・課題の提示(評価ポイントも伝える)
- 5〜15分:モデル文の分析と構成の確認
- 15〜35分:個人で書く(辞書・表現リスト使用OK)
- 35〜45分:ピア・レビュー(後述)
- 45〜50分:自己チェックして提出
2時間目の冒頭15分:書き直し
- 0〜3分:よく見られた誤りを全体で共有(匿名で3例ほど)
- 3〜13分:記号を見て自分で書き直す
- 13〜15分:書き直した文を提出
全体共有では、"Many of you wrote 'I enjoyed to play.' What's the correct form?" のように、クラスで多かった誤りを一緒に直すと、個別に書き込む量をさらに減らせます。
40人クラスで回すピア・レビュー
提出前に生徒同士でチェックさせると、教師が見る段階での誤りがさらに減ります。ただし、何をチェックするかを明確にしないと「いいね!」で終わってしまいます。
チェックリスト例(ワークシート下部に印刷)
- □ Is there a "when" sentence?
- □ Are the verbs in the past tense?
- □ Is there a "feeling" sentence?
- □ Is there one sentence you like? Underline it.
手順
- 隣の人と作文を交換する("Swap your paper with your partner.")
- チェックリストに沿って確認する(4分)
- 気になった箇所に鉛筆で小さく「?」をつける
- 返して、30秒ずつ説明し合う
- 必要なら自分で直してから提出
"Don't correct your partner's English. Just put a question mark if something looks strange." と伝えると、相手を傷つける心配が減り、書いた本人が考えるきっかけになります。
40人でも、全員が同時に活動するので時間は増えません。ペアを毎回変えると、いろいろな作文に触れる機会にもなります。
よくある失敗
- 評価ポイントを後から決める:採点のときに基準がぶれ、時間がかかります。→課題を出す時点でポイントを決めて生徒にも伝える。
- 記号の意味が伝わっていない:生徒が記号を見ても直せません。→最初の1回は、記号の読み方を全体で練習する。
- 書き直しの時間を取らない:返却しただけでは、フィードバックが生かされません。→次の授業の最初に10分確保する。
- 毎回長い作文を書かせる:教師も生徒も疲れます。→普段は3〜5文の短い課題を多く、長めの作文は単元末に1回、とメリハリをつける。
ポイント:「短く、頻繁に、焦点を絞って」。この3つを意識するだけで、ライティング指導は持続可能になります。
今週から始める添削改革
いきなり全部を変えなくても大丈夫です。次の順で試してみてください。
- 次の課題で、評価ポイントを2つに絞って生徒に伝える
- 誤りの記号一覧表を作り、全員に配る
- 提出前にチェックリスト付きのペアチェックを入れる
- 返却後の授業で、書き直しの時間を10分取る
最初の1回は、記号の説明などで少し時間がかかるかもしれません。しかし2回目以降、生徒は自分で直すことに慣れ、教師の作業時間も目に見えて減っていきます。



